映画レビュー1007 『クレイジー・リッチ!』

公開時から結構話題になっていたこちらの映画、この度めでたくネトフリ終了がやって参りましたということで観ました。

クレイジー・リッチ!

Crazy Rich Asians
監督

ジョン・M・チュウ

脚本

ピーター・チアレッリ
アデル・リム

原作

『クレイジー・リッチ・アジアンズ』
ケヴィン・クワン

出演
音楽
公開

2018年8月15日 アメリカ

上映時間

120分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

クレイジー・リッチ!

きっともっと過酷なはずの話もラブコメ仕立てでいい塩梅。

8.0
彼氏の帰省に付き合ったら超の付く大金持ちでさぁ大変
  • 文字通り「クレイジーなほどリッチ」な彼氏のお家にご挨拶系
  • 当然ながら“御曹司”故に嫉妬もすごくてさぁ大変
  • アジア系のみのキャスティングで作られた“ハリウッド”映画
  • ラブコメ故に展開が読めるのは仕方がないもののやや残念

あらすじ

主要キャスト及びスタッフをアジア系のみで作りたいと考えて作られた映画らしく、当然ながらハリウッドの主流からすればかなり異質な映画です。ただその見た目の問題を除けば至って普通にアメリカ映画らしい優等生な映画になっていて、それが良いのか悪いのか…結構微妙な気がしないでもない。もちろん面白かったんですが、せっかくこういう企画で作るのであればもうちょっと尖った映画でも良かったんじゃないの、的な。

主人公のレイチェル・チュウ(コンスタンス・ウー)はニューヨーク大学の最年少教授として経済学を教えているんですが、彼女にはニック・ヤンという恋人がおり、ある日彼が「親友の結婚式のためにシンガポールに帰省するからうちにも挨拶に来ないか」と彼女を誘ってきます。

もちろんOKよ、ってなことでシンガポールへ行くことになったんですが、行きの飛行機で案内された座席はファーストクラス。「何かの間違いです」と言うレイチェルに「大丈夫だから」と諭すニック。

そう、今までまったくそんな素振りを見せなかった彼氏のニック、実は実家が「超がつく」ほどの大金持ちであり、彼女の知らないところで「あの御曹司・ニックが彼女を連れて実家へ挨拶に行くぞ!」と噂になるほどの“事件”に巻き込まれていたわけです。

美男子な上に超大金持ち、性格も良さげなニックは当然引く手あまたでライバルも多数、そこに何も知らない「(名家出身でもなく)パッとしない」レイチェルの登場に想像を絶する嫉妬渦巻く世界…! 果たして彼女はニックのお母さんを中心とした一族の面々に認められることができるのか…というお話です。

アジア系のみのキャストで作られた映画

僕はてっきり「クレイジーなリッチちゃんに振り回される彼とその周りの人々」的なお話だと勝手に想像していたんですが、実際はあらすじの通り、そのまんま「クレイジーなほどリッチ」な家の御曹司に恋をしてしまった女性のお話。

「二人の気持ちよりも家柄重視」的ないかにも古い価値観は日本でもいまだに根強く、それ故「あー、こういうのありそう」とわかりやすい設定のラブコメになっております。

内容が内容でもあって主要キャストはアジア系のみで固められた映画ではあるんですが、シンガポールが舞台の割には東南アジア系の俳優さんはいない点で少々揉めた模様。確かに穿った見方をすれば「欧米人が好む綺麗なアジア人」的な印象が強い面々ではありました。

そもそもが基本英語の映画でもあるし、制作上でも「英語圏で育った(=ネイティブな)アジアに由来を持つ俳優」という条件になるとこうならざるを得ない一面もあるんでしょう。

とは言え舞台が東南アジアなんだから「スラムドッグ$ミリオネア」のデーヴ・パテールとか使っても良いんじゃないの、と適当なことを言いたくもなりますが、まあその辺の小難しい問題は我々一般観客が云々する話でもないので置いておきましょう。

エグさ薄めのラブコメ仕立てで観やすい内容

あらすじに書いた通り、主人公であるレイチェルは彼(ニック)が超大金持ちとは知らずに付き合っていて、おまけに「シンガポールへ向かう機内」でそのことを知り、もっと言えば現地に着いてから初めてその「狂った金持ちっぷり」を目の当たりにするわけです。「金持ちって言っても程度があるんじゃないの!?」みたいな。

彼女は最初に大学時代からの親友であるペク・リン(オークワフィナ)の家に遊びに行くんですが、この家もかなりの大金持ちっぽいんですよ。普通に考えたら常軌を逸したレベルで。親父がケン・チョンで笑うんですけども。

で、その家での食事の際にレイチェルが彼の名前を告げた途端にざわつくんですね。「マジかよ」と。「ヤン家かよ」と。

あからさまに虚栄心に満ちているように見える家に暮らす金持ち一家の口から「レベルが違う」と言われることでこれはマジでマジなんだな、と観ている方も理解するような。

とは言え彼女としては「それを知っていて付き合った」わけでもないし、純粋にニックのことが好きだから…と多少面倒なんだろうけど愛し合ってるんだし大丈夫でしょ、ぐらいの感覚でいたんだろうとは思うんですが、当然ながらそこには相当な嫉妬もあるし、何よりニックの従兄弟とかも結構まともじゃなかったりして「外に敵あり、内にも敵あり」的な…まあ相当にキツい状況なわけです。単純に言えば住む世界が違う。

でもそんな「住む世界が違う」みたいなチープなセリフを吐くわけでもなく、いろいろ乗り越えてニックと一緒になろうとするレイチェルの姿は女性的にはなかなかグッと来る、応援したくなるものだったのではないでしょうか。という適当なコメント。

