映画レビュー0898 『ドローン・オブ・ウォー』
この映画も長いこと観たいと思ってリストに入れつつ観てなかったやつなんですが、例によって配信終了がやってきたので観ましたよと。
ドローン・オブ・ウォー
2015年5月15日 アメリカ
102分
アメリカ
Netflix(PS3・TV)
現代的戦争の正解のなさに気が滅入る。
- 遠隔地から無人戦闘機で対テロ戦争に従事する軍人たちのお話
- 舞台はほぼ作戦が実行される“コンテナの中”だけで、現代の戦争について考えさせられる
- 登場人物の苦悩が痛いほどよくわかる虚しい戦いの描写がリアル
- ただし全体的にとても地味
あらすじ
この映画よりも少し後の作品になる「アイ・イン・ザ・スカイ」と同じような“安全圏からの軍事作戦”についての映画になりますが、指揮系統を皮肉るかのような内容だったあの映画とは違い、こっちは“実際に手を下す”兵士の胸中に迫るやや人間ドラマに近い内容。その分地味ではありましたが、しかしそれだけリアルな気もするなかなか考えさせられる映画ですね。
主人公はイーサン・ホーク演じるトミー。空軍少佐なので結構な将校だと思うんですが、無人戦闘機(ドローン)の操縦桿を担当しております。
彼は元々は戦闘機に乗るいわゆるパイロットだったんですが、もはや撃墜されるリスクのある戦闘機に乗っての軍事作戦は下火の傾向にあるようで、危険のないドローンによる軍事作戦に従事するようになりましたよと。
非常に寡黙でストイックなタイプのようですが、そんな彼でも折に触れて「もう一度戦闘機に乗りたい」と上司や奥さんに語るのを見ればわかる通り、今のミッションにはあまり気が乗らないようです。
彼の所属する小隊は、物語開始からしばらくの間は(多分)アルカイダ絡みの監視や攻撃に従事していたんですが、ある日お偉いさんからの指令によりCIA(通称ラングレー)の作戦の協力部隊として駆り出され、CIA指揮下の部隊として活動を始めます。
強力な権限によって民間人がいようが躊躇なく攻撃を指示するCIAと任務そのものに対し、フラストレーションを溜めていくトミー他仲間たち。それでもやらなければいけない…というジレンマの中、今日もまた対テロ戦争に従事するよ、というお話です。
思い知らされる“現代的対テロ戦争”
彼らが作戦を実行する場所はコンテナのような簡易的な狭い建物の中で、中に入るのも5人程度とかなり小規模なんですが、そこで日夜ドローンを飛ばしては重要なテロリストたちを監視し、場合によっては攻撃をする、というお仕事に従事しているわけです。
この映画は徹底的に「安全圏から攻撃する米軍」のスタイルを崩しておらず、普通だったらちょっとは挟まりそうな現地の爆発映像や被害の様子はまったく出てきません。
いや厳密に言えば出てくるんですが、そのシーンはすべて(主人公側の)モニター上でしか描かれず、“現地の”映像としては出てこないわけです。
かつて湾岸戦争の頃に「ゲームのように人を殺す」ことが話題になった記憶がありますが、もはやそんなのは常識というか当たり前過ぎてそんな(現場レベルでの)視点すら強調していない、非常にドライで無機質な“戦争”を描いている映画だと思います。
ここでの任務に苦悩を深めていく主人公・トミーにしても、「簡単に遠隔操作で人の命を奪う」ことに思い悩みつつ、それがゲームっぽい手軽さ故に悩んでいるわけではないんですよね。
任務を遂行すること自体は(当たり前ですが)軍人である以上やむを得ないと思っているんだろうし、問題はそこじゃないように見えました。
じゃあなんやねん、というとそれはもうCIAですよ。
急にやってきて上に居座り、現場(トミーたち)の意見を「一応は聞くけど事実上聞き入れず」に攻撃を指示、“自らの手を汚さない”からこそ冷酷な判断を下せる楽なお仕事に一同憤懣やるかたない、ってところでしょうか。
「攻撃を許可する」の寒々しさね。
あれは字面通り「攻撃を許可する」という意味ではなく「攻撃せよ」なんだと思い知らされた時、そこに漂う若干の責任回避のような匂いに吐き気がします。
もちろんCIAにはCIAの正義があり、それはそれで納得もできるんですが、ただ現場に(殺される等の)リスクがない分指示を出しやすい=非常に使い勝手のいい軍事力という構図はなかなかね。考えさせられますよこれは。
むしろCIAにこそ“ゲーム感覚”のようなものが介在しているところがひじょーーーに気になりました。それは映画の作りとかの意味ではなく、人道的な意味で。だから作りとしては正しいんだと思います。
