映画レビュー1380 『シチズンフォー スノーデンの暴露』
JAIHO終了間際シリーズ。
元々興味のある人でもあり、ドキュメンタリー観ていくぞの気持ちもありでチョイス。
シチズンフォー スノーデンの暴露
ローラ・ポイトラス
ローラ・ポイトラス
エドワード・スノーデン
グレン・グリーンウォルド
ローラ・ポイトラス
2014年10月24日 アメリカ
114分
アメリカ・ドイツ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
これまた現代人必見。
- スノーデンが「何を考え、機密情報をリークしたのか」の背景がわかるドキュメンタリー
- そもそも巨大国家アメリカを揺るがす内容なだけに告発だけでも緊張感たっぷりでサスペンスフル
- 必要悪としての第三国の存在意義を感じざるを得ない
- 例によって日本の無関心さが染みる
あらすじ
問題がかなり大きく、また誰にでも身近なものなだけに現代人必見と言える内容で、それだけ面白くもありましたが同時にしんどい話でもありました。わかってはいたんですが改めて直視しがたい話でもあるなと。
アメリカ合衆国の国家安全保障局(NSA)によって一般市民の膨大な通信傍受が行われている告発を行ったエドワード・スノーデンが、その正体を現す前からコンタクトを取っていたジャーナリストのグレン・グリーンウォルドとドキュメンタリー作家のローラ・ポイトラス(この映画の監督)と香港で密会し、詳細な情報提供の方法と対処方法を相談しつつ進めていく様を追ったドキュメンタリーです。
告発事実に限らない様々な問題に気付かされる
JGL主演の「スノーデン」は告発に至るまでのスノーデンの姿を描いた映画でしたが、それを相互補完するような内容のドキュメンタリー。まさに告発して世界が震撼するそのときに現場にいて撮影していたという歴史的にも価値がありそうな内容です。当たり前の話ではありますが、先に書いておくと両方観ると理解も深まるのでオススメ。
告発内容やその顛末についてはすでにご承知の通りだと思うので(あと書くのがめんどくさい)各々振り返って頂いてですね、映画についての説明を少し書きたいと思います。
オープニングでは(確か)いきなりブラジルから始まるので「えっ」と思うんですが、このブラジルにはスノーデンが最初にコンタクトを取ったジャーナリストのグレン・グリーンウォルドが駐在しているようで、まずそのグレンの姿から始まるよ、と。
そもそもグレンは当時イギリスの「ガーディアン」紙の記者で、おそらくそのブラジル支部勤務みたいな形だったんだと思われますが、元々CIAやNSA関連の記事をいろいろ出していた人だったことからスノーデンが接触を図った、という経緯のようです。この人ならちゃんと記事にしてくれるだろう、ということでしょう。
実は映画では描かれていませんが、そもそも最初にスノーデンが(本名ではなくハンドルネームで)グレンにコンタクトを取った際は多忙を理由にスルーされていたらしく、業を煮やしたスノーデンが同じくこの人ならと白羽の矢を立てたのがドキュメンタリー作家でこの映画の監督のローラ・ポイトラスであり、彼女がそれを重要な情報と見なして改めてグレンにコンタクトを取ってジャーナリストチームが組まれた、みたいな経緯のようですね。
その後は何回かに渡って告発の舞台となった香港のホテルでのシーンがほとんどで、「どうやって情報を出していくのか」「自分(スノーデン)がいつ表に出るのか、それとも出ないのか」「アメリカ国内の報道について」「アメリカ政府の動向」といったものを3人+αで相談している様を追っています。
途中でスノーデンが「ホテルの電話も遠隔で盗聴できますよ」とかサラッと怖いことを言うんですが、なにせ創作ではない“実際に盗聴に関わっていた内部告発者”が言うだけに信憑性も怖さも段違いで、今はそこまで進んでいるのかと驚くと同時にこういうことを普通にやっているのかと衝撃を受けますね…。
