映画レビュー0372 『未知への飛行』
コメントを頂いたmomojiさんオススメの作品、早速借りて観てみました。この場を借りて熱く御礼。オススメありがとうございます!
あ、この場を借りるも何も自分のブログだし借りてないのか? あれ? でもFC2(※注:移転前の話)から借りてるってこと?
どうでもいいですね。ハイ。
あまりにも趣味とかけ離れたものは別ですが、基本的にオススメは常時大募集しております。ただし、ヒドイのはきちんと酷評します。当方ノー遠慮。
未知への飛行
途切れない緊張感が素晴らしい。さすがの密室サスペンス。
社会派の名匠シドニー・ルメット監督のモノクロ映画。
なんだか時代を感じるドSF的な邦題が付いてますが、内容は戦争の危機を描いたサスペンスです。概要は「博士の異常な愛情」そっくりなんですが、なんと同年公開で盗作疑惑もかけられたりしたとか。ただ、あちらはかなりブラックなコメディ色の強い映画でしたが、こちらはよりリアルで真面目な社会派戦争映画とでも言いましょうか。
今となっては使い古された感のある冷戦下の緊張を題材にした作品ですが、その「使い古された感」が余計な予備知識を必要とせずに最小限の情報で緊張感を生み出せる分、より濃厚なドラマに仕上がっている印象。
舞台は主に3箇所、大統領とロシア語通訳の2人がソ連側と会話をする個室、ペンタゴンの国防長官や学者が話し合うミーティングルーム、そしてレーダーが表示されている空軍司令部。この3箇所での会話のみで極限状態の緊張感を表現する演出はさすがの一言。
当然ながら、大統領の帰還命令すら受け入れられなかった以上、後はもう味方でありながら撃ち落とさざるを得ない状況に追い込まれるわけですが、そこに「この際ソ連を壊滅するべきだ」と強硬手段を訴える学者がいたり、味方が撃ち落とされることを良しとしない軍人たちの空気感であったり、それぞれの立場が入り交じることで、単純なアメリカvsソ連という構図ではなく、アメリカ内部の対立に加えソ連に対する疑心暗鬼も絡み合い、出口の見えない恐怖が否が応にも緊張感を高めてくれます。
単純な「東西冷戦」をテーマに、アメリカの正義を掲げる「いかにもなアメリカ映画」とは一線を画した、ある意味でアメリカの懐の深さを感じる映画と言えるでしょう。
「誠意を見せるための最終策」にやや非現実的な偽善を感じたので、手放しにベタ褒めする気にはなれないものの、それでもいわゆるプロパガンダ臭がするわけでもなく、娯楽と社会性を兼ね備えた名作と言える内容。名匠の名作でありながら(日本では)あまり広く知られていないっぽいのがもったいないですね。
ストーリーは「誤指令による核戦争の危機をアメリカ・ソ連がいかにして止めるのか」の一点なので、かなりシンプルで理解しやすいストーリーになっているのもイイ。この前レビューした同じシドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」と同様、社会派映画の入り口としてもかなりオススメな映画です。どちらもモノクロ映画ではありますが、だからこそ「モノクロは観ないです」的な人にオススメしたいな、と。
特にこの映画は、モノクロだからこそより強調される陰影がすごく印象的で、そこに登場人物たちの苦悩が見える気がしてさすがだなぁと感心させられました。
僕は勝手に(監督としての)ジョージ・クルーニーには現代のシドニー・ルメットになれる素質があると踏んでいるんですが、そう予感させた「グッドナイト&グッドラック」もモノクロ映画なんですよね。
ハッキリと理由は説明できないんですが、おそらく余計なものをそぎ落として内容に意識を集中させ、そこから想像を膨らませて現実に重ね合わせる作業に向いているのがモノクロ映画なのかな、と。一言で言えば、「味」ですかねぇ。
モノクロの味はやっぱりカラーには出ないものだし、余韻という意味でもかなり違ったものがあって、面白いなぁと思います。
このシーンがイイ!
いろいろ印象的なシーンはあったんですが、一番は大統領がソ連議長とのホットラインで会話をした後、言葉も無く通訳と水を飲むシーンでしょうか。
重苦しさがひどく伝わってくる良いシーンでした。
ココが○
冷戦というと古いイメージですが、意外と現在でも構図は活かせるというか、ありえない話では無いんですよね。今なら中国とアメリカでもいいし。
もちろん連絡手段だったり防護策だったりはもっとしっかりしているので、この映画の展開そのままで進むことはまず無いとは思いますが、でもいくら機械化が進もうが人は変わっていない以上、システムのどこかに漏れが出る可能性は否定出来ないので、古い映画でも「いやいやこんなことありえないでしょ」と一笑に付せないものがあります。
おかげでいまだにリアリティがあるし、面白いんですよね。
ココが×
これは上にも書いた、「全面戦争回避のための最終手段」のリアリティに尽きます。
ネタバレになるので詳細は書けませんが、なんとなくラストへの逆算で作り出した条件のようにも感じるし、ここだけはリアルから娯楽としての物語に軸足がだいぶ移っている印象がありました。
ただこれは原作の問題かもしれないので、映画としてどうこうとはなかなか言いにくい面があります。
MVA
ウォルター・マッソーの、「フロント・ページ」でのあの憎たらしくもおかしい演技とは打って変わってのシリアスな演技も良かったし、ヘンリー・フォンダの見事な大統領像も好きでしたが、今回はこちらの方にしようと思います。
ラリー・ハグマン(バック役)
大統領の通訳で、ソ連とのホットライン中に通訳して大統領に伝える役柄。
このホットラインのシーンはヘンリー・フォンダとラリー・ハグマンの二人演技なんですが、ここでの緊張感が素晴らしいんですよね。どうしようもない焦燥感と、事態を理解しているからこその重さがすごくよく現れていて、この二人のシーンはどれも名シーンだったと思います。
特に彼は僕が調べた限りでは映画初出演だったっぽいんですが、若いながら苦悩と重圧を感じさせる演技はお見事で、まあよくヘンリー・フォンダと渡り合ったなと感心させられました。この人の表情を映したシーンでの深い影がすごく印象的だったなぁ。