映画レビュー1333 『眠れぬ夜の仕事図鑑』
最近「やっぱりドキュメンタリー観ないとダメよね」ムーブが始まっているので、画がよさそうなこちらの映画をチョイス。
本当は同じくJAIHOで配信中の同じ監督の作品「いのちの食べ方」を観るべきだと思うんですがどうにも覚悟ができず…。意を決して今度観ないとなぁとは思っております。
眠れぬ夜の仕事図鑑
邦題通りに仕事だけなら良かったのに…。
- 基本的には夜働いている人たちの姿、たまに遊んでる人たちも
- ナレーションもなく、ただ映すだけで解釈は観客に委ねる形
- 夜ならではの独特の雰囲気が妙な魅力を持っている
- しかしもう少しピリッとした何かがほしい
あらすじ
評価が難しいドキュメンタリーだなぁと思いますねこれは。決してつまらなかったわけではないんですが、とは言えすごく響くものがあったわけでもなく…。
ヨーロッパ各地における「夜の仕事」を中心に、国境警備隊の人であったり警察官であったりお医者さんであったり火葬場職員であったり、様々な場所で働く、また遊ぶ人たちの姿を追ったドキュメンタリーです。
当たり外れが混在したドキュメンタリー
他に説明するようなこともなくあらすじが圧倒的に短いですがドキュメンタリーなのでまあこんなもんです。
タイトルは「仕事図鑑」になっていますが、実際は仕事だけではなく遊んでいる人たちも追っていて、意味優先でタイトルを付けるなら「ヨーロッパの夜」って感じ。(ひねり無し)
それもそのはずというか、原題は「ヨーロッパ」という意味のドイツ語らしいんですが、単語そのものの意味は「夕方の地」という意味らしくて、よく日本を「日出ずる国」と表現するのと同じように、ヨーロッパでは「日が沈む地」みたいなニュアンスの表現があるらしく、そう言ったちょっと詩的なニュアンスのタイトルらしいです。「夜を纏うヨーロッパ」みたいな。超適当に書いてますが。
開幕は国境警備隊の監視カメラから始まります。とは言っても「密入国だ!」みたいな劇的な展開が起こることもなく、至って普通の“日常”を働く人の姿から見つめていく形。発見されるのはうさぎのみ。(かわいい)
それから様々な「夜の人々」をただただ眺めていくドキュメンタリーになっていて、特に説明もなく次々と切り替わっていくのを観るだけ、です。何気に一番最初の国境警備隊の人だけが一番説明らしい説明をしてくれてた気がする。
ところどころ「うわ、泣ける…」と思えるような仕事風景も挟まるんですが、なにせ繋がりもなくただ流しっぱなしの状態なので、それを総括して「いやーすごい」みたいに感じるのもなかなか難しいように思え、僕の感覚としては「当たりと外れが入り混じったオムニバスドキュメンタリー」というのが一番しっくり来る表現です。
もちろん国が違うのでその意味での面白さもあり、特に入管職員の人の立ち居振る舞いなんて日本とはまるで違うなとショックを受けるぐらいだったんですが、そうやって中身について何かと比べたりしてより深く考えるようなものはあまり無くて、多くはただ眺めて「夜中に大変そうだなぁ」とか「偉いなぁ」と単純な感想を持つだけの映像が多かったように思います。
映像の作りとしては「ECHO」に近い感覚でしたが、あっちは一応ドキュメンタリーのようでドラマを“作って”いるのでその分グッと来る部分も多く、それがまた響いて好きだったんですが、こっちは作為がない分“色”がついていないのが良い反面、感情を揺さぶられる面も弱くてあまりビシッとハマる感じはありませんでした。
ドキュメンタリーは手法的にあんまり意図を込めすぎるとプロパガンダ臭が強くなってしまうので、この手の「垂れ流す」ような作りは決して悪い方法とは思わないんですが、しかし邦題の通りに仕事に限っていればまだ「夜勤は大変だ」みたいに感じ入ることもできたのに、そこにただ遊ぶ人たちも含まれちゃっているので、だいぶ自分の中での「思いやる」ような感情が薄まってしまったのも残念。
特に一番最後のシークエンスはただひたすら、しかも一番長回しでウェイウェイ言ってる人たちを映しているシーンだっただけに、そこで一番うんざり来てしまって「なんか思ってたのと違うな」となってしまったことは否めません。
終わらせやすいシーンなのもわかるんですが、なぜあのライブフロア会場的なところを最後にしたのか意図がよく分からず、結局何を見せたかったのかなと考えてしまって理解できない感覚が強く残ってしまったのも悔やまれます。
仕事に限ってほしかった
どうしてもこの手の「垂れ流す」系のドキュメンタリーだと「聖者たちの食卓」を思い出してしまうんですが、あの圧巻の映像と比べてしまうとなんだって地味になってしまうのは否めず、比べるのもよくないとわかりつつも比べちゃうのが人の性よね、と。
やっぱり垂れ流し系の割に「夜」以外に統一性が見えなかったのがつらいところかな、と。
作為的になってしまうかもしれませんが、やっぱり「仕事」に限ってもらえれば、もう少し抑圧された感じだったり同情だったりを抱けたと思うんですが、ただ夜通し遊んでる人たちを観たところで別に「楽しそうで良かったね」以外に思うこともなく、アレは本当にいらなかったのでは…と思わざるを得ません。
ただそれもこれも邦題で勝手にこっちがイメージ(ハードル)を固めてしまった面も否めず、監督からすればありがた迷惑な話なのかもしれません。
先に書いた通り「当たり外れ」はあるものの、それなりに思うところも出てくるはずなので、「興味があれば」といったところでしょうか。
ドキュメンタリーはやっぱり作る側も観る側もいろいろ難しいよな、と改めて。
このシーンがイイ!
オープニングの国境警備隊の人、いきなり(撮影中に)エンストしててミラクルだなと思いました。あれ最高。
印象的だったのは介護士さんかな…。いかつい感じなのにすごく親身で丁寧で、事務作業までやってて本当に頭が下がる思いです。
それと日本で言うところの「いのちの電話」の人たちの姿もしみじみ観てしまいました。夜中に手を差し伸べる、その一点だけでも尊い。
ココが○
いろいろな夜の表情が伺えるのは面白いですね。
鳥の丸焼きを大量に焼いてるおじさんだったり、機械のようにサクサクビールを注いでいくおじさんだったり、職人的な仕事を垣間見ることができるのも良い点。
ココが×
やっぱり訴求力という点では少々弱い面は否めません。全部通して観れば何か輪郭のようなものが見えてくるようだとより良かったなと思うんですが。
あと普通に(いきなり)セックスが出てきたりするのでその辺嫌な人は注意。しかもめっちゃ明るい部屋でやっててすごい。
MVA
例によってドキュメンタリーなので無しです。出てる人の名前すらわからないのでね…。