映画レビュー1057 『天国は待ってくれる』

この日もインド映画を…と思ったんですが4時間近いのは無理だと早々に諦め、久々に古い映画を観るぞと録画からチョイスしました。

なお、同名タイトルの邦画もあるようですが、「古い映画」と言っている通り、そっちではありません。

天国は待ってくれる

Heaven Can Wait
監督
脚本

サムソン・ラファエルソン

原作

『Birthday』
レスリー・ブッシュ=フェキート

出演

ジーン・ティアニー
ドン・アメチー
チャールズ・コバーン
レアード・クリーガー
ルイス・カルハーン
スプリング・バイイントン
ユージン・ポーレット
マージョリー・メイン
アリン・ジョスリン
シグネ・ハッソ

音楽
公開

1943年8月11日 アメリカ

上映時間

112分

製作国

アメリカ

視聴環境

BSプレミアム録画(TV)

天国は待ってくれる

染みる小道具と締めの良さ。

8.5
死後「自分は地獄行きで当然だ」と言う男、閻魔大王に人生を語る
  • 地獄の受付にやってきた男が、“判定”のため自分の人生を語る
  • 恋愛中心の人生ドラマで、話自体はなんてことないものではあるものの…
  • やや時代を感じる話ではあるが、良さは変わらない
  • 主演のドン・アメチーにほんのりブラピっぽさを感じる

あらすじ

きっと今の派手な話に比べれば、どうってことない内容のお話なんですが…しかしやっぱり古い映画らしく丁寧で小道具の使い方にセンスが光る、最後にほっこりにっこり幸せな気持ちになれる素敵な映画でござんしたよ…。

地獄の受付にやってきた一人の男、ヘンリー・ヴァン・クリーヴ(ドン・アメチー)。そこではヒゲが立派なおっさん…そう、閻魔大王が彼を待っていたものの、「地獄の仕事は忙しく、まだあなたの人生を吟味できていない。だがあなたに興味がある」とのことで彼に自らの人生を語らせます。

促されたヘンリーは、生前関わってきた女性たちを中心に、自らの人生を語るのでした…。あとは観てください…。(軽めのあらすじ)

監督はワイルダーの師匠

まずこの映画における「天国と地獄」の概念的な感じはですね、どうやら死んだ直後に振り分けられるわけではなく、閻魔大王の「上には行ってみたか?」という問いからもわかる通り、ある程度本人による自己推薦的な側面がある模様で、だったらダメ元でもとりあえず一回天国行ってみるか、となりそうなものですがヘンリーはそうせず、また(おそらく死後の世界のエントランス的なところにいた)他の人たちに「落ちろ」と言われるがままやってきたら地獄の受付だった、というような状況からスタートしたようです。(説明文)

で、きっと普通の人であれば大体天国に向かうはずがそのつもりもなく「自分は地獄に落ちても仕方がない、でもこれと言った犯罪は犯していない」と言うヘンリーに興味を持った閻魔大王が、彼の人生を語らせる形でヘンリーの一生を観ていくことになりますよと。

ヘンリーはニューヨークの上流階級に生まれた一人っ子で、かなり甘やかされて育っていたようで、成長してもこれと言った仕事はせず、興味があるのは女性だけ…的なお気楽人生を歩んできたお方のようです。

その彼も「そろそろ結婚を」と言われるような時期になった頃、堅物の従兄弟・アルバートがとんでもない美人の婚約者・マーサを連れてきたことで彼の一生が変わる…つまりマーサとのいろいろが中心の恋愛物語でありつつ、彼の一生を追った人生ドラマでもあります。

監督はエルンスト・ルビッチ。僕は初めての監督さんですが、あのビリー・ワイルダーの師匠として有名な人なので、そういう意味でも楽しみにしていました。

ある小道具の使い方、そしてエンディングの“キメ”のよさはさすがという印象で、なるほど確かにワイルダー作品に通ずる見事な作りを感じましたね。そういう先入観で観ているからかもしれないし、古い映画はこういう作りが多いのも確かではありますが、でもやっぱり今の映画には無い“何か”が感じられるのは事実で、この感覚は何なんだろうと…言語化できないのがもどかしいですが、これがあるから古い映画を観るのはやめらんねぇぜグヘヘヘと久しぶりにヨダレを垂らすぐらいに響くものがありました。

