映画レビュー1006 『チャーリング・クロス街84番地』
今回もネトフリ終了シリーズの方向で。
まったく知らない映画だったんですが、結構な評価の高さを目にしたので観てみることにしました。
チャーリング・クロス街84番地
デヴィッド・ジョーンズ
ヒュー・ホイットモア
『チャーリング・クロス街84番地』
へレン・ハンフ
アンソニー・ホプキンス
アン・バンクロフト
ジュディ・デンチ
ジャン・デ・ベア
エレノア・デヴィッド
マーセデス・ルール
1987年2月13日 アメリカ
100分
イギリス・アメリカ
Netflix(PS4・TV)

損得の外にある人間関係が人生を豊かにしてくれる。
- 文通のみのやり取りで心を通わせていく二人+αのお話
- 戦争を背景にした当時の空気感も味わえる
- じんわり染みる良作ではあるものの地味
- 主役二人の対照的な性格も良い
あらすじ
最終的にはひっそり涙するぐらい良かったんですが、ただちょっと地味だなぁというのは否めず。もう少しグワッと盛り上がるところがあればよかったんですが、とは言え実話だそうなのでリアリティを重視した結果なんでしょう。そう言う点で言えばとても良い映画であると思います。
アン・バンクロフト演じるヘレンはニューヨークに暮らす女流作家。「貧乏作家」と自嘲している通り、おそらくはそんなに売れているわけでもないものの一応食べては行けている、そんなポジションの作家さんなんでしょう。
彼女はイギリスの古書が好きなようなんですが、とは言え近く(ニューヨーク)の書店にはほとんど置いていないか置いていても高いかで憤懣やるかたない様子。そこである日目にした広告にあったロンドンの古書店に「5ドル以内で買えるなら送って」と手紙をしたためます。
それを受けた古書店員のフランク(アンソニー・ホプキンス)は丁寧な返事とともに本を数冊返送、感銘を受けたヘレンは以降何度と無く「この本が欲しい」「この本はあるか」と手紙を送り続け、それにまた応えて手紙を添えつつ本を送るフランク…と何十年もやり取りを繰り返すうち、フランク以外の古書店員も巻き込んで「ヘレンと古書店員たちとの心温まるやり取り」が続いていきます。
ただそれだけ、でも心温まる「手紙だけの交友関係」、それを観ていく物語です。
今では得られない人間関係
映画上では特に触れられていないんですが、そもそも原作が実際にあったこの「作家と書店員との文通」を元にした作品らしく、つまりは「原作者が実際に経験したやり取り」を元にした実話系の映画、ということになります。
ハッキリと物を言い、にぎやかで明るいタイプのヘレンに対し、「客と店員」という立場の違いこそあれど、実直で紳士的なフランクはだいぶ違うタイプの二人…なんですが、だからこそなのかお互いに手紙を楽しみにしていたようで、恋愛関係もない「ただの文通」がいかに心を豊かにしてくれるのか、控えめな語り口ながらとても雄弁に人間関係の大切さを感じさせてくれる非常に良い映画でした。
ありきたりですが…これ今だったらこんなに“エモい”話になるかなぁと思いつつ観ていて。当然ながらメールでも同じようなことはできるので、特に時代も関係なく普遍的な内容…ではあるんですが、それでもやっぱり「メールだとちょっと違うよなぁ」と思うんですよね。
手紙は出してから届くまでタイムラグがある分、「待つのが当然」だからすぐに返事が来るメールとかLINEよりも増幅される何かがあるのも確かなんだろうと思うんですが、僕はもう単純に「モノとして残るかどうか」が割と大きいのかなぁと漠然と思いながら観ていました。
即物的な考えで申し訳ないところですが、やっぱり単純に「物質として手元に残る」ものってただのデジタルデータのやり取りとは違った味があるんだろうと思うんですよ。確実な何かとは言えないのがもどかしいところなんですが。
