映画レビュー1295 『BLUE GIANT』
あちこちから絶賛評が聞こえてきた上にちょっと個人的にこれは観なければなるまいと思ったこともあり、久しぶりに先週の土曜日に劇場に行って参りました。ただ原作は未読です。
ちなみに1日1回上映&スクリーン小さめ&ファーストデイだったこともあってか、文字通りの満席でした。以前までの主戦場では満席なんてまずなかったんですが浦和パルコはすごいな…!
BLUE GIANT
立川譲
NUMBER 8
『BLUE GIANT』
石塚真一
山田裕貴
間宮祥太朗
岡山天音
サックス:馬場智章
ピアノ:上原ひろみ
ドラム:石若駿
上原ひろみ
2023年2月17日 日本
120分
日本
劇場(小さめスクリーン)
ものすごく良いのは間違いないが気になる点も多々。
- ジャズ漫画「BLUE GIANT」の映画化
- 題材が題材なだけに音楽に気合が入った半ライブ映画
- ただアニメ映画としては不満もちらほら
- 原作未読でも楽しめるものの原作通読前提の面も
あらすじ
先に言ってしまえば結論としてはめちゃくちゃ良かったですよ。良かったんですが、ただいくつかどうしても言いたいところがあるので少し厳しい内容になるかと思われます。ですが大前提としては“最高”でした。
高校を卒業し、“世界一のサックスプレイヤー”になるべく仙台からなんのアテも無いまま上京した男、宮本大(山田裕貴)。
大学に行くために先に上京していた同級生、玉田俊二(岡山天音)の家にとりあえず転がり込んで居候の日々を送っていたところ、偶然観たジャズライブで若いながら天才的な演奏を披露するピアニスト、沢辺雪祈(間宮祥太朗)と出会い、一緒に組もうと頼み込みます。
大のサックスに衝撃を受けた雪祈は彼と組むことに決めますが、しかしもう一人重要なプレイヤーであるドラムがいません。
都内で他に知り合いもいない大は玉田を引っ張り出してドラムとして練習に付き合わせ、初心者故に雪祈からは「あくまで仮メンバー」と釘を刺されますが、玉田は猛練習と熱意によって雪祈に認めさせ、紆余曲折ありつつ3人でジャズバンド「THE JASS」を組むことに。
目指すは日本のジャズライブハウス最高峰「SO BLUE」のステージに立つこと。
果たして3人の挑戦はどうなるんでしょうか。
余談と文句が多め
言うまでもないですが、「SO BLUE」のモデルは「Blue Note TOKYO」です。
これはたまたまなんですが、実は去年のクソ暑かった6月末のある日、勤務先の爺がようやく社長退任するということでその記念にBlue Note TOKYOに連れて行かれまして、そのおかげで外観からステージまで見たまんまだなと生々しく楽しめました。爺唯一の功績と言ってもいいかもしれません。ありがとう爺。まさかここで役に立つとは。まず余談から入るスタイルです。
ということでジャズ漫画の映画化作品。原作漫画もかなりの傑作として話題だったらしいんですが、僕はまったく知りませんでした。申し訳。というか漫画もアニメも疎すぎるので自分としては特段珍しい話でもないんですが。未だに継続して読んでいるのはワンピースとゴルゴ13しかありません。
で、いくら原作が「傑作」と言われていようが当然音楽そのものは存在しないわけで、「あれが映像化したらどんな音楽になるんだ!?」と多大な期待を背負って制作されたのであろうことは疑いようもありません。相当なプレッシャーもあったのではないかと思います。きっと。
演奏シーンではプロのミュージシャンが音楽を入れて…というのは当然だと思いますが、それよりもやっぱり漫画の登場人物が「作曲した曲」がどんなものになるのか、というのがより強い興味の的になるだろうし期待も大きいでしょうよ、と。
そんな音楽(と演奏)を担当したのがご存知上原ひろみです。
今や超メジャーアーティストなので「ご存知」と言って差し支えないと思いますが、しかしここでまたもや大きな余談が始まるわけですよ。
僕は元々音楽と言えば10代の頃から「ジャズかフュージョン」しかほぼ聞かずに生きてきました。9割フュージョンですけども。(なのでジャズは好きだけど詳しくはない)
だからなのか…実はそこそこ早い時期から上原ひろみファンなんですよね。自慢ですけど。先に目をつけておいたぜ的な一番どうでもいい自慢ですけど。「あー推しがメジャーになっちゃうの寂しいなー」みたいな。ケチくさい感情が支配しております。
僕が彼女を知ったのは2ndアルバム「Brain」の頃なので、もう約20年前ですよ。どうだ!?(どうだと言われても)
