映画レビュー0924 『コンカッション』
今回もネトフリ終了間際シリーズです。はい。
これも密かに観たかったんだけど借りるほどじゃないしな、的な映画だったのでこの手の映画が手軽に観られるのはありがたさの極みですね。
コンカッション
『コンカッション』
ジーン・マリー・ラスカス
2015年12月25日 アメリカ
122分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
もっとやれるやろ! 若干の配慮故かイマイチ盛り上がりに欠ける。
- アメフトと脳外傷の因果関係を発表した医師の戦い
- 当然ながら強大なNFL組織を相手に厳しい戦いを強いられる
- 若干人種差別との戦い的側面もあり
- 恋愛フェーズイラネ
あらすじ
いわゆる「実話系告発モノ」とでも言いましょうか。
劇中でもタバコ産業云々の話が出てきますが、まさにそれがテーマである「インサイダー」と同じような系統のお話です。
ただこちらはそこに人種差別やら奥さんとの馴れ初めやらが入ってくるのでやや散漫になっているような気もするし、加えて(おそらくタバコ産業以上に)「超巨大産業」であるNFL相手にしたお話故か、はたまた演出のせいなのか、いずれにしてもイマイチ切り込み不足で高揚感に欠ける小ぢんまりとしたまとまりっぷりで思っていたほど盛り上がらなかった印象です。
とは言えその「超巨大産業」相手に戦いを挑む話であり、かつ割と最近の出来事を描いているという点で価値の高い映画でもあるでしょう。多分今の日本じゃこんなの作れないし作る気概がある映画人もいなさそう。
主人公はウィル・スミス演じるベネット・オマル医師。いわゆる監察医と言うやつでしょうか。死因を調査するために遺体を解剖するお仕事をしています。実在の人物です。
ある日彼の元に、地元のNFLチームで大スターだった元選手、マイク・ウェブスターの遺体が運ばれてきます。
輝かしい現役時代とは裏腹に、晩年は家族の元を離れオンボロトラックで浮浪者同然の生活をしていた彼は、遺体を調べてもはっきりとした死因がわかりません。原因を究明したいベネットは、莫大な費用がかかる脳の検査を自費で行うことを決断。
その調査によって、アメリカン・フットボールというスポーツそのものが持つ危険性を告発する形になったベネットですが、それによって当然ながらNFLとの戦いに挑まざるを得なくなってしまい…。
相手の強大さの割に物足りない
っつーことでね。NFLですよ。
もはや(アメリカでは)当たり前過ぎてこの映画ですら触れられていないことですが一応書いておくと、NFLはアメリカン・フットボールの最上位に位置するプロリーグであり、その全米王者を決める決定戦が例の「スーパーボウル」です。
スポーツ上の定義で言えば日本シリーズみたいなもんですが、まあ当然ながら規模も動くお金もファンの熱狂っぷりも文字通り桁違いなので正直日本では比べようがないイベントですね。なんせ視聴率が50%ぐらい行くらしいですからね…。
僕も詳しくはないですが、まあアメリカ人にとっては誰もが熱狂的に愛する壮絶なイベントですよ。おそらく。国民性もあるので、なおさら日本人には理解できないレベルで盛り上がるイベントだと思われます。
そのスーパーボウルを始めとしたアメフトのプロ興業を一手に担う組織を相手に、単なる監察医(しかもアメリカ人ですら無いアフリカ系医師)が戦う形になるだけに、その過酷さは想像を絶するであろうことは間違いないでしょう。
当たり前ですがNFL側はこの手の話は「調査してもそんな事実はないに決まってんだろボケ」ってなもんで最初は相手にしません。あれですかね、日本で言えば(例えば)「大相撲のせいで力士経験者は早死にすることが多い」みたいな研究結果が出るも日本相撲協会は相手にしない、的な感じでしょうか…。
ただくどいようですが規模(経済力)がまるで違う組織なので、まあ一人の医師を社会的に抹殺することなんてたやすいじゃないですか。
そこにかつてNFLの内部にいたチームドクター(アレック・ボールドウィン)の協力があったりして、徐々にNFLも看過できないほどの流れが出来上がってくるんですが、しかしNFL側の抵抗がいかにも手ぬるいんですよね。もう。
この辺実際どうだったのかはまったくわからないので完全に感覚の問題なんですが、ちょーっとこの問題に対してNFLが“この程度”の実力行使で終わらせるとは到底思えないんですよね。
良いように(?)取れば、彼の調査を見くびっていてそこまで躍起に否定する必要もないと思っていたのか、はたまたこの説が流れたところでそこまで大きな問題ではないと思っていたのかもしれません。
