映画レビュー0741 『蒲田行進曲』
レンタル2本目はオススメされたこちらの映画。邦画をレンタルしてきたのは初めてかもしれない…。
タイトルも曲も超有名な映画ですが、実際どういう内容なのかはよく知らないという人も多いんじゃないでしょうか。それが俺さ。
蒲田行進曲
昭和の役者バカたちが紡ぐ人情物語。
♪に〜しの〜みやこ ひ〜がしの〜みやこ 死〜ね〜 ファ〜ンペルシ〜
と東西からファン・ペルシーを殺しに行く歌なのかと思っていたんですが当然違ったよね。
蒲田行進曲と言えば「階段落ち」、それぐらいの知識はあったので、てっきりそのまま新撰組と坂本龍馬のお話なのかと思いきや、それはいわゆる「劇中劇」の類で、実際はその新撰組の映画に関わる役者・スタッフとその周辺の人たちの日常を描いた人間ドラマでした。
主人公は3人。一人はトップスターとして撮影中の新撰組の映画で主役を張る男・銀四郎。ただ彼は芝居は臭いし「子供のまま大人になった」と評されるぐらいに勝手気ままな人物なので、あまりスタッフからのウケも良くないし少々先行き不透明。プライドだけは人一倍高く、ある意味傍若無人な振る舞いで観ていてイライラすることも多々…なんだけど、情熱はあるし悪い人間ではないしでなんだかんだ愛したくなる、ほっとけないタイプという感じでしょうか。
二人目はその銀四郎を慕う大部屋役者のヤス。彼はいかにも下っ端的な立ち居振る舞いが板についた典型的な舎弟タイプ。銀四郎に小さな役を持ってきてもらってなんとか役者として生活している模様。
三人目は元女優で銀四郎の恋人・小夏。登場時はこれまた鼻につく女優然とした女性かと思いきや、家事もしっかりこなして男を立てる、昭和らしい尽くすタイプの女性。なんだかんだワガママな銀四郎にも惚れていたものの、彼の子供を身ごもったところでなんとヤスに押し付けられることになります。
もうこの辺の顛末が昭和と言うか…芸能界的な世間との違いも感じざるを得ないお話なんですが、銀四郎は現在もスターながらここからさらに上を目指す大事な年だということで、そんな時に身重の彼女なんて持ってたら売れるもんも売れなくなるぞと。芝居は臭いしどう考えても見た目で売ってるっぽいスターなだけに、「ここから」の時に結婚やら隠し子がいたやらはマズイということなんでしょう。かと言ってすっぱり別れるということもできない辺りが良いのか悪いのか…ある日ヤスの狭いアパートに彼女を連れてやってきて、「俺の代わりにこいつをもらって俺の子供も育ててくれ」と。すごい話。
なんなら「女に困ってるお前に妊娠してるとは言えこんなイイ女をくれてやるんだ」ぐらいの勢いでヤスに結婚してやってくれと頼むわけです。小夏の気持ちを思うとひどい話としか思えないんですが、小夏は小夏で銀四郎に惚れきっているだけに「銀ちゃんがそう言うなら」とその話を受け入れます。
ヤスは完全に舎弟根性が染み付いている上に、元々女優時代の小夏のファンだったために素直に受け入れ、かくして何の恋愛感情もない二人が同棲生活を始め、さらに映画の撮影もいろいろ問題が起こりつつ…果たして彼らはどうなるのか、というお話です。
この入口の時点でかなり価値観的に厳しい話だよなぁとは思って観ていました。いっくら昭和の役者の話とは言え、ちょっと小夏の気持ちを疎かにしすぎなやり方と、僕がよく言う「男のファンタジー」的な尽くす女性という設定は嘘くさいなぁと思いつつ。いくら好きだからって彼の子供を身ごもって別の男、しかも舎弟と結婚させられる…って無いでしょー。
ところが…「コレ(小指)がコレ(お腹膨らむ)なもんで」と繰り返し、危険なスタント的仕事を日々こなしてお金を稼いでは献身的に寄り添おうとするヤスに次第にほだされていく小夏。入口は変わってるけど、もしかしたらこれで幸せになれるのかもしれない…と情が移っていきます。
そう、テーマとしては「情」でしょうか。情によって変わる女性。そこに変わらない男と変わっていっているかもしれない男と、そんな三人を中心に「危険すぎて中止になった」階段落ちの撮影を絡めながらクライマックスまで一気に見せてくれます。
基本的にこの手の話を観ていると大体「男はクソだな」という部分に目が行くんですが、今回もご多分に漏れずいろいろクソな面が垣間見えはしました。ただ…なんでしょうね。やっぱり昭和の人情物語感、なのかなぁ。価値観としては納得できなくても、それぞれが一生懸命生きている様がなかなかグッと来るんですよね。これが。
うまく映画撮影のクライマックスと各人の人生を交錯させながら、それぞれがそれぞれの幸せを求めて喧嘩したり協力したりしながら答えを探していく姿はなかなか心打たれるものがありました。
最初の経緯についての価値観を除けば、テンポも良いし盛り上げ方もうまいしで、思っていた以上に「普通に楽しめる」良い映画だと思います。初めてだったんですがさすが深作欣二監督というところでしょうか。詳しくないけど。
やっぱり邦画はちょっと古い方が良い映画が多いような気がしますね。まだ映画を文化的に高めようとする熱があったような。適当な感想ですが。もちろん新しい邦画にも良い映画はたくさんあるんだろうと思いますが、印象的に今はもっと商業主義にすぎる感じがするな…。
このシーンがイイ!
んー、ヤスに小夏が「よろしくお願いします」ってしっかり返事をしたところ、かなぁ。あそこの二人のやり取りはなんかグッと来るものがありました。
あと銀ちゃんの車の安っぽさが半端なくて、あの車が出てくるだけで笑っちゃう感じが良かったですね。
ココが○
不器用でも全力で生きている感、っていうんでしょうか。登場人物みんな一生懸命な感じがすごく良かったですね。こういう熱が無いと役者もできないし、もっと言えば人生もうまくいかないんだよというメッセージのような気がして…。僕ももっと熱くならないとダメですね…。
ココが×
やっぱりちょっと入口の経緯がヒドイ話なので、最後までそこだけはどうなのかなぁと引っかかってはいました。銀四郎ひどすぎね? と。でも観ていて最終的には銀ちゃん含めてみんな好きになっちゃったので、人物描写がうまいんでしょうね。
MVA
銀ちゃんとヤスの二人は舞台でやっていてそのまま映画でも演じ、結果的に二人ともここから売れていくようになったんだとか。今や映画好き的には完全に「セレモニーの人」としておなじみの風間杜夫も当然ながらフレッシュでイケメンだし、作った「安っぽい人物」感が見事でした。
ヤス役の平田満もこれまた完全にそれっぽい人物として自然でしたね。絶対こういう人いるでしょ感が。
ただ今回はこの方にします。
松坂慶子(小夏役)
結局この人に一番泣かされたというか…感情豊かな演技に一番グッと来ちゃいましたね。
段々綺麗に見えるようになっていくような、棘がなくなって丸くなっていく感じもズルい。やっぱりこれまた大女優感がすごいなーと。おっぱいも出し惜しみせず、とても良かったです。