映画レビュー1620 『フォックスキャッチャー』

今回の映画、詳細は忘れましたがレンタル開始後結構早い段階でTSUTAYAに借りに行ったことがあり、そのときはやめたんだか在庫がなかったんだかで借りずに今まで来てしまったんですが、この日何を観ようかなとU-NEXTをチェックしているときに発見、ようやく観ることになりました。

フォックスキャッチャー

Foxcatcher
監督
脚本

E・マックス・フライ
ダン・フッターマン

出演

スティーヴ・カレル
チャニング・テイタム
マーク・ラファロ
ヴァネッサ・レッドグレイヴ
シエナ・ミラー
アンソニー・マイケル・ホール
ガイ・ボイド
ブレット・ライス
サマラ・リー
ジャクソン・フレイザー
ジェーン・モーダー
ダニエル・ヒルト

音楽
公開

2014年11月14日 アメリカ

上映時間

135分

製作国

アメリカ

視聴環境

U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

フォックスキャッチャー

大金持ちが持つ悲哀をここまで感じた映画は初めて。

8.5
大富豪のチームに招かれた金メダリスト、給料も高く理想の環境と思われたが…
  • ロス五輪で金メダルを獲得したマーク・シュルツが大金持ちに請われ彼のチームへ
  • 彼の兄で同じく金メダリストのデイヴ・シュルツは当初渋りつつも最終的には同じく彼のチームへ
  • 大富豪の「恵まれた人生」だからこその満たされなさ、未熟さが強く印象に残る
  • スティーヴ・カレルが異質な大金持ちをまったく笑いなく演じる

あらすじ

評価的にもう一つっぽかったんですが全然良かったですね。地味ではありますが良い映画だと思います。

ロサンゼルスオリンピックのレスリングで金メダルを獲得したマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は、同じくロス五輪の金メダリストである兄のデイヴ・シュルツ(マーク・ストロング)と切磋琢磨していましたが、ある日デュポン財閥の御曹司であるジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)が自らコーチとなって運営するチーム「フォックスキャッチャー」に誘われます。
高邁な理想を掲げるジョンに感化され、また本人は「ふっかけた」と言っていた年俸も簡単に支払ってくれると約束され早速チーム入りするマーク。
なにせ“あの”デュポンの御曹司なので金は唸るようにあるようで、高給に加え最新の設備、そして住居も提供してもらい「あとは練習に打ち込むだけ」の状況を手に入れたマークは順調に試合にも勝ち、ジョンからも友人として認められていきます。
しかし彼が同じくチームに引き入れたかった兄のデイヴは「家族があるから」とオファーを断り続け、ジョンはそれが気に入らないため次第にマークとの仲も冷えていくんですが…あとはご覧ください。

ずっとどんより

元々殺人事件を描いた映画ということは知っていたので、サスペンス的な映画なのかなと思って観始めたんですがそういう感じの映画ではなくてですね。とても重みのある人間ドラマでした。その行き着く先が殺人事件だった、という感じ。
アメリカではかなり有名な事件のようで、またおそらく日本でもそれなりに話題になっていたと思われますがこの頃の記憶はあまりないので事件の実際のところはまるで知らず、また鑑賞時点で「誰が誰を殺すのか」も知らずに観ていたのでその点はあえて触れないでおこうと思います。多分知らない方が(言い方はアレですが)楽しめると思うので。
というのも、とにかくスティーヴ・カレル演じる大富豪、ジョン・デュポンの人としての未熟さが強く感じられる内容になっていて、ぶっちゃけ「(主要3人のうち)誰が誰を殺しても成立しそう」な話なんですよね。
ジョンは金持ち特有の鼻持ちならなさその他いろいろな人間的な問題(後述)があるのでシュルツ兄弟のどっちかから殺されてもおかしくなさそうだし、同様にジョンは精神疾患の疑いを持たれてもいたようなので彼がどっちかを殺してもおかしくない。
兄弟は兄弟で「同じレスリングの有力選手」として嫉妬が絡んでもおかしくないので、もしかしたらマークがデイヴを殺すパターンもあるかも…と。
唯一デイヴだけはとにかく人格者のようなので彼が殺人を犯す可能性は低いだろうと思って観ていましたが、まあこれだけ濃密かつ特殊な環境に置かれると何があってもおかしくないし「一番罪を犯しそうになさそうな人間が罪を犯す」のが一番ショッキングで面白いわけでしょう? としたり顔で予想したりもしてたので彼の犯行もないわけではないぞ、と。
そんな感じで主要3名の人間関係が疑心暗鬼でクソまずいバターになりそうなぐらいグルグル回っていたのでもう観ていてずっとどんよりした気持ちになるような映画でした。そしてそこが面白かったです。
ただこう言ってると「あいつ許せねぇ」のトライアングルで下世話な物語を展開するように聞こえるかもしれませんが、そんな下世話感はまるでなく、きちんとした「オリンピックで結果を残そうと奮闘する人たち」の姿を追いつつも終始不穏な雰囲気が漂っている…というような映画です。

