映画レビュー0536 『アメリカン・スナイパー』

これも劇場で観たかった映画の一つ。まあ説明不要でしょう、クリント・イーストウッドの映画です。

アメリカン・スナイパー

American Sniper
監督
脚本
原作
『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』
クリス・カイル
出演
マックス・チャールズ
ルーク・グライムス
ジェイク・マクドーマン
公開
2014年12月25日 アメリカ
上映時間
132分
製作国
アメリカ
視聴環境
TSUTAYAレンタル(ブルーレイ・TV)

アメリカン・スナイパー

カウボーイを目指していたクリス・カイルは、911のテロ事件をきっかけに軍へ入隊。厳しい訓練を経て、海軍の特殊部隊・シールズに入隊する。イラク戦争に派遣された彼はスナイパーとしての素質が開花し、味方からは「伝説」、敵からは「悪魔」と恐れられる兵士となった。しかし彼は戦場から帰るたびに普通の生活に馴染めくなっていき、家族との溝も深まっていく…。

さすがの構成も、やや気になる点あり。

8.0

主人公のクリス・カイルは実在する人物で、彼の書いた著作を原作にした映画になります。

どうもクリント・イーストウッドは映画化にあたりご本人に直接話を聞いていたらしいので、この結末は制作中に事態が進行したためにこうなった、ということになり、クリント・イーストウッドにとっても予想外の結末だったでしょう。なんとも複雑な気持ちにさせられます。(彼の“結末”は、日本でもニュースになったので知っている方も多いと思いますが、一応この映画のラストにあたるため伏せておきます)

この映画もまた、実話系の映画のご多分に漏れず、いろいろと脚色がなされているようです。

例えば映画では911が入隊のきっかけになっていますが、実際はその前に入っていたとか、2km近い狙撃を実行したことはあったが標的が違った、とか。ただまあクリント・イーストウッドが作る映画らしく、そんなにひどく大げさな脚色というのはなさそうな雰囲気。あくまで飾りすぎず、ただある事実を提示して、その解釈は観客に委ねる、という形の映画と言っていいでしょう。

クリント・イーストウッドは政治的な発言でいろいろと話題になったりする人ですが、映画に関してはその“匂い”をまったく感じさせず、とにかく中立、事実の提示にこだわろうとする姿勢を感じます。

この映画に関しても見方は真っ二つにわかれているようで、やはりその辺はかなり気を使って描いたんじゃないかなと思います。日本公開時に「なんだよアメリカマンセー映画かよ」と結構批判があったと聞き、クリント・イーストウッドがそんな映画を作るとは思えないので、僕としては「そういうおバカさんはこういう映画を観ないで欲しいよな~」と思っていたんですが、実際にこの映画を観てみると、確かにそっちの方に受け取る人が出てもおかしくはないかもな、という気はしました。

戦闘シーンは緊張感たっぷりで、また当然ながら兵士たちはかっこよく描かれているし、敵に関しては同情を誘う描写が皆無なので、一部を切り取れば「アメリカ大正義」に見えなくもないです。よっ、さすが世界の保安官っ! と皮肉の一つも言ってやりたくなるぐらい。

ただ、僕はこの描写の仕方というのは、主人公のクリスが「何度となく戦場に戻ってしまう、自分が輝ける場所」としての描写に感じました。彼は都合4回、イラクに派遣されているわけですが、帰るたびに日常(であるはずの家族との時間)に適応できず、奥さんが言う通り「心ここにあらず」な状態になっています。

退役して家族と穏やかな生活を過ごせるチャンスがあるのに、また戦場に戻ってしまう。その彼が戦場を求める心理を、戦場の描き方で見せているのではないかな、と。あまりにもひどい環境であれば、戻ることに違和感を感じると思うんですが、彼は戦場では「伝説」であり「英雄」なので、平凡な幸せよりも戦場に身をやつしてしまう…その部分に説得力を持たせたのではないかと思います。

さて、そんな「アメリカマンセー」にも見える、戦場で母国のために文字通り命をかけて戦う兵士たちが、無事に帰国できたところで起きる問題がPTSDです。

これがこの映画のもう一つの柱になります。というか本当はこれがテーマなんだと思いますが、そう見せすぎると保守層からの強烈な反発が予想できるし、こっちもまた、強調し過ぎないようにあえて作っているんでしょう。

結果的に主人公のクリスはだいぶ回復していくので、「むしろPTSDはサブじゃないの」と捉えがちなのもわかる気もしますが、しかしラストの事態を引き起こしたのもPTSDであり、その他の登場人物も、一様に戦争によって精神を蝕まれた描写があります。

戦争というものがどういった結果をもたらすのか、国単位で見ればアメリカにとって良い結果だなんだ、というのはあったとしても、現場で戦う兵士たちはほぼ確実に人として何かを失ってしまう、という恐ろしい現実を伝えたかったのではないかなと思います。

ですがその割にはやはり中立でいようとする姿勢が目立つので、僕としてはもう少し、方向性を明確にして欲しかったようにも思います。もちろん、方向性ははっきりしているんですが、少しそっちの「見たくないものを見ない」層に遠慮している感じが強く、もうちょっと主張が見られても良かったのではないかな、と思いました。

同じような映画として「キャプテン・フィリップス」を思い出しましたが、あっちの方が中立的な要素がありつつも絶妙にアメリカ批判を混ぜ込んでいて、それに比べるとこっちはちょっと遠慮しちゃってるかな、と。

この辺りはいろいろと難しい問題なんだとは思います。観客はどうしても自分が好む方に引き寄せて観たがる面があるので、早い話が僕としては「もっと戦争の悲惨さを訴えて欲しかった」という不満が出るわけです。

ただ、なにせ当事者であるクリス・カイルの著作を元にしている映画なだけに、あまりにもそっちに寄せすぎるのが難しいのもわかります。そこでバランスを取って…となるとこうなるんでしょうが、そのせいでやや中途半端な立ち位置を感じてしまったのが残念です。

とは言え、戦争映画としては見事な作りだと思うし、一人の兵士に焦点を当てたドラマ映画としても良く出来ていると思います。

“どっち”の解釈をするにしても、一度観て考えるのも良いことではないでしょうか。

このシーンがイイ!

犬が出てくるシーンが二度あるんですが、そのリンクさせるうまさはさすが。特に二度目のシーンはハッとさせられます。

ココが○

やはりクリント・イーストウッド、過激な見せ場を用意しなくても惹きつける手腕はお見事です。今回もまったく飽きずに集中させられました。いやホントすごいと思うこの展開力。

ココが×

上に書いた通り、もう少し悲惨さを…とは思いますが、ただやっぱり、ラストを考えるとこれで十分なのかもしれないと思うし、特にこれといって欠点のある映画ではないと思います。

MVA

ハングオーバー!」でブレイクしたブラッドリー・クーパーも、もはやすっかり大スターですね。演技も良かったですが、もうちょっと感情が見える方が好きかな。この辺はモデルのクリス・カイルその人にもよるのでなんとも言えませんが。

で、今回のチョイスはこちらの方に。

シエナ・ミラー(タヤ・カイル役)

奥さん。

とても美人で賢そうで、感情の動きも素晴らしかったです。文句なし。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です