映画レビュー0813 『ドラフト・デイ』
引き続きネトフリ終了間際シリーズ。
なんとなくリストに入れてた映画なんですが、割と評判が良さげだったので観てみました。
ドラフト・デイ
スポーツの裏側系良作の一つ!
- 弱小チームのGMを中心にドラフトの舞台裏を描く
- 駆け引きに身体検査に疑念に信頼に…あらゆる感情渦巻く(平和な)サスペンス
- GMと言えど中間管理職、しがらみたくさんで大変だぜ
タイトル通り、「ドラフトの日」を朝から終了まで追った“だけ”の映画なんですが…これが思いの外面白かったですね。
同じGMを主人公にした「マネーボール」と似たような「スポーツの裏側」を知るような内容だけでも十分スポーツが好きな人にはたまらない面があると思いますが、その上「選手の一生が決まる」と言っても大げさではない大事な大事な一日の駆け引きをみっちり描き出す内容なだけに、非常にサスペンスフルで緊張感のある良い映画だと思います。
ケビン・コスナー演じる主人公のサニーは、低迷するNFLのチーム「クリーブランド・ブラウンズ」のGM。僕はNFLはまったくわからないんですが、劇中の説明からすると…「弱いけど地元ではかなり愛されている」チームのようで、まあ一昔前の阪神とか広島みたいなイメージでしょうか。今はちょっと変わってきちゃってるっぽいのでアレですけど。
その彼の元に、ドラフト当日の朝に電話がかかってきます。かけてきたのはシアトル・シーホークスのGM、トム。こちらのチーム事情はよくわかりませんが、まあ悪くはない雰囲気。
で、詳しい話は後に書きますが、このシーホークスがこの年のドラフトでは「全体1位」、要は一番最初に選手を指名する権利を持っているわけです。この全体1位の指名権というのは…言ってみればジョーカーみたいなものでものすごく強力な権利なわけですよ。
この年のドラフトはボー・キャラハンという超がつくほど将来を有望視されているQB(クオーターバック:花形ポジション)の選手がいて、どのチームも彼を欲しがっているようだぞという状況の中、当然シーホークスも彼を指名するつもり…ではあるんですが、でもそれよりこの全体1位の権利をトレードしてもっと良い状況を作り出そうと考えたトムが、窮地で一番吹っかけやすい相手であろうサニーのもとに電話をかけてきた、と。
サニーは悩んだ挙げ句、一旦はその申し出を蹴るんですが、ブラウンズのオーナー・アンソニーに説き伏せられ、結局受けることにします。その条件とは、「今年の全体1位と、向こう3年間のブラウンズ1巡目指名をトレードする」というもの。つまり今年は真っ先に有力な選手を指名できる代わりに、向こう3年間は残り物しか指名できないような状況になるという、要は“先食い”みたいな形になるわけですね。
当然ながらチームのコーチ(監督)は「俺に相談も無しに」と反発、そもそもサニーも反対だったけどオーナーはやれと言ってるし…と中間管理職的な悩みに苛まれつつ、果たしてどんなドラフトになるのか…というお話です。
まず最初に、僕も観ていて理解したので中途半端な知識ではありますが、間違いなく最初に知っておいたほうが良い「NFLドラフトの仕組み」について。
前年順位とかも関わってくるんですがややこしくなるのでその辺は割愛するとして、いわゆる「完全ウェーバー方式」と呼ばれるドラフトなんですが、仮にA〜Fの6チームによるドラフトだった場合、
- チームA・1位指名
- チームB・1位指名
- チームC・1位指名
- チームD・1位指名
- チームE・1位指名
- チームF・1位指名
- チームA・2位指名
- チームB・2位指名
- (以下続く)
という形で進みます。この場合、一番最初の「チームAの1位指名」がイコール「全体1位」ということになります。日本の野球のドラフトのように「同時指名による抽選」みたいなものは無い模様。
で、まあこの通りであれば別に滞りもなく進むんでしょうが、NFLドラフトの特徴であり、かつ最もドラマを生む要素であるのが「指名権トレード」というわけで、その指名権トレードを巡るドラマを描いたのがこの映画、と。
上記の通り、最初にサニーが受けたトレードは「今年の全体1位と向こう3年間の1巡目」というものなので、つまり今年に限ったトレードじゃないんですよね。給料の前借り的に「来年の分も再来年の分も渡すから今年なんとか頼む」って形ができるんですよ。これすごくないですか!?
