映画レビュー0261 『グラン・プリ』

我ながら新しいのも古いのも、ジャンルもいろいろってことで“映画雑食”だなぁと思いますねぇ。いいことだとは思いますが。本当にまったく観ないのってホラーぐらいな気がしますが、ああいうはきっと一生観ないと思います。おしっこ行けなくなるからね!

グラン・プリ

Grand Prix
監督
脚本
ロバート・アラン・アーサー
原案
ロバート・アラン・アーサー
音楽
公開
1966年12月21日 アメリカ
上映時間
180分
製作国
アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

グラン・プリ

ある年のF1グランプリ。ドライバーズチャンピオンをかけて戦う4人のドライバーと、周りを彩る女性たちの物語。

むしろF1好きではない人にオススメ。

7.0

僕が中学生に上がったぐらいの頃でしょうか、妙にF1がブームになっていた時期があって、その頃少しだけ観た記憶はあるんですが、特にハマらず今に至ります。あのテーマ曲でおなじみのT-SQUAREは今でもCD買い続けてますが、それはまた別の話なので置いておきましょう。

この映画自体は完全にフィクションですが、オープニングではインタビューの音声を差し込みつつのレース映像があったりして、構成的にはドキュメンタリータッチな雰囲気があります。

「ドライバーズチャンピオン(劇中ではワールドチャンピオン)」というのは、1年をかけてポイント制で争い、そのトップに立った人のことを指すわけですが、この映画は、言うなれば「伝説的な戦いの“あの1年”」を、人間ドラマを主軸にじっくり綴った映画…的なイメージで作ったフィクション、といった感じ。

いくつかこの映画を語る上で避けて通れない部分がありますが、もっとも評価すべきはやはりレース映像でしょう。

最初に書いた通り、僕はF1には特に詳しくもなく、今のレース映像なんて観たことがないので、この映画の迫力が今と比べてどうなのかはまったくわからないんですが、そんなF1素人から観てみれば、この迫力はとても50年近く前の映画だとは思えないものでした。どうやら今となってはおなじみの車載カメラも、なんとこの映画が初だとか。

実際のF1中継でこの手の映像が普及するのが1980年代以降らしいので、実に10年以上も前にこういう映像を作っていた、というのはこの映画のパワーを感じる逸話ですね。実際、車載カメラを駆使したレース映像は迫力もさることながら、シリアスタッチな映画の雰囲気作りにかなり貢献していて、「4人の誰が優勝するのか」まったく結果の読めない最終戦ではまさに手に汗を握る、作り物とは思えない緊張感がありましたね~。

車載カメラも固定で前方を写しているだけではなく、ドライバーの顔のアップからパン(カメラを振ること)して、カット無く前方を写すようなシーンもあって、「すげぇな、役者さん本当に自分で運転してるのか」という“映画らしい”緊張感まで付いてくる二度美味しい感まであったりします。そう、その“役者自身が運転している”というのもこの映画のポイントで、実際にドライバー役の俳優さんたちは教習を受け、劇中でも運転しているそうです。

ラストのレースなんてオーバル(ドクターマリオのカプセル的な形)も含まれる高速コースなだけに、車載カメラのスピード感は完全に“作り物っぽさ”が無い。万が一何かがあったら確実に死ぬだろ、という状況のドライビングを役者自身がやっているというすごさは、やっぱり映画自体の迫力につながるのは間違い無いですね。本当にこれはすごかったです。

ただ、この映画の古さを差し引いたとしても、僕のようにF1に詳しくがない故にすごさを感じるという部分もあるかもしれないので、そういう意味では、実はF1が好きという人よりも、僕のように「知ってはいるけど別に詳しくない」程度の人が観た方が、「おお、すげぇなこれ」と素直に観られるんじゃないかな、という気がします。

そんなレース映像だけがピックアップされそうな映画ではありますが、内容自体は完全に人間ドラマで、あくまでレースはその要素の一つに過ぎません。「F1という死と隣り合わせの世界で生きる男とそれに寄り添う女たち」という世界は、ありがちなテーマではありますが、その映像の迫力のおかげで真に迫るものがあり、また浮ついたタイプの映画ではなく、非常にシリアスな、真面目な作りの映画なので、全体的にかなりしっかりできている映画だと思います。

F1というと「金持ちの道楽」なんて言われることもありますが、それよりも恐怖だったり死だったり、愛憎入り乱れた感情だったりがテーマになっていて、華やかさよりも、その裏側にある泥臭さにクローズアップしているのがイイ。まー本当に50年近く前の映画とは思えません。

