映画レビュー0495 『エリジウム』
はい、新年一発目の通常営業でございます。
去年の年末に借りてきたうちの1つ。観たかったんだけどなんとなく内容が想像ついちゃってる気がして後回しにしていましたが、今回借りてみました。「第9地区」で長編映画デビューを果たしたニール・ブロムカンプ監督の映画です。
エリジウム
嗚呼、格差社会。
地球で暮らす貧民と、何不自由なく暮らす超富裕層の格差社会を描いた社会派風味もありつつのアクションSFと言った感じのこの映画。「第9地区」でも差別問題が見え隠れしていましたが、この監督はこういう「スパイスとしての社会背景」の使い方がウマイですなぁ~。
現実ももはや先進各国では格差が広がって行くのが当たり前のこのご時世、こんな近未来もあながち「あり得ない」とは言え無さそうなリアリティがあります。
しかしこの近未来は、ま~なんともドライで無情な世界になっていて、エリジウムだったらカプセルに横たわるだけで難病も即回復、顔面すら修復されるっつーのに、かたや地球では「ああもうダメだね、さようなら」と寿命がはっきりしててもまったく対処してくれない、人間がまさに使い捨ての道具として扱われる世の中に。まあ、地球に住む貧困層は超富裕層にとっての奴隷と言っていいでしょう。
となると当然、地球側ではその奴隷扱いに反抗しようとする人たちも出てくるわけで、その辺が火種となって、地球とエリジウムの関係を揺るがす大きな事件が巻き起こる…というのが大体のストーリー。
120分無い映画ですが、とてもテンポが良く、映像的にもスラムとオアシスみたいな対比がはっきりしていて、飽きずにひじょーに楽しめました。単純に地球 vs エリジウムという話でもなく、地球にもエリジウム側の傭兵がいたり、エリジウムはエリジウムで上層部に政治的な対立があったり、頭がこんがらがらない程度にポツポツと対立軸があるので、わかりやすい物語ながら単純で先読みしやすいわけでもないという、なかなかいいバランスの映画になっていると思います。
“生”のためにエリジウムに向かおうとする主人公と、金や道具としての情報を手に入れようと彼をバックアップする組織が、たまたま手に入れた情報がとんでもないものであったためにとんでもなく大きな事件になっていくわけですが、この辺りの個々の絡み方、それぞれの思惑の使い方がなかなかうまく、事前に想像していたものよりも全然レベルの高い物語でした。
ベースにあるのは間違いなく格差社会ではあるんですが、「虐げられている人々が謀反を起こす」みたいに一言で語れるほど単純な構図(と展開)ではないのがお見事。「ただの娯楽SF映画」と言うにはもったいないうまさがあって、今年一発目になかなか面白い良い映画を観たな、と満足した次第です。
このシーンがイイ!
「顔面修復」やマックスの手術はなかなかのインパクト。その他風景にしても何にしても、映像がすごく綺麗で印象的でした。
ココが○
全体的に良く出来ていますが、この監督らしい印象としては、少し毛色の違う役者さんが多く出てくる気がします。南米系の人だとか。で、そういう人たちのおかげで、なんとなく裏テーマである格差社会の色合いを強調してくれているような、そういう意味で人の使い方もウマイなぁと思いましたね。SF映画としては特に変わった舞台ではないんだけど、キャスティングが少し特殊なおかげで少し変わった印象を持つというか。
考えてみれば、白人 or 黒人しか出てこない古いアメリカ映画だったり、そこに言い訳程度にアジア系を混ぜただけの映画だったりする方が、“世界”の描写としては不十分なのは当然なんですけどね。メインの言語を一つにしないといけない以上、いろいろ制約も多い中でこういうキャスティングでやる、っていうのは大変だろうけど意欲的で好きです。
ココが×
まあ、結末としては大体読めちゃうので、必要以上に期待すると肩透かしを食らうとは思います。あとはラストが少しあっさり気味かな、と。
MVA
おそらくマット・デイモンは客寄せパンダなんでしょうが、あんまり「マット・デイモンじゃないと!」みたいな感じがなかったのが残念。
ジョディ・フォスターはさすが。悩んだのは闇商人スパイダー役のヴァグネル・モーラ。多分この人、すごいなまってるような気がするんですよね。英語。でもそれがすごくいいんですよ。暑苦しくて癖のある感じが。だからこの人に…とも思ったんですが、こちらの方にします。
シャールト・コプリー(M・クルーガー役)
地球在住のエリジウムに雇われている傭兵。
さすが芸達者のコプリーさん、「第9地区」とか「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」とは全然違ったキレっぷりが良かったですねぇ。もっといろんな映画に出ても良さそうなのに。