映画レビュー1012 『デトロイト』

今回もネトフリ終了シリーズですが、先日観た「13th」同様に黒人差別を語る上で外せない映画の一つ、というような話を最近聞いていたので、近々観たいなと思っていたところにちょうど配信終了がやってきたのでこれ幸いとばかりに観たよと。

デトロイト

Detroit
監督
脚本
出演
音楽
公開

2017年8月4日 アメリカ

上映時間

143分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

デトロイト

この世の生き地獄を見る。

9.0
暴動の裏で起きた“アルジェ・モーテル事件”の顛末
  • 50年以上前に実際に起きた事件の映画化
  • 苛烈な黒人差別が暴力性を帯びたとき、どのような事件が起きるのかをまざまざと見せつけられる
  • ただし事件の真相はいまだ不明のため、この内容そのまま受け入れるのも危険
  • 迫真の演技と過酷な内容でずしりと胸に響く

あらすじ

これはねぇ…。非常に重くてつらい映画でしたね…。あらゆる意味で救いがない話でした。

感覚としては「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観たときに近いような、めっちゃ観て良かったけどもう一度観るのはちょっとつらい、それぐらいに重い映画でした。

舞台は1967年、とある無許可酒場でアフリカ系退役軍人の凱旋パーティ的な催しが開催されていたところ、これ幸いとばかりに警察が現場へ踏み込み参加者を軒並み逮捕。その光景を近くで目の当たりにしたアフリカ系の近隣住民たちは「またか」と日頃の差別的な扱いに対する不満から暴徒化し、やがて大きな暴動(12番街暴動)に発展します。

その後数日に渡り継続する暴動を鎮圧するため、州兵や警官が集まって警戒にあたっていたのを「アルジェ・モーテル」から遠目に見ていた男・カールが冷やかしでスターターピストル(陸上競技でスタートの合図に使う音の出るピストル)を数発撃ったところ、「アルジェ・モーテルに狙撃手がいる!」と緊迫する州兵と警察の面々。

急ぎ現場に到着した警官を仕切るのは、数日前に逃走する黒人をショットガンで撃ち殺した警官、フィリップ。彼はそのときアルジェ・モーテルに滞在していた数人を壁に向けて立たせ、一人ひとりに尋問を開始します。

かくして始まった“地獄の夜”。後に“アルジェ・モーテル事件”として語られるこの夜、果たして何が起きたのか…その一部始終を目撃することになります。

現実はもう少しマシであって欲しい

この映画は少し群像劇っぽい要素もあり、「アルジェ・モーテルに集まった人たちが経験した夜」がメインの出来事になるんですが、前半ではその場に居合わせることになるつながりのない登場人物たちが「アルジェ・モーテルに集まるまで」を描きます。

それは被害者側と言える尋問を受ける側の面々もいれば、尋問する側の警官たちも含まれ、それぞれが「どういう人物か」を軽く語りつつ、運命のその夜を迎える形になります。

その「アルジェ・モーテル事件」についてはもう観ていただくしかないので詳しくは語りませんが、これがまあなんとも…絶望的なお話でしたね。いろいろな面で。

当然ながら尋問する側である警察は公権力のため、基本的に“正義側にいる”人たちなわけですよ。ただこのとき居合わせた警官は端的に言って差別主義者のため、やっていることは観ている側からすれば“悪”に見えるもので、この「圧倒的に力(権力・暴力ともに)を持っている側が、持たざる側に対して終わりの見えない不条理な尋問を強いる」ことの絶望感ったらなかったですね…。本当に大げさではなく、この世の地獄を見た思いでした。

観客は州兵と警察が目的とする「狙撃手」がいないことは知っているため、居合わせた人たちが嘘をついていないことはわかっているわけですが、しかし当然警察側はそのことを知らず、また彼らもやり方に問題があったと同時にそのやり方が過酷であるが故に「ここまでやった以上手ぶらでは帰れない」ような状況に追い込まれていくことでより一層地獄度が増していくという…本当に救われない話でしたね…。

