映画レビュー1300 『おやすみ オポチュニティ』

来ました1300回。ゴルゴ13好きとしては1200回よりも嬉しい。

うっすいとは言え1300本書いてるんですね…。いやほんと、我ながらここだけは偉い、よくやってるぞと言いたい。めんどくさいのに。大したもんだ。

うっすいと言いつつフィルマークスとかで数行書いて終わりの人でもなかなか1300本も書いて無くない!? ねえ!? こっちは嫌々イラストまで描いてるんですよ!?

継続は力なり、ですなぁ。ご褒美に誰か「今日だけは私を好きにしていいわよ」とか言って来ないかなぁ。

ということで本日の一本。

最近読書傾向からSF、特に宇宙ものへの興味がいつにも増して強く、それ故にチョイスした1本です。

同時にその最近の傾向故に見つけた放置ゲーム「エキソマイナー」という名前通りマイナーなゲームをやっているんですが、1時間に1回無料でガチャが引けるので仕事中もできるだけ毎時確認したいもののアプリを開くと「離席時間:1H50M」とか出てきて「俺も真面目になっちまったもんだぜ…」と感慨にふけるなどしております。真面目とは。

おやすみ オポチュニティ

Good Night Oppy
監督

ライアン・ホワイト

脚本

ヘレン・カーンズ
ライアン・ホワイト

ナレーション
音楽

ブレイク・ニーリー

公開

2022年11月23日 各国

上映時間

105分

製作国

アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

おやすみ オポチュニティ

最高のドキュメンタリーの1つ。

10
探査のため火星に送り込まれた双子のロボットと地球から支援するNASAの活動
  • 火星探査のため2004年に送り込まれた2台のロボットの活動を追ったドキュメンタリー
  • 当初の想定を遥かに超える長い期間の活動によって様々なドラマが生まれる
  • いかにもアメリカ映画らしいズルさがありつつ、素直に大号泣
  • “目覚ましソング”のセンスにアメリカの伝統を見る

あらすじ

これはもう参りました。めっちゃ泣いた。泣いちゃうのは“乗せられてる”のも重々承知の上でものすごく良かったです。

今から20年近く前、NASAは火星探査のために2台のロボットを開発し、送り込む「マーズ・エクスプロレーション・ローバープログラム」を実施。

それぞれ「スピリット」「オポチュニティ」と名付けられた“姉妹”は、最低活動日数として90日を想定し送り込まれましたが、2台とも想定を遥かに超える長期間の活動を行い、火星調査に多大な貢献をしました。

そんな2台の活動を指示し、見守るNASAと2台のロボットとの活動を長年に渡って記録した映像とともに振り返るドキュメンタリーです。

アメリカの強さを改めて認識させられる

僕はこの映画を観るまで当然まったく知らなかった2台のロボット(ローバー)ですが、アメリカではかなりメジャーな存在だったらしく、彼女たちを使ったCMまで放映されていたそうです。

それ故に機械とわかりつつも感情移入してしまうのは人の性、僕も大いに感情移入してしまい、まあ本当にたまりませんでした。

ドキュメンタリーでありながらドラマでもあるし、「フィクションではないSF」みたいなイメージ(それってただのサイエンスですよね? とか言うやつは嫌い)もある、ドキュメンタリーの枠を超えた映画としての面白さが大いに感じられる、「ドキュメンタリーは眠くなっちまうぜ」という人たちにこそ観て欲しい傑作ドキュメンタリーです。

開幕の火星探査シーンからして「こんな綺麗な映像が残ってるわけないし、これCGだよな…?」と半信半疑で観てしまうぐらいにリアルな火星活動CGはルーカスフィルムによるものだそうで、さらにプロデュースはスピルバーグの会社が担当しているという何気に2大巨頭の合作的な贅沢さもありまして、NASAのそれを含めて「アメリカの全力」を見せられたような、久しぶりに「アメリカすげーな」と感心してしまう映画でもありました。

あえて実稼働期間については書きませんが、当初の「3か月」を遥かに上回る期間活動を続けた2台のロボットという存在は、当然NASAに関わる人たちにも大きな影響を与えていて、「昔見ていたこのロボットに関わりたい」という若い世代が就職してきてプロジェクトに加わる、という…さながらこの前のワールドカップで「メッシに憧れてサッカーを始めた少年たちがチームメイトとなってメッシに賜杯をもたらした」みたいな胸熱展開もあったりするわけですよ。

