映画レビュー1062 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
今年は本当は「ベイブ」を観たあとはもう一本旧作観てお茶を濁そうと思っていたんですが、前日にツイッター仲良しさんが「今年のベスト2」に挙げていたこちらの映画、ネトフリにあるじゃんということで急遽観ることにしました。
絵を描くのもレビューを描くのも面倒だからね…予定を覆すのもなかなかレアなんですが、果たしてその甲斐があったのか!?
ってことで今年はこれにておしまいです。みなさま良いお年をお迎えください。
ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
エミリー・ハルパーン
サラ・ハスキンス
スザンナ・フォーゲル
ケイティ・シルバーマン
ケイトリン・ディーヴァー
ビーニー・フェルドスタイン
ジェシカ・ウィリアムズ
ウィル・フォーテ
リサ・クドロー
ジェイソン・サダイキス
ビリー・ロード
ダン・ジ・オートメーター
2019年5月24日 アメリカ
102分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
めっちゃ笑えてグッと来る。出来すぎ青春コメディの大傑作爆誕!
- 「高校生活これで良かったのか」と最後に悔いを残さないようパーティーへ向かう親友二人
- ジェンダーをテーマに織り込んだ今っぽい青春映画
- ひたすら笑わせつつ情緒もきっちり感じられる巧みさ
- 最後に監督の名前を見てびっくり
あらすじ
いやーご紹介を聞いて「良さそうだな」と思ったからこそ観たものの、予想以上に良くて完全に観てよかった系でした。
9.5ぐらいかな〜と悩んだんですが、もう年末のこの最後の最後にめちゃくちゃ楽しませてもらったので満点でいいだろ! ということで満点。勢い大事。
ちなみに「ブックスマート」とは、本ばかり読んで実際の経験がない人のことを言うそうです。
主人公はエイミー(ケイトリン・ディーヴァー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)の二人。毎日会って行動をともにしている大親友の二人ですが、どちらも高校生活は勉学に励み、いわゆる陽キャ連中とは距離がある学校生活を送っていたようです。
モリーは生徒会長であり、学校生活を勉強に捧げた甲斐あってめでたく名門・イェール大学への進学が決定。しかし彼女の悪口を言っていた“陽キャ”たちも同じくイェール他軒並み名門大学に合格したことを知ると、「これじゃあ勉強しかしてこなかった私の青春の意味が無いじゃない! 取り戻さないと!」ということで卒業前夜に行われる、陽キャの代表的存在であるニックのパーティーに参加することを決めます。
しかし彼らとの交流もない二人は開催場所の住所すらわからない。そこでツテを頼ってパーティーへ乗り込もうと奔走するんですが…あとはご覧くださいませ。
笑ってるだけでキャラが理解できる巧みさ
卒業直前の高校生の姿を描いた青春映画、ということで僕はもっとしんみりと別れを惜しむような…それこそ「ファンダンゴ」のような映画なのかなと思っていたんですが、あの映画以上にもっとコメディ寄りでとにかく前半はひたすら笑わせてくれるゲラゲラ系映画でした。なんだそれ。
「よしわかった、コメディだな!」ということでスイッチを切り替えてゲラゲラ観ていたわけですが、しかし終盤は(笑いももちろんありつつ)一気にエモい展開でグッと来ちゃう巧みさもあって、とにかくよくできていると思います。学園青春映画の一つの完成形と言って良いのではないでしょうか。
同じクラスで主人公たち(特にモリー)とはあまり反りが合わないタイプのメンバーもそれぞれ極めて端的に、しかし効果的に内面が理解できる描写がなされていて、膨らみすぎない内容ながら登場人物みんな好きになっちゃう話の組み立て方が抜群にうまいです。2時間切ってこれだけ複数の人数を“活かす”脚本は本当にお見事としか言いようがありません。
映画自体は非常にハイテンポで序盤からサクサク進むんですが、肝心の彼女たちの目標からは微妙にズレて脇道にそれる展開。ただそれが笑える上に終盤の前フリとして見事に機能していて、「ゲラゲラ笑ってたらみんなのことを知ることができましたありがとう」という、ゲームをしてたら歴史を覚えてました的な美味しさ。説明くさいセリフはまったくないのに、気付いたら誰がどういう人間かがわかっているという…恐ろしいまでの展開名手っぷりが印象的でした。
男女の表現のステージが一つ上に
そして僕はエンドロールを観ていて初めて気がついたんですが、なんと監督はオリヴィア・ワイルドですよ。女優の。なんでも初長編作品らしいです。
