映画レビュー0267 『ガタカ』

これを書いている日曜日のこと、さっき近くの109シネマズを覗いてきたんですが、初めて見るほどの混みっぷりで入場待ちの行列がすごかったんですよねー。何にそんなに並んでたのか…。

今の時期は「アメイジング・スパイダーマン」だと思うんですが、あんなに混むほどのものなのか…。謎だ。

「3D、クソですよ」ってそっと言ってあげたかったけど、「アメイジング・スパイダーマン」はまだ観てないので勝手なことはすまい、と黙ってパントマイムして帰って来ました。(NO MORE的な)

ガタカ

Gattaca
監督
脚本
音楽
公開
1997年10月24日 アメリカ
上映時間
106分
製作国
アメリカ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(ブルーレイ・TV)

ガタカ

生まれた瞬間に遺伝子ですべての優劣が判明し、恵まれた職につける“適正者”と差別の対象となる“不適正者”が即座に区別される近未来。“不適正者”のヴィンセントは宇宙飛行士を夢見るが当然受かるはずもなく、だがどうしても夢を捨て切れない彼は、事故で下半身不随となった超優良“適正者”、ジェローム・モローの遺伝子を買い取り、偽物として宇宙局「ガタカ」の局員になる…。

儚く切なく美しい、SFの名作。

10

NASAの「現実的なSF映画1位」に選ばれた作品らしいですが、実際結構近い将来に有り得そうな遺伝子操作と遺伝子調査の世界のお話。現実だったら窮屈で窮屈で、どうせ俺は一生清掃員だろうな、アーネスト・ボーグナインさんお疲れ様でした、なんて腐りつつ観てましたが、まあ予想以上に素晴らしい映画でした。

15年前の映画ですが、今もってまったく色褪せない名作と言っていいでしょう。時代的にも、CGでゴテゴテやろうとしてなかったのが逆に良かったのかもしれません。

遺伝子ですべてが決まり、遺伝子を調べるインフラも完璧に整っている近未来。

最近は某TSU●AYAの某ポイントカードなんてどこに行ってもポイントが付くよね、なんてうへらうへら提示してたら己の個人情報と購入履歴やら嗜好やらがすべて抜き取られてデータ化されているのは間違いの無いところですが、その某ポイントカードの代わりに常に遺伝子チェックが入るような。そんな遺伝子が身近になった世界のお話です。

そしてその場で即「お前はダメな人間だ」なんて判定されちゃうような、非常にドライで無機質な、いかにもSF的な世界でもあるんですが、ただ当然そういうシステムが出来上がるとそれに抗う形での「金儲け」も出てくるわけで、今作では「何らかの事情によりリタイアを余儀なくされた“適正者”の遺伝子を“不適正者”が買い取り、適正者になりすます」というビジネスが存在しています。

そのビジネスを頼って“適正者”ジェローム・モローになりすまし、宇宙飛行士を目指す“不適正者”ヴィンセントが主人公。

順調に宇宙局(簡単に言えばNASA的なところ)「ガタカ」に入り、土星へ向かうクルーとして選ばれたヴィンセントですが、ある日自分の素性を疑っていた上司がガタカ内で殺害され、その捜査中に“不適正者”ヴィンセントのまつ毛が警察の手に渡ってしまい、「ヴィンセント」が容疑者として警察に追われる存在に…。ただ自分が「ヴィンセント」であると知るのは、ガタカには自分以外誰もおらず…というお話。

さて、何が良かったのかというと、ここまで読むと予想外…というか観ていても予想外ではあったんですが、基本的にこの手の話だと、「なりすまされる」相手は世間的に抹殺されるわけで、敵対するなり殺害されるなり死亡してるなり、後ろめたい存在となるのが当たり前ですが、この映画ではそのなりすまされる“適正者”、ジュード・ロウ演じるジェローム・モロー本人はなりすます“不適正者”ヴィンセントと共同生活をしていて、そこには確実に「男の友情」が存在していました。(それ以上のものを匂わせそうなシーンもありましたがそれは置いといて)

自分になりすましている男をバックアップして、なんとか宇宙へ行かせてやろうとするジェローム。それに応えようと人一倍しんどいであろう日々を送るヴィンセント。そこには“適正者”“不適正者”の差別も無く、ごくごく当たり前な、でもしっかりとした「友達関係」があって、その味わいが無機質な世界に人間らしさを与えている感じがすごく良かった。この二人の関係性が無かったら、ここまでいいと思えませんでしたね。

