映画レビュー1375 『アシュラ』

レビューは仕事中に書くと決めてるんですが、年初から忙しすぎてまったく手付かずのままだったので、渋々最近家で書き始めました。なのでちょっと鑑賞から時間が経って振り返るものが続きます。ソーリー。

アシュラ

Asura
監督

キム・ソンス

脚本

キム・ソンス

出演
音楽
公開

2016年9月28日 韓国

上映時間

133分

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

アシュラ

ストロングスタイル市長、怖すぎる。

8.0
市長の裏仕事の始末を引き受けていた汚職刑事に検事が接触
  • 市長のため裏仕事に手を染める脛に傷持ち刑事が市長の部下になるため警察退職
  • 市長の不正を暴きたい検事は彼に目をつけ、取引を持ちかける
  • 結果市長と検事の板挟みとなった主人公は後戻りできない道へ…
  • 悪すぎファン・ジョンミン

あらすじ

そこまで数観たわけでもないので参考にならない意見ですが、僕が観た中では最も悪いファン・ジョンミンでした。そこが良かったけど。

刑事のドギョン(チョン・ウソン)はアンナム市の市長ソンベ(ファン・ジョンミン)の不正行為の後始末を引き受ける汚職刑事なんですが、あるときその最中にやってきた先輩刑事と揉み合いになり、不慮の事故によってパイセンは死亡。

しかし刑事なので適当に罪を隠し、その後も市長のために働き続けた結果、いよいよ市長の部下として働くようお声がかかり、警察を退職することに。

一方市長の不正を暴きたい検事のキム・チャイン(クァク・ドウォン)は、市長の手下とみなしているドギョンと接触し、例の“事件”を匂わせつつ情報を取ってくるように(半ば脅しのような形で)取引を持ちかけます。

逃げ場のないドギョンは表向きは市長の忠実なしもべとして、裏ではその情報を検事に横流ししつつ自らの価値を示そうとしますが、しかし市長の信頼はかつてのドギョンの弟分であるソンモ(チュ・ジフン)に向かい、次第に立場が悪くなってくるドギョン。

検察との熾烈な争いの渦中で板挟みになるドギョン、果たしてどう立ち回るのか…乞うご期待!

自分も市長に対峙したらそうなるのか問題

今もそうなのかはわかりませんが、公開当時…つまり少なくとも8年前までは「韓国映画史上最も多い血糊を使った映画」だったそうです。確かにその通り非常にバイオレンスな映画でした。もう笑っちゃうぐらい。

そのバイオレンスの元凶はファン・ジョンミン演じる市長であり、そりゃあ政治家なんだから多少の裏工作はあってもおかしくないよねと思いつつ観てたらもう「多少」どころじゃない。むしろ全面的に真っ黒。黒くないときがない。素晴らしいですね。

逆にここまで真っ黒なら市長より国会議員の大物の方が似合いそうな役だなと思うんですが、その辺はちょっとセンシティブな事情があったりするんでしょうか。わかりませんが。

おまけになにせファン・ジョンミンが演じているぐらいなのでまだまだバリバリの若手政治家なだけに血の気も多く、部下にやらせるのはもちろん自分自身で銃を持ってガンガン(銃だけに)バトるというファイナルファイトのハガー以来のストロングスタイル市長でした。怖すぎるこんな市長。

どう考えたってここまで真っ黒な市長は悪行が漏れ聞こえてきて終わりそうなものですが、その管理が完璧なのか、はたまた後始末を担当する汚職刑事の主人公が優秀なのか、それなりに支持率も高い模様。それにしたって(物語開始以降ではありますが)近辺での不審死が多すぎるよ市長…。

まあそんな市長なので当然検察側は目をつけていて、序盤ですでに対決していたものの嫌疑不十分で検察側が敗れる展開があり、それで逆に火がついたのかいよいよ対決姿勢を鮮明にしていくぞ、と。

韓国の検察は日本の検察とは違って政治家にも容赦がないので、あの手この手でファン・ジョンミンに迫っていくんですが、その有効な“手駒”にされるのが主人公。なにせ事故とは言え先輩刑事を殺してしまった件を隠蔽している傷持ちなだけに検察からの脅しにも抗いようがなく、なんとか息を吸おうと溺れる人のように悪の海でもがき続ける主人公の姿が痛々しい。なんか良い例えっぽいこと言ったね。

非常に鋭い市長は徐々に彼を怪しみ始め、代わりに彼の弟分で単純かつ忠実なソンモを重用していくわけですが、それによってさらに主人公は追い込まれていってしまう…と。やっぱり韓国映画らしくなかなか良くできている話だと思います。ちょっとやりすぎだけどね☆