割と好きなんだけど最近パッとしないなーと思ってたらこんな才能を磨いていたとは…! これでトロン: レガシーも浮かばれます。(死んでないよ)
女性監督が描く女子二人の映画だから、なのか下品な内容がありつつも品がなさすぎない丁度いい塩梅だし、今の時代らしくジェンダー的な観点を自然に織り込んだ上手さも光ります。(エイミーはカミングアウト済みのレズビアン)
女性が一方的に弱い立場だったり、あくまで男性が主で女性が副、みたいな旧来型の価値観も無いし、とにかく主人公の二人が“自然に”強くてかっこよくてかわいくてイキイキとしているのが本当に素晴らしかった。ことさらに「男より女の時代よ」と女性上位に感じさせる作りでもなく、至ってフラットに性別の区別なく純粋な「人間としての魅力」を感じさせる主人公他登場人物たちの姿が最高です。
きっと僕が表面上から感じたもの以上にずっと深くいろいろと考えて、キャラクターの魅力を引き出すべく作り上げられた映画だと思います。男が上だ、いや女の方が大事だ、そういう世界からもう一歩上に来て、“個人が大事だ”という映画に感じられたと言うか。しかもそれを声高にメッセージ性強く訴えるわけではなく、自然と個人の魅力でそう感じさせる作り。
物語における男女の表現が、次の時代に来た感慨すら覚えます。
同じような卒業前夜のパーティーの話として、真っ先に「待ちきれなくて…」が思い浮かんだんですが、あの映画が今の時代に合わせて生まれ変わり、世間的な流れを汲み取りながら、同時にそれをきっちり物語の“必須条件”として消化して傑作に仕立て上げた映画、という印象。
やっぱり「最近の情勢に配慮しました」って見えちゃう映画ってどうしてもどこかでそれが気になっちゃって、コンプライアンスうるせーよ的な印象が強くなりがちなんですが、この映画はその辺りの情勢の組み込み方が絶妙で、徹頭徹尾物語に無理がないのが本当にすごい。
また、よく引き合いに出す「テッド」よろしく、コメディで突っ走ってたくせに最後いい話にしてほっこりさせようとする(意図が見える)映画が僕は本当にイヤなんですが、この映画はその辺りのバランスも絶妙で、無駄にいい話にさせようとしすぎずに終始テンションは一定でありつつ、きちんと成長や心情の変化が無理なく見える展開になっているのがまたすごくうまいんですよ。
なかなかここまで(軽そうに見えるのに)欠点のない映画はそうそうないと思います。そりゃあ満点つけちゃうよと。
ネトフリ追加直後! 急いで観ろ!
ということで言わずもがなですが超のつくオススメ映画となりました。
「アメリカン・グラフィティ」「待ちきれなくて…」からのこの映画で“ワンナイト青春映画”は極まった気がしますね。もうこれ以上はないんじゃないかと。
最後の最後に文句なしに良い映画が観られて本当に幸せですワタクシ。これで良い年の瀬を迎えられるって話ですよ。
しかもソフト発売とほぼ同時にネトフリに来た、っていうのもありがたくて涙が出ます。これはいつもの配信終了間際じゃないですからね! つい数日前に追加になったばっかりですから! ぜひネトフリユーザーには観てほしいです。もちろんそれ以外の人も借りるなり買うなりして観ろよ! と。
年末年始の引きこもりのお供にどうでしょうか。家に引きこもってても気分が良くなる最高の映画ですよ。
このシーンがイイ!
いやもうジジが最高すぎて、ジジが出てくるシーンはどれもゲラゲラ笑ってたんですが…一番はエイミーがプールに飛び込むシーンかな。あのシーンのエモさはすごい。すごく綺麗で。
それとジャレッドのバカそうな「クソヤバのクソヤバ号」とか最高。
ココが○
ガールズムービーと言っていいと思いますが、ご覧の通り立派なおっさん(中身は立派じゃない)もベタ褒めするぐらい誰が観ても楽しめると思います。
ちょっとこの映画がダメだって人とは仲良くなれない気がする、それぐらい良かったです。
ココが×
やや下品なところはあるので、そこだけは注意かもしれないですね。まあよほどおカタくなければ大丈夫だとは思いますが…。
MVA
難しい。みんな大好きだっただけに難しい。
校長がジェイソン・サダイキスっていうのがね。これまた最高だったんですけども。かと言って彼にするわけにもいかず、悩むところですが…この人に。
ビーニー・フェルドスタイン(モリー・デヴィッドソン役)
生徒会長。ぽっちゃりガールの方です。
全然知らなかったけどあのジョナ・ヒルの妹さんだとか! 言われてみれば確かに似てる。
でも痩せたらすごくモテそうな雰囲気があるし、そもそも現時点でもキュートだし、他にない魅力を持った女優さんという感じ。
エイミー役のケイトリン・ディーヴァーもすごくかわいくてうまかったけど、やっぱり役柄的により重要で葛藤も味もあるモリー役の方が上かなと思います。本当にどっちも良かったんだけどね!