映画レビュー1038 『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
今回もネトフリ終了系ですが、これもまたずっと観たかった系です。
つい最近、この映画に登場する実在の猫・ボブが他界したというニュースを見ていたこともあって、なおさら観ないとと思っていました。最近ペットの他界に敏感なもんで…。
ボブという名の猫 幸せのハイタッチ
ロジャー・スポティスウッド
ティム・ジョン
マリア・ネイション
『ボブという名のストリート・キャット』
ジェームズ・ボーエン
ルーク・トレッダウェイ
ルタ・ゲドミンタス
ジョアンヌ・フロガット
アンソニー・ヘッド
キャロライン・グッドール
ベス・ゴダード
デヴィッド・ハーシュフェルダー
チャーリー・フィンク
2016年11月4日 イギリス
103分
イギリス
Netflix(PS4・TV)

当然のように良い。実話だからこそ受け入れやすい。
- 猫との出会いから一発逆転人生を歩むことになる路上生活者のお話
- 正直嘘くさいぐらいによくできた話なだけに、実話というのが光る
- サクセスストーリーとしてはありがちではあるものの、当然のように猫が良い
- しかも“演者”もほぼボブご本猫だとか!
あらすじ
上に書いた通り、サクセスストーリーとしては割とよく見るパターンではあるんですが、逆に言えば「よく見るパターンのサクセスストーリーを描いたイギリス映画」が好きな僕としては当然のように良かったし、おまけにボブ(猫)が素晴らしく愛らしいのでそりゃ悪くなるはずがないな、というお話でした。
主人公のジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)はギター1つ持って路上生活を送る若い男で、“仕事”は路上ライブのみ。ある日同じ境遇の友人・バズから誘われる形でしばらく断っていた麻薬にまたも手を染めてしまい、病院送りになってしまいます。
彼の薬物更生を担当していたソーシャルワーカー・ヴァルは彼に厳しく当たりつつも、「このままでは本当に危険だ」との危機感からなんとか彼の住まいを用意。ジェームズももう一度やり直そうと意を新たに生活を始めます。
その新居でお風呂に入っていたところ、台所から物音がしたため半裸で武器を手に駆けつけると、そこには窓から入ってきた一匹の猫が。
次の日から飼い主を探し歩いても見つからず、仕方なく置いていこうとするもジェームズについてくる猫。隣人のベティによって「ボブ」と名付けられたこの猫は、ある日“仕事”に向かうジェームズにもついてきてしまい、そのままライブに同席させたところ評判を呼んで稼ぎも上々。
かくしてボブの存在によってジェームズの社会復帰が進むことになるんですが…あとはご覧ください。
ボブ以外も忘れずに
イギリスでシリーズ合計1000万部超えのノンフィクション本が原作の映画なので、おそらく本国イギリスの人たちにとっては「あのサクセスストーリーが映画化されたのか」というような、おなじみの感覚なんでしょうね、きっと。ちなみにその書籍化のくだりも出てきます。
路上生活の麻薬中毒者がたった一匹の野良猫との出会いから人生を取り戻していく…というのは感動的ではありますが、実話でなければ「うそくせーな」と思ってもおかしくないような、本当にできすぎた綺麗な話でびっくり。事実は小説より奇なりとはよく言ったものです。
もちろん映画らしい脚色もあるだろうし、編集の魔力で奇跡に見える場面もあるんでしょうが、それでも本筋の部分は変わらないはずで…やっぱりスゴイ。ボブ、何者なんだ。
ジェームズが社会復帰できた一番の理由は、「ボブが(公私ともに文字通り)常にそばにいてくれた」からであることは間違い無いんですが、ボブはジェームズだけではなく、彼らに惹かれて集まってくる人たちに対しても臆せずジェームズのそばから離れない、その献身性がなんともたまらなかったですね。ただの人懐っこい猫じゃんと言ってしまえばそれまでなんですが、なんとなくそれ以上の何かを感じるような…「僕が必要なんでしょ?」とわかってそこにいるかのようなボブがとても素敵。
おまけに僕はてっきり“役者猫”がボブの立ち居振る舞いを再現していたのかと思って観ていたんですが、調べると「ほとんどのシーンをボブ本猫が演じている」とのことでまたびっくり。
ジェームズ本人と一緒にいたときとは人の多さも違うだろうし、照明やら機材やらいろいろ普段とは違うものが大量にあるのにこの堂々とした演技。スゴイ。