もちろん「全通信を保存」していたとしても、さすがに我々一般人(おまけに日本人)の家電まで遠隔で盗聴まではしていないと思いますが、このときのスノーデンに関しては「どうもこいつらしい」「香港にいるらしい」と徐々にその範囲を狭めている上に騒動の真っ只中なだけにそういった手が行われていてもまったくおかしくなく、「やられてなければラッキー」ぐらいで用心するのは滑稽でもなんでもなく当然と思われます。
僕はそもそもスノーデンその人については、情報を出したことに喝采を送りつつもちょっとヒロイックに見せようとしている部分があるんじゃないかと半分色眼鏡で見ていたのは否めないんですが、まさにそういった部分について「自分はどう見られてもいいから情報の受け取られ方はきっちり狙った通りになるように」細心の注意を払って情報を出す方法について相談している姿を見て、めちゃくちゃ頭のいい人だなと感心しました。
多分そういう見られ方も織り込み済みで、極端な話自分が悪く思われようが関係なく、とにかくアメリカ政府のやっていることの重大性を訴えたい一心で行動している姿がよく伝わってくるドキュメンタリーになっているので、改めてすごい人だなと。
そりゃあアメリカ政府を敵に回すわけなので相当な覚悟がいるのは疑いようがなく、それだけによくよく考えて自分のカードをどう切っていくのが一番効果的なのかをしっかり考えているのがよくわかるドキュメンタリーになっていて、そこに感動というか感心というかすごいなと語彙力のない一般人として思ったわけです。「お金欲しいから」程度でリークする人間とはわけが違う。これもまた当然なんですが。(あまりにもリークが重すぎて報酬と釣り合わない)
同時に思ったのは、「この状況はどう考えてもおかしい」と感じた彼はつまり人権についてしっかりとした考えを持っている、いわゆるリベラルに属するタイプの人であることも伺えるんですが、そのことを合わせて考えると「リベラル的な感覚を持っている人間であればやっていることのおかしさに苦しまないはずがない」システムであるが故にそういった人たちは(スノーデンのように派手な形ではなくても)ドロップアウトしていきやすく、結局残っていくのは保守的な人たちばかりになってしまい、その集団によってより保守的・排他的なシステムが強固になっていく悪循環というものが存在するんだな、ということ。
すごく端的に言えば「容疑がなくてもすべての人を監視するのはおかしい」vs「怪しいやつを取り締まるためには全国民を監視しても構わない」の価値観の争いになるんですが、後者が残りやすい環境になっているが故にその価値観がより助長されていく側面がある、ということに改めて気付いて、これってアメリカに限らず日本も、他の国もそうだよねと思うとなかなかいろいろ厳しいなと思うわけです。
結局国の組織は大体こうして保守に寄っていきがちな側面があるように見えるので、となるともうシステムの作り自体が保守に有利にできている面があって、じゃあもうリベラルの勝利ってなくない? みたいな絶望的な気持ちも感じました。
これってかなり根深い問題なのでそうそう変えられるものでもなく、正直処方箋も思い当たらないのでこのことだけでもかなり暗い気持ちになりましたね。
よく「監視カメラを設置するのが良いか悪いか」論でも考えられていることと近いと思うんですが、結局「(監視されない)自由」と「抑止力」のどっちを取るのかの価値観に集約されていく問題で、そのバランスを取るのが大事なんだけどもうお任せと他人事が染み付いてるからさして影響も考えずに「監視でいいでしょ」ってなっちゃってるのが今の日本で、これってもう1984の世界じゃね? と思うんですがどうなんでしょうか。
どうもこういった人たちは「自分は対象外だから監視でいいじゃん」と思ってるようにしか見えないんですが、そこまで捜査機関を信用する危険性まで思いが至っていないところに幼さを感じるんですよね。いつ自分に冤罪事件が降り掛かってくるかなんて運でしかないのに。
…ってなことをいろいろ考えさせられる映画だったよと。
もう一つ思ったのは、中国やロシアのような「(欧米陣営から見た)第三国」の必要性。
日本は欧米諸国中心のいわゆる資本主義陣営なので、世界中がそうなればいいと安易に考えがちで実際僕もそう思っていましたが、こういう告発が“第三国でしかできない”ことをまざまざと見せつけられただけに、何事もそうですが「均一的」すぎるのは危険だなと改めて思わされた次第です。
