映画レビュー1309 『ハナ 〜奇跡の46日間〜』
JAIHOの卓球シーン写真を見た瞬間に「うわこの子かわいい」と思ったんですが、その「うわ」ぐらいで「これペ・ドゥナじゃね!?」の思考がかぶさってきて実際ペ・ドゥナだったために観ることが確定しました。
ハナ 〜奇跡の46日間〜

超王道、ドベタだけどそこがいい。
- 韓国と北朝鮮の卓球代表が政治決断によって「統一チーム」として世界選手権に
- 双方のエースはバチバチのライバル関係
- あらゆるものが違う両チームに戸惑いと憤りが広がるも、やがてひとつに
- 超王道ながらスポーツらしい良さに溢れる良作
あらすじ
最初にお断りされる通り、いわゆる「実話インスパイア系」の一つですね。二郎インスパイア的なアレです。
おそらく普通のドラマだったら「どうせこうなるんでしょ」と先が読めすぎて冷めちゃう系だと思いますが、実話が元になっているのと題材がスポーツであるという点から否が応でもグッと来ちゃう良い映画でした。
韓国女子卓球のエース選手、ヒョン・ジョンファ(ハ・ジウォン)と北朝鮮女子卓球のエース選手、リ・プニ(ペ・ドゥナ)はライバル同士で、1990年のアジア競技大会の準決勝で激突。
絶対王者の中国選手との決勝へ向けて力を温存しようと考えたリ・プニに対しヒョン・ジョンファが勝利を収めますが、しかし決勝ではやはり中国選手に負けてしまい、その厚い壁に金メダルは阻まれてしまうのでした。
翌年行われる世界選手権でリベンジを誓うヒョン・ジョンファでしたが、突如「上からのお達し」によって世界選手権は「南北統一チーム」として北朝鮮チームと一緒に戦うこととなり、選手たちは猛反対。
しかし政治決定には抗えず、渋々合流して一緒に練習に臨みます。
片や自由で和気あいあいとした韓国チームに対し、さながら軍隊のような規律で参加する北朝鮮チーム。
当然反りも合わずにいざこざ続きですが、徐々に打ち解けていきます。
かくして「統一チーム」が挑む世界選手権、どうなるんでしょうか。
原題の意味するところがすべて
この映画、韓国語の原題は「コリア」です。
「コリア」というと韓国の英語名のように思っちゃうんですが、実際は「朝鮮」の英語名らしく、つまりは英語だと韓国も北朝鮮も「コリア」で(一応)合っているわけです。映画なんかでもよく「North Koria」と「South Korea」表記を見るので、大体日本語で言う「朝鮮」=「コリア」という認識で良さそう。
それでなぜ原題が「コリア」なのかと言うと、韓国では北朝鮮のことを「プッカン」、北朝鮮では韓国のことを「ナムチョソン」と呼ぶため、双方における「一つの朝鮮」を意味する言葉としての「コリア」ということらしいんですね。私たちは一つなんだ、と。
観ていてこのタイトルの意味するところがしみじみ感じられてもうこれだけですべてを表しているとも思いますが、一方でじゃあ邦題の「ハナ」ってなんやねんハナ肇のことかいな(OG)と思って調べたところ、「ハナ」は韓国語で「一つ」という意味だそうです。つまり英題の「As One」と同じようなニュアンスだよ、と。なるほど。
※OG…おっさんギャグ
映画は実際にあった、1991年の世界卓球選手権における南北統一チームの成り立ちと結末をベースに、創作で肉付けした“火の玉ストレート”な王道物語なんですが、もう本当に予想通りにベッタベタな展開を見せるものの素晴らしく良くて、特に人物描写、脇役含めた“チーム”の描き方がさすが韓国映画だなと思います。非常に完成度が高いです。
ましてや「未だ果たせぬ南北統一」を下地にした物語なだけに、眼前で巻き起こるエピソード以上に観客(おれ等)が事前に知識として持っている背景から語られる(想像される)部分がものすごく多いことは明らかで、それ故にこの映画自体から受け取る以上の情報量で感情を揺さぶられる面がありました。
当時は今から30年以上前になりますが、この頃は今と比べればまだ南北関係も良かったように思えるし、その上なんと世界選手権の舞台は日本(千葉)というのも因縁めいた何かを感じてしまいます。
日本としてもこの後、2002年の日韓ワールドカップまでが日韓関係のピークと言われているだけに、今やだいぶ(最近少し改善の兆候も見られますが)冷え切ってしまった近隣諸国との関係性を考えると隔世の感もあるし、単純に「ここから良くなっていない」現実に複雑な思いを抱くわけです。
