映画レビュー1056 『地上の星たち』
この時はネトフリでごっそりインド映画が終わるぞ、ってことでですね、こりゃまずい(けど長いのはきつい)ってことで「とりあえずこれだけでも観て!」というレビューを発見したこちらの映画だけ観てみました。
地上の星たち
良き師との出会いの大切さ。
- 大人の決めつけの“被害”に遭った子どもが一人の師に出会い、変わっていく
- どこの国の教育でも同じ問題がありそうな普遍性
- 例によって導入部がやや長め
- 期待を裏切るほどの良さは無く、“普通に良い”
あらすじ
ご存知インドの国宝と言っちゃっていいでしょう、アーミル・カーンの主演・監督作品。アーミル先生のご活躍については「きっと、うまくいく」「PK」のレビューをご覧くださいませ。マジでこの2本は超がつく傑作です。
で、この映画は正直に言うとその飛び抜けて素晴らしい傑作2本に感じた「期待以上の衝撃」ほどのものはなく、とても良い映画でしたが…あくまで「教育をテーマにした良作」の範疇に収まっている映画、と言った印象で、面白かったんだけど期待しすぎてそこまででもなかったノーランの「ダンケルク」に近い感じだな、と言う個人的な見解です。
物語は一人の少年、イシャーンの日常から始まります。
彼はヤンチャであまり協調性のないタイプのようで、いつも通学のバスを待たせては「早くしろ」と怒られているような少年。きっと自分の興味があることに夢中になっちゃうと他のことに目を向けられないタイプなんでしょうね。
そして彼はとにかく勉強が遅れているようで、各教科において常に成績が悪いために先生たちからの評価も低く、おまけに両親にその事実を隠すために返却されたテスト用紙も持って帰らずに捨てちゃうような子です。
そのため学校でも問題となってしまい、呼び出された両親(の特にお父さん)はこのままでは落ちこぼれになってしまうと懸念、ツテを頼ってとある寄宿学校に転校させることに決めます。
当然イシャーンは友達とも家族とも離れ離れになってしまうために猛反発しますが、「これも彼のため」とばかりに決定は覆らず。かくして一人家族から離れたイシャーンは完全にふさぎ込んでしまい、次第にかつてのようなヤンチャっぷりは鳴りを潜め、一人うつむきがちに過ごす日々。
そんなある日、彼の通う学校の美術教師に臨時講師としてやって来たのが、アーミル・カーン演じるニクンブ先生。彼はイシャーンを気にかけ、彼がこの学校に来た経緯を知ると同時に、成績の遅れがディスレクシア(失読症)にあると突き止めると、個別指導を行わせてくれと校長に直談判しますが…あとはご覧ください。
例によって前半が長め
3時間を切っているのでインド映画としてはぶっちゃけ短い方と言っちゃって良いような気がしないでもないんですが、それでもやっぱり前半は「イシャーンの日常(から見えてくるイシャーンの個性)」の描写に時間を費やしている印象で、やっぱりちょっと飽きると言うか…本題に入る前が長い印象は否めません。アーミル・カーン出てくるの、1時間過ぎてからだったんじゃないかなぁ。
まあその前半は、言わば後半の“逆転劇”に備えた前フリであり、いかにイシャーンがつらい状況にあるのか、また(一般的に見て)落ちこぼれに見えるのかを丁寧に描くことで、物語終盤のカタルシスを呼び起こそう…という意図はわかるものの、やっぱりちょっと長い。
お国柄の違いもあるんでしょうが、ここまで長くイシャーンのアレコレを見せなくても大体の観客はその境遇を理解するはずなので、ちょっと丁寧すぎるが故に冗長な印象はあるでしょう。
またこれは勝手な期待ではあるんですが、ニクンブ先生がイシャーンを引き上げる、言わば“見せ場”となるフェーズについても、僕が観てきた他のアーミル2作と比べると(話のジャンル的にそれを求めるべきではないんでしょうが)あまり裏切りのない内容だったので、とても良い話なのは認めつつも予想の範疇なのでそこまで深く刺さるものがなかったのは少し残念でした。
もっとも物語の種類的にあんまり劇的にしすぎると嘘くさくなってしまうのも事実なので、これはこれで良いんだと思います。単純に僕が「アーミル・カーン主演なんだからものすごい映画に違いない」と勝手に期待してハードルを上げちゃったのが問題なだけで、話としては至極真っ当で良い映画であることは間違いないと思いますが、同様にハードルを上げがちな人は多いと思うので、「そこまで期待しすぎるのも何だよ」とは言っておきたいところ。
っていうか最初に挙げた僕が読んだレビューにしても結構な煽りっぷりだったので、それを読んだ上で観ることにしちゃったのも悪いんですけどね…やっぱり期待のさせ過ぎも良くないよね…。
ただこの辺は子どもがいる親が観たらまた感じ方も違うだろうし、観る人の環境によってもだいぶ評価が変わってくる面(主に上振れ)もあるでしょう。
お子さんの成長に悩む親御さんはぜひ
何せどのレビューサイトでも結構な高得点を叩き出しているので、なおさら期待したくなっちゃう面もあるところですが、僕としては「そこまで期待しないで気軽に観たほうがいいよ」と申し上げておきましょう。
まあなんでしょね、僕だけかもしれませんが…「インド映画はまだ見ぬ世界を見せてくれる」過剰な期待があったりするので、「まさかこんな普通のイイ話じゃないだろ!?」とクレクレしすぎだった気はします。我ながら。だって「バーフバリ」とかも観てるとどうしてもすごいの期待しちゃうじゃない…。
一つ言っておきたいのは、お子さんの成長状況に不安を感じている親御さんにぜひ観て欲しいなということ。
順調に育っていない子も、どこでどんな才能を持っているのかわからないし、それを活かすも殺すも周りの大人次第なんだぞ、というのを改めて見つめ直すいいきっかけになると思います。
もしかしたら将来的に、この映画を観たことで教育方針を変え、その後大成する人物を育て上げた親御さんが出てくるかもしれないし、そう言う意味では計り知れない価値を持った映画であるとも言えるでしょう。
このシーンがイイ!
ベタですが、やっぱりラストのみんなで集まるとあるシーンはとても良かったですね。雰囲気だけでもすごく良いし、学校行事としても素敵だなと。
ココが○
非常に素直で真っ当なイイ話である点でしょうか。教育の大事さを改めて感じます。
ココが×
上に書いた通り、(それが必要か否かは置いといて)期待以上のものすごい展開が無かったので、予想の範疇に収まっちゃった感覚でしょうか。ただこれは言うまでもなく僕の単なるワガママです。
MVA
まあ無難ですけどやっぱりこの人でしょうか。
アーミル・カーン(ラム・シャンカー・ニクンブ役)
ご存知アーミル先生。演技もさすがですよ。さすが国宝、この人は説得力が違うなと。
まあこの人が良いのは置いといてですよ、やっぱり気になるのは耳毛先生の耳毛っぷりですよ。これは本当に一見の価値があるというか、どうやって生活しとんねんという衝撃の耳毛っぷり。飛び出すぎ。マンガかよ。
あれインドでは普通なんですかね…。日本ですれ違ったら二度見レベルじゃないですよ。っていうかすれ違いざまに顔にかかりそう。あの耳毛。