ただこの物語は実際にあった話ではあるものの、現実においては「全容未解明」の事件であり、この映画で描かれる内容は当事者の記憶や証言に基づいたものであるため、全部が全部事実とも限らないのは注意が必要ではあるでしょう。

端的に言えば「被害者目線」で構築された“事件の真相”なので、もちろんかなり真実に近い内容なんだろうとは思いますが、とは言え全面的に信じ切るのも危険というか、事実はもう少し違った形であった可能性もあります。

というのも、以前書いた通り僕は同じキャスリン・ビグロー監督作の「ハート・ロッカー」のプロパガンダ臭にうんざりしたタイプなので、この映画も同様に強い“政治的意図”が込められている可能性が高いような気がして、少しだけ素直に受け取れない部分があったんですよね。

途中で少し違和感のある展開もあり、もしかしたら事実は少し違うのではないか、と思った部分もあったので、それも含めてもしかしたらここまで過酷な事件ではなかったのかもしれないな、と。それでも「生き地獄」であることに変わりはないんですけどね…。

ただそれはむしろ希望的観測のような部分もあって、本当にかなりキツい事件なだけに、むしろプロパガンダで過酷に描かれているだけで実際はここまでではなかった、そんな現実であって欲しいという願望のようなものも含まれてることも否めません。それだけ描かれる事件がキツかった。

ビジュアル的にはグロとか過激な描写は無いので、僕のようなグロに弱い人間でも安心の観やすい映画ではあるんですが、ただ精神的にとにかくキツい。自分がこの場に居合わせていたとしたらどうしてただろうと思うと…きっとこの人のようになったかもしれない、とか考えちゃうし、なかなか冷静に見るのが難しい映画でした。

終わりが見えない上に絶対に助からない勝負

物語の取っ掛かりとなる最初の暴動については、その暴力性と無差別な略奪行為等「それやったらアカンでしょ」と思う面も結構あり、一方的に「白人が悪い」とは言えないよな…と思いながら観ていましたが、しかしいかんせんその後の「アルジェ・モーテル事件」が強烈すぎる。

その呼び水を撒いてしまったという面で被差別側にも責任があると言う見方もできますが、ただそれこそ「13th」でも描かれていたように、やはりこの暴動以前に抑圧された歴史があり、それが積もり積もってこの事態を招いたという面もまた考えなければいけません。

その発露の仕方としてこの暴動が正しいとは言えないと思いますが、だからと言って“主人公”の一人である警官、フィリップ・クラウスのように正義を暴走させることが許容されるわけでもありません。

それに何より、この事件の(一部白人も含めた)被害者である面々は、原因を作ったカールにしても法を犯しているわけではないんですよね。警察側が探す「狙撃手」は存在自体が無いにもかかわらず、もはや引くに引けない状況でひたすら尋問を繰り返す警察という“権力”に蹂躙され続けなければならないという…この先の見えなさほど辛いものはありませんでした。

事件早々に死者も出してしまっている以上、「引いたところでただでは済まない」状況に陥っている権力側を相手に、ただただ無力な弱者として文字通り生と死の間に置かれているこの状況は、それこそ精神を病んでも仕方がないと思えるほどに過酷です。

例えば仮に自分が金銭目的で誘拐されたとしましょう。その時は当然不安だし怖いししんどいですが、ただ「次の瞬間、その一瞬で助けが来るかもしれない」という希望、可能性は持ち続けることができるし、結果助からなかったとしてもその時間はなんとか前を向ける“要素がある”と思うんですよ。

ですがこの「アルジェ・モーテル事件」の場合、敵が警察なのでもう助けなんて来ようがないわけですよ。最大の味方になるべき権力が自分に刃を向けているので。

これは本当に当人たちにしてみれば地獄だったと思うし、それ故観ているこっちも地獄でした。本当にキツい話だなと…。

おまけに言うまでもないですが、根底には(今以上に)差別問題が横たわっているわけで、ひっくり返しようがない勝負に延々と参加させられ続けている彼らの心情はおそらく想像できない程に過酷だったに違いありません。