僕が感じた部分としては、さすがにここまでの大金持ちとなると、おそらくその「嫁候補」にはこの映画で描かれる嫌がらせや困難なんて全然かわいいレベルで相当な“事件”が起こるだろうと思うんですよ。それこそ“迫害”にも近いような。

ましてやお家柄を重視している一族である以上、詳細は映画で語られますがただの母子家庭で育った女性なんて手切れ金でもあればまだいい方で、実際はさっさと追い払われてもおかしくないと思うんですよね。(そうなると映画にならないのでこの前提も意味がないんですが)

ただそうなるとかなり気分の悪い話にもなっちゃうので、その辺あくまでライトに描きつつラブコメ仕立てで観やすく仕上げたのは、良くも悪くもアメリカ映画らしい巧みさが伺えたような気はしました。

なのでそう言う意味で言えばリアリティがある話ではなく(詳細は書きませんが終盤の“決定打”もいかにも作り物らしい嘘くさいもの)、あくまでお伽噺として楽しく観られればいいんじゃない、というような映画だと思います。

それが良いとか悪いとかではなく、そういうものとして楽しみましょうというか。あり得そうな話に見えるけど、実際あったらこんなもんじゃないよね、という物語だと思います。

予想通りではあるもののちょっと変わったラブコメ

いろいろ書きましたが、良い意味で「金持ちを見下せる」ようなバカっぽさも描かれるので、我々一般人が観て卑下するような話でもないし、うまい具合に金持ちを道化として利用しつつ現代女性の格差へ立ち向かう強さのようなものを見せてくれるよく出来た映画と言っていいでしょう。

実際はもっと夢も希望もない世界だと思いますが、あるように見せてくれるドリーム感はなかなかのもの。ドリーム感ってなんだよ。

ただ当然ラブコメである以上はあまり予想外の方向に展開もしないので、その辺の「期待を裏切らない」感じが少々惜しい気はしました。結局こうなっちゃうよね、っていうのがね…。まあしょうがないんですけどね。

ビジュアル的にもちょっと変わったもの(アジア系のみ・金持ちのバカ騒ぎ)が見られる映画でもあるので、ラブコメ好きであれば一度は観てみて欲しい一本かもしれません。

ネタバレー・リッチ!

もう最後の麻雀の説得はさすがに笑いましたね。麻雀を使って説得するのは良いシーンだなぁと思いましたが、ただ結果としてあんなの100%無理ですよ。出来すぎ。2晩徹夜して続けてればあるかもしれないけどさ。

麻雀がわからない人向けに簡単に説明すれば、あれは「自分が上がれる(そのゲームの勝者になれる)最後の1牌を引いたものの、それがお母さんの上がり牌であることも見抜いていたレイチェルが、上がらずに捨ててお母さんに振り込む」シーンなんですね。

それをもって「私が勝者になれるところ(=ニックは私のもの)だけどすべて理解した上であなたに花を持たせますよ」という含意にしている(その他もっと細かい意味が含まれているようですが割愛します)シーンで、その辺りの様々な意味合いを一気に語らせるという意味で麻雀を持ってきたのは素晴らしいと思いますが、とは言えあんな「双方テンパイした上で一点読みしつつ上がり牌がかぶった上で自分がツモってきてさらに相手に放銃する」なんてどんな天才でも強運でも無理だろと。いやこんなツッコミ野暮なのも百も承知なんですけどね。お前は爆岡かよと思いましたよ。誰もわからないだろうけど。

麻雀がわかる人であれば込められた意味もわかるものの、逆に麻雀がわかる人であればあれがかなり非現実的なシーンであることもわかってしまう、というなかなかジレンマを感じるシーンだったと思います。いいシーンなんですけどね。

ただあれのみで翻意しちゃうお母さんに対してもちょっと納得できない面はありました。(それだけ奇跡的なことをやられたから翻意したのかもしれませんが)

まあ、かと言ってあれがあっても反故にされたらそれはそれで話にならないだろうし、落とし所としては良いところなのかも知れませんけどね。

でもやっぱり最終的にはくっついちゃう、っていうのがなぁ…しょうがないんだけど。あれで「一人でも強く生きていく」ってエンディングだったらもっと好きな映画になっていたかもしれません。

このシーンがイイ!

ペク・リンの家でお母さんと語るシーン。あそこはホロッときたなぁ。

麻雀のシーンもすごく良かったんですが、ネタバレ項に書いたように「実際はほぼ100%無理」な話なので創作感強すぎてちょっと残念でもありました。

ココが○

金持ちの見せ方がわかりやすくてよかったですね。世の中こういう世界あるんだろうな、っていう。

上に書いた通り、適度にバカっぽい雰囲気も出ていたので羨ましさだけにならない程よい「一般人の方が気楽でいいや」的な慰め感があったのも○。

ココが×

どうしても流れとしては読めちゃうのが…仕方ないことですが。

あとは同じアジア人である僕ですら最初の頃は「これ誰だっけ?」となっただけに、アジア人の違いもさほどわからないと言われる欧米の人たちが観て普通に区別がついたのかは気になるところです。

MVA

主演の二人はそれぞれ役にあっていてよかったと思います。それと従兄弟の美人、ジェンマ・チャンも良かったんですが、この人にしましょう。

オークワフィナ(ゴー・ペク・リン役)

レイチェルの大学時代からの親友。

アドバイザー的な人物でもあり、いわゆる「主人公の最高の味方」。

コメディリリーフ的な良さも(親父のケン・チョンとともに)担っていた上で、エネルギッシュで素晴らしい親友っぷりがとても良かったですね。こういう友達本当に大事。

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