映画レビュー0793 『ジーサンズ はじめての強盗』

スペクター」終わりに散々悪態をついていたらしいダニクレさんも結局007次作で主演を務めることが決まったそうで、今度こそ最後でしょうがひとまず嬉しいご報告…と思いきや監督はダニー・ボイルだとか…。

ちらっと世の中の反応を見たところ、もう98%ぐらいは「最高! 楽しみ!!」と言っているのでやっぱり僕はズレているんだと思うんですが、ダニー・ボイルの映画は基本的に好きじゃないのですごくがっかりしてます。ものすごいドヤ顔映像の垂れ流しで“スタイリッシュ・ボンド”推しが鼻につく未来しか見えない…。

でも一応劇場には行きますけどね。ガイ・リッチーとダニー・ボイルは「二大“どうだ俺が監督してやってるんだぞドヤ顔”巨匠」なのであんまり自己陶酔がひどい映画にしてほしくないところですが…どうなることやら。

ということで今日はコチラ。元々観たかった映画で最近ネトフリに追加になったばっかりなんですが、なんでもこの映画の撮影中にモーガン・フリーマンにセクハラ食らったぞ、という告発があったらしく、万が一問題が大きくなって最速削除を食らった時に悲しみに包まれるのを回避するため、早めに観ることにしました。

ジーサンズ はじめての強盗

Going in style
監督
ザック・ブラフ
脚本
音楽
公開
2017年4月7日 アメリカ
上映時間
96分
製作国
アメリカ
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

ジーサンズ はじめての強盗

長年勤めていた会社が買収され、その煽りを食う形で年金を取り上げられた仲良し爺さん3人。さらに別件で契約当初よりも高い利子を要求する銀行に業を煮やした爺さんの一人・ジョーは、契約内容の相談のために銀行を訪れていた際に偶然強盗に出くわし、まんまと逃げおおせた彼らを見て「自分たちにもできるんじゃないか」と他の2人に持ちかける。

またも絶倫キャラのアラン・アーキンを愛でる。

8.0
家族と友情のジジイ・クライム・コメディ
  • 名優3人による“はじめての強盗”
  • 目新しさは無いものの安定感抜群
  • アラン・アーキンはまたも絶倫
  • 上映時間も短くテンポよく見せきるお気楽コメディ

ジジイ・クライム・コメディと言うとやっぱり「ミッドナイト・ガイズ」が思い浮かぶわけですが、あんな物騒な人たちではない“普通の爺さん”たちが主人公の「はじめての強盗」モノ。あちらでも絶倫キャラだったアラン・アーキンが今回も絶倫キャラで登場、「ハゲは絶倫」というのは世界共通の認識なんでしょうか。

マイケル・ケイン演じる主人公のジョーが銀行を訪れるシーンからスタート。なんでも前に借りたお金の利子がだいぶ増えたようで、「話が違うじゃないか!」と相談しに来たものの…よくある「ここに(ちっさく)書いてますよ」的な形で丸め込まれます。どこぞの携帯キャリアのようですね。

納得行かねーぞ! と粘っていたところ突如として響く銃声…そう、まさかの銀行強盗に巻き込まれるジョー。颯爽と金を巻き上げ去っていく彼らはその後も捕まること無く逃げおおせます。

ジョーには同じ会社(工場)で働く、モーガン・フリーマン演じるウィリーと絶倫アラン・アーキン演じるアルという親友2人がいて、毎日つるんではテレビを見たりゲートボール的なものを嗜んだりしているんですが、その彼らが勤める会社が買収によって工場は閉鎖、受け取るはずだった年金も会社の再編費用として取り上げられるという鬼畜仕様。これじゃあもう生きていけないじゃないか…! となったところでジョーは自身が遭遇した事件と己を結びつけ、決断するわけです。

「銀行強盗するしかない…!」

はじめは聞く耳を持たなかった親友2人も、弱者に厳しいシステムに対する怒りから参加を決意、とは言っても当然ド素人の爺3人がノリでやって成功するわけもないので、アングラに通じていると思われるジョーの娘の元夫に相談、その道のプロを紹介してもらう…というお話です。

元は1979年公開の「お達者コメディ/シルバー・ギャング」という映画のリメイクだそうで。なんでもあの「ミッドナイト・ラン」でおなじみのマーティン・ブレストが監督した作品のようなので、こっちはこっちで観てみたいぞと思うわけですが今のところは未見です。

完全なる主観ですが、銀行強盗モノの映画って最近はだいぶ下火だと思うんですよね。考えてみれば当たり前の話で、何度か書いてますが今の時代だとやっぱりそうそう簡単にできる話じゃないと思うんですよ。

この映画でも劇中に「(確か)発信機を取り付けた札束」という話が出てきますが、そういうガジェット的なものに限らなくても、やっぱり通報→到着のスピードとかそれはもうものすごく速くなってるんだろうし、それ以外にもあちこちでいろいろ対策が講じられてるハズじゃないですか。実際問題もうここ十年単位で銀行強盗のニュース自体見ないし。

なのでリメイクとは言え今この時代に銀行強盗、しかも爺さんたちがやるっていうのは無理あるんじゃないの…と思いつつ観ましたが、その辺はコメディだからかあんまり気にならなかったのが良かったです。とりあえず。

良い意味でゆるい、ギスギスした今の時代だからこそ逆に良いテーマなのかもしれないですね。

話としては「爺さんたちが銀行強盗にチャレンジ」という点以外は特に目新しい部分も無く、友情にちょっとした家族再生物語を取り込んだいかにもなコメディではあるんですが…やっぱり映画好きとしてはたまらない3人が主演なだけに、この人たちの絡みを観ているだけでもありがたい、価値のある映画だと思います。

