映画レビュー1011 『ベイビー・ドライバー』
今回はいつもの通りネトフリ終了間際シリーズですが、この映画はツイッター上で評価の声をかなり多く目にしたので期待していました。エドガー・ライトだし。
ベイビー・ドライバー
2017年6月28日 アメリカ
113分
イギリス・アメリカ
Netflix(PS4・TV)

良くも悪くもマンガっぽい。
- 裏社会に似つかわしくない若き天才ドライバーの凄腕っぷりと恋
- エドガー・ライトらしいテンポの良さが光るオサレアクションムービー
- 話としてはリアリティが薄く、キャラも含めてマンガっぽい
- 洋楽通であればかなり楽しめそう
あらすじ
少々期待値が高かったこともあり、また監督の好みがドストレートに反映された若干クセのある映画(でありつつ比較的誰でも楽しめるレベルに仕立ててあるのがすごいんですが)なので、ちょっと好みとしては違うかなぁということで少し厳し目に採点しましたが、確かに熱烈に好きな人がいるのも頷けるスタイリッシュムービーでしたよ。スタイリッシュって言葉嫌いだけど。
ある日の昼下がり。iPodから流れる音楽をノリノリで聞いている青年(アンセル・エルゴート)の車に銀行強盗を終えたいかつい3人の男女が乗車。それを合図に衝撃的なドライビングテクニックを駆使して警察から逃げおおせた青年と3人は無事ボスの元へ帰還、きっちり報酬もわけて今回のお仕事は終了です。
その青年の名前は“ベイビー”。裏社会には似つかわしくない童顔ヤングですが、この仕事は何度もやっているようでまったく動じないメンタリティもふてぶてしいほど。
彼はチームが解散した後にボス(ケヴィン・スペイシー)から報酬の大半を取り上げられ、「借金返済まであと1回だ」と告げられることからもわかる通り、どうやらこれは“ワケアリの仕事”であるご様子。
ある日、行きつけのお店に新たに入ったウェイトレス・デボラ(リリー・ジェームズ)に惹かれた彼は、ちょっとした会話を繰り返してやがていい感じの仲に。
無事借金返済も完了し、新たな人生を歩みだそうと裏社会とも縁を切ってデボラとデートでウヒョヒョ状態のベイビーの前に再び現れるボス…! 果たして彼は「運命の人」と信じるデボラと幸せになることができるんでしょうか…!
感情移入できなかったのが残念
僕程度の能力ではまとめるのが大変な映画なんですが…話の筋としては「ワケアリでヤバい仕事をやってたけど好きな人もできたし真っ当に生きようと決意するもそうそう簡単に縁は切れずに大変」的な、まあよくある話っちゃー話なんですが、ただエドガー・ライトの映画らしく独特のテンポと極振りしたオサレ感で「話はよくあるけど印象的にはあんまり他にない」不思議な映画になってますねこれは。
またベイビーは「事故の後遺症で耳鳴りがあるものの音楽を聞いているとそれが和らぐ」という設定があり、そのため終始イヤホンをしながら音楽を聞いているんですが、それ故音楽自体が結構前面に登場する映画になっていて、おそらくは選曲自体にも何らかの意図が込められていると思われます。
僕は洋楽に詳しくないのでさっぱりわからなかったものの、この辺の曲の意味合いがわかる人であればより深くグッと楽しめる上に音楽もサイコーだぜ、みたいな唯一無二の映画になる可能性があるのではないでしょーか。
エドガー・ライト作品にしてはコメディ感は薄く、テンポの良さから軽快さは感じるものの、全体的には犯罪映画ということもあっていつもの感じからすればややシリアスめ。
展開的にも後半はなかなか予想しにくい展開で、感情移入できる人であれば結構なハラハラドキドキが待っている映画かもしれません。
ただその「感情移入」という面では…僕がおっさんだからですかね、さっぱりでした。
若くして天才的な才能を持ち、理由があるとは言え裏社会に生きるベイビーは何歳かは言明されていませんが、おそらくは二十歳そこそこ、ってところでしょう。ですがそうは思えない肝の座りっぷりと無愛想さのおかげでいかにも年上同性には好かれないだろうなというタイプなので、僕もそのまま「かわいくねーやつだな」的な印象で観ていた感じ。
