映画レビュー1306 『時計じかけのオレンジ』

この前自分でサイト見てたときにふと「横のスペースいらなくね?」と思ったので全ページ1カラムに変更しました。すっきり。

さて本日はいつか観ねばなるまいと思い続けて早数十年、ついに観たこちらの映画。

僕の中では「ローマの休日」と並ぶぐらい「観てないことが後ろめたい」映画のひとつだったのでようやく肩の荷が下りました。

時計じかけのオレンジ

A Clockwork Orange
監督
脚本

スタンリー・キューブリック

原作

『時計じかけのオレンジ』
アンソニー・バージェス

出演

マルコム・マクダウェル
パトリック・マギー
マイケル・ベイツ
ウォーレン・クラーク
ジェームズ・マーカス
マイケル・ターン
ポール・ファレル

音楽

ウォルター・カーロス

公開

1971年12月19日 アメリカ

上映時間

137分

製作国

イギリス・アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

時計じかけのオレンジ

すごいんだけど好きじゃない。

7.0
イキリキッズに鬼の治療を施した先は
  • 恐れなしで傍若無人なキッズグループリーダー、捕まって荒療治
  • 治療によってすっかり人が変わったように見えた彼だが…
  • 前半の胸クソ悪さから好みは分かれると思われる
  • 画作りはさすがの一言

あらすじ

「どうせあんまり好きなタイプの映画じゃないだろうな…」と思ってはいたんですが実際観たらそうだった、という予想通りの結果でした。

15歳にはまったく見えない15歳のアレックス(マルコム・マクダウェル)は、少年たちのグループ「ドルーグ」のリーダーとして夜になっては街へ繰り出し好き勝手に振る舞って犯罪を犯し、ご満悦なまま眠りにつく日々を送っております。

しかしある日アレックスの“強権”っぷりに反発したのか、ドルーグ内でリーダーを巡ってちょっとしたいざこざが発生。

一度は丸く収まったもののその反発はまだ火種として残っていて、その後の“仕事”の際に裏切りにあい、アレックスは収監されることに。

やがて刑期短縮のため、彼は自ら進んでとある「新しい治療」に臨むことになりますが…あとはご覧ください。

評価する人が評価される感

最初「音無しでずっと引いていく画で惹きつける…さすがキューブリック」と感心していたら単純に音が出ていませんでした。ダセェ。

上記あらすじはだいぶ端折っていて、中盤ぐらいまで触れているのでそこそこ書いちゃってますが…まあ例の拷問的な“治療”シーンも有名だしそもそもかなり古い超有名作だしいいでしょ、ってことでね。書いてますけども。

作品を通してのテーマとしては、前半好き放題やって人生を謳歌する“自由放任主義”のアレックスと、治療を経て“全体主義”に大きく傾倒していくディストピア感溢れる世界とで「バランス取るのは難しいよね」的な皮肉なお話なんだろうと思いますが、それにしてもちょっと前半のアレックス(及びドルーグ)がDQNすぎてまったく好きになれず、正直観ているのも嫌でしんどかったです。僕としては徹底的に価値観が合わない主人公の映画では割とよくあるパターンなので特に珍しくもないんですが。

こういった皮肉が中心の映画はやっぱりクセがあるし、一言で言うと“いけ好かない”感覚がしてどうも好きになれないんですが、しかしご存知の通りこの映画は歴史に燦然と輝く大傑作と言われているわけですよ。

まあそれはわかります。画の良さ、美術の良さ(まさにレトロフューチャー的な味)はキューブリックらしい感じがしたし、内容としても唯一無二な映画でもあるし。すごいな、とは思いました。

でも全然手放しで褒めるような映画には思えなかったし、全体的に「ドルーグ」と同じようにイキっているような映画に感じられて、斜に構えてカッコつけてる感じがどうしても鼻についてダメでした。

もちろんキューブリックが斜に構えてカッコつける必要があるわけもなく、そう感じさせる主人公のせいで映画までそう見えてしまった自分の感受性の無さが問題なんだろうと思います。

それでも…ストレートに「面白いぞ!」と思うような映画でもないし、今の時代に観て高評価をつけてる人たちは本当にその言わんとするところを理解して、本気で「最高だ!」と思ってるんですかね?

そこがすごく疑問というか、「評価する側もカッコつけてね?」という気がしてならない映画でしたね。「この映画を評価する方がカッコ良さそうだから評価する」「評価しないと理解力がないと思われそうでとりあえず褒める」みたいな空気感をすごく感じる。理解してるフリをするのが正しい、みたいな振る舞い。そこも含めて好きじゃない。

例によってここでは僕は好き勝手書くと決めているので、明確に好きじゃないと書いておきます。嫌いまでは行かないけど、好きじゃない。先に書いた、評価するのが良しとされる空気感も含めて。

この映画が好き、というのはそれはそれで別に全然構わないと思いますが、「この映画の良さがわからないやつはセンスがない」みたいなことを言い出すような人とは絶対に仲良くなれないなと思いましたね。まあこの映画に限らずどんなものでもそういう言い方する人とは仲良くなれないんですけど。