実際にミサイルのスイッチを押すトミーのような人たちは、それが画面上でしか見られないものであってもその意味するところはやっぱり肌感覚として生々しさを持っているんだろうと思うんですよ。彼らは決してゲーム感覚ではないよな、と思わせる“痛み”のようなものが伝わってきます。
しかしCIAにはそれがない。別に誤射だったとしてもさしたる問題はないと考えている雰囲気が強いわけです。「誤射の可能性を考えて攻撃しないよりも、もし本当に危険な存在だった場合の合衆国の被害を考えればやむを得ない」みたいな理論。
これがねー。ものすごく嫌悪感を抱くものだったし、それこそがアンドリュー・ニコルの訴えたかったところなんじゃないのかな、という気がしましたね。いやはやなかなか。よく出来てます。
サラリーマン兵士
また仕事が仕事なので、戦地に派遣されて生き死にする兵士とは当然違い、毎日家から施設に向かってドローンを動かし、時間制で働いて交代が来たら家に帰って家族と過ごす、その「サラリーマン感」たるや、って話ですよ。
近くに住む同僚は「理想の生活だ」なんて言ってましたが、そこにもトミーは思い悩むわけです。
確かに奥さんにも子どもにも毎日会えるし、死ぬ危険どころか怪我する危険すらありません。でもそれって兵士なの? という思い。
明らかに「訓練された正規の兵士」がやるべき仕事とは思えない、それこそ感情面では僕のようなゲーム好きがやっても一緒じゃねーの(実際はそれこそ倫理的なものとかいろいろあるんでしょうが)的に思える“仕事”に、トミーのような真面目な人間が思い悩むのもよーくわかるんですよ。そりゃそうなるよな、っていう。
こんなことがしたくて兵士になったんじゃない、そう思う人もすごく多いんでしょう。この映画は創作ですがおそらく現実もこのような世界になってきているんだろうし、その辺りのリアリティがまた考えさせられる要因かもしれません。
家族の話は必要だけど、それが無い方が良いような気もするジレンマ
また物語はそんな状況で思い悩むトミーと、それ故にすれ違っていく家族の姿も描いています。
この辺りはまあ定番っちゃー定番の流れなので適当に観てもらえればいいでしょう。あくまで「悩みを深めていく」描写の手助けとして出てくる調味料みたいなもんです。
家族との描写もあるからこそトミーの悩みが浮かび上がってくるのは確かなんですが、ただ結局最終的な落とし所が人間関係にせざるを得ない“縛り”にもなっているのがちょっともったいないなという気はしました。
せっかく米軍内部や現代の戦争の問題点を描いているお話なだけに、そっち方面でケリをつけるような展開を期待していたんですが…そうはならなかったのがちょっと惜しい。あんまり言えませんが。
そんなわけでちょっと詰めが甘いというか、テーマの良さに反して落とし所が定番になっちゃったのが少々残念ではありました。
とは言え間違いなく戦争の正義について現代的に考えさせられる話であることも間違いなく、この手のテーマに興味を持てる人であれば必見の映画と言って良いでしょう。
このシーンがイイ!
CIAの作戦に渋々従う感じ、どこも良かったですね。各人感情が見える演技が見事。
不満ながらも淡々と攻撃に移るトミーがまたかっこいいんだわ。
ココが○
要素が絞られているのでわかりやすく、しかし語りすぎずに現場の悩みを映し出す作り、これはなかなか素晴らしかったと思います。
テーマは似ていながらも「アイ・イン・ザ・スカイ」とはまったく違う内容に仕上がっているので、両方観ていろいろ考えるのも良いのではないでしょうか。
ココが×
ネタバレにちょろっと書きましたが、簡単に言えば物語の閉じ方でしょうか。
悪くはないんだけど、期待してたのはそっちじゃないよって感じ。
MVA
いつもはちょっと弱さが表に出がちなイーサン・ホーク、今回は「強い人に見えて弱さを内包する」感じでちょっと趣が違うんですが、その辺もさすがの演技でやっぱりこの人もいつ観ても良いですね。抑えた演技が効いてました。
ただいつもイーサン・ホークにしてもアレだし、今回はこちらの方にしようと思います。
ゾーイ・クラヴィッツ(ヴェラ・スアレス上等空兵)
トミーの相棒になった新米女性兵士。
彼女がホロリと涙を流すシーンが良かった、っていうのもあるんですが、実は(内容に関係ないですが)今回初めてこの人を観ていて「ポテッとした唇いいなぁ…」と唇にグッと来ちゃったんですよね。
僕は彼女の唇にエロスと優しさと悲しさを見ましたね。ええ。とてもいい唇でしたよ。セクシーで。
気付いたら彼女の唇ばっかり見ていたので、彼女にしたいと思います。そんなもんです。