映画レビュー1456 『ドント・ルック・アップ』

終了間際系も特に無かったので、じゃあせっかくだしネトフリオリジナル漁るか、と選んだこちらの映画。タイトルだけは知ってました。

ドント・ルック・アップ

Don’t Look Up

笑えるけど笑えない、怖いぐらいの現代風刺。

9.0
地球滅亡につながる小惑星を発見、警告するも大統領は信じてくれない
  • 地球滅亡の原因となる小惑星を回避するべく行動する天文学者たちと信じない国のトップ
  • 「ディープインパクト」「アルマゲドン」の皮肉たっぷり現代版
  • いくらなんでも…と言えないぐらいに生々しい政治の無能さは未来を予見している…かも
  • 演者も豪華で皆さんお見事

あらすじ

いやー面白かったですね。むちゃくちゃ面白かった。ただ笑っちゃうけど(特に直近の大統領選のあととなっては)笑えないブラックコメディなので気が重くもなる、っていう。

某大学の大学院生であるケイト(ジェニファー・ローレンス)はこれまで知られていなかった彗星を発見、担当教授であるミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)に報告。
検討の結果、問題の彗星は約6か月後に地球に衝突し、絶滅を引き起こすほどの脅威であることが判明したため、急いでNASAに報告するとNASAでもそのことを裏付ける調査結果が出たので、NASAのオグルソープ博士(ロブ・モーガン)と3人で大統領(メリル・ストリープ)に報告しに行くことに。
しかし誕生日を祝ったりと多忙を極める大統領はなかなか面会に応じてくれず、伸ばしに伸ばされてようやく面会にこぎつけますが大統領もその息子である首席補佐官のジェイソン(ジョナ・ヒル)も問題の深刻さをまったく理解せずに興味なし。
このままじゃまずい…ということでマスコミへリークを画策しますが、はてさて…。

大統領一人に振り回される世界

あらすじからわかる通り、明確に「今の時代に“ディープ・インパクト”を描くとすれば?」的な内容のお話。
あの頃はあれがリアルだったと思いますが、今思えばある意味牧歌的で性善説的な良い世界だったなと思います。(今もそうであってほしいとは思いますが)
それが今起きたらきっとこうなるよね…と思わせる秀逸な内容。
いくらなんでも大統領こんなバカじゃないでしょ、と思いたいところですがなにせ次期大統領がアレなもんで全然楽観視できません。っていうか性別こそ違いますがモデルが完全にトランプです。そして演じているのはメリル・ストリープという…。メリル・ストリープ、確かトランプにクソミソに言われてたんですよね。彼女は彼女でトランプ批判もしていたと思いますが、まさかその相手(を模した人物)を演じることになるとは…ものすごい嫌だったんじゃないですかねぇ…。それか逆にノリノリだったか…。
ぶっちゃけ仮に次期大統領がカマラ・ハリスだったらもっとディープインパクト寄りの話になっていたのは間違いないと思うので、逆に言えば大統領一人の違いでこうも世界が振り回されるのか…というアメリカ合衆国大統領の影響力の大きさを嫌でも思い知らされるお話とも言えます。逆説的に。
また「大統領一人」と書きましたが実際のところそこには取り巻きも含まれているので、息子の同じく無能な首席補佐官であったり、IT企業CEOの超大金持ちであったりと「取り巻きもひどいから悲劇が加速する」側面も非常にリアルで面白い。けど笑えない。
この取り巻きがまだマシであれば歯止めがかかるはずなんですが、二期目となってより好き放題するトランプにそれが望めるはずもありません。
この映画は3年前の映画なのでIT長者のモデルは多分いないと思う(取り巻きの金持ち=IT長者でしょぐらいの配置っぽい気がする)んですが、今となっては完全にイーロン・マスクじゃん、っていうね…。
一期目の大統領を皮肉って作ったつもりがまさかの二期目が訪れてそれを予見するような内容になっているという、なかなか神がかった映画ですね。マジで面白かったんですが、マジで笑えません。まだ国が違うだけマシのような気もするけど日本は所詮属国なのであまり変わらない気もするしね…。

ネットでは「ただの共和党批判のプロパガンダ映画乙」みたいなレビューも見たんですが、まーさすがに(そう思うのも無理はないとは思いますが)そこまで単純な映画でもなくて、例えば“反対側”と思われる主人公サイドも(なぜか危機の最中に)コンサートやってたりしてバカっぽいのもすごくよく出来ていると思います。あのシーンも皮肉がすごい。
なにせ監督・脚本は「バイス」のアダム・マッケイなので、かなり民主党寄りの政治観が込められた映画なのは間違いないところだとは思いますが、一方で実際に来年以降にこの手の危機が訪れたらこうなってもおかしくはないと思わせる説得力があるのも事実で、明確に「トランプ大統領はもっとちゃんと対応する」と言える人はいないでしょう。
なんなら支持者たちは「彗星は政府転覆を目論む連中の陰謀だ」とか言いかねないと思うんですよね。っていうかそういう話か、結局…。
その支持者たちの姿も描かれていると同時に徹底的にバカにしているので、まーさすがアダム・マッケイようやるなと舌を巻きました。

