映画レビュー1293 『バーン・アフター・リーディング』
キャスティングだけで観たいと思って気付けば早15年ですよ。時の流れが早すぎる。
バーン・アフター・リーディング
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
2008年9月12日 アメリカ
96分
アメリカ・イギリス
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
スルッと終わる。
- 速攻解決しそうな小さな問題が、人間関係の妙で大きな事態になっていく
- 話は面白いしサクサク進むものの、終わり方もあっさりしていてイマイチ消化不良
- どいつもこいつも不倫しててクソ
- アホキャラのブラピが見どころ
あらすじ
面白かったかつまらなかったかで言えば確実に面白かったんですが、オチがかなり弱く感じたので最後の印象でガッカリ感が増したような感じがします。それも含めてコーエン兄弟の映画(に対する自分の相性の悪さ)っぽい気もする。
アルコールの問題が原因で長年勤めていたCIAをクビになったオジー(ジョン・マルコヴィッチ)は、解雇に腹を立てて暴露本の執筆を計画します。
彼とその妻であるケイティ(ティルダ・スウィントン)の仲は冷え切っており、ケイティは友人で連邦保安官のハリー(ジョージ・クルーニー)と不倫中。しかしハリーはハリーで出会い系サイト(やや時代を感じますが今ならマッチングアプリ)で浮気相手を常に物色しているクズ野郎であり、そこで出会ったのがスポーツジムで働くリンダ(フランシス・マクドーマンド)でした。
リンダは高額整形を計画しており、すぐにでもお金が欲しい状況の中、勤務先のジムで偶然発見されたCD-ROMにどうやら機密情報らしいものが入っていたことを発見し、同僚のチャド(ブラッド・ピット)とともにこれをネタに金を作れないかと思案しますが…あとはご覧くださいませ。
キャスティングで引っ張る力技が面白い
わかりづらいことはないんですが、しかしかなりとっ散らかったお話であり、あらすじもなかなか説明が難しい映画です。
主要登場人物がそこそこいて、それぞれの思惑でそれぞれ行動するのがやがてつながっていく…というよくあるパターンですが、そのつながり方や展開がまったく先の読めないお話になっていて、道中は「これどう始末つけるの…」と気になってしまう楽しさはかなりのものでした。「先の読めなさ」という意味では一級品と言っていいでしょう。
登場人物の多さ、そしてその関わりの薄さはおそらく“普通の映画”であれば何が何やらわからなくなりそうなぐらいに「何を言いたいのかわからない」話がずっと続く映画なので、普段から洋画を観慣れていない人がなんとなく気まぐれで観たら相当厳しい映画だろうと思うんですが、しかしそこを織り込んで…なのか“豪華キャスト”がここで活きてくるわけですよ。
それなりの洋画好きであれば、このキャスト陣はそれぞれ強く印象に残る人たちばかりなので、もう出てくるだけでアイコンとして「この人はこう」と認識しやすい。
要は物語上のキャラクター以上に俳優個人の印象が強いために、話自体よくわからなくても「誰が誰」と認識できる時点で物語を追いやすい効果があるという非常に面白い作りの映画だなと思いました。
僕もこのことはこの映画で初めて認識したことだったんですが、「この人がこんな役をやっている」、それだけで興味を惹かせて見せ切ってしまう力量というのがあるんだな、と感心しました。
具体的な例を一つ挙げれば、この映画のブラピは他では見たことがないようなアホキャラなんですが、もうブラピがただアホな男を演じている時点でたまらないし面白くなっちゃうじゃないですか。ブラピを知っていれば。
他もそんなような人ばっかりなんですよ。マルコヴィッチとティルダ・スウィントンはそれっぽい役ではありましたが、例えばフランシス・マクドーマンドが美容整形にお熱な俗物っぽい女性、っていうのも「スリー・ビルボード」からすると想像し難いレアな役だし、ジョージ・クルーニーも二枚目気取りつつ腰抜け能無しのちんこ野郎でなかなか珍しいし。
その配役のレアさだけで面白く感じてしまう、ある意味では反則技的な作りの映画なんですが、それによって話の「ようわからん」感じを薄めてついてこさせる作りは面白いなぁと思います。
「ようわからん」のは眼前に巻き起こる話自体は理解できても先がまったく読めない、つまり「何を言いたいのかがようわからん」形なんですが、それでも面白く感じるのはやっぱりキャラクターと配役の妙なんだろうなと思うんですよ。
そのシーン自体に魅力がなければ、何を言いたいのか、この話が別の話とどうつながってるのかがよくわからないとあまり興味を持てなくなるのが物語の常だと思うんですが、そこをキャスティングで乗り越えてくるのは今まであまり経験したことのない感覚で、そこがすごく面白いなと。
終わらせ方が大いに不満
とは言え。
この映画の物語の性質上、話として「やめ時」はいくらでも選べる物語なので、なんで「ここで終わらせた」のかがピンとこないラストは非常に残念に感じました。
もちろんネタバレになるので詳細は書きませんが、例えば全部の話がまとまる地点を100とすると88ぐらいで終わった印象なんですよね。
それ以上特に語る必要もないと考えたのか、はたまたまとめ方としてこの辺が楽だったのかはわかりませんが、もうちょっと見せてほしいというか…個別の人物の帰結をきっちり描いても良かったんじゃないの、という気がしてそこがすごく不満だったし疑問に感じたところでした。
なんていうんですかね…最終的にナレーションベースになっちゃったような残念感。ゼノギアスのディスク2かよ、みたいな。古い例えでサーセン。
そこがねー。なんでここまで頑張ったのに息切れしちゃってんの? みたいに感じられて惜しい。こっちが勝手にそう感じているだけなんですけどね。
余韻を残すようなポイントでもなかったし、絶対終わらせる場所はココじゃないだろと思いました。
まあそこがコーエン兄弟らしいのかもしれないし、この終わり方で納得の人もきっといるんでしょう。あくまで個人の好みとして、僕はこの終わり方は好きじゃないし消化不良だったなと感じたというお話です。
結局映画は終わり方が大事なのは言うまでもないことなので、途中の面白さも全部吹っ飛んでガッカリ感が残っちゃったな…という感想でしたとさ。
このシーンがイイ!
どうでもいいところですがブラピが踊るシーン。観た人誰でも絶対真似するでしょあれ。(した)
ココが○
ブラピの貴重なアホっぽさを始めとした役者陣のレアな姿。J・Kさんもいい味出してます。
ココが×
上に書いた通り。終わるポイントを変えてほしかった。
それとどいつもこいつも不倫しすぎ。コメディにそんな文句言っても仕方ないんですが、どいつもこいつも倫理観ゼロすぎて人として好きになれない人ばっかりでした。
MVA
皆さん芸達者なだけに誰でもいい説ありますが、やっぱりこの人でしょう。
ブラッド・ピット(チャド・フェルドハイマー役)
ジムで働く筋肉バカ。ややゲイっぽい感じもありましたがどうなんでしょうね。なお彼は不倫とは無縁なところもポイント。
まーとにかくアホっぽさがうまい。口半開き。
50代後半になっても裸晒してまだまだかっこいいぜ、と世界を震わせた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のブラピが幻だったんじゃないかと錯覚させるほどのアホっぽさ。妙にかわいいのもポイントです。