映画レビュー0253 『招かれざる客』
我ながら、結局一番社会派映画に甘いんじゃないかと気付きつつも、今日もまた社会派映画を観るわけです。
※いつにも増して彼女役の方の絵がブサイクですが、気にしないでください。
招かれざる客
社会派の割に観やすくて○。
知性を感じさせる黒人俳優と言えば、僕ぐらいの年代であれば断然デンゼル・ワシントンでしょうが、そのデンゼル・ワシントンのお師匠さんとでも言うべき“元祖知的黒人俳優”シドニー・ポワチエ主演の社会派映画。
今の時代の、しかも日本に住む僕のような人間には(それこそ映画なんかである程度は理解しているものの)、この当時の白人と黒人の結婚が、どこまで「大変なこと」なのかいまいちピンとこない部分もありますが、その辺も脚本と演技でだいぶ理解しやすい内容になっていると思います。
突如として実家に帰宅した23歳の娘が、「この人と結婚する」と紹介したのが黒人男性で、両親その他周りの驚きと困惑に直面。さらに電話で彼女のことを伝え聞いたジョンの両親が、「私達も会いたい」と相手が白人女性であることを知らずにやってきて、ジョアンナの実家で双方の両親が相対しディナーを共に…というお話。
非常に面白いというか、おそらくリアリティの部分なんだと思いますが、「結婚に反対するのは白人側だけではない」という点は意外でした。ジョンの両親も困惑して反対するし、もっともジョンを認めてないのがジョアンナの実家で働く黒人家政婦というのが面白い。
僕なんかは割と単純に、「白人の娘と黒人の家政婦の仲だっていいんだし、別にそんな言うほど大変なんじゃないんじゃないの」なんて思ったりしたんですが、やっぱり結婚となると全然問題の大きさが違うし、いろいろ考えちゃうものなんですね。
ただ、実は「白人と黒人」の問題なのかと思いきや、終盤近くに「男女の価値観の違い」みたいなところに話がシフトしていくのもまたすごく面白くて、双方のお母さんとお父さん、それぞれ同性同士の考え方が似通ってくるところが非常に示唆的。「白人と黒人の結婚問題」だけでなく、「結婚に対する両親の価値観の違い」みたいな普遍的なテーマも含まれてきます。この部分でだいぶ幅が広がったように思いますねー。
タイトルとあらすじだけだと、かなり気まずいディナーを見させられる感じなのかと思いましたが、ちょっとした軽さもあったり、「男と女の違い」に目を向けさせたり、あんまり大上段に構えず、身近な家族会議的なわかりやすさがあって、社会派の割に重過ぎない、いい意味で娯楽になっている映画だと思います。
ややパンチが足りない、物足りない部分も感じましたが、でもこれは良作ですね。
結果的に認めてもらえるのか否か、サスペンス的な雰囲気もあってしっかり楽しませて頂きました。「ああ、結婚ってそういうものなのか」と思わせる、ラストのジョアンナパパの演説、すごく良かった。
このシーンがイイ!
異様に踊る二人。あのシーンだけこの映画と完全にマッチしていないということで、途中の肉配達のシーン。
というのはウソで。ジョンのお母さんとジョアンナのお父さんのテラスでの会話のシーンがすごく良かったですが、でもやっぱり、ラストのジョアンナのお父さんの“演説”がピカイチ。
ココが○
ほぼワンシチュエーションで展開する映画ながら、まったく飽きないんですよね。振り返ってもなんでここまで惹きつけられたのかわからないぐらい、普通のやり取りしか無いのにしっかり観させてくれる、その作りが良かった。
ココが×
上にも書きましたが、ややパンチ不足かなと。ただ、真っ当に一般的な家庭の問題を切り取った感じは無理がなくて、リアリティという意味ではそれで良かったような気もします。
あと一点、惜しむらくはジョンの経歴が綺麗過ぎること。そりゃーこれだけ優秀な人なら、相手のご両親も考えるでしょう。その辺りが…無難な感じがしないでもないです。
MVA
「アビエイター」でケイト・ブランシェット演じるキャサリン・ヘプバーンは観ましたが、ご本人を観るのはこれが初めて。終始うるうる、堂々としてるけど繊細なお母さんをしっかり演じてるなぁと感心しましたが、この映画はこの人にしたいと思います。
スペンサー・トレイシー(マット・ドレイトン役)
ジョアンナパパ。
非常に味のある爺さんっぽい風情がたまらず、また演技的にも紳士だけど頑固でちょいかわいい爺さん的な感じがピッタリ。そして最後の演説がお見事。聞けばこの映画の撮影終了直後に亡くなったそうで、この映画が遺作だとか。
奥さん役のキャサリン・ヘプバーンとは9本の映画に共演、事実婚状態だったそうで、最期を看取ったのも彼女とのことです。そういう話を聞くと、これまたなかなかまた一つ、この映画の味わいが増しますねぇ…。