映画レビュー0725 『ランズエンド −闇の孤島−』
今回もNetflix配信終了ものの中から1本。イギリス映画でしかも短めとなると自ずと観ちゃうわけです。。
ランズエンド −闇の孤島−
その正義が本当の正義とは限らない。
主役は兄弟で刑事の二人、兄ジョーをポール・ベタニーが、弟クリシーをスティーヴン・グレアムが演じていますが、まーまったく似ていないのでこれで兄弟ってどうなのよと無粋なことを言いつつですね、早速概要から。
タイトルの「ランズエンド」というのは走り続けた男が終わりを迎えたハードボイルド的な意味かと思いきやまったく違い、イングランド最西端の岬の名前らしいです。まあ早い話が地名ですね。
ここである日12歳の少女の痛ましい遺体が発見され、殺人事件と断定、警察が捜査を開始します。で、現地の警察に勤める兄弟刑事・ジョーとクリシーと、マーク・ストロング演じる同僚のロバートが捜査を担当。程なくして一人の前科持ちロリコン野郎を検挙するんですが、すぐに彼は証拠不十分で釈放されてしまいます。それでもこいつが犯人に違いない許せん!! といきり立つ兄弟(主に兄・ジョーの方)はある夜彼を強引に連れ出し、干潮のときだけ陸続きになる近くの孤島に拉致します。
ここは二人の父で(おそらく)警察署長だった今は認知症の父がよく尋問に使っていた場所で、結局何もないし誰もいないから違法まがいの尋問もできるという…非合法奥の手的な場所なんでしょうね。そこに容疑者のロリコン野郎を連れ込んだ二人は、彼を問い詰めついに自白を得るんですが…後は観るがいい!
概要的にはサスペンスっぽい感じではあるんですが、実際は人間ドラマと言って良いと思います。一つの殺人事件の捜査を通じ、己の正義を信じて大きな罪を犯してしまった兄弟と、今は認知症になってしまったものの過去に偉大な刑事として二人に影響を与え続ける父、そしてその3人とは一歩引いた冷静なポジションで事態を見ている同僚刑事・ロバートという4人が主な登場人物。
主役の兄弟は警察という権力を自制できずに暴走してしまうある種幼稚な人物ではあるんですが、しかしそれも「12歳の少女が惨たらしい死を迎えてしまった」が故の怒りから来るものでもあるので、言ってみれば確実に彼らが信じる正義がそこにはあったわけです。
しかし、その正義が本当に正しいかどうかはわからない、と。ありきたりのテーマかもしれませんが、重厚な絵作りの良さも相まってなかなか考えさせられる重みのある映画でしたね…。
彼らが彼らなりの正義を暴走させたが故にどういう事態が起きたのかというのは、実はこの映画のあらすじを見ればどこにでも載っているお話ではあるんですが、ただそこに至るのは割と中盤のお話だったのであえてここでは伏せておきましょう。そこから当然いろいろ動きがあってのエンディングなので、そこを伏せるとなかなか書けることも少なくなるんですが…。
観ていて思ったのは、やっぱりお父さんが認知症っていうのはなかなかいい設定だとは思うんですが、かと言ってそれがネタばらしに直結しちゃうとありきたりだよなーっていうのもあって、落とし前の付け方って言うんですかね。まあ早い話がどういう形で決着を着けるのかが結構重要だなと思って観ていました。
その辺はさすがに心得ていたのか直接的にそういう形は取らなかったものの、もう少しお父さんの使い方を弱めたほうが良かったんじゃないのかなという気はしました。やっぱりその辺は想像しやすいだけに、もうちょっと予想を外す形にして欲しいというか。割と「優秀で何もかも見抜いていそうな同僚ロバート」という良キャラ(しかもマーク・ストロング)がいるので、お父さんを使うフリしてロバートの豪腕捜査により決着、みたいな展開が観たかったなーという気も。ええ、ただマーク・ストロングが好きなだけですスミマセン。今回も激渋でした。
とは言え、ですよ。
中心人物である兄・ジョーを演じるポール・ベタニー、そして彼に流されつつ苦悩する弟・クリシーを演じるスティーヴン・グレアムともにものすごく心の葛藤が見える素晴らしい演技を見せてくれたので、短めでサクッと観られることも含めればなかなか良い映画だったような気はします。
硬派系イギリス映画らしい陰影の強い暗めの絵作りもすごく効いていたし、上映時間の割に重厚な味があったと思うし、安易なサスペンスで終わらせずに苦悩する人物を中心に据えた人間ドラマ…であると同時に兄弟の物語にしているのはうまいな〜と思います。ところどころ若干ホラーみのある演出もなかなか良かった。
まさに「マイ・ブラザー」と同じく、他人でも友達でもない微妙な距離感の“兄弟”という存在をうまく使った人間ドラマではないでしょうか。
ただ、地味ですけどね…。
このシーンがイイ!
ロバートとお父さんの会話のシーンは好きですね。過去が見える会話。
ココが○
サスペンスだけに頼らずに兄弟の内面に焦点を合わせた人間ドラマにした点は当然としても、やっぱりそれをあぶり出す役割のお父さんと同僚の存在が良いですね。なんだかんだ言ってやっぱりお父さんが一番大きいかな…。
あとは容疑者の母の使い方もすごく良かったと思います。ああいう角度から内面に食い込んでいくのはリアルですね。
ココが×
地味さ故なのか…イマイチ思ったほどググっと来なかったんですよねー。良い映画だとは思うんですが。ラストがもうちょっとビシっと締まる展開ならまた違った気もします。
MVA
本当に皆さんとても良くてですね。好みで言えば完全にマーク・ストロングなんですが、ただまあいつもの感じでもあったし…。この人かなぁ。
ポール・ベタニー(ジョー・フェアバーン役)
主人公、刑事(兄)。
ポール・ベタニーも老けたなーと思いましたが、しかしあの鋭利な表情が次第に憔悴していく様はなかなかの見どころではないかと思います。
観客は彼の味方になれないお話なんですが、その感覚をうまく導けるルックスだったし、逆にそれ故徐々に追い込まれていく彼に次第に心を寄せていける雰囲気も見えるという、幅の広さもまたお見事でした。
甲乙付けがたいレベルで弟刑事のスティーヴン・グレアムも素晴らしかったです。彼は彼で兄とは違う弱さを感じる姿、割り切れない人間性みたいなものがはっきりと見えて、ポジション的にも兄より同情を買いやすい分、その弱そうな姿が余計に染みました。
似てない兄弟だったけど、どっちも良かったよ。