映画レビュー1556 『ソウルの春』
粛々と進めておりますアマプラグッバイ計画。これもその一本です。
史実系韓国映画にハズレなし、と勝手に思っております。
ソウルの春

歴史上重要な一日をじっくり見せるがやや長い。
- 概ね史実に則った出来事を、脚色交えて映画化した韓国映画お得意のパターン
- 緊張感が凄まじい、情勢が二転三転する一夜をじっくりと追っていく
- 内容のイメージとしては韓国版「ワルキューレ」、ただし結末は異なる
- この日近辺のその他韓国映画を履修するのもオススメ
あらすじ
予想通り良かったです。まー本当に外さないなと。例によって豪華キャストなのも◎。ただちょっと長くて疲れた感もありました。
朴正煕大統領暗殺事件後、国軍保安司令官のチョン・ドゥグァン少将(ファン・ジョンミン)が事件の合同捜査本部長に就任。
彼は軍内の秘密組織「ハナ会(ハナフェ)」のリーダーなんですが、彼の直属の上司にあたる陸軍参謀総長チョン・サンホ大将(イ・ソンミン)はハナ会の活動と彼の横暴な権力行使をよく思っていないこともあり、要職の一つである首都警備司令官を高潔な軍人として有名でハナ会と対極に位置するようなイ・テシン少将(チョン・ウソン)に打診。
かなりの大抜擢でもある要職への就任を固辞し続けるイ・テシンですが、陸軍参謀総長の必死の説得により受諾します。
当然面白くないチョン・ドゥグァン、陸軍参謀総長との対立も深まっていきますが、やがて陸軍参謀総長が彼を“閑職”に追いやることで更迭しようとしている…と聞き、クーデターを計画。
ハナ会を中心に実力行使に打って出て上司である陸軍参謀総長を拘束し、その流れで実権を握ろうと画策しますが…あとはご覧ください。
韓国版「ワルキューレ」
この辺りの歴史にある程度知識がある人であればすぐにわかることですが、ハゲヅラ被って熱演する主人公ファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグァンとはまさにその後大統領となるチョン・ドゥファン(全斗煥)がモデルです。
その他の人物も大体モデルとなる人物が存在し、実際に起きた「粛軍クーデター」の動きを観ていく映画になります。
抜けもあるとは思いますが、僕が観た映画の流れで行くと
- KCIA 南山の部長たち(朴正煕大統領暗殺事件が起きるまで)
- ユゴ 大統領有故(暗殺事件直後の動き)
- 今作(チョン・ドゥファンが大統領になる過程)
- タクシー運転手 約束は海を越えて(光州事件)
- 1987、ある闘いの真実(民主化へ)
という感じ。どれも名作ですね。(ユゴだけはちょっとアレだったけど)
そして「KCIA」で朴正煕(厳密には違うんですが今作と一緒で元になった人物)を演じていたのが今作で陸軍参謀総長を演じるイ・ソンミンというのも面白いところです。
ちなみに今作ではいがみ合う形になるイ・ソンミンとファン・ジョンミンですが、この2人は「工作」でも共演していてまるで違う関係性を築いていたのも激アツ。
どの作品も非常に濃く面白い歴史を描いた作品ですが、それだけ韓国が民主化する過程は劇的だったということなんでしょう。
またファン・ジョンミンのカウンターパートとなるのは韓国の福山雅治ことチョン・ウソン演じる首都警備司令官に就任したイ・テシンですが、「首都警備司令官」はその肩書からもわかる通りソウルを守る司令官です。
この辺観ていて思い出したのが、同じクーデターを描いた「ワルキューレ」。あの映画で同様のポジションにいて(映画での扱いはそんなに大きくないですが)キーマンと言えるのが国内予備軍の大隊を率いる少佐で、演じていたのはトーマス・クレッチマン。
トーマス・クレッチマンと言えば「タクシー運転手」でジャーナリストを演じていた…というのも不思議な繋がりを感じて面白いですね。
ただ余談ですがイ・テシンと同じレベルの要職となるとおそらくあちらでは今は亡き名優トム・ウィルキンソンが演じていたエーリッヒ・フロムかなと思うので、そう考えるといかにイ・テシンが大抜擢されたのかがよくわかります。
「ワルキューレ」はご存知の通りヒトラー暗殺もそれに伴うクーデターも失敗するわけですが、こちらはその後の大統領就任からもわかる通りクーデターは成功します。観ている方もそれをわかって観ることになります。(特に韓国国内であれば間違いなく誰もがファン・ジョンミンの勝利を知っている上で観る)
