映画レビュー0883 『グリーンブック』

「アカデミー賞大本命!」ってポスターを見てると印刷媒体のレスポンスの悪さに悲しみを覚えますが、ご存知今年のアカデミー賞で作品賞・脚本賞・助演男優賞の3つを受賞した映画です。

公開翌週ですがすでに小さいスクリーンでこれまた悲しみを覚えつつ、観てきました。

グリーンブック

Green Book
監督

ピーター・ファレリー

脚本

ニック・バレロンガ
ブライアン・ヘインズ・クリー
ピーター・ファレリー

出演

ヴィゴ・モーテンセン
マハーシャラ・アリ
リンダ・カーデリーニ
ディメター・マリノフ
マイク・ハットン

音楽

クリス・バワーズ

公開

2018年11月16日 アメリカ

上映時間

130分

製作国

アメリカ

視聴環境

劇場(小さめスクリーン)

グリーンブック

そりゃ良いよ! 文句言うな!!

9.5
黒人への差別が普通の時代、より差別が過酷な南部にツアーへ向かうピアニストとドライバー兼護衛の友情物語
  • 元々差別的だった男と黒人ピアニストのツアーを通した友情
  • 一方通行ではない双方の歩み寄りが見えるストーリーが◎
  • 演奏はもちろん劇伴も素晴らしく、音楽が影の主役
  • 押し付けがましくない価値観と程よい笑いで心地良い仕上がり

あらすじ

もはや説明不要だと思いますが、一応。

劇中でも説明されますが、タイトルの「グリーンブック」とは、「黒人がサービスを受けることができるガソリンスタンドやホテル等」が記載されたガイドブックのこと。

逆に言えばそういうものがないと危険すぎて旅ができないぐらいに黒人は差別を受けていたわけです。何せ「ジム・クロウ法」という人種差別を肯定する法律(州法)まであった時代ですからね…。ちなみにグリーンさんが作ったから「グリーンブック」だそうで、色のグリーンでは無いようです。

それだけ黒人にとって過酷な時代、おまけに地域的により人種差別が強烈な南部へ“あえて”ツアーに行く、という黒人ピアニストのドクターと、彼の護衛兼ドライバーを引き受けたトニー・リップの二人の物語です。

トニーの方は元々ナイトクラブでボーイ兼(用心棒的な)トラブル解決係として働いていたんですが店が閉店。職を失ったところで「仕事紹介してやるよ」ってことで向かった面接がドクターのドライバーでしたよと。

ドクターはなんと、かの有名なカーネギーホールの上階で貴族のような暮らしをしていて、当時の黒人としては相当に異質な存在だったと思われます。かなりの金持ちっぽいし、立ち居振る舞いからしてセレブ感がスゴイ。

トニーはガサツな男で、おまけに普通に(この当時としてはこっちが常識と思われます)黒人に対する差別心も持っている人物なんですが、彼の腕っぷしを含めた評判を聞いていたドクターが奥さんを丸め込む形でめでたく採用、二人の旅が始まります。

ニューヨークに住んでいる二人が目指すのは南部のツアー、どう考えてもトラブルの予感しか無いわけですが、そこを「グリーンブック」片手に“ツアーを滞りなく完遂させる”べく、各地でいろいろありながらそれぞれがお互いを認め合っていく友情のロードムービーでございます。

はじめから“良いに決まってる”映画

ごく一部の方はご存知の通り、僕はロードムービーが好きな上に男の友情物語の時点でもうどう転がっても良いに決まってるんですよ。

この映画の存在を初めて知ったのは、映画館でもらえるフリーペーパーの「シネコンウォーカー」だったんですが、まあもう「あ、こりゃ絶対おもしろいやつだ観に行こう」って2秒で決めましたからね。アカデミー賞云々前に。

で、実際観に行ってそりゃ良いよバカヤロー(涙)ってことでね。当然良かったわけですが。

大雑把に流れを書けば、「元々は水と油っぽい二人が旅を通して理解し合い、かけがえのない存在になっていく」ってもう字面だけ見ればありきたりっちゃーありきたりですよ。ハイハイよくあるロードムービーね、って感じで。事実、そんなに変わった話ではないと思います。