基本的に物語は殺人事件の捜査を通して、「ジェロームが“不適正者・ヴィンセント”とバレるのか」がメインのサスペンス仕立てのSF映画になっていますが、そこに上に書いたような二人の友情であったり、“適正者”である捜査官とのいろいろがあったり(これがまたかなり幅を広げててイイ)、ジェローム(になりすますヴィンセント)に思いを寄せるアイリーンがいたり、いくつかの人間関係が交錯する人間ドラマ的な側面がかなり強い物語です。

派手なアクションや息を呑むSF的な映像は一切無いですが、それでもシステマチックな世界や暗さ、未来感は紛れも無くSFそのもの。そのSFの世界だからこその人間ドラマはとても儚くて切なくて、これまたまさかの涙を流してしまいました。(泣きすぎ)

そしてもう一つ、この手の名作に欠かせない要素と言えば当然、音楽です。この劇伴の素晴らしさは作品の質を劇的に高めてますね~。

特に終盤の劇伴とシーンのマッチング、儚さと切なさを内包した登場人物それぞれの“危うさ”を感じさせる演出とストーリー展開は目を見張るものがあり、エンディングに向けて鑑賞者の感情移入を強く後押ししてくれます。

本当に素晴らしかった。シーンも、音楽も。

SFとしての世界観の良さ、音楽の良さ、後味の感覚、どれもいかにも“SF的名作”と言える堂々たる作り。

中身はだいぶ違えど、「ブレードランナー」「月に囚われた男」と近い名作感を覚えるような。

個人的に、全般的に1980年代のハリウッド映画は名作揃い、1990年代はイマイチ揃い、というイメージが強いんですが、もしかしたらこの映画はジャンルは違えど「L.A.コンフィデンシャル」と並ぶ、1990年代の最高傑作の一つかもしれません。

あとはもう、観て頂ければ。きちっと集中できる時に、ぜひ。

このシーンがイイ!

字幕では「早く行け」だけだった終盤のあるシーン。

ザンダーさん扮するガタカの医者が、ジェローム(になりすますヴィンセント)に言ったセリフです。字幕だけならどうってこと無いところですが、きちんと声を聞いてください。その言葉で僕は泣きました。英語がわからなくてもだいじょーぶ。ものすごくいいシーン。

あとはもう、ネタバレになるので詳しくは書けませんが、ラスト近くの“メダルのアップ”はやっぱりちょっとね…。この映画の印象、作られた意味をすべて語っているような完璧なシーンでした。

ココが○

やっぱり“SF的世界観”の作りの巧みさが、この映画の“名作感”につながってると思うんですよね。音楽もしかり、美術もしかり。そこに乗っかってる人々の思いが世界と混ざり合って、儚い美しさにつながってるんだと思います。

それと、この味わい深さなのに2時間弱という長さ。短くていい映画っていうのは問答無用で最高ですね。

ココが×

やー、やっぱり満点付けるような映画は特に無いかなぁ。

MVA

「なりすます“不適正者”」がイーサン・ホークというのはなかなかそれっぽくていいですね。表情も少し卑屈なようでもあるし、自信があるようでもあるし。素晴らしい演技だったと思います。

ユマ・サーマンはこの前のクソ映画よりも劇中の世界にマッチしてました。SFっぽい顔してるからですかね。宇宙人的な。(ひどい)

捜査官役のローレン・ディーンもすごくかっこよくて、でもなんか影がある感じが良かったですね。これ以降、もっと売れててもよさそうなのに…。

忘れちゃならないのがおなじみザンダー・バークレー。自称ザンダーウォッチャーとしては印象的なこの役と演技、最高でした。この人をチョイスしたい衝動にかられつつ、今回は…。

ジュード・ロウ(ジェローム・ユージーン・モロー役)

元水泳の金メダル候補で超適正者であり、ヴィンセントがなりすます元の人。

超適正者でありながら内に悲しさを秘めていて、ヴィンセントとの劇中最後の会話はお互いの“語りすぎない”でもすべてを理解しているかのような姿が胸を打ちました。彼の登場ラストとなるシーンの表情もまた素晴らしく…。

すごくいい役どころだし、繊細さも必要な難しさもありましたが、ジュード・ロウ、完璧でした。

惜しむらくは「超適正者」なのにこのあとハゲていくという悲しい末路。適正者はハゲたりしないはずなのに!! まあ、この時代はまだ予兆もないのでオッケーとしましょう。

まるで「ゴッドファーザー」の頃のロバート・デュヴァルを観るような悲しさがあり、そこがまた映画の儚さをより増していた…というのは気のせいです。

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