上原ひろみについては僕の中で今でも忘れられない“事件”がありまして、彼女の3rdアルバム「Spiral」を買いに行こうと池袋の今はなきHMV(多分2023年現在はブックオフになってるっぽい)のジャズコーナーに行ったものの探しても見当たらず、やむなく店員さんに「上原ひろみのアルバムどこにありますか?」って聞いたらですね、「…ウエハ…ラ…ヒロ…ミ…?」みたいな顔されたんですよ! 明らかに「は?」って顔を!!「知らない人ですね、そんなミュージシャンいます? ニワカですかおまえ??」みたいな!!(悪意ある解釈)
あの店員、今はしたり顔で「上原ひろみすごいよね」とか言ってそうでムカつくよな!!(年月を経て勝手に沸騰する男)
まあそんなことがあるぐらい…世間的に認知度が低い頃から好きなんですよ。どうだ。
その彼女が音楽を担当し、演奏もやると聞いたので「これは観に行かなければ」と思ったよ、という伏線回収です。原作全然知らなかったけど音楽のために行かなきゃ行けない案件だぞと。
主役がサックスなので、バンドでの演奏については彼女の“本業”ほど前には出てきませんが、劇中のちょっとしたシーンでかかるピアノ曲なんて聞こえてきた瞬間に「上原ひろみだ!」って思いましたからね。一聴してすぐわかる彼女っぽさがたまりませんでした。
…と耳の良さをアピールする一方で劇中登場する外人サックスプレイヤーの音に「この綺麗な音色は本田(雅人)さんのサックスでしょ絶対!!」と一人興奮していたんですが違うようなので当てにならない耳してるぞ、ということは書いておこうと思います。フェアにね。結局適当なんじゃねーの、ってね。
まあそんなわけで音楽目当てで観に行きまして、もっと早くからこの映画のこと、そして上原ひろみが音楽を担当していたことを知っていたらもっといい環境(IMAXとかドルビーシネマとか)で観に行っていたと思うんですが気付くのが遅れてしまい、小さいスクリーンで1日1回上映に合わせてギュウギュウ詰めで観させられて無念、というお話です。
しかしそれにしても特に代表曲っぽい立ち位置の「N.E.W.」なんて上原ひろみ節バリバリって感じで最高でしたね。そしてそれが若いバンドにすごく合った押しの強いジャズ、って感じでお見事だと思います。音楽は言うまでもなく満点。
と、ここに来てようやく本題、本編についてのお話です。
物語そのものはベタな気もしますがとても良くて、まーやっぱりほっといても泣きましたよ。序盤からただまっすぐにジャズに打ち込む姿だけでグッと来てしまいました。
ただ、「アニメ映画として」観た場合、「映画大好きポンポさん」に感じたような衝撃はありませんでした。
「今のアニメってすげぇ!」と感動するような作り込みは見られず、こういう言い方は申し訳ないですが「普通のアニメ映画」の範疇だったなと思います。音楽サイドと映像サイドで明らかに熱量に違いがあったように感じられました。そこがまず1つ。
他に大きく気になったのは2点。
1点目はおそらく大半の人が感じたであろう、3D演奏シーンのまずさ。
おそらく演奏をモーションキャプチャーで取り込んで3Dにしているんだろうと思いますが、その時折挟まる3D演奏シーンが非常にチープなので映画としてものすごく雑音になっていたんですよね。いちいち違和感が挟まるから集中すべきところから意識が逸れるんですよ。
あれは本当に余計な技術を使ってるなと思いました。単純にコマ割りで絵を描いて表現すればいい話だと思う(実際演奏シーンは3Dとコマ割りと両方出てくる)んですが、ライブっぽく見せたいから採り入れたのか、はたまた変わったことがしたかったのか、真相はわかりませんがまああのレベルでは使わない方がマシです。はっきり言って。PS2レベルでした。
2点目はおそらく原作の問題だろうと思うんですが、終盤のいわゆる「起承転結」の“転”の展開の安易さ。
もう絶句しましたね、あの安易さには。今どきこんな展開入れるんだ、って。
もちろんそれを経て終盤盛り上がるフリになるのもよーくわかるんですが、それにしたってあだち充じゃあるまいし今の時代あんなのやるのかと心底びっくりしました。
あのシーンのときに斜め後ろの席から「えっ」って声が普通に聞こえたんですが、あれはそのシーンそのものにびっくりしたんじゃなくて「今どきこれかよ」の「えっ」だったと信じたい。僕も声出そうでした。
っていうかその前のバイトのシーンから嫌な予感はしてたんですよね。「まさかそんな手使わないよね??」って。そしたらドンピシャで絶句ですよ。
いま令和だよ!? こんなベタなことする!?