ただ劇中で「仮に全米の1割の親が“アメフトは危険だからやらせない”と考えたらNFLは終わる」みたいなセリフがあったと思うんですが、それだけ重要な問題だと考えるのであれば、多分もっとエグくえげつない妨害行為を働いてきたんじゃないかと思うんですよ。
その辺多少は描かれるものの、そこまでえげつない形でもないし、またその行動自体もそこまでエグい感じに描いていないので、「まあそういうこともあるよね」的で巨悪感がまるでないんですよ。いや別に巨悪でもないんですけど。
その辺がねー。すごく物足りなく感じちゃって。
思うに「インサイダー」もそんなエグい妨害行為があったわけではないので、概ね特に間違った描写もしていない、ある意味では真摯な作りの映画なんだろうと思います。
が、であればもう少しある意味ではあざとく煽って欲しかったなと。「インサイダー」のようにメディアの問題も絡めてたり深い悩みが描かれてたりするわけではないので、その分全体的に薄味になっちゃったなという気がします。
感情的な盛り上がりにも欠ける
なんで薄味になっちゃったのかと考えると、やっぱり主人公夫婦の馴れ初めやらなんやらが余計なんじゃないかと思うんですよ。
ある程度描く必要はあるとは思うんですが、正直映画のテーマの割に夫婦間の話を描きすぎてるような気はしました。
別に純粋なノンフィクションってわけでもないし、最初から結婚してて要所要所で支えてくれるみたいな話で十分だと思うんですよねー。
もちろん交際があって家の話があっての…っていうのもわかるんですが、その辺もそこまで深く描いているわけではないから割と平坦だし、「まあ大変だけど相手が相手だしそりゃこうなるよねぇ」みたいに軽くやり過ごせちゃうのがもったいない。
彼がもっとお金に困っているようであればまた違うんでしょうが、そういう話もないので「今回は残念だったけど」で観ている方もすぐに切り替えられちゃうからあまり無情感が出ないし、それ故「おのれNFL…!」みたいな怒りも沸かない。もうちょっと感情的に盛り上げてくれるような作りの方がグッと来たよなぁと。
スピード感とテーマには大きな価値
簡単にまとめると「扱っているテーマの割に観ている方が盛り上がらない」映画だなと思います。もちろん個人差はあるでしょうが。
なにせ相手はNFL、FIFAを相手に戦うのと似たようなものだろう…とワクワク期待して観て肩透かしを食らった格好です。
ただね、とは言えその「NFL相手に戦った人を映画化した」ことに大変な価値があると思うので、そういう意味では良い映画と言っていいでしょう。なにせ世界中に知れ渡るわけですからね。
ちなみに調べた所、物語の契機となる「マイク・ウェブスターの死」は2002年の出来事なので、この映画の公開時点で大体十数年前の話を映画にした、というスピード感。
この辺りはやっぱり腐ってもアメリカ、日本ではまず見られない問題意識とスピード感でしょう。(良し悪しは別として)日本で八百長相撲の映画とか絶対出てこないでしょ? 儲からないだけかもしれないけど。
まあその辺考えると「新聞記者」の良い意味での異常さも際立ってくるとは思います。
しかしこの映画が公開されてしばらく経った今でもスーパーボウルは化物のままだし、あんまり影響なかったんですかね…。自分だったら絶対にこんなスポーツさせられないと思うけどなぁ。
このシーンがイイ!
川辺で夫婦が会話するシーン。
すごく大事なところでウィル・スミスの目に涙がブワッと湧くんですよ。あれは素晴らしい演技だったなと思います。
ココが○
やっぱりテーマですよね。こんな大問題を世界に知らしめることの価値ったらないですよ。モデルとなったベネット・オマルさんご本人ももちろん、この映画の制作陣も立派です。
ココが×
散々書いた通り、どーも盛り上がりに欠けるんですよね。もっとグッと来させてくれよ、っていう。
パーツは揃ってるはずなのにグッと来ないのは…やっぱり恋愛フェーズの無駄っぷりとありきたりの展開故、なのかなぁ。
MVA
今回ウィル・スミスはやや朴訥な雰囲気でいつもとは違う役柄だったと思いますが、これまたさすがの安定感で良かったですね。この人もこういう落ち着いた役が似合うようになってきました。
マイク・ウェブスターを演じたデヴィッド・モースは特殊メイクなのかな? かなりひどい見た目になっちゃってましたが…。モースウォッチャーとしては見逃せない作品かもしれません。
そんなわけで悩みつつ、今回はこの人。
アルバート・ブルックス(シリル・ウチェット医師役)
主人公ベネット・オマルの上司兼所長的存在。
まあね、この手の渋い脇役は間違いないですよ。ベネットの味方でもあるんだけど若干の利己的な面が見え隠れしている感じが良かったです。
それとアレック・ボールドウィンも良かった。彼も最近はこの手の役が多いし似合いますね。