映画レビュー0787 『大統領の陰謀』

今回は久しぶりにBS録画より。

ペンタゴン・ペーパーズ」が公開になったこの時期にこの映画を流してくれるBSプレミアムはグッジョブとしか言いようがありません。これすごく観たかったんだよなー。

大統領の陰謀

All the President’s Men
監督
アラン・J・パクラ
脚本
原作
『大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日』
カール・バーンスタイン
ボブ・ウッドワード
音楽
公開
1976年4月7日 アメリカ
上映時間
138分
製作国
アメリカ

視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

大統領の陰謀

ある日、ワシントンのウォーターゲートビルにある民主党全国委員会本部オフィスへの不法侵入の罪で5人組の男が逮捕される。法廷の取材を命じられたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードは、共和党系の弁護士が傍聴に来ていたこと、さらに容疑者の1人がCIAの警備官だったことを告白したことなどから事件に興味を持ち、本格的に取材を開始する。

最後もう少し丁寧に観たかったな〜。

7.5
言わずと知れた「ウォーターゲート事件」が表に出るまで
  • ウォーターゲート事件報道の中心的人物である2人の記者を主役に据えた報道映画
  • 小さな手がかりから地道な取材を重ねるドキュメンタリーに近い実直な作り
  • 時間軸的には「ペンタゴン・ペーパーズ」の直後
  • 情報提供者(ディープ・スロート)側からこの事件を描いた映画が「ザ・シークレットマン

ということで詳細は知らなくても名前ぐらいは誰もが聞いたことがあるっぽい「ウォーターゲート事件」がいかにして世の注目を浴びるに至ったのかを、取材記者と彼らの所属する新聞「ワシントン・ポスト紙」から描いたノンフィクション映画でございます。

物語はまさにウォーターゲートビルに不法侵入した5人の男たちに警備員が気付く、そのシーンからスタート。ちなみにこの警備員さんは実際にこの不法侵入に気付いて通報したご本人だそうです。

僕は「ペンタゴン・ペーパーズ」のエンディングが余計だとブータレましたが、どうやらこのオープニングを観るに、あのシーンはこの映画に対するリスペクトとして入れられたのかなぁという気がしました。相変わらず知識の無さを浅はかさに変換してお送りしてしまいお恥ずかしい限りです。ごめんよスピルバーグ

さて、そんなウォーターゲート事件が発生…なんですが、この当時は今からは考えられないほどどのマスコミもさして興味を示さず、いわゆるベタ記事扱い程度だったようです。確かに「民主党本部オフィスに不法侵入して捕まった」だけだと、まあお金盗もうとしたのかねぐらいの感覚でもおかしくないような気もする。

ところが、その法廷の取材を命じられたまだ入社間もないボブ・ウッドワードは、いきなり共和党系の弁護士が傍聴に来ていることに何やらきな臭い雰囲気を感じ、さらに容疑者5人がそこそこお金を持っていた(確か個々に200ドル程度持っていたので、多分今の感覚に換算すると10万円行かないぐらいの雰囲気じゃないかなーと勝手に予想)ことから物取りとしても違和感があるし、どうやらこれは怪しいんじゃないか、と思い始めるわけです。

敵対する政党に関係する弁護士+窃盗目的ではない民主党本部への侵入。なんか臭うぜ…! と思っていたところ、容疑者の1人がヌケヌケのおバカさんなのか、仕事を聞かれてあっさりと「元CIAの警備員でした」とか言っちゃうんですよ。奥さん。信じられないでしょう? ご丁寧に元職を答えちゃうんですよ。フィクションだったらここで興醒めしてもいいレベルのヌケっぷり。

この裁判を傍聴に来ていたのがワシントン・ポスト紙だけだったのかはわかりませんが、結局このいくつかの情報で「これはちゃんと調べたほうが良さそうだな」と…まあ特ダネの匂いを感じとったボブ・ウッドワードは独自に取材を開始します。

最初は一人で調べて記事を書いていたんですが、その彼の記事を勝手に推敲していた先輩記者のカール・バーンスタインとコンビを組まされる形で一緒に取材をすることになり、以降コンビでこの事件を追っていく様を描いた映画です。

映画としてはもう新聞記者の取材をそのまま追った映画という感じで、お手本通りのジャーナリズム映画という感じ。むしろこれがベースとなって後世のジャーナリズム映画が作られたんじゃないかなというぐらいに実直で素直な作りの映画だと思います。「スポットライト 世紀のスクープ」なんかはまさにこの映画の系譜に連なる映画でしょう。

取材から得た情報を元に別の取材に赴き、どうも圧力がかかっているらしいことを知ってまた別の人に総当り方式で取材へ、そして記事を書いては上層部に裏取りを確認され、足りないとなればまた取材。この繰り返しで徐々に真相に迫っていくわけです。

ただ、ご承知の通りこの事件報道には一つ、特殊な要素があるわけですよ。

そう、「ディープ・スロート」と呼ばれる情報提供者の存在です。「ラヴレース」の方のディープ・スロートじゃないですからね。エロい方のアレじゃないですから。一応書いておきますけども。

この映画が作られた当時はまだディープ・スロートの正体というのはわかっていないんですが、ただ彼の動き方や発言については、ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインが共著で出した原作本に則っていると思われるので、特に今から観て違和感のあるような描写ではないと思われます。(最後はちょっと引っかかったけど実際どうだったのかはわかりません)

どうも内部事情に詳しいらしい人物から文字通り「ヒントを与えられ」(直接の答えは教えてくれない)、真相に迫っていく姿はややサスペンスっぽくもあり、なかなか見ごたえがありました。