こればっかりは原作を読んでいないのでどっちに文句を垂れればいいのかわかりませんが、どっちにしたっていい加減にしろよと言いたい。もっと違う手で“フリ”を考えろよとものすごくガッカリしました。
ついでに言えばその後の、劇中最後となるライブシーンでも“煽り”がひどくてそこも残念でした。
いちいち(劇中の)観客が泣いてるところをこれ見よがしに出してくるんですよね。それに引っ張られてこっちも泣けよ、って“泣け泣け圧”みたいなものを感じちゃって逆に冷めていく悲しさ。
数人グッと来てる程度でいいと思うんですが、もう会場全体号泣ですみたいな煽りっぷりだったので流石にやりすぎじゃね? と。ここは例え原作がそうだったとしても映画の裁量でもう少し控え目にして(映画の)観客を信頼して欲しかった。
それとおまけでもう1つ、そのラストのライブシーンでもそうですが、劇中でも「なんでそれわかったの?」とか「(シンプルに)これ誰?」みたいなのが結構あって、その辺は原作を読んでる人向けの感じがありました。
映画として上京前の部分はカットしている以上、そこで登場する人物は観客が認識できる形で何かしらシーンを足すか、もしくはバッサリカットしていいと思うんですよね。中途半端にご存知感出して出てくるんだけどこっちはご存知無いです、みたいなのが結構あって困惑しました。
とは言え観て欲しい
ということでいろいろ言いたいことがたくさんあったんですが、総括すると「音楽は最高、映画としてはもっとよく出来たはず」という感じ。
音楽映画なだけに音楽の良さにかなり引っ張られるので「傑作!」となりがちだし実際僕も最初に書いた通り面白かったし泣いたんですが、とは言え手放しに褒めるほど隙がない映画ではないなと思います。気になる点も結構デカい。
ただ“良さ”があまりにも強いので、悪い点を打ち消すことに成功しているといったところでしょうか。
その辺はちょっと「ボヘミアン・ラプソディ」っぽくもありますね。同じ音楽テーマでライブ感が強い映画だし。
といろいろ文句を言いつつも、やっぱりこの音楽の良さはぜひ観て欲しいと思います。というかジャズはいいぞ、と詳しくもない人間がこの映画同様に布教していきたい気持ち。
っていうか上原ひろみはいいぞ、ってね。デビューアルバムの「Dançando no Paraiso」が最高です。聴いてみてね。
このシーンがイイ!
練習場所のバーのマスター、アキコさんが涙するシーン。アキコさんは全体的に最高でしたね…。
ココが○
話としては僕は玉田の存在がものすごく好きでした。
ポジション的には三番手ですが、最初から上手い二人と違って悩んで努力する等身大さがすごく刺さりました。きっと感情的に玉田を応援したくなる人、いっぱいいるんじゃないかなぁ。
ココが×
上にいろいろ書いた通りですね。
あとこれは悪いわけではなく序盤を端折っているので当然なんですが、細かいところで言えば「主人公が最初から上手い」のは想像と違って意外というかちょっとだけガッカリしたところがありました。努力して上手くなるところも観たかったなと。
まあそれやると長くなっちゃうんでしょうね。
MVA
本来であれば問答無用で上原ひろみなんですが、それだとちょっと趣旨も変わっちゃうのでこの人に。
岡山天音(玉田俊二役)
主人公・大の同級生。ドラム担当。
上に書いた通り、一番キャラクターとして共感できるし、(声優さんの)演技としても良かったと思うので。
それにしてもこの終わり方を観ると、やっぱり原作も読みたくなりますね…。