ただこの映画の優れている点としては、まず1つは「実話を元にしている」という点。

これもまたご多分に漏れず、かなり脚色が入ったお話だろうとは思います。ただそれでも実話ベースってだけでも強いし、脚本にトニーの息子さんが入ってる辺りも含めて「そこまで作り物ではないんじゃないか」という気もします。単なる予想ですが。

というか、実際はもっとエグい差別があったんじゃないかと思うんですよ。あくまで娯楽映画なのでソフトにしているけども、本当はもっとひどいエピソードもあったんじゃないかな、って。

それぐらい、この時代に黒人が南部へ向かうことの過酷さは想像を絶するものがあるんじゃないかなと。まさに「ミシシッピー・バーニング」ですよ。途中行ってたけども。ミシシッピーも。バーニングしないでよかったよ本当に。

劇伴が良すぎて鼻血出そう

もう1つ、大きく訴えておきたいのは「劇伴が神がかった良さ」という点。

ドクターは著名なジャズピアニストで、演奏自体もかなりかっこよくて最高だったんですが、それに加えて普通に劇中に挟まってくる劇伴の数々がことごとく素晴らしいんですよ。

シーンにマッチした曲調、入ってくるタイミング、すべて高次元で文句なし。まさに「音楽が主役」と言えるレベルの映画だと思います。

元々僕が(詳しくはないですが)ジャズが好きというのを差し引いても、ここまで音楽が良い、音楽だけで痺れる映画というのはなかなか無いと思いますね。それこそ形態はかなり違いますが「ボヘミアン・ラプソディ」に匹敵する音楽の良さが光る映画と言って良いでしょう。

正直そこにはそんなに期待していなかった(というか意識すらしていなかった)ので、もうエンドロール中に今すぐサントラ買わせろと鼻息荒くスクリーンに体当りしたくなるぐらいには良かったです。ホントに。

奥さんもまた素晴らしく

そんな名曲の数々に彩られつつのロードムービー、ちょい役かと思いきやトニーの奥さんの存在もまたとても良く、大きなものだったのも大切なポイント。

最初にトニーが黒人への差別を顕にするエピソードからも垣間見えるように、奥さんの方は(そこまで)差別意識は無いんですよね。その意味するところがエンディングの大きな感動を引き寄せるものになっていて、彼女の存在が無ければきっとここまで良い映画になっていなかったような気がします。ただの「男二人の友情物語」じゃないんですよ。そこがまたすごく良い。

ドクターとトリオを組む伴奏者も大事な存在だし、実は主役二人が大きくクローズアップされているようでいてその他の登場人物も非常に大事な役割を担っている、その辺のバランスの良さも見事だったと思います。

「黒人と白人の物語」だけじゃないんだよ!

傑作であることは間違いないと思います。なので興を削がないよう、これ以上あーだこーだ書くのはやめましょう。

ただそれ以外の話として、あまりにもステレオタイプな黒人・白人物語と取る人が多いのか、この映画が気に入らない勢力もそれなりに優勢らしいです。アカデミー作品賞取っちゃったから余計にそういう声が大きいんでしょうね。どうしても「ドライビング Miss デイジー」とかぶっちゃう部分もあるし。

それに対して一つ言っておきたいのは、この映画は確かに黒人差別とそれに向き合う白人の物語という側面はありますが、それ以上に「個人と個人の友情」を描いている点が大きいと思うんですよ。

その友情の成立過程に差別的要素が大きく利いているのは間違いないと思いますが、でも別に白人同士でも黒人同士でも、この感動は変わらないんじゃないかなと思います。

というか事前に思っていたよりも黒人・白人という関係性をことさら主張しているようには見えませんでした。僕はもっとトニーが「歩み寄る」部分をピークに持ってくるのかなと思ってたんですよ。

ところが実際は、トニーの差別感情はおそらく当時の人としては普通レベルでそこまでこだわりのあるものではなさそうだったし、最初の演奏を聞いた時点ですぐに「こいつは天才だ」って認めちゃってるんですよね。

だからそこ(差別主義者が黒人を見直すような展開)が主ではないのは明らかで、それ故その手の論法に重ねてベタだのありきたりだのって片付けちゃうのは違うんじゃないかなと思います。