女性はおそらくこの辺含めて「かわいい」んだろうし母性本能くすぐる系ってやつなんじゃね? と思うんですが、僕は「生意気そうだなぁ」ぐらいにしか思えず、また他のメンバーも基本的にDQNばっかりなのでほとんどの登場人物が「こいつ良いな!」と思えなかったのがつらい。リリー・ジェームズはかわいかったけど。大島優子みがすごかったけど。
ベイビー自身のキャラクター、ドライビングテクニック、終盤のアノ展開(ネタバレなので書きません)、最終的なアレ(同)などいろんな部分がマンガっぽいリアリティに欠けたもので、それが良さでもあるものの、ただちょっと勢い任せな印象も感じたし、どうにもイマイチ乗り切れなかったなと言う感覚でした。
面白いのは間違いないんですけどね。自分としては面白さ以上に気になる点の方が目立っちゃったかなと。ものすごい美味しいんだけど変な甘さが気になるうどんみたいな感じですかね。そんなうどんあるのかわからないけど。
うっすら中身が軽いような
改めて書きますが、この映画に7.5点つけたのであればじゃあ8.0点以上の映画はこの映画よりも優れているのか、と言われるとそんなことはまったくなく、8.0点以上の映画でこの映画よりもひどい映画もたくさんあります。
ただ評価は基本的に「観て純粋に楽しめた感覚の数値化」なので、この映画は良く出来てるし面白いんだけど、どーしても引っかかる部分がいくつか出てきちゃって8.0はつけられないかな、と思ってこの点数にしたわけです。
頭スッカラカンにしてどうでもいい話をただ観て「まあ面白かったな」で8.0もあるんですが、この映画は良く出来ているが故に細かい部分に少し違和感が出ちゃってマイナス分が多くカウントされちゃったようなイメージでしょうか。
自分でもはっきりとどこに違和感があったのか認識しづらい、すごく評価が難しい映画だったんですが、まああまり合わなかったんでしょうね。
エドガー・ライト監督の映画はどれも結構好きなんですが、ただどれも共通してうっすらと中身が軽いような気がしてます。チョココーティングされて美味しそうなんだけど手に持つと意外と軽くて中身無いんだな、みたいな。
この映画も外側のコーティングは素晴らしいし味も良いんですが、ほんのちょっと深みが足りないんですよね。本当に感覚的な問題なので説明が難しいんですが。
予想しづらい展開ではあったものの、かと言って完全に予想外の形で決着するわけでもなく、あくまで命綱をつけた状態でバンジーしてるような感じでしょうか。どうせならもっとひっくり返るような意外な展開が欲しかったなと思います。
とは言えくどいようですが他にない良く出来た映画ではあるので、一度観てみて好きかどうか判断してみるべきでしょう。
このシーンがイイ!
銃撃戦の音と曲のテンポに合わせて見せる感じは新しくてよかったですね。ちょっと悪ふざけ感も出てたけど、そこがまたエドガー・ライトの映画っぽくて。
ココが○
まーテンポも良いしオシャレだし、若い人がこの辺から洋画を観始めたらかなりグッと来るのでは。洋画の入り口としてはなかなか良いものだと思います。
ココが×
ネタバレにいくつか書きましたが、多少違和感がある部分はありました。
あとは単純な話、やっぱりリアリティの面ではどうしても劣るかなぁと。主人公のキャラ、チート感ある能力その他。
MVA
みなさんあんまり感情移入できなかったので…なかなか難しいチョイスですが、この人かなー。
ケヴィン・スペイシー(ドク役)
裏社会の大物でベイビーその他のボス。
ご承知の通りもはや引退状態の彼ですが、キャリア最後に近い出演作ということで。
やっぱりこの手の役はすごい締まるんですよね。この人がやると。演技は本当に申し分ないですよ。
ただ彼がしでかしたこととその後の対処の仕方はやはり問題があるので、引退状態もやむを得ないところでしょう。もったいないですけどね。もう少し人間が出来てたらね…。