で、問題のジョン・デュポン。
先ほど書いたように「いろいろと人間的な問題がある」ように見えるキャラクター。
あくまで僕が観ていた感覚でしかないですが、とにかく「財閥御曹司」でお金にはまるで困っていない、というかおそらくお金のことを意識したことがなさそうなぐらいに恵まれた大金持ちなんですが、それ故かちょっとしたエピソードでことごとく「満たされていない」様が描かれます。それは話しぶりから幼少期からそうだったんだな、と思わせるように。
「大金持ちの財閥御曹司」とラベリングされている時点で、もう近寄ってくる人間は誰もが「お金にしか寄ってこない」ような人生を過ごしてきたのではないか…と勝手に想像しましたが、裏を返せばそれだけ「素の自分を認めてくれる、愛してくれる存在」への渇望が強い人物のように見え、早い話がことさらに承認欲求が強い。とにかく自分を認めさせたがるし、自分への良い(良いもののみ)評価を聞きたがる。悪い評価は聞かないどころか言う隙を与えない、「そんなはずがない」と心底思っているようなタイプに見えました。
ただ愚鈍ではないので、周りの人が自分を“本当の意味で”評価していないことも薄々勘付いているようにも見えたんですよね。金の先に評価があって、本当のことは口にできないこともわかっているような。もちろんそうさせてるのは本人の振る舞いなんですが、そこにまでは思いが至っていない感じで。
その自己評価の高さ、自己肯定感と回りの評価のギャップにずっと苦しみ、それを埋めるためだけに金を出すしチームに口も出すし尊敬されたがる…という人物。
この人物像の描き方、そしてスティーヴ・カレルの演技が本当にすごく良かった。映画として。人としては嫌だけど。
ただでさえ恵まれてるし同情はできませんが、ここまで大富豪の持つ悲哀、内面の幼児性を感じさせた映画は初めて観た気がします。
それもコメディならまだしも、大真面目に真っ向から「大富豪故の異質さ」をちょっとしたシーンの積み重ねで感じさせるんですよ。そこに凄みを感じましたね。

重めの映画を観られるときに

事件の顛末はぜひ観ていただいて、ということでこの辺にしましょう。
個人的な話をすれば、最近何度か書いているように「毎週1本は自動的に必ずステイサムの映画になる」呪いにかかっているのと、自分の好みで選ぶと軽いコメディ系が増えてしまうのとで本当にここのところ重めの映画を観る機会が減ってきてしまっているので、そこにこの映画はとても良かったですね。刺さりました。
逆に言えばそれなりに観るタイミングを考えないと集中しづらくてしんどくなりかねない地味さもあるので、とても良い映画だと思いますが観るときはタイミングを考えてね、ということで。

このシーンがイイ!

ん〜やっぱりデイヴがドキュメンタリーのインタビューを受けてるシーンですかね…。結局あのシーンは使われなかったのではないかと予想したんですが…どうなんでしょうか。

ココが○

とにかく人物描写が秀逸。三者三様それぞれがセリフ以外の、出来事や演技で人となりを理解させる作りはかなり巧みだと思います。

ココが×

地味なところぐらいでしょうか。今回集中して観られたから良かったものの、眠くなるタイミングだったら多分相当微妙な評価を下していた気がします。
それだけ繊細な作りというか。

それと実際の事件を元にしてはいるものの、少し調べた感じではそこそこ脚色はありそうな感じはしました。なんだかんだ最後を劇的に見せるがためのフリとしての人物描写と言えなくもなさそう。
そのままそれが良くないというわけではないですが、まるっきりこの人物像を信じてしまうのもまた違うのかなと思います。

MVA

3人とも本当に見事で、甲乙つけがたい名演技でした。
普通に考えればコメディ色を廃したスティーヴ・カレルですが、この人は元々上手いのは知っていたのでこちらの方に。

チャニング・テイタム(マーク・シュルツ役)

レスリング弟。
人としては失礼ながらパッとしないキャラクターなんですが、そのパッとしなさ、意志の弱さみたいなものがきちんと出ていてとても良かったです。
そもそもチャニング・テイタムに演技派のイメージがなかったのでそのギャップでやられたというか。すごく上手でしたね。本人も「今までで一番難しい役だった」と言っていたそうでそれも納得。
兄のマーク・ラファロはスティーヴ・カレルと同様に元々お上手な方だと思っていたので、めちゃくちゃ良かったんですがチャニング・テイタムの意外性の勝ちかな、と。

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