映画レビュー0375 『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』

本日ご紹介のこの映画、順番に観たのは本当にたまたまなんですが、前回レビューの「シェフ!以下略」の内容とだいぶシンクロしている面があって、あっちの映画に出てきたいわゆる「分子料理」と呼ばれるものの最前線に位置するのが、このエル・ブリというレストランで料理長を務める(正確に言えば閉店したそうなので、務めていた)フェラン・アドリアという人物らしいです。

こっちはドキュメンタリーなのでもちろん内容的には全然違うんですが、おそらく「シェフ!以下略」のバックボーンにはこのエル・ブリ(もしくはフェラン・アドリアその人)に対する批判的なニュアンスが隠れていそうな気がしますね。

なので、あっちを観た(観る)人は機会があったらこっちも観るといいかもしれません。

※なお、レストラン名の表記としては「エル・ブジ」の方が正しいようですが、邦題に則って「エル・ブリ」としています。

エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン

El Bulli: Cooking in Progress
監督
レオン・ベツェル
出演
フェラン・アドリア
オリオール・カストロ
エデュアルド・チャトルック
ジュリ・ソレール
音楽
シュテファン・ディートヘルム
公開
2011年7月27日 アメリカ
上映時間
108分
製作国
ドイツ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(DVD・TV)

エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン

“世界一予約のとれないレストラン”と言われる「エル・ブリ」の、新メニュー開発のプロセス、サービス提供の裏側を伝えるドキュメンタリー。

映画製作的にサボりすぎ。

4.5

ドキュメンタリー映画なので、取り扱う題材に関しての評価と、映画そのものの作りに対する評価の二面があるわけですが、まず題材について。

不勉強で申し訳ない限りですが、僕はこの「エル・ブリ」というレストランは知りませんでした。なんと毎年新メニュー開発のために半年間休業する、つまり1年の半分は開発、残りの半分で料理を提供する「レストラン」になる、というかなり特異なお店で、マーケティング面だけでも評判を呼びそうな営業形態ではありますが、実際料理についてもかなり奇抜で新しいものを“創作”しようとする姿勢は相当のもの。

さすがにコメディとして分子料理を皮肉的に扱った「シェフ!」のような奇妙な現場ではないものの、いわゆる普通のレストランの目線で見れば、かなり変わった機械を使っていたり、通常使用されない科学的なアプローチ(もっとも有名なものは“エスプーマ”という亜酸化窒素を用いた料理法らしいです)があったりと、確かに今までの「料理そのもの」の概念を崩そうとしている、最先端の料理開発が見られる面白いレストランだと思います。

おまけにここの料理長であるフェラン・アドリアという人は、なんと料理の鉄人もビックリ「世界最高の料理人の一人」とみなされているとか。その世界最高の料理人が生み出す新メニュー、その背景…というのは、僕は知らなかったですが、でも知っている人であれば料理人ならずとも興味のある人は多いでしょう、その時点でドキュメンタリーとしての価値は担保されているようなものです。テーマとしては(好き嫌いは別として)良いチョイス。

ちなみにこの「エル・ブリ」は、2011年7月末にレストランとしては閉店したらしいですが、軽く調べたところコースを頼んで約3万円ぐらいだったそうです。

さて、次に映画としての評価。

これは残念ながらあまり褒められたものではないように思いました。カメラワークはドキュメンタリーらしい臨場感を感じさせるものの、良かったのはその一点のみ。内容はあまりにも説明がなさすぎて、本当に素材をそのまま垂れ流している感じ。もしも監督が「ドキュメンタリーだから余計な説明はいらない」と思っているとすれば、僕はそれは間違いだと思います。嘘を入れるのは言語道断ですが、理解を進めるための最低限の説明はあっていいし、その方がより題材に興味が持てると思うんですよね。