それともう一点、アカデミー賞で他の作品に関わった、ある意味利害関係者である人物たちが批判しているのは率直に言ってすごくダサいと思いますね。スパイク・リーとかチャドウィック・ボーズマンとか。

例え不満があっても自分が同じ土俵にいる限りは否定しないのが最低限の美学だと思うんですが。ちょっとこの二人は個人的スーパーダセェ枠に入れざるを得ません。特にチャドウィック・ボーズマンにはガッカリ。何が陛下じゃボケ。

文句なしに傑作です

えーちょっと熱くなってしまいましたが。

そんなわけで傑作だと思いますので、ぜひ観て頂ければと。ロードムービーが好きであれば間違いなく好きになれる映画だと思います。

“どうしてもかぶる”ドライビング Mss デイジーと比べつつ、「この映画のエンディングはどうかな〜はてさてフフ〜ン?」と「できるかな」ばりに余裕ぶっこいて観ていましたが、この映画はこの映画でこれまたドライビング Miss デイジーに負けず劣らずの名シーンで閉じてくれて涙したことも書いておきたいと思います。

当然のごとくオススメだ!!

ネタバレブック

もー自分でもベタ過ぎるなと思うんですが、「最後の本番を蹴って場末の酒場で最高の笑顔で演奏」と「一度断っておいてやっぱりクリスマスパーティーに行く」エンディング、どっちも最高すぎて泣きました。

どっちもフリが効いてるんですよね。特に終盤の「帰ってきて一人寂しい家で迎えるクリスマス」の絵面はとても良かったと思います。序盤に出てきた広い部屋+お金持ち感が無情に映る秀逸さ。そこからトニー宅へ行っての笑顔。もう文句無いですよ。「やっぱりドクター来た!?」からのワンクッション置く質屋さんも最高。

あとはもうやっぱりラストシーンですよね。くどいようですが僕は「ドライビング Miss デイジー」のエンディングが死ぬほど好きなので、あれと比べてどうなんだと期待半分不安半分で観ていたんですが、まさかの奥さん締めで大満足、ニッコリ涙ですよ。「奥さん、知ってたんだね…(ホロリ)」みたいな。

それに対するドクターの笑顔も満点で、本当に文句ございませんでした。いやすぐにでももう一回観たい。

このシーンがイイ!

トニーが手紙を書くシーンはどれもすごく良かったと思います。二人が距離を詰めるところでもあったし。

劇中最後の演奏も忘れられません。もうあのシーンの時はなんだか眩しくて眩しくて…本当に胸がいっぱいになって感極まりました。最高のシーンだな、って。

あとはもうやっぱりエンディングですよ。これまた最高の閉じ方でした。

ココが○

「トニーが差別を改める」だけだったらここまで良い映画ではなかったと思います。

やっぱりドクターの浮世離れした黒人像みたいな、まさに象牙の塔に住んでいるかのような存在だったのが、トニーの元へ“降りてきた”ような歩み寄りが見えるところがまた素敵なんだと思いますね。片方だけじゃないんだぞ、っていうのが。

あとは繰り返しになりますが音楽。本当にめちゃくちゃ良かった。

ココが×

特に無いです。

本当は満点でも良いぐらいだとは思うんですが…満点だけはちょっと理屈抜きでこれは! って映画に限っているので、9.5にしました。

MVA

マハーシャラ・アリは本当に演奏したんですかね…? 観てる分には本人が演奏してるっぽくてすごいなぁと驚きながら観てたんですが…真相が知りたい。

彼もとても素晴らしかったし奥さんも同じく素晴らしかったんですが、選ぶのはこっちかな〜。

ヴィゴ・モーテンセン(トニー・“リップ”・バレロンガ役)

イタリア系じゃないのに良いのか? と監督にお伺いを立てたらしいですが、監督が「あなたならやってくれる」と信じた通り、素晴らしい“トニー・リップ”っぷり。これ以上無い人選だったと思います。

男らしく、情に厚く、どこかかわいらしさもある人物像。アカデミー賞はちょっとライバル(ボヘミアン・ラプソディのラミ・マレック)が特殊すぎた気がします。彼がいなければ取っててもおかしくなかった、それぐらいの名演でしょう。

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