さらに“準主役爺”としてこれまた映画好きにはたまらない、あのドクでお馴染みのクリストファー・ロイドが文字通り「渾身のボケ」を繰り出してくるたまらなさも手伝って、この人たちにそれなりに思い入れのある人であれば結構な安定作として観られるのではないでしょうか。

それと今回僕が良いなぁと思ったのが、特段珍しいわけでもない「親友3人」という設定の見せ方というか、その3人の友情っぷりがちょっとグッと来ちゃったんですよね。

世間一般的には、歳を取ると男性は孤独に、女性はコミュニティに居場所を作る傾向が強いという説はよく聞く話だと思いますが、そういう前提で観ていると…この3人の「仲の良さ」というのは結構珍しいしある意味で男の理想的な老後を描いてるよなーと思ったんですよね。

文字通り毎日一緒に遊んでるし、なんならウィリーとアルは一緒に暮らしてるんですよ。さすがに強盗云々は置いておくとしても、この歳になってこれだけ“飽きない”生活を送れる彼らはとても羨ましい。絶対こんな老後を送れる男なんて少数派だと思います。

劇中ではお金のなさにうんざりしている様子が強い3人ですが、考えてみるとそもそもお金以上に価値のあるものをすでに持っているんですよね。お金はあっても友達がいない、家族もいないような老人の方がきっとキツいはずで、ある意味恵まれた状態からお金を盗もうとする3人は、なんなら成否関係なく「お前たちと一緒に何かを達成したい」というレクリエーション的なものだったのかもしれません。それは本人たちも気付いていないレベルで。

自分が歳を取った時に、こんな晩年で人生を賭けるような大犯罪を「一緒にやろう」と打診できるだけ仲が良く、信頼できる友達が近くにいるのか、そしてそれが成功した時にそのお金を活用できる家族がいるのか…と考えるとコメディ映画でありつつもなかなか胸が痛くなるようなお話だなぁと思います。

ニヤニヤクスクスしつつも己の先行きにちょっとした不安を抱かざるを得ないような、そんなちょっとだけ深い映画…かもしれませんね。

ネタバレの強盗

Wikipediaを読む限りではリメイク元の映画はバッドエンドみたいですが、「時代的に今作るならハッピーエンドじゃないと」という脚本家のセオドア・メルフィ(「ヴィンセントが教えてくれたこと」の監督さん)の意見は慧眼だなと思います。

確かにこの映画で「うまくいきませんでした」はちょっと辛い気がする。何かと世知辛い、しんどいことが多い今だからこそ、嘘臭くても希望を感じる物語にさせよう、っていうのは確かにそうだよな、と。ジャンルにもよると思いますが、コメディならこれぐらい「うまく行き過ぎ」なお話もほっこりできて良いのでは無いでしょうか。

最後のシークエンスにしても、まんまと「死んじゃったの!?」と思いましたが良い意味で裏切られ、とても良いエンディングだなぁと思います。お金を持っても変わらない友情、そこがきっと本題なんでしょうね。

最初の強盗と“先生”がつながる展開もベタではありますが、セリフで気付かせるやり方は気持ちが良くて好きでした。

世間的な評価はあまり良くないみたいですが、ベタでもほっこりできる優しい世界、僕は良いなーと思います。

このシーンがイイ!

いくつかありましたが、やっぱりこういう友情羨ましいなと感じさせられたのは3人で夜電話しているシーン。ああいう関係性をあの歳で作れる彼らは本当に恵まれていると思います。

ココが○

優しい世界がとてもイイ。疲れた現代人にピッタリ。

ココが×

当然ながらリアリティという意味ではまったく話にならない映画ではあるので、その辺を期待すると「くだらねーな」で終わっちゃう映画ではあるでしょう。が、そんな部分期待するような話でもないのであんまり気にしなくて良いかなと。

あとはあんまり裏切りのある話ではないので、安心感はありますが意外性には欠けるかもしれません。ジョーの孫の名前がブルックリン、っていうのが一番意外じゃねーかみたいな。

MVA

ということで名優たちの共演がたまらなくてですね。皆さん良かったですね。美男美女皆無だし。

中でもマイケル・ケインは一番今までと遠い雰囲気というか、こんな「普通の爺さん」なマイケル・ケインはあんまり観た記憶がなかったのでちょっと新鮮でしたね。大体シャキッとしてるかお偉いさんか、って感じなので。

とは言え今回はこちらの方にしようと思います。

クリストファー・ロイド(ミルトン・カプチャク役)

主役3人も属する老人会的な集まりのリーダー的存在っぽいんですが、結構なレベルでボケが進行している模様。それ故かなり美味しいところを持っていっていた気がします。

元祖節穴クン的にはですね、思いの外(見た目が)歳をとっていたのと、声も口調も印象と違ったこともあって最後までクリストファー・ロイドと気付きませんでした。似てるけど違うよなーと思って観てた感じで。

今思えば爺的扱いだった「バック・トゥ・ザ・フューチャー」から30年以上経ってまだ現役の爺、っていうのもなかなかすごいことだなと思いますが、この方もまたこれからも末永くお元気でいて頂いて、たまに姿を見せていただきたいなと思います。

単純に美味しい役でこの人が観られた、っていうだけで嬉しかったな。

ミッドナイト・ガイズ」の時も思いましたが、こういう映画がもっと価値を持つのは、きっと出ている彼らが他界した後のことなんでしょう。もちろんその時は来て欲しくないですが、こればっかりは順番なので仕方がないことでもあります。

やがて訪れるその時にもう一度観て、内容に反して号泣するというのも…ある意味では映画の楽しみ方の一つなのかもしれませんね。

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