ただ「韓国映画史上最高量の血糊を使用」ってなんかむしろ美味しそうなコピーに影響されてバイオレンス面にばかり目が行きがちではあるんですが、僕がこの映画で一番印象深かったのは「死を間近にした人間の本性」の部分でしたね。もちろんネタバレになるので詳細は書けないんですが。

誰とは言いませんがその姿がひどく印象的で、そこにやっぱり「自分だったらこうなるんだろうか」と自らを重ね合わせて考えざるを得ない部分があって、そこで一気に(終盤なんですが)物語の色が変わったように感じました。急に身近な感覚に引き寄せられるような。

どう考えても極限状態なので責められないと思いつつ、でもやっぱり人としてそれはどうなんだみたいな思いも抱かざるを得ないし、その辺りの美学とか価値観を揺さぶってくる作りはさすがだなと唸りましたね。なんならコメディじゃないか、ってぐらい現実ではありえないような強烈なラストの現場(血糊大量使用)なんですが。

タイミング的にどうしても今の日本と比べてしまう

まーしかしファン・ジョンミンはさすがにスターだなと改めて思いました。こんな強烈な悪役でも惹きつけるものがあって。すごいですね。

その他の面々もおなじみの人たちが出てきたりさすがに良いキャスティングで、そこまでハマったわけではないんですが安心感のある出来の良さ。

なにせ今の日本は「誰がまた検察庁にペンキをかけるか」が期待されているぐらいヘッポコ検察が注目の的というタイミングなだけに、この「政治家 vs 検察」の戦いはいろいろ考えてしまうものがあります。

とは言え民主主義の原則からすれば選挙を経ていない検察が、選挙を経て選ばれた政治家よりも強ければいいのかと言うとそうとも言えないだけに、これまたいろいろ難しいところ。

そんな社会についてもいろいろと考えてしまうのがまた面白いところなんでしょう。

ネタバュレ

どうですかこの強引なタイトル。

一点だけ、ちょっとぼかした「死を間近にした人間の本性」の件ですが、これは観た人であれば薄々おわかりの通り、クァク・ドウォン演じる検事のこと。

あれだけ正義を掲げていたにも関わらず、殺される可能性が高いことを悟ると部下までも言われるがまま手に掛けようとする姿は愕然としました…が、人間「死にたくない」と願うとこうなるのも当然なのかもしれない…といろいろ考えてしまうすごいシーンでしたね。

部下を殺せと命じる市長の極悪っぷりも相当ですが、そこでやっぱり翻意するのかと思いきや実行しようとしてしまう彼の姿は情けないしめちゃくちゃカッコ悪いんだけどそれが人間なのかも、と思うとなんともやるせない。

その後治療を懇願する姿も含めて失望感がすごかったんですが、その情けない人間を説得力ある形で描くだけでこの映画は大したものだなとも思いました。クァク・ドウォンの演技もお見事。

このシーンがイイ!

ファン・ジョンミンがワイシャツのみでパンツすら履いてないシーンがなんだかすごい印象的でした。部下に履かせたりして。あそこで市長の性格が見えてくるのも面白い。

ココが○

終盤の大量血糊シーンに込められた、バイオレンス外の人間の性質の部分。めちゃくちゃ考えちゃう。

もちろんこんな極限状態なんてそうそう陥ることもないし陥りたくもないのでおそらく一生無縁だろうとは思いますが、それでもやっぱり考えちゃう。

ココが×

血糊の話を例に出すまでもなく相当にバイオレンスなので、そっち方面が苦手な人は絶対に避けたほうがいいでしょう。

僕はグロいのは弱いですがバイオレンスは別に大して気にならないので問題なく観られましたが、これがより痛そうな拷問とかが多かったりするとやっぱり嫌だったと思います。バイオレンスだけど割とさっぱりしていたというか、そこを押し出しすぎない作りだったのが良かったのかも。

MVA

主演の汚職刑事を演じたチョン・ウソンは「私の頭の中の消しゴム」以来でしたが、あの頃より渋くてかっこいい感じが良かったですね。西島秀俊感すごかったけど。

クァク・ドウォンもすごく良かったんですが、やっぱりこの映画はこの人でしょうね…。

ファン・ジョンミン(パク・ソンベ役)

ストロングスタイル市長。権勢の維持及び拡大のためには何でもする、絵に描いたような悪役。

ただ当然市長なので市民にはいい顔を見せるわけで、その胡散臭い泣きの演技とかも含めてさすがすぎましたね。「演技している泣きの演技」の大根っぷりが。

あんなの見たら市民もさすがに支持しなくない!? と思うんですが、その程度のものもさして気に留めず“お任せ”してしまうのが有権者、ってことなんでしょう。お隣もうちの国も変わりません。どうせまた次も自民党が勝つんだろうしね…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です