おまけにジェームズはニセモノ(役者)なので、まあよく別の人にこんなに懐いてる感じが出せたな…ってことはやっぱりただ単に“人間好き”の猫なだけでは?? と思ったりもしますが、そうだったとしてもまるで犬かのような人間ラブっぷりはそれだけで泣ける。
何度も書いていますが僕は今年の1月に愛犬とお別れしているので、もう犬だろうが猫だろうが「そばにいてくれる」のを見るだけでダメなんですよね…すぐ泣いちゃう。この映画でもそばで見守っている姿を観るだけでいちいちメソメソしてました。そこに生きてそばにいてくれることの尊さ。改めて、本当にかけがえのないものなんだなと思います。
ただ、そんなボブの活躍にばかり目が行きがちな話ではありますが、やっぱり「まず最初に尽力して家を用意した」ソーシャルワーカーのヴァルを始め、周りにいる人たちのサポートもかなり重要だしそこは忘れちゃいけないなと思います。そもそも家に住むことができなければボブとの出会いもなかったし、隣人のベティとの出会いもなかったわけで。
ボブ目当てかもしれませんが、独り立ちしたジェームズの音楽を聞きに来たり、後に彼が販売員となるビッグイシューを購入する人たちであったり、周りの“人間”の温かさもあってこそのサクセスストーリーであることは軽視しないでおきたいところ。
とかく自己責任が叫ばれる今の日本において、果たして同じような状況で彼が同じように社会復帰できるのかと言うと…なかなか難しいような気がするし、だからこそこれを観た日本人が少しでも感化されてすぐさま自己責任を問うような風潮から脱却できると良いなと思うんですけどね。今の日本はあまりにも弱者に冷たすぎるので。
それこそ事故にあって1日で“社会的弱者”になってしまうことも十分にあるだけに、決して他人事にはせず、この映画に出てきた“ジェームズの周辺にいる温かい人たち”のように、困っている人に寄り添うことができるような人間でありたいと思うし、改めてそういう視点を持てる時点でこういう映画を観る価値があるんだと思います。だからこそ映画を観ること自体に価値が生まれるとも思ってますからね。僕は。
いろんな人が観て、考えて欲しい
またもお節介じみたお話になってしまいましたが、でもそういう受け取り方をしなかったら観る価値が半減すると思うので、せっかく観るんだったらそういう「いかに自分に持って帰れるか」を意識してほしいなとも思います。
何度か書いていますが、僕はこの映画とか「チョコレート・ドーナツ」とか、弱者への包摂を考えるきっかけになり得る映画を観る人が増えれば増えるほど社会は良くなっていくと信じているので、ぜひこういう映画はいろんな人に観てほしいし、その上で考えて欲しいと思います。「ボブかわいいな、猫飼いたいな」だけではなくてね。
ちなみに僕は今年お別れした愛犬がもう未来永劫世界一の犬だと確信しているので、次は保護猫を飼うつもりです。ボブみたいな人懐っこい子だったらいいな…。
このシーンがイイ!
タイトルにもありますが、ハイタッチのシーンはやっぱり見どころ。ボブかわいすぎる。
あとは終盤の親子の会話であったり、ところどころわかっちゃいるけど泣いちゃうね的なシーンがたまりません。
ココが○
やっぱり実話の持つパワーでしょうか。これ作り物だったらどうしても「いい話ではあるけど」って一歩引いちゃう面があると思うんですよ。
ただ事実なだけに重みがあるし、ボブもちゃんと生きていた本物の猫だからこそ素晴らしい価値を感じさせてくれると思います。
ココが×
話としてはオーソドックスで展開もわかりやすいので、意外性という意味では少し物足りなさはあるでしょう。ただ実話にそれを求めるのもそもそも筋違いではあるので、あえて言うならというところ。
MVA
めっちゃボブにしたい…だって本猫なんだよ!? めっちゃかわいいし本当に演技力を感じるぐらい素晴らしくて…。
ただ一応このコーナーは人間に付与すると決めているので、泣く泣く除外してこの人にします。
ルーク・トレッダウェイ(ジェームズ・ボーエン役)
主人公。路上生活ミュージシャン。
後工程の力もあるんでしょうが、なかなか歌がお上手で魅力的なんですよ。その上(ある意味当然ですが)ジェームズご本人よりもイケメンで、病的痩身俳優が好きな人は結構グッと来るかも。
当たり前ですが完全に彼とボブを中心に展開するお話なので、ボブとの絡み(相性)の良さも含めてよくできました感が大きくて。他の映画だと全然印象が変わりそうだし、他でも観てみたい。