映画レビュー1016 『バリー・シール/アメリカをはめた男』

監督ダグ・リーマン、主演トム・クルーズってことであの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と同じコンビの映画。

公開当時から観たかったんですが、この度これもまためでたくネトフリ配信終了が迫ってきたために満を持して観ましたよ。おまけに知らなかったけどドーナルくんも出てて喜び。

バリー・シール/アメリカをはめた男

American Made
監督
脚本

ゲイリー・スピネッリ

出演

トム・クルーズ
ドーナル・グリーソン
サラ・ライト
ジェシー・プレモンス
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
アレハンドロ・エッダ
フレディ・ヤテ・エスコバー
マウリシオ・メヒア
ローラ・カーク
ジェイマ・メイズ
ベニート・マルティネス

音楽
公開

2017年9月29日 アメリカ

上映時間

117分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

バリー・シール/アメリカをはめた男

さすがのテンポの良さで楽しめる。

8.0
“CIAと麻薬密輸”の二足のわらじ、その結末は
  • CIAにスカウトされたパイロットが麻薬密輸でもスカウトされるの巻
  • 引くほど稼いで順風満帆と思いきや…といういつものパターン
  • 軽めの作りなので娯楽映画的に万人が楽しめる
  • しかしその分脚色も強そうな雰囲気

あらすじ

「バリー・シール」というのはトム・クルーズ演じる実在する主人公の名前そのままなんですが、後半の「アメリカをはめた男」っていうのは結構これだけでネタバレなんじゃねーの…と思いましたが鑑賞後は実ははめられた側じゃねーのという思いもあり、これはこれでいろいろ考えさせられるねという独り言です。

ということでトムクルさん演じるバリー・シールさんですが、彼はTWA(トランス・ワールド航空)の最年少機長として将来を嘱望された大変優秀な人物だったようです。

ただその裏では検査が緩い立場を利用した葉巻の密輸(この後を思えばかわいいもんですが)を行っていて、そのことを知ったCIAのシェイファー(ドーナル・グリーソン)に「CIAの仕事を手伝え、そのためにペーパーカンパニーに転職しろ」と打診されます。

こうしてCIAの仕事に携わることになったバリー。最初の任務は中南米の武装集団の偵察的な撮影任務で、毎回のように発砲されつつも見事な腕前で価値の高い写真を撮って帰り、CIA内部でのシェイファーの評価もうなぎ登りで上々の滑り出しです。

何回目かの任務の際、降り立った空港で男たちに囲まれたバリーは、ある一人の男の前に連れて来られ、CIAとは別の“仕事”のオファーを受けます。それが後に世界最大の麻薬組織となる“メデジン・カルテル”の麻薬をアメリカ国内に運ぶ、というものでした。

高額報酬ということもあって受けることにしたバリー、なんとか無事麻薬を運ぶことに成功するもあえなく逮捕され、収監されていたところそこに現れたのがまたもシェイファーで…あとはご覧ください。

ロード・オブ・ウォー的な必要悪

いわゆる伝記モノと言えますが、実際のところどうだったのかは例によってわかりません。映画としてはだいぶ軽めでわかりやすく、ややコメディタッチで描かれているので「伝記モノ」としてはかなり観やすく楽しめると思いますが、その分きっと事実はだいぶ違うんだろうなぁという気もします。実際のバリー・シールは当然ながらトムクルさんのようなイケメンではなく小太りのおっさんだったみたいだし。まあその方が「まさかあいつが」的にうまく立ち回れそうな気もするんですが。

同じようなタイプの映画としては「ウルフ・オブ・ウォールストリート」辺りが挙げられますね。あんな感じの“おもしろ実在人物映画”です。

ただ話としてはあれよりも「ロード・オブ・ウォー」に近いものを感じました。一個人がアメリカ国家に“必要悪”として利用される感じ。

もちろんバリーはバリーでかなり節操はないし彼としては“利用している”気でいたんでしょうが、実際は(当然ですが)彼が思っていた以上に大きな枠組みの中の歯車に過ぎず、従って見えてくる結末は「やっぱりね」というお話。

ただわかってはいてもちょっと悲しいような切ないような、明るい映画だけど“大きな枠組み”との関係性を考えると、なかなか「そりゃそうなるでしょ」とは言い切れないような…ちょっとした同情を感じるようなお話でもありました。

実は選択肢が無い

ブロウ」辺りとも似た面がありましたが、あれ以上に金が唸っていてですね…ここまで一個人が金を貯め込む話、初めて観たかもしれない。もちろん単なる演出の問題なのかもしれませんが、それにしたってちょっと尋常ならざる金持ちっぷりには笑っちゃいましたね。

普通であればここまで羽振りが良くなると当然何らかの捜査機関から睨まれるはず(実際睨まれる)なんですが、なにせバリーは「CIAの仕事をしている(けど麻薬絡みのバイトで稼いでいる)」という大義名分があるため、その辺りをあまり隠そうともせずに振る舞う感覚が他になく、街中に筒抜けなレベルで金が唸っているというのがなんとも笑えます。

そしてお決まりのように登場するクズ親族(義弟)のおかげでまたトラブルも増えますよ、というのがなんとも…やっぱりお金を持つと色々寄ってくるんだね、っていう。ホントお金があるのも良し悪しだなと毎度映画から学んでますよ。ビンボー人のお慰みですけどね。