この映画の話、今の時代であればメールはもちろん本に関してもデジタルデータにできるわけで、となるともう完全に「画面の中だけ」で収まってしまう話なんですが、そうなるとやっぱり…味気ないなぁと思うじゃないですか。
向こうに人間がいるのも同じなのに、それでもやっぱりモノが残ったりやり取りにタイムラグが発生したり、っていうのはそこに色々と想像をふくらませる余地が介在するものだと思うので、そこにいわゆる“行間”のようなものが込められていって、なんとも言えないノスタルジックな羨ましさを抱くのかなと。
さらに味気ない事を言ってしまえば、もう今であれば欲しい本が決まっている場合は検索一つであるかないかが判明してしまうので、「(人間に)探してもらう」工程自体が省かれることになるわけです。そうすると「わーよく見つけてくれたなー」とか「忘れてんじゃないの!?」みたいな人間臭い感情が全部無くなってしまうので、やっぱり結果「便利だけど味気ない」システムが出来上がってしまい、この映画のようなエモさは姿を見せなくなってしまうわけです。
きっとそれは今このタイミングで認識していないだけで、他にも事例は山ほどあると思うんですよね。それが良い悪いではなくて、もはや発生し得ない対人関係がこの映画にはある、というだけで何となくノスタルジックになっちゃう良さがあるんですよ。
もう少し盛り上がりがあれば
ただ話自体には特にピークがなく、終始フラットな映画だったことも事実で、「めっちゃ良い話だけどそれほどグッと来ない」みたいな惜しさも感じました。映画自体が控え目な印象。そこが良くもあるんですけどね。
もう少し劇的な何かを盛り込もうと思えば盛り込めるとは思いますが、とは言えそれをやっちゃうと一気に安っぽくなっちゃうだろうし、これはこれでいい塩梅の映画なんだろうと思います。印象としては「ドライビング Miss デイジー」に近い。ただあの映画ほど“映画的”なうまさを込めてこなかったと言うか。いかにも実話ベースらしい、“見せる”エピソードに注力しすぎないバランスを持った映画でしょう。
この辺の印象はオープニングで見せた描写が関わっている気もして、あのオープニングいらないんじゃない? とちょっと思ったりもしましたが…まあ帰結を思えばあれで良いのかなと言う気もします。ちょっとね、ネタバレになるのでなかなか書けないんですが。
商売が絡んでいるとは言え、対応コストを考えればとても儲かるようなものではないやり取りですが、それが書店員たちのとても大きな支えになっていた一面を考えると、「損得を考えて行動する」ことのつまらなさを改めて感じます。
何気なく始まったことでも、続けていくことで人生における大きな意味を持つ関わりがあるのかもしれない、そう思うとまた色々丁寧にやっていかないとな、と思いますね。
このシーンがイイ!
たまに画面に向かって語りかけるんですよね。ああいう演出はこの当時にしては珍しいし、妙に惹きつけられてよかったです。
あとはヘレンが書店にプレゼントを贈るシーン。グッと来たなぁ。
ココが○
やっぱり今の時代には起こり得ないであろう、この映画を観て得られる「失われた人間関係の良さ」は他にない魅力でしょう。「最終的には結婚しました!」とかだと一気に陳腐化すると思いますが、そうではない地に足のついた本物の話というところに価値があるんだろうと思います。
ココが×
とは言え何度も書いてますがもう少し盛り上がりが欲しかったのも事実で、やっぱりオープニングが余計だったんじゃないかなと思うんですよ。
MVA
主演二人にジュディ・デンチも出てきてよかったですが、一人選ぶならこの人かな。
アン・バンクロフト(へレン・ハンフ役)
アン・バンクロフトと言えば「卒業」のエロマダムですよ。ところがですよ。
すごくキュートで親しみのある女性像がすごく似合ってました。ちょっとクセがあっていい人すぎない感じもいい。
もう一方のアンソニー・ホプキンスも「日の名残り」のような真面目仕事人間感がぴったり。この頃はこういう役が多かったのかな。後のレクター博士とは思えません。