やりすぎちゃってもう何年間も指名できません、ってチームが出てきたりしないの? と思って観ていましたが、もしかしたら上限とかやりすぎ注意的なルールがあるのかもしれません。その辺は調べてないのでなんともなんですが。
もっとも前借りしすぎて担保もないような状況だとトレードに応じてくれるチームもなくなるし、制限自体必要ないのかもしれないですね。
とにかくそういうわけで、窮地のブラウンズを率いるサニーは向こう3年間の“未来”を今年に賭ける選択を迫られ、それまで(サニーに限らず、チーム全体で)練っていたドラフト対策も一気に流動化する中、一体全体今年のドラフトはどうなってまうんや…! というハラハラドキドキなドラマなわけですよ。
ちなみにこの年の最有望株は上記の通りアメフトの花形ポジションであるQBのボー・キャラハンという選手なんですが、実はブラウンズには実力十分でエースと言えるQBの選手がもういるんですね。だから本来であればいらないはずなんですが、ただそのエースの彼は去年膝を故障しているので不安が残るわけです。
おまけに花形ポジション故、「状況的にはいらない」んですがやっぱりファンは欲しがるんですよ。特にチーム事情も考えずに、来てくれたら嬉しいよねぐらいの感じで。まあこれもわかります。
で、ファンが喜ぶ=試合を見に来る=収入が増えるわけなので、オーナーはボーを取れってグイグイ系なんですよ。でも「チームを優勝させるために呼んだ」新任のコーチは「いらねーよ」って言うわけです。このチームに新卒のQBを一から教える余裕なんて無いだろ、と。うちのチームには他のポジションの方が必要だと。
そんな上下から板挟み状態のGM・サニーがどういう答えを見出すのか、言ってみればただその一点に集約される話なんですが…やっぱりさすが全米一人気のスポーツにあてがわれたルールだけあって、(創作とは言え)すごいドラマを生むもんなんだなーと感心しました。
その上で選手個人の性格やプレイスタイルのようなものもしっかり調べないと(いわゆる身体検査)という側面もあるし、しがらみやら収入やらチーム計画やらいろんな要素が絡み合ってのドラフト当日、そりゃつまらないわけがないよと。
NFLに詳しくない僕ですら面白かったので、おそらくこういう「スポーツの舞台裏」が好きな人であれば楽しめると思います。NFL好きならなおさらたまらない映画でしょうね。
キャストも地味めだし、日本ではアメフトが浸透していないだけに余計に地味なポジションの映画だと思いますが、監督は「(初代)ゴーストバスターズ」でおなじみのアイヴァン・ライトマンだし、意外と掘り出し物的な良作ではないでしょうか。
このシーンがイイ!
終盤スピーディに展開するドラフト当日の動きは観ている方もテンションも上がる良い演出だったと思います。ドラフト自体がドラマだという意味をきっちり見せつけられた感じ。
ココが○
元からドラマを生みやすいシステムなだけに、そこに創作で良いもの載っけたらそりゃあ面白いよねっていう。
駆け引きが優れたゲーム(麻雀とかポーカーとか)はドラマにしやすいと思うんですが、それと同じような“素材としての良さ”を感じる物語だと思います。
ココが×
実はネット上の評価では賛否両論らしいので、つまらない人はバッサリとつまらないんでしょうね。
僕は先の読めないサスペンス感がたまらなかったんですが、これも知識がある人であれば先が読めるものだったりするのかなー。
MVA
キャストも地味ながらしっかりしたメンバーで構成されていて、みなさん安定感あって良かったと思います。個人的にはサニーのお母さんがエレン・バースティンだった、っていうのがなかなかの胸熱ポイントだったんですが、まあ順当にこの方に。
ケビン・コスナー(サニー・ウィーバー・Jr.)
主人公のGM。
意外とおもねらない頑固なキャラで、ブレないベテラン感にこの人らしい安定感があったと思います。こういう役が似合うようになってきましたねぇ…。