それだけの歴史を紡いだロボットに感情移入するなというのが無理な話で、やっぱり長年の活動によっていろいろ不具合が出てくる辺り(メモリの劣化が痴呆症っぽく感じられたりとか)も人間に重ねてしまうし、またそう見えるように程よく演出を入れてくる作りがニクいったらないです。

当然それは諸刃の剣でもあるので、それによって醒めてしまう人も少なからずいるんだろうとは思いますが、僕は自分自身そういうタイプでなくて本当に良かったなと思いました。この映画を観て泣ける人間であること自体が誇らしい。

また当時としてはおそらく相当先進的だったと思うんですが、このロボットは「自律型」のロボットであるため、ある程度自分自身で判断して行動するように出来ていた、というのも大いに感情移入を助けます。

ただNASAからの司令で活動するマシンというわけではないんですよね。自分で判断して行動するが故にNASAもある程度見守る部分が出てくるし、それによってより擬人化して見てしまうところがズルいと言うかなんと言うか。

映画上勝手に自律式として描いたなら問題ですが、実際に(その方が調査上有用であるが故に)自律式にされていたわけで、それを持って「ノセられちゃって」みたいなのもちょっと違うというか、普通の人間ならそりゃ感情移入するでしょと思うわけですよ。

その上長期間活動することである程度不具合も出てくるのは当然なんですが、その不具合によって余計に人間味を感じてしまうのも「まいったなぁ」という感じで非常に思い入れ強く観る形になりました。

そう見えるような構成・演出なのもわかるんですが、でも実際こんなロボットに仕事で接していたら思い入れが強くならないはずもなく、「ズルい」というよりは観客もNASAの一員のように“彼女たち”を身近に感じさせてくれた作りなんだと思います。

そこがドキュメンタリーの領域を超えたドラマに感じさせる上手さであり、そもそものテーマの良さなんだろうと思いますね。

そう、結局このプロジェクト自体が“偉業”であり、それに感動するのは人間として当たり前なんだとメソメソと泣きながら自分を励ましました。

この2台のロボットは活動のための電力をセーブする都合上、人間のように夜は寝て朝起きる生活を繰り返します。それがまた人間臭くてグッときちゃう面もありつつ、その「起こすため」に(本来は人間に対して)NASAでは伝統的に「目覚ましソング」をかけているんだそうで、この映画でも何曲か登場するんですが…これがどれも「このタイミングはこれしかない」と思えるほど神がかったセンスのチョイスで非常にズルいんですよ。

これ、映画製作側が「このタイミングならこれ」って選んだならまあそうだよなで終わるんですが、NASAのメンバーがチョイスした、というところに僕は妙に感動しちゃったんですよね。

当然「このタイミングにこれ」がビタッとハマるにはそれだけ膨大な曲を知っておく必要があるし、同時に「真顔で愛の告白ができる」みたいなセンスというか、気恥ずかしさを乗り越える勇気も必要だと思うんですよね。

それを普通の人(超優秀ではあるけど人前に出る商売の人ではないという意味で)がしれっとやってのける部分にすごく感動しました。きっとこれこそがこの国の「伝統」なんだろうな、って。

日本では「伝統」というと古典的なものを想像しがちですが、きっとアメリカにおける「伝統」はこういうセンスだったり勇気だったり、そしてそれを求める周りの姿勢だったりするのかな、と。

そんな“伝統”としてNASAの技術者たちが代々受け継いだもの、その一端を垣間見た気がして、そこがまたすごく良かった。

それとおそらくアメリカでは普通なので特にピックアップされることもない、さり気ない部分でハッと気付かされたんですが、明らかに日本では実現し得ないであろう文化的な背景が垣間見えて、そこにもやっぱりアメリカの強さが見えて羨ましかったんですよね。