そんなこともあって中盤以降はもうどっからどう見ても破滅に向かっているようにしか見えないバリーさんなんですが、ただ観ている側からすればその破滅の選択肢も意外とありまして、「どう破滅するんだろね」と予想しながら観るのもまた一興でしょう。

ただ僕は観ていて思ったんですが、確かにバリーは節操ないし「そりゃ勝ち逃げできるタイプじゃないでしょ」と思いつつも、でも振り返ればどの分水嶺においても事実上選択肢は1つしか無かった、つまりバリー本人は選びたくても選べなかったんじゃないかと思うんですよ。

すべてのきっかけとなるシェイファーによるCIAへの勧誘のときは「小銭稼ぎの密輸」という弱みを握られているのでまず断れないでしょう。そりゃ密輸してるのが悪いんだと言ってしまえばそれまでですが、とは言えそれがなければ声もかからなかったわけだし。

次の麻薬密輸についても、カネに目がくらんだ事実がありつつも、それこそ断ったら殺されちゃうような危機感があるわけで、これもなかなか断りづらい。

その後いくつか登場する分岐点においても結局はバリーが選んだ道に行くしかないように見え、巧妙に(大きな存在に)誘導され、利用された結果がこのお話なんだよなと思わざるを得ず、それ故ホンの少しだけ同情もしてしまったわけです。

なんだかんだ「自分で選んでる」つもりが“選ばされている”ことはワレワレ一般人でもよくある話なので、それこそCIAや麻薬組織のような百戦錬磨の集団にかかれば一個人の行動なんていかようにでもなるんでしょう。

やりたくてやっている、生きたくて生きているわけではなく、やらされている、生かされているという事実。そこに目をやれるお話だったし、それがまた“軽いだけ”じゃない、ちょっとした深みみたいなものもあったような気がしないでもないですね。

ちなみにアメリカの裏歴史的な側面もあるお話なので、黒人差別の話こそ出ては来ませんが、歴史を振り返る意味で「13th」で学んだ内容が意外と役立ったのも書いておきましょう。

結局アメリカを知ることでアメリカの歴史に残った人物を観る目が養われる、という当たり前の話ですがそういうことなんでしょうね。これもまたいろんな映画を観る楽しみの一つでもあります。

またも自分の人生を省みる

いやーしかし最初に挙げた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」にしても「ブロウ」にしてもそうですが、まーアメリカの歴史を彩る人々には驚かされますね。なんというか規模がでかい。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」辺りも含まれるかもしれない。(いつか再鑑賞してレビューしたい)

こういう人たちを観ているといかに自分の人生が平凡でつまらないか…と思わなくもないですが、ただ彼らの末路を思えば平凡が一番…なのかもしれません。

何より「彼らのようになりたくてもなれずに早々に人生退場を余儀なくさせられた」人たちがごまんといるであろうことを考えれば、文句を言いつつも普通に仕事をして家があって食べるものに困らない程度に生きていられることが大切なのもまた事実なんでしょう。

僕ももはや人生折り返し地点を過ぎた身として、他人の人生を見てはいろいろと思うところはありますが、しかし所詮他人は他人、自分は自分で比べても仕方がないし、僕が同じ環境にいたとしてもきっとバリーのようにうまくやることは無理だろうと思うので、あまり増長せずに地道に生きていくのが一番だよな…とこの映画らしくないしんみり感を漂わせて終わりにしようと思います。

気楽に観られつつ、こうして自らを省みる時間も作れるよ、ってことで気になった方は観てみると良いのではないでしょうか。

このシーンがイイ!

ネタバレになるので具体的な表現は避けますが、終盤CIAがちょっと賑やかになる場面があるんですね。あそこがなんか「CIAだなぁ」というか、延々とこういうことを繰り返してきたんだろうな…という感じが良かったです。

ココが○

テンポよく、勘所を押さえた過不足のない作り。僕はダグ・リーマン好きなので、「やっぱり良いね!」と嬉しくなった感じ。

ココが×

特にここ、というのは無い気がします。概ね誰が観てもある程度は楽しめる映画ではないかなと。

MVA

クソ義弟のJB役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、「スリー・ビルボード」で広告代理店の人をやっていたのを知ってびっくり。全然印象違う!

ということで彼にしても良いんですが、やっぱりこちらの方にします。

ドーナル・グリーソン(モンティ・“シェイファー”役)

バリーをこの物語に引きずり込んだ張本人、CIAの人。

CIA的にはちょっと線が細いイメージな気もしないでもなかったんですが、ご贔屓ということもあり。

全体的に優男感漂ってるしもうちょっと小狡い感じの人でも良いような気はしつつ、でもどこか心がこもってないような、友人のようでいて利用しているだけの冷たさが垣間見える雰囲気、なかなかだったのではないかなと。

ちなみにトムクルさんはいつもの通りでしたが、やっぱり本人が飛行機操縦してたりとかいろいろと頑張っていたようです。

演技的にはいつも通りでもこの手の小悪党を彼がやるのも結構珍しいし、なんだかんだやっぱりスターだから観ていて飽きない華があって良かったですね。バリー・シールご本人とは似ても似つかないとは言えね。

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