映画レビュー1246 『薬の神じゃない!』
今回はJAIHOより。
(香港を除く)中国のコメディはかなりレアだなと思い、さすがJAIHOだぜと観てみましたがネトフリにもあるそうです。悲しみ。
薬の神じゃない!
ウェン・ムーイエ
ウェン・ムーイエ
シュー・ジェン
ワン・チュエンジュン
ジョウ・イーウェイ
タン・ジュオ
チャン・ユー
ヤン・シンミン
Chao Huang
2018年7月5日 中国
116分
中国
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
中国でこの話が作られた驚き。
- 金に困った薬屋の男、儲け話に乗ってジェネリックで一儲け
- しかしご多分に漏れず捜査の手が伸びてきて…
- よくある上昇転落ものかと思いきや、物語は意外な展開に
- 社会問題も内包した意欲作
あらすじ
お気楽コメディのつもりで観始めたんですが、実話を元にした意外とちゃんとしたドラマになっていて、最後は思わず泣きました。とても良かったです。
上海で怪しげな輸入回春薬(精力剤的なもの?)店を営むチョン(シュー・ジェン)。
パジャマでソリティアをしながら店番するような廃れっぷりで当然ながら売上も芳しく無く、家賃も滞納しております。
ある日三重にマスクを重ねた男、リュ(ワン・チュエンジュン)が店にやってきて、「必ず売れるから、インドから白血病用の薬を輸入して欲しい」と依頼してきます。
なんでも正規の薬は高すぎて貧しい患者には手が出ず、成分は同じで販売価格がかなり安いインド製のいわゆるジェネリック薬があればバカ売れするぞ、と。
しかしそれは当然正規ルートではない“密輸”となり、おまけに密輸は結構重い懲役が科せられることもあって冷たくあしらうチョン。
ところがその直後に高齢の父が倒れてしまい、高額の手術費も払えないチョンは手っ取り早くお金を稼ぐ必要に迫られ、連絡先を置いていったリュに連絡を取って一人インドへ渡ります。
チョンは過去に同様の密輸を経験していたこともあってかお手の物、首尾よく薬を持ち帰り、最初はなかなか売れなかったものの次第に荒稼ぎの様相を呈して参りました。
ですが当然そうなると「本家」の製薬会社が黙っておらず、警察に依頼して捜査も開始。さらに“同業者”の偽薬販売業者も現れて…チョンの密輸業、どうなる!?
よくこの話を中国本土で映画化したね
ちなみに一般的な邦題は上記の通りなんですが、JAIHOではなぜか「薬の神じゃない」でビックリマークが取られています。でもなんとなく内容的にはビックリマークが無いほうがしっくり来るような気もする。
さて、問題の白血病治療薬なんですが、正規品は3万7000元、ジェネリック薬は卸値が500元で(確か)3000元で販売します。
当時のレートは1元が約15円だそうなので、正規品はなんと約55万円、ジェネリック薬は売価45000円の仕入れ値が7500円ということになります。そら売れるわ儲かるわ。
最初は怪しまれて売れなかったこの薬も、いわゆる“インフルエンサー”であるリウ(タン・ジュオ)を仲間に引き入れたことで爆発的に広がり、しみったれた胡散臭い店の店主だったチョンも羽振りがよくなって…とよくある「一山当てて、やがて落ちる」パターンの映画のように見えます。「ブロウ」とか「バリー・シール」とかああいう感じの。
ただ後半の展開はこの手の映画と違う様相を呈していて、そこがとてもエモくてよかったですね…。なんならあの映画っぽい、と言いたいところですがこれもネタバレっぽくなってしまうのでここではリンクだけ貼っておいてタイトルを書くのは避けておきましょう。
それでですね…もうすでにわかる通り、メインの問題は薬価なので非常にタイムリーかつセンシティブなテーマだと思うんですが、それを(香港ではなく)中国本土の映画で描いている点にとても驚きました。
もちろん表面上はスイスの製薬会社との戦いなので中国政府は無関係とも言えるんですが、ただ命に関わる病気に対してこんな高い薬しか出回っていないのであればそれは失政と言われても仕方がないのも事実なだけに、よくこの話を作ったな、作らせたなというのが正直なところ。