きっとこの告発がアメリカの友好国で行われていたら即座に身柄引き渡しであまり大きな問題になっていなかった(表に出てこなかった)かもしれず、もっと言えばもしかしたら事前に潰されていた可能性すらあったわけで、それこそ「1984」に近付きかねない。
自分たちが属する大きな枠組みそのものへの支持とは別に、違った体制も無いと自分たちの所属集団の問題が表面化しない恐れがある、ということが強く印象に残りました。つまりある意味で第三国は“必要悪”なんだなと。
身近な問題に置き換えると、いわゆるマスコミが1社独占になるともうそこの問題って表に出てこないじゃないですか。
例えばNHKの職員が問題を起こしたとき、それを(ある意味悪趣味なぐらい)報じるのは民放各局なわけですよ。逆もまた然り。
ところが仮に報道を持つ機関がNHKだけになってしまうと、その問題はどこも報じないから表面化しなくなるわけで、その単純な構図が世界にも当てはまるんだなと改めて思い知らされたんですよね。「同じ価値観を共有」している国だけになるとその陣営の不備が表に出ないと。
今、スノーデンはロシアにいると言われています。ロシアなんてウクライナ侵攻でそれこそ悪の権化みたいに思われてるし僕もまったく好意的に見ていませんが、それでもこの「対立軸にいる」国が無いとそれはそれで困るという視点に改めて気付かされ、それが大きな収穫だったなと思います。
このことはテレビ局の例に限らず、おそらく何でも当てはまるんですよね。政治もそうだし、会社もそう。もっと小さな単位でもそうでしょう。自分の中ですらそうかもしれない。
すべて同じ方向に向かっている怖さみたいなものを考えさせれる、それだけでも非常に大きな価値を感じる映画でした。
知れば知るほどしんどい話
途中ブラジルにいるグレンが会議で「アメリカに向かっている線の太さで情報収集量がわかる」図を出して「ブラジルもこんなに太いからかなり監視されてるぞ」みたいな話をするシーンがあるんですが、その図でひときわ図太い線を伸ばしていたのが日本でした。笑えない。
EUではこの問題についての公聴会が開かれているシーンも出てきましたが、僕が知る限りでは日本でそういった何らかの対応がなされた話は聞いたことがなく、相変わらず日本はアメリカの属国だし他人事にしか見ていないんだなと思うとこれもまた笑えないなと。
おそらくアメリカにとって日本は「何をしても怒ってこない」非常に与し易い国なので、好き放題やられてるんだろうと思います。ただそれってさっきの話と一緒で、多少は「うるせえな」と思わせないと本当に危険だと思うんですよね。日米地位協定を出すまでもなく。
かつて田中角栄がアメリカの虎の尾を踏んだからロッキード事件で失脚させられたという話もありますが、今一度そういう骨のある政治家が出てきてくれないものか…と思いますがまず希望が持てない状況なのが非常につらいところ。
こうしていろいろ考えさせられるだけに非常に面白いドキュメンタリーだったことは間違いないんですが、同時に何一つ明るい材料を得られないのもしんどいですね…。
ただ個々人の情報感度が高まれば少しずつでも国は変わっていくんだろうし、やっぱりこういう話を見て考える人が増えてほしいのでいろんな人に観てほしい映画ではありました。スルーするには罪深すぎる大きな問題だと思います。
このシーンがイイ!
上記の「線によって可視化された世界地図」が出るシーンはやっぱり印象的でした。日本は触れられてないんだけどやっぱり見ちゃうよね…。
ココが○
そこそこ長い文章を書いちゃったぐらいには思うところがあったので、それだけ自分には合うものがあったんだと思います。こういうドキュメンタリーの一つ一つが自分の血肉になると思いたい。
ココが×
まあ絵面としてはやっぱり地味ですよ。そこを求める映画ではないんですが。
ただドキュメンタリーとは言え内容が内容だけにサスペンスフルで緊張感もあるし、あんまり退屈になることもないと思います。それなりにこの問題に関心があれば。
MVA
例によってドキュメンタリーなので該当者無しということで。気持ちとしてはやっぱりスノーデンその人だけど。