さすがに「マシン自体の形は古いよね」的なものは感じますが、逆に言えばそれぐらいしか古さがないすごさ。あと整備されてない道路も古いなとは思ったけど。それぐらいです本当に。素直に良い映画、すごい映画だなと思いましたね。

惜しむらくは、その長さ。

1年間を、しかも人間ドラマ主軸で描く以上は仕方のない面はあるものの、これがあと30分でも短ければ1点は増やしてもいいな、と思えるぐらい良い映画だっただけに、3時間という長さがひじょーにもったいないです。

何度も書いていますが、「3時間」というのはもう観る前にかなり重いんですよね。気合い入れないと観られない長さなので、その時点でかなり「観ようかな」と思う人が減っちゃうのはすごくもったいない。

最後にもう1点、日本人として触れざるを得ないのが「世界のミフネ」。

映画ファンとしては、「日本で最初に世界的な名声を受けた俳優と言えば」と聞かれればやっぱりこの人を挙げると思うんですが、でも実際に観たのはこれが初めてで。

すでに黒澤映画で世界的な名声を得ていた彼ですが、ハリウッド初進出となったのがこの映画らしく、本田宗一郎がモデルと思しき“ヤムラ”を演じています。このヤムラの描かれ方もすごく印象的で、おそらくこの時代、日本人と言えば偏見に満ちた描かれ方をしがちだったと思うんですね。この前観た「ティファニーで朝食を」なんてその極端な例だと思いますが、その5年後に作られたこの作品、やや過剰な日本的シーンはありましたが、人物に関してはかなり「普通」に描かれていて、それがまた好印象でした。

ヤムラ自身は本田宗一郎がモデルっぽいだけに、あくまで裏方側の人なので、ドライバーたちや女性陣と比べれば登場シーンも少なめで、その性格がわかるような描写も少ないんですが、逆にそういうポジションでもあまり“イロモノ感”がない、真っ当な脇役として描かれる日本人、というのはこの時代の映画としてはかなり新鮮で、そこがまた良かったな、と。

さっきチラッとWikipediaを見たところ、三船敏郎自身、「日本人を茶化していない」というのが出演作を選ぶ上で重要だったようなので、彼が演じている以上はイロモノではないというのは当たり前なんでしょうが、それでもこういう扱いの日本人をこの時代の映画に観る驚きというのは感じざるを得ず、初鑑賞となった三船敏郎共々、非常に印象的な映画になったなぁ、と思います。

いつものようにかなり長くなってしまいましたが、まあ映画自体も長いしいいじゃない、とまったく説得力のない適当な言い訳で終わります。

鑑賞時間に覚悟を持てるなら、いろんな意味で観て損はない映画だと思いますね。

このシーンがイイ!

レースシーン、特に最終戦の迫力は本当にすごかったんですが、一番「良いシーンだな」と思ったのが、ホテルのパットの部屋の前でピートが「おやすみ」と別れを告げ、ピートの部屋の前で振り返るとパットがやってくる、あのシーン。

おとなー!

レース全然関係ないけど!

ココが○

ウダウダ書きましたが、やっぱり「レースの迫力」と「真面目な作り」が一番かな、と思います。

これでヤムラの扱いがひどかったら、やっぱり日本人的には内心評価しにくいものがあったと思いますが、最後まで真っ当だったので。というか意外な結末だったりもしましたが…。

ココが×

最大の問題は長さでしょう。すごくいい映画なんですが、さすがにもう一度観たい、とは思えない長さなのが…。

あとは、こればっかりはもう仕方のないことですが、古いだけに「人形放り投げたー!(セボーン)」みたいなバレバレのシーンなんかはちょっと…。シリアスな映画なだけに残念感は残ります。

MVA

実は演技的にそこまで何かを感じる映画ではなかった、というのも、いい映画だけに意外というか、逆に言えばその他の部分がしっかりしてたんだな、という気がしますが、さて一人選ぶなら。

ジェームズ・ガーナー(ピート・アロン役)

この人と言えば「大脱走」のイメージしか無くて(そもそも今までそれでしか観たことがない)、つまりはあの役のイメージしか無いわけですが、あのダンディで優しい軍人とはちょっと違い、影がありつつ、ちょっと嫌な面もありつつ、でもおそらく一番レースに向いているであろう神経の図太さみたいなのが見えて。

まあそれよりも、実は「レースの練習してたらプロに迫るほどの腕前になった」という逸話を鑑賞後に知って、じゃあそれに対して褒めてつかわそう的な適当チョイスだったりもします。あと中盤から一気に登場シーンが減るんですが、最後でまた結構出番があって良かったね、と。

最後に出番が無かったら「彼はなんだったんだ」的になったと思いますが、実は主役だった的なラストも結構意外で、そんな意外性もこの映画の良さかなと。まとめ。

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