映画レビュー0672 『メッセージ』
ビジュアル公開の時点で「面白そうだぞ!」と思っていたので、公開直後の週末となる昨日、早速観てまいりました。
例の宇宙船がばかうけにそっくりだと話題になり、監督も「ばかうけを参考にした」とカミングアウトした曰く付きの作品です。※もちろんネタ的に
メッセージ
知的SFの傑作! だけど気になるところも…。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるSFサスペンスドラマ。
前作「ボーダーライン」がとてつもなく面白かったので大変期待しておりました。どうでもいいですがフランス料理にありそうな名前ですね。監督。鴨肉のドゥニ・ヴィルヌーヴ煮みたいな。
主演はエイミー・アダムス、共演にジェレミー・レナーとフォレスト・ウィテカーその他。「24」のチェン・ズィーでおなじみのツィ・マーも重要な役割で登場。中国のお偉いさんと言えばこの人的な印象があります。
突如として地球に降り立ったばかうけ風のルックスを持つ宇宙船。その数は世界各地で12か所確認され、当然ながら世界中が大パニックになります。ちなみに日本では北海道にコンニチハ。彼らは特に攻撃するような素振りも見せず、ただそこに降り立っただけで目的がよくわかりません。
ただ、地球側も彼らと早々にコンタクトを取ることができたようで、こちらの問いかけになんらかのリアクションが見られる模様。しかしその発している言葉の意味がわからない…ということで呼び出されたのが、主人公の言語学者、エイミー・アダムス演じるルイーズと、ジェレミー・レナー演じる物理学者のイアン。
どうも気圧の関係とかで宇宙船が「入ってきていいよ」と扉を開くのは18時間に1度ということで、その都度二人は他のスタッフとともに内部に入ってコンタクトを取り、持ち帰ったその時の情報を解析してまた次のコンタクトに臨む、という日々を繰り返すことになります。細かな描写はありませんがその他の11か所でも同じような試みが行われている模様で、その情報を各国がテレビ会議に持ち寄ってエイリアンたちの真意を探るという物語になっています。
その中心人物として鍵を握るのがルイーズで、彼女は早々に「発している言葉は理解が難しいから文字でコンタクトを取ってみよう」と思いたち、これがうまく行って徐々に彼らの言語を理解し始め、双方でコミュニケーションを取り始めますが、一方で世界は過激な対策の方に傾き始め、時間がなくなっていく中、果たしてルイーズは彼らの真意を知ることができるのか…というややサスペンスタッチのSFドラマになっています。
オープニングはルイーズの出産、そしてその娘との死別のシーンから始まります。びっくり。これが都合1~2分でサクサク展開するという。その前の一番最初に流れる各企業のロゴの方が長かったんじゃねーの疑惑アリ。で、劇中ルイーズが寝ているときや疲れている時、ふっとその娘とルイーズとのやり取りがフラッシュバックのように挟まり、このシーンの意味するところは何なのか…と対峙するエイリアンとは別口で謎が膨らみ、徐々に進んでいくエイリアンとのコンタクトと相乗効果でグイグイ物語に惹き込んでくれるうまい観せ方。
少しずつ彼ら(エイリアン)と筆談のような形でコミュニケーションが取れるようになり、どうやら彼らは敵対するような悪い存在では無さそうだぞ…と思っても、不安からか攻撃的になっていく世界。この辺がリアルですね。すごくありそう。なんならこの劇中の世界はまだ冷静だった気がする。今現実にこういう事件があったら、いの一番に攻撃をしかけそうなのがアメリカの大統領にいる、っていうのがなんとも…ですが。
あんまり書いちゃうと興を削ぐので内容についてはこの辺にして、まず映画として、見せ方としては…ほぼ文句なかったですね。もう途中の知的好奇心をそそる謎の導き方、じわじわ迫るタイムリミットへの不安、そしてそれらを絶妙な“暗さ”で煽る演出力、どこをとっても一級品だったと思います。
そう、「暗さ」が良いんですよ。いかにも良くないことが起こりそうで。
フラッシュバックするルイーズの過去も、最終的には若くして娘が死んでしまうところまで最初に見せているので、娘とのシーンそのものにどことなく悲哀が感じられるのも不安にさせてくれて良い。
もうよからぬ展開しか想像できない、その不安感の植え付け方が素晴らしくてですね。たまんねーなと思いながら観ていました。リアルSFサスペンスの傑作と言っていいでしょう。