ちなみにこのディープ・スロートというのは当時のFBI副長官であるマーク・フェルトという方らしいんですが、この方を主人公にしたのが今年日本でも公開になった「ザ・シークレットマン」という映画です。リーアム・ニーソンが彼を演じています。僕もものすごく観に行きたかったんですけどね。ちょっと遠かったのでね。結果寝て過ごしましたよ。その時期は。

そんなわけで「ウォーターゲート事件とその報道」に興味があれば素直に楽しめる映画だと思うし、上記の通りジャーナリズム映画としても定番かつ代表作の1本と言えるので、この辺の要素にグッと来る方々はぜひ一度ご覧になると良いでしょう。

ただし、最近もこの事件の話をWikipedia等でいろいろ読んでいた僕ですら、固有名詞の多さに難解な印象を感じるぐらいには少し入り込みにくい難しさもあるのは事実です。この辺はおそらく、よく書いてることですが「国民に共有の前提知識がある」アメリカが作った映画を、それがない日本人が観ることの難しさも加わっていると思うので、仕方のない面もあるとは思うんですけどね。

字幕だと余計に固有名詞が流れていくうちに理解が進まない、というのは往々にしてあり得るので、観る時はよーく注目して集中できる時間帯に観るようにするのが良いと思います。

あとはやっぱり、だいぶ時間が空いたものの同事件を別視点から描いている映画(ザ・シークレットマン)が作られただけに、合わせてこっちも観るとより理解が進んでいいのかな、と。僕もソフト化され次第観たいと思います。

「ペンタゴン・ペーパーズ」はこの事件報道の下地を作った会社(と経営者)の成長のお話であり、この映画の話とは直接の関係はないのでそこまでつながりのあるテーマではないんですが、ただ一部登場人物が被っていたり(ベン・ブラッドリーとか)もするので、これまた合わせて観るとより理解が進んで良いでしょう。

社会派映画好きであれば3本セットで観ておきたい映画ですね。

大統領のネタバレ

僕が知る限りではディープ・スロートは本当にヒントしか教えない人で、「誰が犯人」とか「こういうことがあった」とか核心的なことは言わず、「金の流れを追え」とか「ここに行けば情報が得られる」とかいわゆる“示唆”しかしなかった、って聞いていたんですが、終盤ロバート・レッドフォード演じるボブ・ウッドワードに「いい加減全部教えてくれよ!」って言われたからベラベラ喋っちゃってます、みたいなシーンがあってものすごい「えー」って言いました。えー。コントかよ。ま、まあエンディングに向けて流れを作りやすいシーンだったのはわかるんだけど…。

それとそのエンディングがね。もうすぐ核心に触れられる…! ってところでディープ・スロートがベラベラ喋ってくれたおかげで記事が大量生産されましたとさ、みたいな急いだ終わり方だったのがすごく悔やまれます。あの最後、政権側を追い詰めていく様をもっと丁寧に観たかったんですけど…。ジワジワじわじわジェットコースターが登っていっていよいよ…! ってところでスーッと正面に進んでいって「お疲れ様でしたー」みたいな。悔しい。

この辺は時代的な映画の作りの違いもあるのかもしれないですね。ピークがこっちの思いとズレていた感覚があって、それは映画が悪いんじゃなくておそらく僕の見方が間違っていたような気がするんですよ。今の時代の見方に合わせちゃったのと、単純に理解が追いついてなかったのとで。なので残念だし悔しいんだけどスミマセンでしたと。謝って終了とさせて頂きます。

このシーンがイイ!

超ベタですが、やっぱり夜遅い社内で二人に向かってベン・ブラッドリーが過去の失敗談を話すシーンでしょう。「伝説の記者」に少し近付いたあの瞬間の二人の感動たるや想像に難くありません。最高。

ココが○

なんつってもあのウォーターゲート事件報道の話ですから。おそらくはそんなに脚色も無さそうな真面目な作りだし、歴史を知る意味でもかなり観る価値は高い映画だと思います。

ココが×

上に書いた通り、やっぱりちょっと理解しづらい難しさがどうしてもあるんですよね。外人の名前ボコボコ出てきても誰が誰やらだぜ、っていう。

ネタバレ云々のお話でもないと思うので、事前にある程度予備知識を蓄えてからの鑑賞でも良いかもしれないですね。それなりに予備知識があると思っていた自分ですらこうだったので、いきなりまっさらな状態から観るのはちょっとしんどいかも。

MVA

当時の二大スター共演、ってことでどっちも良かったんですが、でもやっぱりキャラ的にこの人の存在感が一番だったかなー。

ジェイソン・ロバーズ(ベン・ブラッドリー役)

「ペンタゴン・ペーパーズ」ではトム・ハンクスが演じていたベンさん。実在する同一人物をモデルに2人の俳優さんがMVAを取る、っていうのは初だと思いますが、そんなことを改めて言うほどこのサイトに価値が無いので正直どうでもいいです。我ながら。

トム・ハンクスの方がやや人懐っこくてエネルギーがある印象の演技で、ジェイソン・ロバーズの方はもっと近寄りがたい強権的な雰囲気が強く押し出された演技だったと思いますが、それだけに「二人をバックアップする」心強さがより際立つ良い演技だったと思います。この辺は中心人物として社の命運を握っていた「ペンタゴン・ペーパーズ」と、前線で矢面に立つ兵士を守る指揮官である今作との物語の違いも大きそう。

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