差別問題を考える上で外せない1本

今までいろんな「実際にあった出来事の映画化」作品を観てきましたが、もしかしたらこの映画が一番観ていて精神的にキツい映画だったかもしれません。それぐらいに観るのがしんどい映画でしたが、ただ100%観てよかったとも思います。

もちろん上に書いたように「本当のところはどうだったのか」がわからない話なので、これを全部鵜呑みにするわけにもいかないし、あまり影響を受けすぎてしまうのも良くないんだろうとは思いますが、ただこういったことがあったということを知り、そしてその背景にある差別や社会制度についていろいろまた考えを巡らせるきっかけがもらえたことはとても価値のあることだったと思います。

先日の「13th」同様、黒人差別問題を考える上で外せない映画の一つと言って良いでしょう。これもまたぜひ多くの人に観て欲しい一本ですね。

ネタバレイト

これはやっぱりねぇ…そうなんだろうなと思いつつ観ていましたが、結局無罪放免というのがかなり(メンタル的に)ダメージありましたね。

あれだけ誤った権力行使を続け、殺人まで犯しておきながら無罪という絶望感。またそれを導き出す一因となった陪審員制度についてもいろいろ思わざるを得ません。(かと言って日本の司法制度の方が優れているわけでもないのがまた悩ましいところ)

警官3人の内面については特に描写がなかったのでわかりませんが、彼らはおそらくあまり良心の呵責に苛まれることもなかったんだろうし、「そうだろうとは思ってたけどちゃんと無罪になってラッキー」ぐらいのものだったのかと思うと怒りで腸が煮えくり返るってやつですよ。この世に正義はないのか。

ラリーが所属していた「ザ・ドラマティックス」はその後メジャーになり売れていったことも考えると、文字通り彼らの人生を変えてしまった大きな事件になったわけで、その影響の大きさや無情さを思うとこれもまたやりきれません。

もちろんラリーがそのままザ・ドラマティックスにいた方が幸せだったとは限らないので、「幸せを奪った」と言い切ることはできませんが、少なくとも前途に希望を抱いていた青年(このときラリーは19歳だったとか)の行く道を狭めてしまったことは事実だし、親友まで失うことになった事件が無罪放免というのは…その後教会で歌うようになったものの、むしろ神の存在の不確かさを証明するかのような皮肉さを孕んだ話のように見えました。

気になった点としては、まずあれだけの極限状態で、なぜカールの友人たちは「カールが遊び半分にスターターピストルを撃っただけなんだ!」と証言しなかったのか、という点。

文字通り「今すぐ殺されてもおかしくない」と認識している状況である上に、問題のカールは早々に殺されてしまったため気を遣う必要もないわけです。だったらカールに罪をかぶせる(というか事実ですが)ように証言する人間が出るのが当然だと思うんですが、誰一人それに触れること無く過酷な現状を受け入れていたのが不思議というか違和感がありました。この辺ちょっとプロパガンダ臭というか、「警察を悪人に描く」バイアスがかかった作りなのかな、と。

もしかしたら警察が「狙撃手がいる」と言っていたために、まさかスターターピストルの音を勘違いして来たわけじゃないんだろうと思っていた、というのはあるとは思います。ただあれだけ長い間拷問を受けていたら、多少なりとも関係しそうな情報として出してもおかしくない(特に現場にいたカールの友人たちは)と思うんですけどね。

ちなみに現実として、その後の捜索でもカールのスターターピストルは見つからなかったそうです。となると事実はもう少し違うものだった可能性もありますね。本当に狙撃手がいたけど警察が現場に来る頃には逃げていた、とか。