序盤に示唆される通り、“時間”の概念も重大な意味を持つSFなだけに、少し「インターステラー」っぽさも感じられるハードな知的SF感が最高でした。こういう骨太SFが好きな人はハマるんじゃないかなぁ。
序盤の「コンタクトを取るまで」が結構じっくり間を取って展開することもあって、途中までは「面白いけど二度三度観たいぞ、って感じの話じゃなさそうだな」と思って観ていましたが、最終的にはいろいろ「この疑問は解決したけど別の疑問が残る」ようなお話になっていたので、こりゃーまた観ないとダメだなと思ったり。
とにかくじわじわと答えに迫っていく緊張感と、一気に明らかにされていくルイーズの母娘の話の展開力がたまらなく、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はやっぱりすげーな、と改めて感じました。根っこの部分で物語を見せる力がスゴイ。こりゃーブレードランナーの続編もやっぱり期待できそうですね。
…と、かなり満足してはいたんですが、ただ。
最終的にいろいろと「結局それならアレなんじゃないか?」みたいな腑に落ちない感じもいくつかあり、最後の最後でもう少しビタッと説得力を持たせる展開が欲しかったのも確か。ラスト20分ぐらいまでは「これ満点あるな…!」と思っていたんですが、最後はやや失速という印象です。この辺は当然ながらネタバレになっちゃうので書けないんですが。
そんなわけで、後々振り返ってみるといろいろ気になる部分は出てくるので、人によっては「はー? そういう話かよ」で全然つまらなかった、って感じでもおかしくない気もします。ただ、見せ方と展開力のうまさで大変楽しませてもらえたので、僕は満足致しました。
他の人のレビューを読むのが楽しみな類の映画だと思います。「謎を見せて惹きつける」という部分では相当にレベルの高いSFではないでしょうか。頭ぐるぐる回しながら観る感じなので、万人にオススメできるような映画ではないと思いますが、頭を使うSFが好きだ、っていう方はぜひ。
ただ、頭を使うと腑に落ちない部分が出てくる、というのがまたもどかしいところではあります。
もっとも、その「腑に落ちない」のは自分の理解力のなさ故っぽい感じもあるので、やっぱり難易度が高い映画かもしれないですね。そこがまたたまらなかったんですけどね。
このシーンがイイ!
初めて「ばかうけ」が全体像を表すシーン、空撮なんですが…前線のキャンプみたいなところの映像がすごく印象的で、ミニチュア感すごいんだけどミニチュアじゃなさそうだぞ、みたいな。あれああいう風に撮れるカメラがあるのかなー。すごく印象的でした。
それとオープニングから何度か登場する、天井から徐々にカメラを下ろして全景が映る撮り方もすごく印象的でした。画作りが美しい。
ただ一番印象に残ったのは、娘の描いた絵が大写しになったシーン。ゾワッとものすごく鳥肌立った。「うおおおそういうことか!」って。
ココが○
映画として全体的にレベルが高いのは間違いないです。宇宙人来訪、っていうもう散々描かれたテーマながら、ここまで重厚に新しい物語を作ったのはスゴイ。重厚とは言え嫌な気分にさせられるような感じはまったくなく、気持ちよく不安感を育ててくれる作りがとても良かったです。
その重厚さと不安感をうまく色付ける劇伴もとても良かったですね。映画の内容的に考えても、音楽担当がヨハン・ヨハンソンっていうのもポイント高い。気がする。
名前がね。アレなので。
ココが×
「言語」を最も重要なポジションに置いた映画ながら、かなり重要な場面で軽く扱っている部分があり、そこが結構気になりました。そこ軽く済ませちゃうんだ、っていう。それが2か所。
あとは…ネタバレになるので詳しくは書けませんが、やっぱり最終的に「こういう話だったんだよね?」と結論付けると結局小さい話にまとまっていっちゃうような部分があり、そこがどうしても気になる。
MVA
もう珍しいぐらいに明確に主役が引っ張る映画だったと思います。なので完全にこの人の映画。
エイミー・アダムス(ルイーズ・バンクス博士役)
「ボーダーライン」のエミリー・ブラントもそうでしたが、やっぱりこの監督は女性をかっこよく描くのがうまいのかもしれない。エイミー・アダムスはこういう知的な役が似合うようになってきましたねー。すごく良かったです。文句なし。
それと余談ですが、なんとなく今回フォレスト・ウィテカーが「いつものいい人」からちょっと違うポジションにようやく違和感なくハマった気がして、そこもまた良かったと思います。