映画レビュー1258 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
自分の中で今もっとも外さない映画、それがタイ映画…!
なのでこれはもう絶対観なければと勇んで観ました。
この映画、タイトルは結構目にしていたのでてっきり(アメリカとかでヒットした後に作られた)タイのリメイク版かと思ってたんですが、元々タイの映画だったんですね。
バッド・ジーニアス 危険な天才たち
ナタウット・プーンピリヤ
ナタウット・プーンピリヤ
タニーダ・ハンタウィーワッタナー
ワスドーン・ピヤロンナ
チュティモン・ジョンジャルーンスックジン
チャーノン・サンティナトーンクン
ティーラドン・スパパンピンヨー
イッサヤー・ホースワン
タネート・ワラークンヌクロ
サリンラット・トーマット
2017年5月3日 タイ
130分
タイ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
スリラーな受験に社会背景も含まれた深み…!
- 親友を助けるためにカンニングに協力したら“ビジネス”のお誘いが…
- 主要登場人物それぞれに背景があり、それに根ざした動機と未来への思いが深みを与える
- テンポよくスリリングに、青春映画でありつつ犯罪スリラーでもある
- グレース役の子がアナ・デ・アルマスにしか見えない
あらすじ
噂に違わず面白かったです。やっぱり演出もキレッキレだったし、近年のタイ映画は激アツすぎる…!
教師の父親(タネート・ワラークンヌクロ)と二人暮らしのリン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は中学一の優秀生徒だったために奨学金を獲得し、とある名門校に入学することに。
そこで性格は良いものの成績に難のある女子・グレース(イッサヤー・ホースワン)と親友になります。
ある日グレースから「試験である程度の成績を残さなければ演劇部の活動が続けられなくなる」ために協力して欲しいと相談され、勉強を教えるも残念ながら彼女はおバカさんのために覚えられず大苦戦。
見かねたリンはとっさに試験中に答えを教え、結果事なきを得たグレースは彼氏のパット(ティーラドン・スパパンピンヨー)に彼女を紹介。
甘やかされ金持ちボンボンのパットはグレースと同じく試験に苦戦しており、同様に苦戦する連中を集めてそれぞれがお金を払うからカンニングに協力して欲しいと打診されます。
最初は消極的だったリンも貧しい父親が学校に賄賂を渡していることを知り、家のため、そして自らの将来のためにと結局その話に乗り、「カンニングビジネス」を開始。
次第に顧客も増え順調に稼いでいくリンですが、あることからリンのライバルである優秀生徒バンク(チャーノン・サンティナトーンクン)によって学校側に知られることとなり、リンは苦境に立たされます。
しかしここで話は終わらずさらに大きなものになっていくんですが…あとはご覧ください。
カンニングだけじゃないから良い
上記4人(リン、グレース、パット、バンク)が中心となるカンニングのお話。と書くと小さな世界のお話のようですが、これがなかなか…規模も大きくすごい話になっていくのがとても面白かったです。
単なる「試験のカンニング」だけであればここまで面白い話にはならないと思うんですが、そこに4人それぞれの背景と将来のビジョンが絡み合い、そしてそれぞれの関係性のパワーバランスに関わってくる“お金”の存在が生々しく、一気にリアリティを纏ってくるのが非常に上手い作り。
簡単に言えば、「勉強ができる二人は貧乏」で「勉強ができず協力してほしい二人はお金持ち」という構図。グレースは特にお金持ちというお話でもないんですが、ただパットとラブラブなので一心同体という扱いで。
当人たちにその金銭的な事情から来る関係性への影響は無いと思いますが、とは言え当然リンもパットと同じくお金持ちであればカンニングの手伝いも「やらない」の一言で済んでしまう話なので、ある意味では格差が生んだいびつな友情物語とも言えます。
上記あらすじはそこそこのところまで書いてはいますが、この先にもっと大きな“山”が控えているのでぜひそれを確認してほしいところです。
今もそうなっているのか、思わず“それ”の仕組みについても調べたくなってしまうような興味をそそられる話にもなっていて、狭いタイの学内のみに留まらないスケール感もまた素晴らしい。
またリンとお父さんの家族の物語としても秀逸で、親との距離感が微妙な時期に紡がれる物語としてもレベルが高いと思います。
そこがまたこの映画に深みを与えていると思うし、まーやっぱりタイの映画はさすがだねと嬉しくなりました。程よく笑いが混ぜられているのもお上手。
アナ・デ・アルマス、タイ出身説
また主演の4人は当時みんな比較的経験が浅かったらしいんですが、それぞれが見事に魅力を発揮していてとても良かったのも書いておきたいところ。
「ホームステイ」で名前を読み上げたい役者として一躍(自分の中で)有名になったスパパンピンヨーくんも見事にボンボンを演じております。全然役どころが違うけど違和感なくて素晴らしい。
っていうかタイの人は長い名前が多いけど、役名がそれに準じてないのはなんでなんだろう…ちょっと不思議。
それでこれは本当に声を大にして言いたいんですが、グレース役のイッサヤー・ホースワンは見れば見るほどアナ・デ・アルマスにしか見えませんでした。
「タイのアナ・デ・アルマス」なんてレベルではなく、もう「ほぼアナ・デ・アルマス」って感じ。98.8%アナ・デ・アルマス。ここまで似てるのはかなり珍しいレベルで似ていて、早い話が超かわいい。
ヒットした映画だし絶対話題になってるだろうと思って調べたんですが、僕が観測した範囲では言及している人がいなくてマジカヨ状態です。ものすごく似てると思うんだけど…。
よってネット上で「イッサヤー・ホースワン、アナ・デ・アルマス説」を唱えた最初の人物として自己認定しておきます。
本当に似すぎなので「グレースだけ英語で喋ってないか念の為しっかり聞いて確認」「アナ・デ・アルマスが実はタイ出身じゃないか検索」するぐらい似てました。マジで。
アナ・デ・アルマス勢としてはそれだけでも観る価値があるよと言っておきたいところです。
他の優秀生徒2人ももちろん素晴らしくて、演者の良さもお見事でございました。
リン役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(長い)はファッションモデル出身(言われてみれば確かにそれっぽい)らしいんですが、演技としても申し分なくて素晴らしかったです。
ということで観て損はない一本です。タイ映画、本当にオススメ。
このシーンがイイ!
後半の…ピアノを弾きながらの試験シーンがすごく良かった。前段とのつながりを見事な演出で見せてくれます。
ココが○
「カンニング」なんて学生時代のポンコツエピソードにしか思えないテーマが、思いの外壮大でスリリングなテーマに化ける作りの面白さ。そこに社会背景も混ぜ込む上手さも加味されているのがお見事です。
ココが×
不満ではないんですが、最後もう少しスカッとしたかった気持ちはありました。ただ終わり方としては順当だと思います。
それと彼らの“その後”みたいなのが知りたかったな〜という気持ち。昔の映画みたいな「○○になり、若くして亡くなった」みたいなエピローグが。
MVA
本当に皆さん良かったので悩むところですが…この人に。
タネート・ワラークンヌクロ(リンの父役)
脇役ですが、Wikipediaによると彼の提案で父親の支配を減らす形での台本の変更を促したそうで、それによってこの親子関係が作られた…という功績も踏まえて。
これがいわゆる毒親だったらだいぶ印象が違う映画になったと思うんですよね。
演技もすごく味があったし、雰囲気も良くて素晴らしかったです。
あとはやっぱりアナ・デ・アルマスがね…他の映画でも観たい。他でもアナ・デ・アルマスに見えるのか検証したい。