映画レビュー0388 『フード・インク』

これもビデオニュース・ドットコムで紹介していた映画で、食の安全についてのドキュメンタリー映画です。結構他にもこの手の映画があるので、また追々とご紹介していこうと思ってます。

フード・インク

Food, Inc.
監督
ロバート・ケナー
脚本
ロバート・ケナー
エリス・ピアルスタイン
キム・ロバーツ
出演
エリック・シュローサー
音楽
マーク・アドラー
公開
2009年6月12日 アメリカ
上映時間
94分
製作国
アメリカ

フード・インク

アメリカの畜産業・農業を中心に、現代の食物生産現場の問題を伝えるドキュメンタリー。

観るには勇気がいるものの、観た方がいいとは思います。

8.0

「食の安全」という言葉はもう散々耳にするようになりましたが、きっと大半の人の「食の安全」という言葉に対するイメージは、中国のずさんな管理であったり、たまに出る食中毒であったり、今であれば放射能汚染に関するものであったりだと思いますが、ここ最近、個人的にそういう次元とはまた別の「食の安全」について目にする機会が増えていて、簡単に言えば「普通に売っているものも危ないよ」というような話をよく聞くんですね。

例えばマクドナ●ドみたいなところで使っている牛肉は、大量の膿が出てるものを洗って使ってるとか、チキンナゲットの原料になる鶏肉は品質がひどいために薬漬けで消毒したあとに味付けをしてるだとか、まあ真偽は別としていろいろ都市伝説的なものも含めて噂はあるわけです。

それなりに情報に敏感な人であればそういう話は少なからず伝わっていると思いますが、その表層的な情報の内実を、実際に産業に従事する人たちへの取材を通してまとめたドキュメンタリーがこの映画です。

この映画の舞台はアメリカで、当然アメリカの大企業を中心に話がまとめられているわけで、「まあ日本はこれほどひどくないでしょ」と思いたくもなりますが、実際アメリカ産の食品は山ほど入ってきているので他人事にできるような話ではありません。

それこそマ●ドナルドで売っているものはそのままこの映画で取り上げられているものに直結しているだけに、まあさすがにもうマク●ナルドに行こうとは思えません。

それは「こんな体に悪そうなひどいものは食べたくない」というのももちろんありますが、同時にこの映画で触れられているもう一つの問題、企業と労働者の問題も含まれます。つまり、こういう食品を買うことは、自分の体に対する影響以外にも、「劣悪な労働環境で稼ぎを生み出す企業の延命につながる」という問題です。

入り口は気が滅入るものの、「今の安い食肉はこうして作られている」という視点でしかないんですが、やがてそういう場所で働く人たちにもスポットライトをあて、いかに「安い食肉のためにいろんな人の人生が犠牲になっているか」にフォーカスが移っていきます。その視点がまた非常に考えさせられるし、同時に「こういう企業の製品を買うべきではない」と誰もが思うことでしょう。

この辺はさすが映画らしいというか、切り口と問題提起に良い意味での意図が感じられて、ただ垂れ流すだけだった「エル・ブリ」とは違う、映画としての作りのうまさを感じました。

劇中で取り上げられている畜産の形というものは、多少知識として知っていても、実際に目の当たりにするとかなり強烈なものです。

ぎゅうぎゅう詰めの鶏舎で育てられ、体は大きくなるものの運動不足故に数歩歩くことすらできない鶏。人の手を介さず、泣き叫びながら自動的に殺処分されていく豚。自分の糞尿の上で暮らし、胃に穴を開けられ、干し草よりも安上がりなトウモロコシを流し込まれる牛。どれも不健康極まりなく、自ずと病気にもなるために抗生物質や薬漬けにされ、とても口にしたいと思えるような育てられ方をしていない動物たちですが、スライスしてスーパーに並ぶ頃にはそのバックストーリーは見えません。

おそらくは消費者側にも「見たくないものは見ない」という意識はあるはずで、「知らないから安くて美味しければいい」という無関心の先に、生き物としての尊厳など微塵も感じられない動物たちがいるわけです。

ちょっと感情的な物言いになってしまいましたが、やはりこの「現実に起きていること」は非常に重く、まさに人間の根源である「生命を食べて生きていくこと」について、無自覚でいることの罪を考えざるを得ません。

ただの工業製品として生き物を扱うのか、それとも命あるものとして感謝を持ちながら犠牲になってもらうのか、「人間のために育て、殺し、食べる」という結果は同じではあるものの、やはりこの違いを「一緒じゃん」と割り切れるほどのドライさは持ち得ないのが普通の人だと思うし、そもそも工業製品として作られた食肉は人にとっても良くないものという問題もあるわけで、「どこで作られ、どこから来た食べ物なのか」ということを、今一度しっかり問い直さなければいけないという思いを強くしました。