それとどうしても「好きになれない」のを助長する、独特のスラング(ナッドサット言葉というらしい)混じりの字幕もしんどかった。ダサすぎて。

キューブリックは字幕の翻訳も再英訳して校閲するぐらい徹底していることは有名なので、これは間違いなくキューブリックの意図する字幕でもあるんですが、それにしてもクソダサいんですよ。時代関係なくイキリ感がすごくて。

もちろんそれを意図してあえてダサい言葉遣いを使っている作品だとも思うんですが、その意図を汲み取ってその先の理解に行くよりも「何だこいつ鬱陶しいわ」の感情が勝ってしまったのが我ながら敗因だと思います。

一応調べたところこれは原作も同様らしく、Wikipediaによると翻訳者が「悪文の見本のような文がこの小説の本体となっていること自体が風刺である」と言っていたとのことで、それはやっぱり表面上で「ダサくて嫌」なんて受け取り方したらダメだよ、というハイコンテクストな表現なんだと思いますが、しかし入口で「好きじゃねーな」と思ったらもうハイコンテクストなんて理解しようとも思わないタイプなので幼稚に拒絶して終わりました。

そんなことも踏まえると、やっぱりかなり好き嫌いが分かれるタイプの映画なんだろうと思います。好きな人はめちゃくちゃ影響を受けたりしてるみたいだし。

ただ…また腐すのもなんですが、この映画から「かっこいい!」と影響を受けるとすれば間違いなく若い頃、それこそ10代の話だろうと思うんですが、しかしその頃この映画の意味するところを理解しきれるかというと(天才は除いて)それもまた怪しいと言わざるを得ないので、ファッションとして評価する層と内容を評価する層はほぼ重なっていないと思うんですよね。

別にすべてを評価して好きになれとは言いませんが、世間的高評価はなんとなく印象的にファッション評価層が多いような気がするんですよ。逆に言えば、この映画の一般的に知られている評価の高さはハイコンテクストな映画に与えられるようなものではないというか。

つまりこの映画の評価の高さは、内容以上にファッション的な側面が強いのではないかなと。反体制的な主人公の姿にしても、その思想よりもファッション的に受け入れられているような気がして。

そう理解すると、自分の中でのこの映画に対する「すごいけど好きじゃない」思いと、世間的高評価のギャップが納得できる気がして、勝手にそういうポジションの映画なんだなと結論づけました。

もちろん映画評論家のような人たちが「時計じかけのオレンジは傑作だ」と言うときはもっと深い意味合いがあるんでしょうが、フィルマークスで4点近くついちゃうような映画ではないと思います。良くも悪くももっと尖った映画ですよ。きっと。

好きも嫌いも一度観てから

いろいろ書きましたが、胸クソ悪い部分も含めて強烈に記憶に植え付けられる映画であることも間違いなく、やっぱりこれは一度は通ってみるべき映画の一つなんだろうと思います。

一度観ないことには好きも嫌いも無いですからね。

観た結果好きなら好きでいいし、僕のように嫌いなら嫌いでいいじゃない、と。

嫌いなのに好きって言っちゃうやつが一番嫌いです。自分に正直に生きましょう。

このシーンがイイ!

印象的だったのはやっぱり「雨に唄えば」のシーン。虫酸が走るとはこのことです。

次点で「早回しセックス」のシーン。妙に斬新で印象に残りました。あんなセックスシーン他に観たこと無い。

ココが○

あんまり近未来感もディストピア感も強くないんですが、そこに凄みがある気がしましたね。普通のように見える≒ひどく身近な近未来のディストピア、って感じで。境界線が曖昧で、それ故にリアルに感じる気味の悪さ。

ココが×

善悪で言えば悪だらけの世界で、もううんざりするほど嫌なところばっかり見せられるので観ていくだけで結構しんどいものがあります。

つまりそれは劇中アレックスに施される“治療”と同じなのでは…? 実はそういう深い意図が…? 無いと思います。

MVA

小説家の爺さんの顔芸がすごくてもう笑っちゃいましたね。逆に。いくらなんでも顔芸すぎるでしょ、って。キューブリックに執拗にNG繰り返されて開き直って顔芸に走ったとしか思えなかったぐらいの顔芸。

アレックスの担任教師の性悪さも印象深かったんですが、まあでも結局この人でしょう。

マルコム・マクダウェル(アレックス・デラージ役)

主人公。どう見ても15歳には見えませんが当時20代後半だったようです。

マジで狂ったクソ野郎なんですが、演技的にもしっかりしていてさすが名作と呼ばれる映画の主演だなと思います。結局「if もしも….」と似たような役でもあったけど。

ちなみに「雨に唄えば」はその当時彼がソラで歌える曲がこれだけだったから採用されたんだとか。

結果元の映画のギャップとも相まってめちゃくちゃ印象深い、この上ない選曲になったと思いますが、それにしても「雨に唄えば」にしてみたらいい迷惑ですね正直。

あと看守長のおっさんの演技もなかなかすごかったですね。「フルメタル・ジャケット」の鬼軍曹に通じるものがあるなと思いました。

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