元となる事件は2014年に起きたことらしく、それから4年後に公開というスピード感も驚き。
そんなホットさも手伝ってか本国でも大ヒット、賞レースにもかなり絡んだ映画のようです。
まるで欧米映画かのようなテンポの良さとわかりやすさ、そしてコメディにヒューマンドラマも絡ませた王道かつ巧みな映画でもあって、脚本も兼ねた監督はさぞや有名な人なんだろう…と思ったら長編初監督というのもこれまた驚きで、今後が楽しみすぎる監督ですね。
というかここ最近アジアの新進気鋭監督たちすごい人多くないですか!? 詳しくないけど。
社会問題を内包しつつ娯楽としても仕上がっている点も込みでいろいろすごいし見どころが多い映画だと思います。
一応映画ではわかりやすく製薬会社=悪でインドのジェネリック会社&密輸するチョンたちが善、とはなっていますが、これもよく言われるように視点によってどっちが善とか悪とか言いづらい面もあって、そこに対する悩ましさも観ていて感じました。
最初に開発した製薬会社は莫大な研究費をつぎ込んで製品化しているだけに、それを回収するための売価を設定するのはある程度はやむを得ない側面があります。(1瓶約55万円が適正価格かどうかはわからないしそれはまた別の問題ですが)
またこの薬が出回ってからどれぐらい時間が経っているのか(資金回収が済んでいるのか)にもよりますが、彼らからすれば苦労してお金も時間もかけて開発した薬を、成分だけ見て同じものを(勝手に)作って安く売るインドの会社が社会的に正しいのかと言うとそれはそれで違うだろうと思うのもまた当然です。
観客も人情的には主人公&インドサイドを応援したくもなるんですが、ことはそう単純ではなくて「誰が悪くて誰が良いやつ」というのは立場によって変わってくる…というのも深くて良い話だなと思います。
ましてや主人公の(当初の)動機は金稼ぎなので、「開発費の回収」という大義名分が無い分製薬会社よりも悪人とも言えます。
一見勧善懲悪のわかりやすい物語でありつつ、この辺りの社会性を内包している話なのがすごく良かったですね。面白さと同時に考えさせられる味わいがあって。
ちなみに僕としては(誰かを悪とみなすのであれば)結局補助金等で購入費用の負担軽減に務めなかった政府の問題なんじゃないかと思うので、余計に「よくこんな(政府批判と取られても仕方がない)映画を作ったな、作らせてくれたな」と思うわけですよ。どこが共産主義やねんと。そこがまた面白いなと。
観やすい良作
中国映画はなかなか触れる機会が少ないだけに不安な人も多いかと思いますが、さすがJAIHO・ネトフリでも配信しているだけあって万人が楽しめるとても良い映画だと思います。
油断していると良い意味でガツンとやられるのでぜひ。まさか泣かされるとは思わなかった…。
このシーンがイイ!
やっぱりラスト近くのシーンはフリが利いててとてもズルかったですね…。あれは泣いちゃう。
あと“黄毛”が運転するシーンね…あれもズルすぎる。
ココが○
主人公がダメ人間なんですが、最初のダメさと後半の感化されやすさというか、変化も含めて人間臭くてすごく好きでした。そこに情が見えるのが。
その他チームとなる面々もみんな個性があって好き。良いチームが出てくるのは良い映画。
ココが×
王道なので展開としてはオーソドックスではあります。
ただそれに対するアンサーとしての「実話を元にした物語」なわけで、もちろんそれなりに脚色は入っているでしょうがやっぱり「でも実話だからね」は強いなぁと思います。
MVA
チームメンバーみんな好きでしたが…順当にこの人に。
シュー・ジェン(チョン・ヨン役)
主人公の怪しげな薬屋。ダメ人間。
顔の丸みが他人事じゃねーなと思いながら見ていましたが、人間臭さをしっかり演じてくれてとても良かったです。クソなところはクソだし、でも人として憎めない良さが感じられて。
インフルエンサーのリウもすごく綺麗で良かったなー。あとはなんと言ってもリュがね…泣かせるよね…。