分断を加速させている面も

これ、おそらくトランプを支持しているような人たちが観たらすごく腹を立ててこき下ろす気がするんですよ。それぐらい明確にトランプや「トランプのようなもの」をバカにしているので、ある意味ではより分断を加速させているのは否めません。
それこそが今のアメリカの象徴と言えばそうなんですが、ただ創作の世界ならもう少し融和に向かうような世界を観たい気も少しありました。面白いんだけど、先鋭化するのも良くないんじゃないか…みたいな。
でも多分もうそのフェーズは過ぎちゃったんでしょうね。融和を目指せないぐらい分断が進んでしまっているような…。
分断の行き着く先がどうなるのかは正直まったくわかりませんが、もしかしたら今後はその辺がテーマの映画が増えてくるのかもしれません。
そこに希望があればいいんですが、なーんか全面衝突して人類滅亡、みたいなディストピアものしか出てこなさそうな気がする…。悲観的すぎますかね。
この映画の結末は分断したまま訪れますが、そのオチもまた非常に面白いし考えさせられるので、まー最後まで楽しませてもらいましたよ。
トランプ再選が決まった今こそ観るべき映画だと思います。ただ彼を支持している人はやめておいたほうがいいでしょう。

ネタバレ・ルック・アップ

新しい惑星に到達したオチ。
大統領が食われた“ブロンテック”に囲まれてエンド、なので「結局生き延びたところで全滅してザマァ」みたいな終わり方に見えますが、しかし(大統領はともかく)あの旅を決行した面々が武器の一つも持たずに丸腰で(全裸だったけど)旅立ったとは思えないので、一旦宇宙船に戻って武器を手にブロンテックその他先住動物を駆逐して再度人間の世界を作り上げる…というオチなのではないかなと思いました。
つまり、利己的な人間たちは(大統領や冷凍保存時に死亡した人たちを除いて)実質勝利を手にした、というお話。
もっぱら主人公サイドを是とする話に見えて、実は今世界を牛耳っているカースト上位の人たちの方が生き残って今後の人間社会を再構築していくお話と考えると、どちらが正解なのかはなんとも言えない気がするんですよね。
「ようやく本当に大事なものを見つけた」ディカプリオ演じる主人公は幸せだったかもしれませんが結局死ぬわけで、強がりでも精神的に満たされた状態で死ぬ方がいいのか、それともかすかな希望に賭けて(そしてそれが叶って)別世界で新たな人生を送る方がいいのか、どっちがいいのかは難しいところです。
ディカプリオ個人で考えれば間違いなく地球で死んだ方が幸せでしょう。誘われたままあっちに行ったところで幸せになったとは思えません。
一方で大金持ちのマーク・ライランスは新たな星に到達して(ブロンテックを処理して)生き延びたのであればこっちもまた間違いなく望み通りだったはずなので、彼にとってはこっちが幸せなのも間違いありません。
なので「ザマァ」じゃないんですよね。どっちもそれなりに望み通りにはなっているんですよ。
ただどっちがいいかと言われると微妙だなとも思うので、そこがまた考えさせられる映画だなと。
あんな利己的な集団でこれから先、新しい星で生きていくのもしんどそうですが、ただ「新しい星で新しい社会を作る」生活なんてめちゃくちゃ面白そうでもあるし、一概に「どっちが良かった」なんて言えない話だよなと思い、そこがまた深いなと思いました。
まあ、僕みたいな一般人は問答無用で地球に残らされるので考えたところで意味はないんですけどね。

このシーンがイイ!

一番笑ったのはディカプリオが登場するCMのシーン。皮肉すぎるけど今の社会ってこうだよな、ってめちゃくちゃクリティカルなのがすごい。

ココが○

まー本当にあちこちリアルでブラックですごいですよ。必死に訴えたらミーム化しておもちゃにされるところとかもものすごくリアル。今の時代、なんなんだろ…って考えちゃいますね。

ココが×

上に書いた通り、トランプを支持するような人たちにとっては面白くないと思われるところ。もっともそういう人たちがこういう映画を観るようなら再選していないとも思うので、多分そういう方々にはそもそも届かないような気もする。

MVA

まー豪華キャストで皆さん演技も見事なので非常に悩むところ。
ディカプリオは相変わらず上手いし、ジェニファー・ローレンスもすごい。
メリル・ストリープは言うまでもなく、苛つかせる喋り方のマーク・ライランスもお見事でした。とても「ダンケルク」で戦地に向かったおじさんとは思えない。
ケイト・ブランシェットもキャスターをバカにしたそれっぽさが完璧だったし、本当に迷いますがこの人にします。

ジョナ・ヒル(ジェイソン・オーリアン役)

大統領首席補佐官で息子。
かなりの無能で、支持者に対しても直球のひどい言葉をぶつけるぐらい頭が悪い人物なんですが、まーこういうやついるよな感がすごい。
それなりに重要なポジションにいる脇役ですが、彼の存在がよりホワイトハウスの無能さを際立たせていてこのキャラクターを設置した上手さに唸りました。
またジョナ・ヒルのビジュアルが絶妙に腹立たしいんですよね。「こいつ何もわかってねーだろ」って感じさせるような雰囲気で。そう見せる技術が素晴らしい。

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