映画レビュー0411 『ゼロ・グラビティ』
さて、おそらくこの年末年始で一番の目玉作品でしょう、この映画。
結構前に予告編を観て以来劇場で観ようと思っていましたが、本日行って参りました。もう二度と観るまいと思っていたんですが、「宇宙ならなんとなく良さげだし」という安易な理由でまたも3Dをチョイスしてしまったダメな男です。
聞こえてくる評判はかなりのもので、「今年一番の映画を観に行くぞ」ぐらいの気概で行ったわけですが、当然その分ハードルは上がっていたわけで…。
ゼロ・グラビティ
よくできてはいるものの…。
本当にあちこちのレビューで大絶賛の嵐なだけに、僕のような薄っぺらい男がアレコレ言うのは憚られるところですが、まあ俺のブログだからいいじゃん、とぶっちゃけトーク。
結果的に、はっきり言えば「(期待が大きかった分)期待外れ」でした。
間違いなく今年のランキングに入ってくるほどのレベルだと思っていたこともあって、何ならハンカチ持って泣いてやるぜと待ち構えていたぐらいだったので肩透かしを食らったような感じで。
ただ、もちろん映画として素晴らしい面もたくさんありました。あくまで「自分の期待に応えるほどの内容ではなかった」ためにガッカリ感が先に来てしまった感じで、期待せずに観に行ってれば漏らしてたほど驚いたかもしれません。先入観というか、第一印象って大事だなぁと今更ながら思います。
まず結論から言ってしまえば、僕はかなり深い人間ドラマ的なものを期待していたんですが、見終わって振り返るとこの映画は「すごく良く出来たパニック映画」だと思います。
「もうこれ絶対助からないだろ」っていうシチュエーションをいかにして乗り越え、果たして地球に無事帰れるのか、という筋から一歩もブレず、ひたすら新しいピンチが来てはそれを乗り越え、の連続です。
それが悪いわけではありません。なかなか盛り上げるし、ハラハラドキドキ楽しませてくれます。また、乗り越え方も、工夫してピンチを乗り越えていくというよりは、マットの励ましであったり、ストーン博士自身の自問自答による決意であったり、テクニックよりもメンタルで乗り越えようとする方向性は好きです。またそういう作りの割にアメリカ映画にありがちな宗教色も無く、安心して観られる娯楽に仕上がっていると思います。
ただ、それだけに、メンタルへの問いかけが浅いように思いました。
いかにして前を向くのか、という転換点になるシーンも、そのシーン自体はすごく好きだったんですが、動機付けとしては正直腹に落ちる感じもなく借り物で前を向いたような印象。
途中から「この映画は死生観を語りたいのかな」と半分期待を持って観ていたんですが、死生観というほど深いストーリーではなく、あくまで危機回避して「生きたい」という目的を果たすこと、そのことに注力した内容だったと思います。
そういう意味で「生と死」を考えるのであれば、これはもう完全にクリント・イーストウッドの映画の方が上だな、と。
もちろん「比べてね」って話ではないんですが、そこの深さを期待した分、「ああ、結局パニック映画だったな」と思ってしまい。
思うに、軽くストーン博士のバックグラウンドを語る割に、そこに生きるための動機付けが結びついてないのが引っかかったのかな、と。もっと生に執着する理由が欲しかったというか。
意地悪な言い方をすれば、「中途半端に背景を描き、借り物の勇気をもらってがんばりました」という内容です。これではちょっと、「今年一番!!」なんて言えません。
ただ、全編宇宙という舞台を形作る映像美とリアリティ、これはとんでもなく素晴らしかったです。もうほんとどうやって撮影したのかな、というリアルさ。中盤ぐらいまではストーリーよりも映像と雰囲気に呑まれ、本当に「どえらい映画だなぁ」と思って観てました。
良い意味でゲームっぽいというか、あまりに作るのが困難すぎて、映画の世界でこれを作るのは想像できないレベル。こういう娯楽を生身の人間が演技をする映画で作りきる、その技量は相当なものだと思います。
ここまでやられちゃうとちょっとこの後は宇宙映画が作りにくいだろうなぁと思います。これだけリアリティを持った全編宇宙のサスペンス(的パニック映画、ですが)は今までにない新ジャンルと言っていいぐらいの作りだったのは間違いありません。そういう意味では新鮮だったし、観てよかったとも思いました。
ただ、やっぱり結局はストーリー、かな…。もっともっと内面に食い込んで欲しかった。
この映画は「宇宙飛行士のピンチを追体験した」という映画であって、決して「一人の人間が生きる価値を見出す旅」というような深さはありません。それでいい、それが最高だ、っていう人は最高の映画と言うでしょうが、僕はそこに不満を感じた、というのが正直なところ。
ま、あんまり期待しないで観に行く、っていうのが一番じゃないでしょうか。ハードル上げすぎると肩透かしを食らうと思います。
やっぱりキュアロンって、(自分に合うか合わないかという意味で)その程度のレベルなんだと思うんですよね…。
テクニックは素晴らしかっただけに、脚本は他の人に書かせたほうが良かったんじゃ…と無責任発言しておきます。
このシーンがイイ!
宇宙服を脱ぐシーンは狙っているのもバレバレですが、素晴らしく美しかったですね。サンドラ・ブロック、もうおばさんだけど…綺麗でした。
ココが○
映像とリアリティ、コレに尽きます。
特にシャトルとかステーションが破壊されるシーンは、やっぱり地上とはちょっと違う、宇宙での崩壊が新鮮で、でも見たこと無いけどそうなんだろうな、っていうようなリアルさもすごくて。緊張感もすごかったし、まあよくこれだけの映像を作りましたよねぇ。
あとは個人的に今まで観た中では一番3Dとして意味があった映画かな、と。宇宙空間だけに暗さもあんまり気にならなかったし、それなりに3Dを活かした作りでもあったし。それでも結局は2Dで良かったかな、とも思いましたが。
ココが×
やっぱりストーリーですかねぇ…。なんというか、「上澄み感」があるんですよね。上の方で綺麗な部分だけサラッとすくった感じというか…。もっとドロドロしたところも見せてくれないと…。
実は半年ぐらい前に、友達に薦められて同じスペースデブリ(宇宙のゴミ)がテーマに出てくる「プラネテス」っていうアニメを観たんですが、そっちの方が宇宙飛行士の物語として好きだったな、と。そういう比較対象があったのもこの評価につながったかもしれません。
まあ、ただ90分程度でそこまで求めちゃうのも何なんですが。
MVA
ジョージ・クルーニーはジョージ・クルーニーらしい良い役だったと思いますが、やっぱりこの映画はどう考えても
サンドラ・ブロック(ライアン・ストーン博士役)
の映画でしょうね。
ストーリーに不満はあれど、演技に関してはパーフェクトだったと思います。ほぼ一人芝居でこれだけのものを演じるのは…いやはやスゴイ。「スピード」の姉ちゃんがここまで来たか…と感慨深いものがあります。
当然ですがスタイルも良くて、宇宙服を脱いだ時のフォルムが美しいというのもポイント。やらしい意味抜きで、体を綺麗に見せる重要性というのがすごく感じられた映画でもありました。文句なし。