なので当事者ではない(ある意味では当事者でもあるんですが)日本人が観ても、良くも悪くもいろいろ考えてしまう映画ではあります。
さらにこの映画では触れられていませんが、この南北統一チーム結成に尽力したのがなんと荻村伊智朗という日本人だったらしいんですよね。
テーマとして近い「トンマッコルへようこそ」と比べると、その辺りの心情的な“近さ”の部分でこの映画はより心に響くものがあり、題材(卓球)自体の身近さも含めてあの映画よりも間口の広い「南北もの」映画とも言えるでしょう。
おまけに(本当におまけに)舞台が千葉なため、ライバル関係にある埼玉県民である僕としても「もう一つのライバル問題」を意識せざるを得ず、余計にザワザワしたという噂です。嘘です。
まーもう本当に物語自体はベタなので特に説明することもないんですが、これだけベタでも泣いちゃう良さがあるのは、やっぱり最初に書いた通り実話ベースであるということと、もう一つは「スポーツ」だから、のような気がしますね。
これが普通の南北交流ドラマみたいな感じだったら全然印象は違うと思うんですが、スポーツとして国を背負って戦う、これほどまでにこのテーマに適した舞台って無いと思うんですよ。やっぱり。
そこに「実際に統一チームで臨んだ」「結果も事実に基づいている」というのが乗っかってくるとそりゃあグッと来ちゃうのが人間でしょう、と。
むしろベタとは言え感動できた自分にある意味ホッとしましたよ。よく言ってますけども。こういう話に「ベタだなぁ」で冷めちゃう側にいなくて本当に良かった。
ましてや政治的にも複雑な感情を抱きがちな両国がテーマなだけに、日本では“(精神的に)面白くない”人も多そうですが、そういうつまらない感情は捨てて純粋にこの事実に感動できる人であって欲しいと切に願います。多少誇張が目立つような気はしましたけど、ね。
またこれはまったく個人的な感想(全部そうだけど)になりますが、偶然前日に「グッバイ、レーニン!」を観ていただけに、昨日は「統一が達成された国」の話で、今日は「未だ統一がなされていない国の、かつてあった光」の話、というのがなんとも考えさせられましたね…。
「グッバイ、レーニン!」は統一したからこそ後から振り返って皮肉な“創作”ができたわけですが、こっちはまだ今もあくまで“休戦中”の状態は変わっていないために、逆に創作として「統一した話」を作るのもしらけちゃう部分があるだろうし、また作ったところでファンタジーになってしまうという難しさ。
もちろん同じようなことをやろうと思えばやれると思いますが、どうしてもニュアンスは変わってきてしまうだけに、今はまだ(と言いつつ公開から10年経っているのもまた悲しい)この映画のような「実話ベースの王道もの」で機運を高める方向に持っていく方がより観客に響くし物語の強さも保てるんだろうな、と思うんですよ。
逆に統一してから何十年と経ったあとにこの映画が作られても「ふーん、こんなことあったんだ」…まで冷めるかどうかはわかりませんが、どうしても今観るよりも感動は薄くなるはずです。
つまり「現実が映画で描かれる時代よりも悪化している」からこそ良く見える、という皮肉な映画なんですよね…。
それも考えるとまた…ただ感動して「良かった!」と言ってはいられない、世の中について考えざるを得ない部分があって、すごく良いんだけどすごく複雑な思いを抱いてしまう映画だなと思います。
NGシーンも必見
他にもいろいろ書きたいことはあるんですが、だいぶ長くなったのでこの辺で。
簡単に言えば「王道でベタだけど良い」上に「ペ・ドゥナが出てる」ので疑いようのない傑作です。確定です。
なおペ・ドゥナはどちらかと言うと二番手で、主演はあくまで韓国エースのハ・ジウォンなんですが、彼女は彼女で時代に合った90年代アイドル的な髪型が似合っていてよかったです。(小並感)
ただ二人とも最後の試合での演技が壮絶で、どっちもすげーなと思いながら手に汗握って観ましたよ。本当に名演でした。
ちょっと調べてもわからなかったんですが、卓球そのものについてはやっぱりご本人たちが相当練習して実際にやったんですかね。
真偽は不明ですがペ・ドゥナは小学校時代に卓球経験者だったものの、演じるのが左利きの選手だったために結局左で猛練習したとか。
