映画レビュー0469 『誰よりも狙われた男』
今月観に行きたかった映画シリーズ、終わったように見せかけといて追加の4本目。これだけ連続で劇場に行くのは初めてです。それぐらい、個人的に今の劇場公開はアツい。
そして同時に、フィリップ・シーモア・ホフマンの追悼企画でもあります。彼の最後の主演作となりましたこちら、観に行って来ました。
誰よりも狙われた男

スーパー地味で人を選ぶものの、好きな人にはたまらない世界。
「裏切りのサーカス」と同じく、ジョン・ル・カレ原作の小説を映画化した作品。これまた「裏切りのサーカス」同様、地味で真面目なスパイ映画なんですが、あの映画よりも山場が無く終始淡々と進む感じで、多分人によってはめちゃくちゃ眠くなる映画だと思います。僕も劇場で観たから良かったようなもので、これは家で観ていたらまったく中身が入ってこなくてイマイチ、ってな評価を下していた可能性が高そうな気もします。それぐらい、地味。
しかも主人公がどんな組織の人で、足を引っ張ろうとしているライバル的な組織がどんなところで、いきなり名前だけ出てくる人がどこの人で…などの周辺事情がほぼ語られず、いきなり実戦のお話で進んでいくので、入ってくる情報がまあとにかく断片的ですごく理解し難い内容だと思います。しっかり集中して観ていないとすぐに置いて行かれること請け合い。だからこそ、極めて地味ながら劇場鑑賞を激しくオススメします。
ただ「裏切りのサーカス」同様、ハイテクゴリ押しもなければイケメンスーパースパイも出て来ない、本当にリアルなスパイってこうなんだろうな、というリアリティ溢れるストーリーはスパイもの大好き野郎にはたまらない世界で、ひたすらじわじわ、少しずつ歩を進めるスパイの世界にしびれつつ、上質な大人の時間を楽しませて頂きました。
もちろん「ミッション:インポッシブル」とか「007」のようなスパイものも娯楽として面白いんですが、この“甘さゼロ”なリアルスパイの世界はそれとはまた全然違った楽しみを味あわせてくれます。
現実は「スパイのリスト」を取り戻して終わり、じゃないんですよね。本当にチェスのように一コマ動かしては相手の動きを見て、そしてまた少しずつ相手を追い詰めていく、緻密で地味で疲れる世界。そんな現代的なリアルスパイっぽさが最高に堪能できる映画だと思います。
銃も出て来なければ殺しもセックスも無い、ジリジリとした人間同士の駆け引きがすべて。その結末に待つものは…やっぱり“人間”なんだな、と。
もちろんネタバレ回避のために詳しくは書けませんが、結局はテロリストもスパイも人間、人間社会ってこうなんだよな、というなんとも言えない後味がありました。
「裏切りのサーカス」よりも敷居が高い地味さですが、フィリップ・シーモア・ホフマンの素晴らしい演技もあるし、奇しくも彼の遺作となったことでしっかり観られる、という人も多い気がします。追悼の意味も込めて、映画ファンなら観ましょう。
派手な面白さは皆無ですが、いぶし銀の面白さがあります。
このシーンがイイ!
とにかく地味で殺風景なシーンが続くんですが、唯一秋の公園らしき場所でフィリップ・シーモア・ホフマンが佇むシーンだけ、綺麗でかっこよくて印象的でしたね。
ココが○
くどいほど地味と書いてますが、それだけ真面目であるとも言えます。媚を売らず、極力鑑賞者の頭を信頼する作り、好きですね。安っぽい展開が一切ないのが素晴らしい。
ココが×
とは言えやっぱり地味なので、面白さを感じるようになるレベルまでの我慢が結構大変かもしれません。ほんとーに小さいことの積み重ねで、パッと見なんてことないセリフにも意味が込められている、そういう情報を丁寧に拾い上げる集中力が必要な映画です。
MVA
ここに来て個人的にレイチェル・マクアダムスの評価が急上昇中。今回もすごく良かった。そしてかわいかった。この人も結構作品によって印象が変わりますね。
しかしこの映画、追悼という意味を除いてもやっぱり。
フィリップ・シーモア・ホフマン(ギュンター・バッハマン役)
当たり前ですが「カポーティ」の時とはまったく違う、腹の底から出る声が渋い渋い。
失礼ながら40代の肥満体でこれだけの貫禄とかっこよさ、そしてくたびれた感じが出るのはすごく貴重。本当に本当にもったいない…。