端的に言えば「赤ちゃんを連れて職場に行く」スタッフの姿。これだけで日本との違いに愕然としてしまうんですよ。

まず「赤ちゃん同伴で仕事が許される」のが日本ではほとんどないし、さらにそれは同時に「出産してもプロジェクトに戻れる」環境があるということでもあるわけです。

そもそも映像を観ていて女性比率の高さも日本の比ではない、つまり理系女性の社会的地位の高さも比にならないわけで、ジェンダーバランス的に“本場”のすごさ、同時に日本の遅れっぷりを否応なしに認識させられる面があって、そこもすごく考えさせられました。

仮にこのプロジェクトが日本のものだった場合、男女比は相当変わってくるだろうし平均年齢もかなり高くなるのが容易に想像できるんですよね。

もちろんなんでもかんでも女性が良いとか若ければ良いとは言いませんが、明らかに今の日本社会の“バランス”は老年男性上位すぎるしその方が良いとは到底思えないので、その社会構造そのものにかなりの差があることを改めて認識させられる機会にもなりました。

本当に日本はこの辺なんとかしないと沈むだけだと思うんですが、ルールを決める人間が柔軟さを欠いた老年男性だらけなので、まあ変わりようもないよなという絶望的な気持ちにもなったりするわけです。直接この映画とは関係ないことなんだけど。

今すぐ観よう

そもそも宇宙関係が好きということもあって、仕事そのものへの羨ましさもあったし、こんなやりがいのある仕事だったらきっと自分の性格すらもガラッと変わってくるだろうなと余計なことまで考えました。

そういう意味でも、内容そのもの以上にいろんなことを考えるし受け取るドキュメンタリーでもあったと思います。

とにかく名作と言っていいドキュメンタリーなので、アマプラ会員の方はぜひ観ましょう。今すぐ観ましょう。

きっと子どもと一緒に、とかもすごくいいと思います。自分も小さい頃にこんな映画に触れていたら、もしかしたら宇宙工学を学んだりしていたかもしれないなぁ…と思いつつ、でも基本的にダメ人間なのでドロップアウトして今のような状態に落ち着いていたでしょう。悲しみ。

ネタバレ オポチュニティ

ドキュメンタリーにネタバレも何もないだろとも思うんですがこればっかりは本編に書きづらいのでここに。

きっとこれを観た人誰もがそうだったと思うんですが、やっぱり…「活動5000日記念に自撮りを」というアイデアがもう神すぎて号泣ですよ。号泣。

なんなんでしょうね、機械が指示に従ってるだけ…なのにここまで心を揺さぶるイベントあるかよ、って言いながら泣いてました。「こんなのあるかよ」って。

健気に働き、信じられないほどの長期間の活動を経て改めてプロジェクトメンバーが彼女の姿を久しぶりに目にするその意味を考えると、文字通り胸がいっぱいになって涙が堪えられませんでした。今思い出しても泣きそう。

あのアイデアを出した人、そしてそれに協力したメンバーは隠れたヒーローと言ってもいいぐらいに偉大な決断だったと思いますね。あのセンスは本当に神がかってました。

このシーンがイイ!

ネタバレになるので詳細は書けないんですが、とある記念的なイベントのアイデアが神すぎてそこで一番泣きました。詳しくはネタバレ項に書いてます。

それと「賭け」の話も好きですね。気持ちもすごくよくわかるし。

ココが○

プロジェクト自体の偉大さはもちろんのこと、そこに演出の巧みさが加わることで映画としての完成度がすこぶる高い点。

満点はやりすぎかなぁとちょっとだけ思いましたが、でも現実の話としても映画としてもこんな素晴らしいものはなかなか出会えないなと思ったので満点にしました。

ココが×

上に書いた通り、やや演出が強めのドキュメンタリーではあるので、その辺が好きじゃない人には少し鼻白む面はあるかもしれません。

僕もどちらかと言えばドキュメンタリー原理主義的というかあんまり演出が強いドキュメンタリーは微妙だなと思う部分があるんですが、ただこの映画はその壁を乗り越えて良かったという点と、あとは善悪を論じるような内容でもないのでいいじゃん、と思ったので気になりませんでした。

問題を提起するドキュメンタリーとこの手の実績を描くドキュメンタリーは分けて考える必要があると思うんですよね。

MVA

例によってドキュメンタリーなのでこの人、というのは無しの方向で。

強いて言うなら…「オポチュニティ」なんでしょう。やっぱりね。機械だけどさ。

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