どちらにせよだいぶ寄りの速いカットをつないで上手く見せていることもあって、本当に上手そうに見える試合のシーンもなかなかの迫力でした。
ちなみに一時期ネットでバズったらしい(僕は観たことがありませんでした)NGシーンがあるんですが、それが二人とも最高にかわいかったことも書いておきたいと思います。
本編では本当に殺意を感じるぐらいの真剣な演技で戦う二人を観ただけに、このギャップ溢れるNGシーンの破壊力によって僕は一度死んだと言っても過言ではありません。二人ともかわいすぎる。特に崩れ落ちるペ・ドゥナが(やっぱり)かわいい。
この二人は同い年らしいんですが、当時30代前半ながら青春っぽい爽やかさがほとばしっているのもすごいところです。
余談ですが僕は十年ぐらい前までは「誰でもいいから結婚相手を一人選べ」と言われたらテレ東の大江アナと答えていたんですが、残念ながら大江ちゃんは「金融会社の社長」というわかりやすい勝ち組の方と結婚してしまわれたので、今聞かれたら2023年現在まだ未婚で、かつ自分と歳も近いペ・ドゥナと答えるようにしています。
ただ「今度からペ・ドゥナと答えよう」と決めて以降一度もこの質問を受けたことがなく、自分に対する周りの興味の無さが年々身に沁みてくることも書き添えてこのレビューを終えたいと思います。この映画のエンディングばりに泣けますね。
このシーンがイイ!
ラストシーン、蛇足じゃないかな〜と思いつつ観ていたんですがあそこまで描いていたのが本当に良かったですね。ものすごくスポーツっぽいし、オープニングとの対比にもなっていて。最高のエンディングでした。
ココが○
物語としての良さ、スポーツとしての良さ、そして今現在との比較から来る良さ、いろいろありました。
くどいようですが物語自体は本当に王道でベタなんですが、この映画の良さは上記の通り「物語以外の部分」から来る情報による面も大きいので、それも込みでこの作りが正解なんだろうなと思います。
北朝鮮の体制の問題についてもそれなりに可視化されてもいるし、意外と(?)日本から見た北朝鮮像と韓国から見た北朝鮮像に違いがないんだな、と気付いたり。
それと脇役陣の使い方が非常に上手い。
主演二人の物語に終始しないところに「チームとしての成長」が見て取れるし、そこに技術の高さも感じます。
ココが×
中国選手が(これまた)ベッタベタなヴィラン、って感じだったんですがさすがに現実であそこまでわかりやすく悪い人間ではないだろうと思ってそこが少々気になりました。いや実際嫌なやつなのかもしれないしわからないけども。
もう一点、終盤はやや「泣かせに行ってる」感じがして、ストレートな物語なんだからそこまで煽らなくてもいいんじゃないかな〜というのも気になった点。
それと“病気”の描写についてはちょっと中途半端だった気がします。もうちょっと深堀りするか、もしくは必要なかったかもしれない。これも事実そうだったのであれば入れないわけにもいかないんだろうけど…。
あとどうでもいいポイントとしては、ちょっとだけ出てくる日本人選手のモブ感がすごい。当時は弱小扱いだったんだな〜と妙な感慨もあったけど。
もう一つ、これは史実通りだから仕方ないにせよ、男子チームどこ行ったの…?
MVA
ペ・ドゥナの良さは言うまでも無いんですが、クール系のキャラだったのでもうちょっとかわいいところが見たかったなという単なるファンの感想。(ただそのおかげでNGシーンがより際立つんだけど)
主役のハ・ジウォンもすごく良かったんですが、でも観ていて一番キーキャラかつ演技も素晴らしいと感じたのはこの方でした。
ハン・イェリ(ユ・スンボク役)
北朝鮮の女子選手。ペ・ドゥナ演じるリ・プニと同室で、ダブルスの相方。
この人の存在があらゆる面でこの映画のポイントになっている気がしました。そしてそれを見事に受け止める演技力。ものすごく上手かったし、キャラクターも良かった。
真面目で少し気が弱いこういう人、きっと北朝鮮にいっぱいいるんだろうな…と思うと妙に切なくもなって。
それと韓国チームの監督で統一チームのコーチを演じたパク・チョルミンもすごく良かったですね。コメディリリーフでもあって。最後まで彼とどっちにしようか悩んだぐらい好きでした。
あと謎の霧島Tシャツを着るオ・ジョンセ、どっかで見たことある…と思ったら「スウィング・キッズ」でした。めちゃくちゃいい役だったあの映画とも全然違って、彼もまた良かったですね。