映画レビュー1288 『友情にSOS』

今回はウォッチパーティです。Amazonプライムビデオオリジナル(限定?)作品。

テーマは社会派っぽいけどお気楽な感じなのかな〜と思って観たんですが…。

友情にSOS

Emergency
監督

キャリー・ウィリアムズ

脚本

K・D・ダビラ

出演

RJ・サイラー
ドナルド・エリース・ワトキンス
セバスティアン・チャコン
サブリナ・カーペンター
マディー・ニコルズ

音楽

レネ・G・バッショ

公開

2022年5月20日 アメリカ・アイルランド

上映時間

105分

製作国

アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(iMac)

友情にSOS

現代らしいテーマと巧みな作り。

9.0
3人の“マイナー大学生”の家に意識不明の“白人JK”が倒れていた
  • アメリカ社会に未だ根強く残る差別的な現状をリアルに問うコメディスリラー
  • 表のテーマはわかりやすいが、裏にも別の差別が潜んでいる巧みさ
  • 伏線回収も見事で脚本としてよく出来ている
  • 邦題に問題アリ

あらすじ

現代らしい描写で昔からの問題を「娯楽として」観やすい形にして問う、これはなかなか良く出来た映画だなと感心しましたがAmazonでの評価はかなり低いです。

その理由に思うところはありますがそれは後で書くことにしましょうそうしましょう。

黒人大学生のクンレ(ドナルト・エリース・ワトキンス)とショーン(RJ・サイラー)はルームシェア仲間の親友です。

ある日「一夜で7つのパーティをはしごする」計画を立て、ワックワクで大学から会場へ向かおうとしたところ、自宅のドアが開いていることに気付き「なんや危ないがな!」と戻ります。

彼らのルームシェアにはもう1人、ラテン系のカルロス(セバスチャン・チャコン)がいるんですが、そのカルロスがゲームに夢中になりすぎて戸締まりもちゃんとしてなかったんだろう…と入ったところ、リビングで見知らぬ若い白人女性が意識を失って倒れているのでした。

どうするかと思案する3人ですが、黒人2人にラテン系1人、そして白人女性が気絶中…となると警察を呼んだところで不利になる予感しか無いわけで、いろいろ相談した結果、病院に連れて行こうという結論に。

道中「やっぱりその辺の騒いでるところに置いていこう」とかいろいろ考えますが上手く行かず、やがて行方をくらました彼女を心配した姉が捜索を始め、GPSを頼りに彼らを追い始めます。

いろいろなことがありつつもことごとく悪手を踏み、どんどん悪化していく状況になすすべのない3人。どうなるんでしょうね…!

差別の入れ子が悩ましい

テーマとしては上記あらすじの通り、「黒人とラテン系というマイナー人種の男3人の元に白人女性(おまけに未成年)が意識不明の状態で転がり込んでくる」という、日本人ですら「やべえな」とわかる状況をどう凌ぐのか、どういう結末に至るのかを観る映画です。

ジャンルとしてはコメディスリラーとなっていて、確かに軽め(そして下ネタ多め)の序盤からしてコメディっぽくはあるものの、描かれる内容はそれに反して非常に重く、「現代アメリカの問題点を鋭く抉った力作」的なキャッチコピーがいかにもハマりそうな内容。まあ現代というかもうずっと続く問題なんですけどね。

つい先日も白人警官が黒人を取り押さえた挙げ句暴行死させた事件もあり、繰り返される悲劇に嫌でも思いを馳せさせられる映画でした。

そんな入り口としてはわかりやすい構図ではあるもののそれだけに留まらず、まず黒人2人のおかれた環境からして結構な差があります。

優秀な人物として将来が約束されていると思われるクンレと、対照的にヤンチャ(ややソフトな表現)なショーンの親友コンビという設定。ショーンの兄貴なんて完全なDQNでヤバさしかありません。

さらにもう1人のルームメイトであるカルロスはラテン系という「黒人とは違うマイノリティ」である難しさも当然あるし、さらに発端の「一夜で7つのパーティを制覇する」企画からハブられてるんですよね。カルロス。しかもご丁寧に「あいつはゲームに集中したいだろうから」と勝手な理由までつけられて。

日本でも実際よくあることだし、(確か)言明はされていないもののおそらく人種云々関係なく「あいつはノリが悪いから」とか「あいつといるとモテない」とかそういうしょうもない理由で“気楽に”ハブっただけだと思うんですよ。または「クンレと二人の方が面白い」とか(ハブるのを決めたのはショーン)。実際物語としても導入で軽く触れる程度の話だし。

でも僕はもうこの時点で結構ザワザワしましたね。

これは2人にとって「差別」と言うほど重いものではないのは間違いないんですが、ただ受けた側(カルロス)にとっては「差別」と受け取ってしまってもおかしくないのも間違いないんですよ。

そこに日頃から「差別される側である」2人が「差別する側にも回る」、つまり「差別される側の気持ちに立って考えられない」入れ子構造みたいなものが垣間見えて、ものすごい難しい話だなと思ったんですよね。

これはこの後、2人が喧嘩するときに軽い気持ちで口にする言葉に「女性差別」と取れる言葉が自然と混ざってくるところでも感じました。

おそらく彼らが日頃受ける差別の中には、彼らが口にした言葉と同じ程度の「(言った側にとっては)さして重みもない気楽なもの」も含まれているはずです。ニュアンス的には「うるせーなハゲ」ぐらいの。別にそんなハゲてることをバカにするつもりはない、ただのアイコニックな言葉として気楽に言っただけ、みたいな。