もう一点気になったのは、ジョン・ボイエガ演じる警備員、メルヴィンの存在。

事件前にコーヒーを一緒に飲んだりしていたのは州兵だったので、中心となる警官3人とは特に関係性がなかったはずだと思うんですが、あれだけ彼ら3人にとって見られたくない危険な現場に、部外者の黒人警備員が自由に出入りしている状況というのは少々考えづらい気がします。

“犯行現場”を見ているだけでなく、尋問の手助けのような形で被害者に助け舟を出したりしているのも黙認されている、あの状況は少し現実味がない気がしたんですが本当のところはどうだったんでしょうね…。

エンディングで流れた彼の事件後の話から察するに「現場にいた」のは間違いないでしょうが、あそこまで自由な行動が許容されていたのは少し考えがたいと思うんですが…。もしかしたら彼も被害者側に近い形で軟禁されていた、とかの方が信憑性があるんじゃないかなぁと思いますがどうなんでしょうか。

この2つの違和感が結構大きく、個人的にキャスリン・ビグローを全面的に信用できない気持ちも相まって「全部事実」として受け取れなかったことは否めません。とは言えそのメルヴィンさんご本人が「再現率は99.5%」と言っているそうなので、(彼の記憶そのものに対する信頼性まではわかりませんが)かなり実際に近い内容にはなっているんでしょう。

もっともその事実云々を除いたとしても(語弊がある言い方ではありますが)スリラー的に面白いことは間違いなく、すごい映画だと思います。

このシーンがイイ!

イイと言うかなんと言うか…終盤、とある人物が嘔吐するシーンがね…重みがあってね…。

それと中盤で、尋問されている白人女性が警官に対して「You are yellow」って言うんですよ。字幕では「卑怯者」になっていましたが、これも「黄色人種」を悪口として吐き出しているわけで、その皮肉さったら無いなぁ、と結構刺さったシーンでした。

ココが○

事実とか差別問題とかを脇においたとしても、純粋に「スリラー映画」としてかなりレベルが高い映画だと思います。観客も事件を経験する感覚に近い、没頭感の強さがすごかった。間違っても眠くなれる映画じゃないです。

ココが×

ネタバレ項に書きましたが2点ほど結構大きな違和感があり、それ故この映画で描かれる内容も「全部事実」とは思えない部分がありました。

もはや真相は闇の中ではありますが、話半分とは行かないまでも7〜8割程度に捉えておいた方が良さそうな気はします。

それとやっぱり少々気になるのが、この手の映画にありがちな手持ちカメラの手ブレ映像。「ハート・ロッカー」でもおなじみのアレ。これもうちょっと軽めにしていいと思うんだけどな…。

MVA

これねー、皆さん本当に迫真の演技で素晴らしかったですね…。もう演技だなんだ、って意識することもなくドキュメンタリーのような気持ちで観てましたよ。

そんな中、一人選ぶならこの人かなー。

ウィル・ポールター(フィリップ・クラウス役)

“主人公”の一人、観客が最も嫌悪するであろう警察官。

ウィル・ポールターと言えば「なんちゃって家族」の童貞君ですよ。僕の中では。割と間抜け面の童顔だし。

でもこの映画ではどうですかみなさん! あの童顔のまま、腹が立つほど利己的な警官を見事に演じてますよ。素晴らしかったですね。なんというか、「絶対この人有能じゃない」感じがすごく出ていて、でもそんな人が現場を仕切る立場であるが故にどんどんと現場が地獄と化していく恐怖たるや。

よくこの人をこの役に充てたよなぁ。すごいキャスティングだと思います。

ちなみに彼ご本人はやはり(この役とは違って)いい人だそうで、この映画の撮影中、演技とは言え尋問相手の役者にあまりにも過酷な対応をしなければならない状況に限界が来てしまい、泣くことすらあったとか。

ただそれぐらい(演技の上でも)精神的に追い込まれていたからこそのこの完成度なのかもしれません。とにかく緊張感がすごかった。

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