自宅で料理をするのであれば、ある程度はコストが高く付いても、やはりしっかりと作られ、気持ちとして(倫理的に)納得の行くものを食べたいと思いますが、問題は外食の時で、例えば会社の同僚と飲み会でも、なんて言うと、大抵はやっすいチェーンの居酒屋になるので、そうなるとこういう産業の支援にもつながる上に、さらに例のブラック企業・ワ●ミやモンテ●ーザの支援にもなってしまうというジレンマ。

かと言って個人経営のお店はしっかりとしたルートで食材を仕入れているのかというとそれもわからないし、これはなかなか、徹底するのも難しいな、と。

ちなみに僕としては、今までも例えばマク●ナルドにしても、別に「好んでは食べないけど機会があったら気にしないで食べる」程度でいたんですが、この映画を観て一番変わり、また困ったのは、安全性以上に倫理的な気持ちの部分でした。

綺麗事になりますが、どうしても同じ動物として、工業的に作られ、一切の感情を込められずに作られた食肉を作る企業を生き長らえさせることはしたくないな、と。

食べること自体は自分でリスクを背負うことなのでまだいいとしても、買うことでその企業を延命させることについては、出来る限り自分の意志で避けるようにしたいと思いますね。そういう視点が芽生えただけでも、大変なことではありますがいいことだったのかなと思います。

ちょっと長くなったので割愛しますが、この映画で触れられているもう一つのポイントとしては、あの悪名高き企業・モンサントの農業(種)支配の話です。

これもかなり根が深く、またどうにも許せない問題なんですが、今まさに日本はTPPという形でモンサントの魔の手が忍び寄りつつある状況にあり、これもまたかなり現実味を帯びた問題になってきているので、今この時期だからこそ、日本人こそ観るべきなのかなと思います。

もちろんTPPは食肉にも関わる問題でもあるので、果たしてこの映画を観て、空論の経済成長だけを求めて、参加を支持できるのか…。もちろん考えての上で支持するのであればそれでいいと思いますが、なんとなく小難しいから、で避けているとまさにこういう企業の延命につながるわけで、一度立ち止まって現実を見るためにも、この映画は観ておく価値があると思います。

いかに今の経済が不自然で罪深いものなのか、そして同時にそれに対する反動も現れ始めているという時代が見えて、知的好奇心の強い方には興味深いものがあると思います。「選択肢が無いわけではない」という視点もまたポイントかな、と。

また、もう一つ非常に重要なポイントとして、この映画は「取材させてくれた企業や人で構成されている」という当たり前の事実があります。

つまり、裏を返せば「取材させてくれなかった企業」がこの先にあり、その内実はより過酷で倫理的に許せないようなものがあるのは想像に難くない、ということです。なぜ彼らは取材を拒否したのか、そういった「この映画の先」に思いを馳せると、なおさら自分自身が取るべき選択というものは定まってくるのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、僕は個人の判断は文字通り個人のものだと思うので、特に他の人が何を支持しようが口を挟むつもりもありませんが、ただ「きっちり考えて答えを出す」ことをサボるのは非常にまずいと思うので、ぜひ「考える」ためにも、こういう映画は観て欲しいなと思います。

そう思えるのがいいドキュメンタリーの証でもあるわけで、観るのが怖い部分もありますが、気になる方はぜひ。

このシーンがイイ!

ドキュメンタリーなので特に「このシーンが!」っていうのもないんですが、やっぱりいちばん印象に残ったのは、豚たちが機械で押し運ばれるシーンですね…。一番残酷だった気がする。

ココが○

映画としては、いいドキュメンタリー映画そのものの作りで、理解しやすく、また適度に演出もあるし、時間も短めで非常に観やすいです。

ドキュメンタリーとして重要な、テーマそのものの価値もかなり高いものだと思うので、ぜひ一人でも多くの人に観てもらいたい映画ですね。

ココが×

どうしてもテーマが重いもの、生活に直結するものなので、観る怖さはあると思います。

ただ、絶妙にギリギリの残酷さだとも思うので、思ったより堪えるものではなかったです。個人的に。

MVA

まあ、ドキュメンタリーなのでどうもこうもないんですが、一応この方にしておきます。

エリック・シュローサー(本人)

食事情を追うジャーナリスト。こういう仕事をするジャーナリスト、日本にももっと増えて欲しいですね。

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