でも言われた側の受け取り方は違うわけで、その出し手と受け手の重さのギャップに気付けていない2人が主人公として差別に向かっていく物語というのは、なんとも皮肉だし深いものを感じましたね。ものすごく良く考えられた脚本だと思います。

さらにその上にもう一つ、「差別される側なのに差別するのか」という「差別されるからこそさらに重く見られてしまう」構造もあるわけですよ。白人が黒人に軽く暴言を吐くよりも、黒人が女性に軽く暴言を吐く方が「同じ軽い(気持ちの)暴言」でも重さが変わってくる問題性というか。わかりますかね。わかりますかね!?

そこにさらにすごく考えさせられたんですよね。罪は一緒でも、被差別側の方が重くなってしまうというジレンマ。

「君がそんなことを言うとは」みたいな。信頼していない人間の裏切りより信頼していた人物の裏切りのほうがしんどいのと似ています。最初の24で言うところのニーナみたいな。(例えが古いためネタバレも自己基準許容)

実はハイコンテクスト

なんか妙な例えを出したせいで深刻さが激減してしまいましたが、そういう「差別・被差別、意識・無意識」のあらゆる問題が巧妙に織り込まれている物語に感じられて、気軽に観てたけどもっとちゃんと襟を正して飲み込まないとダメな映画だぞと強く思いました。

「友情にSOS」じゃねえよと。そんな軽いタイトルにしてんじゃねぇ、っていう。

ただそんな社会派の話が、きちんと娯楽として普通に観られるドラマに仕上がっているのがまた素晴らしいと思うんですよね。誰が観てもあーだこーだ言える、入り口の広い映画になっているのが。

もっとも受け取り方にはかなり差が出そうな内容だし、表面上でサラッと「黒人は大変だね」ぐらいで観終わっちゃったら全然この映画を受け止めてない、たい焼きだったら尻尾だけ食って捨ててんじゃねぇと言われても仕方がないぐらい、おそらく作った人たちはもっともっと深い意味を込めていたと思います。友達の上下関係みたいなものさえあったし。

非常に学びの多い映画なだけに、学びの姿勢を求められる映画でもあります。

やもするとこの手の話はプロパガンダ臭が漂いがちだと思いますがそんなこともなく、むしろ娯楽映画の仮面をかぶっているからこそすごいわけですが、同時にそのせいでイマイチ評価が低いのかな、という気もしました。深く観ていかないと深さがわからないという。(語彙力に難)

早い話が「普通のちょい社会派コメディ」っぽく見えて実はかなりハイコンテクストな映画なんだと思うんですよ。

そのせいか映画好きが集まるウォッチパーティの参加者たちはほとんど絶賛していました。おそらくそれなりに映画の文脈に慣れている人の方がその意味するところを理解しやすい映画なのは確かでしょう。

別に自分は頭がいいとか映画通だよとかそういう風には思ってません。単純にそれなりに映画を観ていると言わんとすることが入ってきやすい、ただそれだけのこと。慣れの問題です。

それなりに創作物に触れていれば「おれ、この戦争が終わったら結婚するんだ…」なんて言われればこいつ絶対死ぬだろとわかる、それと一緒です。

(自分以外の)気付きを得られるという意味でもチャットしながら観るウォッチパーティにも向いたタイトルでしょう。すごくいい経験でした。

こういう現代の価値観にアジャストしていく機会を得られるだけでもすごくありがたいし、やっぱりウォッチパーティはいいよねと思った次第です。

このシーンがイイ!

ベタですがラスト近辺は好きですね。特にカルロスのイイヤツ感が爆発する辺り。

ココが○

結構言いたいことが多い映画だったので上に言いたいことは書きました。端的に言えば「学びの機会」でしょうか。

僕は「観る人が増えれば増えるほど世の中が少し良くなる映画の棚」を心の中に持っているんですが、そこに入れる資格のある1本だと思います。

ココが×

ほとんどないんですが、厳しい目で観ると…悲しいことに「現実だったらもっと悲惨」なことになっていたような気はします。

あくまで娯楽として受け入れられるレベルの物語にはなっていて、そこに優しさと同時にある種のヌルさはあったかもしれません。

それとこの手の話ならやっぱりLGBTQも入れてほしかったとは思います。逆に不自然に感じるぐらい(僕が観る限りでは)その辺りに触れられてなかったので。

カルロスがゲイ、って設定にしただけでもまただいぶ変わった気がしますが、逆に盛り込みすぎて説教臭くなるのを避けたのかもしれませんね。

MVA

割とマイナーよりの役者さんたちでしたが、皆さんさすが演技も上手でとても良かったですね。

そんな中、この人に。

セバスチャン・チャコン(カルロス役)

ラテン系、ややかわいそうな立ち位置の“友達”。

でもめちゃくちゃイイヤツなんですよマジで。笑い的な「面白さ」は無いかもしれませんが、これだけイイヤツは絶対に大事にしないといけないと思いますね。

イイヤツすぎて割を食うタイプな気がしますが、そこも含めてかわいげがあるいいキャラでした。

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