例えば、テロップでもナレーションでも本人に喋らせるのでもいいですが、「メニュー開発はXX種類の食材を試して毎日○時間作っては試食の繰り返し」だとか、「この料理は最初食べた時はコレコレこう思ったが、こうすることでよりよくなった」とか、そういう若干観客に対して状況を咀嚼する言葉があっていいし、通常のドキュメンタリーってそういうものだと思うんですが、この映画は本当に作っている現場をただ撮影して垂れ流しているだけで、フェラン・アドリア始めその他登場人物たちのインタビューすら一切ありません。

結局、働いている人たちの「共通前提ありきの会話」だけで理解を進めなければならず、ああ、料理作ってるね、試行錯誤してるね、以上の感情が出て来ません。これは相当このレストラン、もしくはフェラン・アドリアという人に興味と知識がなければ、かなり入り込み辛い映画だと思います。

「最先端の料理を作り上げる現場を観る」という視点でもパーツ不足は否めず、とても“伝える”という意味を考えて作っているとは思えない映画で、テーマは良かったとしても映画としては(ドキュメンタリーというジャンルを考慮しても)ハッキリとつまらないと言っていいでしょう。

個人的には、話のネタとして、知識としてこの存在を知ることができたのは良かったと思いますが、それ以上のメリットは皆無です。特に映画としてはまったくダメだと思いますが、ただこういう存在を世に知らしめる価値はあると思うので、その分若干上積みして4.5点がいいところかな、と。

それとこれは完全に主観の話で余談になりますが、僕はこのエル・ブリの料理、食べてないだけに偉そうに言うのもなんですが、嫌いですね。

それこそネタ的に一度食べてみたいとは思っても、好んで選択したくなるような料理には見えませんでした。考え方が保守的なのかもしれませんが、「奇をてらう」ことに腐心するのは料理としてどうなんだろう、と。もちろん味の良さありきではあるみたいですが、それにしてもやっぱり、いわゆる添加物を使って今までとは違った料理を作ろう、っていうのは邪道だと思うんですよね。

それこそ「シェフ!」の世界のように、保守的と言われようが伝統的な価値を愚直に追い求める方が料理としては本流だし、そういう伝統を守ることそのものに価値があるように思います。これはおそらく日本人の素地にある日本文化の考え方が影響しているようにも思いますが。

ただし、こういう最先端で努力する人たちがいてこそ新しいものが生まれる可能性があるわけで、これはこれで間違い無く必要だとも思うし、嫌いではありますがその価値は大変なものだとも思います。どっちを選ぶかはその人次第でいいわけで、ただこういう世界を知ることができたのは純粋に面白かったな、と思います。

それだけに、映画としてもっと“見せる”工夫をして欲しかったのが残念。

このシーンがイイ!

スタッフを入れてのオープン準備のところが一番面白かったかなぁ。一番臨場感とリアリティを感じたような場面でした。

ココが○

上記の通り、かなり映画としては難のある作品だと思いますが、ただテーマ自体の面白さ故か、意外と飽きずに集中して観られたのはいいところかな、と。

あとこれは余談ですが、「ゆず」とか「かき」とか「まつたけ」とか、日本語で言っているんですよね。実際日本語が共通名詞になっているものもあるみたいですが、その辺も含めて、日本のエッセンスを料理に取り入れようとしている感じは興味深かったですね。

ココが×

これまた上に書いた通り、伝え方という面で全然ダメなところでしょう。なんというか、全部平面なんですよね。情報が。立体的に見せようとしていないような。

真上から見て四角なのはわかるんですが、その高さまで見えてこないような伝え方と言うんでしょうか。かなり伝わりにくいと思いますが、きっと観れば言ってることがわかるのではないかと。もっと多角的に見せて欲しかった。

こんな編集に意図を感じない「撮って流すだけ」の映像なら、中学生でも作れます。

MVA

毎度のことですが、ドキュメンタリーにMVAもへったくれも無いんですよね。まあ、一応選択だけ。

フェラン・アドリア(本人)

なんせ世界最高の料理人の一人ですからね。

目つきの鋭さが印象的。きっと相当なカリスマなんでしょう。偉そうとまでは言いませんが、威圧感のある感じがありました。

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