韓国の歴史に疎いとその辺はわからないまま観てハラハラ出来るかもしれませんが、(韓国国内向けという意味では間違いなく)基本的に「クーデターが成功する」のは周知の事実として観る映画だと思うのでここのネタバレはご容赦くださいということで。
まあ「ワルキューレ」にしてもヒトラーが暗殺されていないのはほとんどの人が知っている=クーデターが失敗するのがわかった状態で観ることになるので、その意味でも(結末は真逆ですが)非常にあちらの映画と似た形式の映画ではないでしょうか。
何度か言及していますが僕は何かと再鑑賞しちゃうぐらいワルキューレ大好き人間なので、韓国版ワルキューレ的なこの映画も非常にワクワクするものがありましたね。
ただ「ワルキューレ」との相違点で言えば、あちらは完全にクーデター側が主人公でそっちサイドの話が中心、制圧に動く政府側の動きはあまり描かれなかった(のでトーマス・クレッチマンは脇役扱い)ですが、こちらは政府側にも主人公(チョン・ウソン)がいて、双方の綱引きが絶え間なく描かれる点がだいぶ違うし、それがまた良さでもありました。
結末を知っていてもあちこちにターニングポイントがいくつもあったと思わせる紙一重な一日で、それを観ていくことで絶えず凄まじい緊張感と手に汗握るサスペンス感が演出されていたのは本当にさすがの作りだと思います。
ただ、ちょっと長い。
本当に緊張感たっぷりなので、長いとどうしても疲れてきちゃうんですよね。すごく面白いんだけど疲れるという。
諸刃の剣だとは思いますが、もう少しテンポ良く繋いでくれたらかなり傑作と感じられたかもしれません。好みの問題かもしれませんが。
お家芸的な安定の面白さ
それにしてもくどいようですが自国の歴史を脚色交えて娯楽映画に仕立て上げる上手さは本当に韓国のお家芸と言っても良いぐらい素晴らしいですね。老舗の安心感的なものを感じます。
脚色がどの程度入っているのかはさすがにわかりませんが、とは言え映画として面白いので歴史を学ぶのも捗るという。
映画として面白い=登場人物にも興味が湧くのは自明なので、そこからさらにWikipedia等で知識の補完が進んで飯がうまいぞと。
一方日本ではあまりそういう傾向が感じられませんが、それが悪いかと言うとまたそれも違うというか、単純に韓国と比べて平和だったのかなと思います。韓国はそれだけ激動だったし大変だったから映画化しやすいという話ではないかなと。
ただこれも何回も書いてますが、それでももう少し日本も過去の出来事を映画化する動きがあるといいなと思います。学びになるので。
このシーンがイイ!
悪巧みはやたら暗いところでやりましょう的な感じが陰謀めいてて笑っちゃうところですが、それはさておき主人公のイ・テシン司令官が最後まで抵抗することを部下と揉めるシーン辺りはかなりグッと来ましたね。そりゃあそうしなきゃ映画にならないけどさ。
あとクライマックス近辺でチョン・ドゥグァンが民衆に対して被害が出ても構わない的な態度を見せるんですが、あれは光州事件への暗示なんですかね? その混ぜ込み方もすごいというか恐ろしいというか。
ココが○
まあ毎度のことですが、上に書いた通りよく国の重要な歴史をきっちり重厚なエンタメに昇華できるよなと感心しますね。きっと当事者の遺族たちとかからの反発も結構あるんじゃないかと思うんですが…。それでも作れる下地の強さが羨ましい。
あとタイトルである「ソウルの春」は、朴正煕大統領暗殺事件のあとに一時的に勃興した民主化ムードを指す言葉らしいんですが、映画を観ていると実は「ソウルの春を謳歌したのはハナ会のメンバーだけ」みたいな無情さが感じられてそのタイトルセンスもまた素晴らしいなと思います。
ココが×
やっぱり少し長い点。
本当にずっと緊張感がある映画で、そこがすごくもあるんですがその分どうしても疲れます。
例えば陸軍参謀総長との軋轢を想像させる過去の話を途中に挟み込んだりとかしてもう少しメリハリがあっても良かったかも。
MVA
韓国では全然チョン・ドゥファンに似てないのになんでファン・ジョンミンなんだ、みたいな声があったそうですが、確かに似てないもののハゲヅラ被って頑張ってましたね。ただキャラ的には割とよく見る「嫌なタイプのファン・ジョンミン」って感じですげーな! とまではなりませんでした。
ということでこちらの方にします。
チョン・ウソン(イ・テシン役)
もう一人の主人公。首都警備司令官。
最後まで守るんだ、文字通り“国防”の要になるんだという意欲が感じられる迫力がなかなか良かったです。ただのイケメンじゃないぞと。