なんだかんだやっぱり定期的に古い映画を観ないとダメだなと改めてネジを締め直させられたような感覚。この映画や他の古い映画には、絶対に今の時代に失われてしまった情緒的な“何か”があると思います。それに触れたときに、なんとも言えない懐かしさと(今はそれが無いことから来る)寂しさを感じるんですが、その感覚がまたたまらないんですよ。それこそが映画を観る楽しみの一つと言って良いのかもしれません。

これは何度も書いていることですが、別に「今の映画がダメで古い映画こそが映画だ」なんて言うつもりはサラサラなく、ご存知の通り今の映画も素晴らしいものは素晴らしいし十分堪能しています。

でも今の映画では描けないもの、いやもっと言えば描かなくても込められる空気感みたいなものって絶対にあると思うんですよ。それは技術面を含めた映画の作りから来るものもそうだし、時代背景から来るものもそうでしょう。

反対に今だからこそ描けるものもあるわけで、どっちかに偏りすぎるとそっち側の視点しか持てなくなるからどっちも観て自分をフラットに保つような、そんな感覚が大事かもしれないと思った次第です。

新しい映画はほっといても“観ちゃう”ものだから、古い映画はより意識的に触れていかないといけないな、と。

「古き良き映画」をぜひ

映画本編とは関係のない話が中心になってしましましたが、そんなわけで「古き良き映画」感が存分に味わえる映画なので、興味がある方にはぜひ一度観ていただきたいところ。

古いもののカラーである点も比較的観やすいかもしれません。(僕はモノクロも好きですが)

オープニングのオシャレさも古い映画らしい良さに溢れてるし、話の内容以上に全体の雰囲気の良さが光る映画ではないでしょうか。これ、演出次第で完全な駄作になり得る話だと思うし、それだけにより一層ルビッチの手腕が際立つ映画ではないかな…とにわか的には思います。

ネタバレは待ってくれる

待たないけど。すぐ書くけど。ちょっとだけ。

ラストシーンがね。やっぱり素敵すぎて、あの1シーンでもうその日一日幸せな気持ちで過ごせるな、っていうぐらい良かったです。

あれ、「君は天国に行きなさい」で終わりでも話としては良いじゃないですか。でもそれをわざわざエレベーターを出して、おまけにわざわざエレベーターボーイに「下ですか?」って聞かせるのがね。上手いしたまらなかったですね。

そして閻魔大王の「いや、上だ」のドヤ顔でエンド、ですよ。あのラストシーンの入れ方が本当に素晴らしかった。セリフもドヤ顔も完璧。

このシーンがイイ!

これはもうラストシーンでしょう。完璧なラストシーンだと思います。大好き。

なんてこと無いシーンではあるんですが、ネタバレ項に書いたようにきっちりエンディングとして余韻を残せるように計算された素晴らしいシーンだと思います。

ココが○

「いい夫婦の日」に夫婦で観ると最高じゃないかなと思います。ほっこりして多幸感のある物語で。結婚していない人間が言うのもなんですが。

あとはやっぱりオープニングとエンディングの良さ。特にエンディングの良さは格別でしたね。やっぱりこの時代の映画はすごく余韻を大事にしていて、魂を込めてエンディングを作っているんじゃないかなと改めて思います。

まあ逆に言えば「そうだから現代でも観る機会が残っている=そうではない映画は淘汰されている」のかもしれないですね。

ココが×

結局はボンボンのお話なので、「気楽で良い人生だな」と腐りたくなる気持ちも若干あるっちゃあります。ついぞ働いてる描写は一度も出てこなかったし。

働かずにお金にも困らず好きな女性に尽くす人生、そりゃ幸せだわなと思いますよ。ただこれもまた時代が違うので仕方がない…と同時に、その時代性の違いであまり評価できない人がいてもおかしくはないかなと。

MVA

主役のドン・アメチーは当時30代で、青年期〜死ぬまでを一人で演じているんですが、見た目的にはそこまでではないものの、どことなく…中年以降も女性を追いかけ、劇中見せる優しい態度と眼差しが、一瞬「あ、ブラピっぽい」って思ったんですよね。

役柄がそうさせたのもありますが、目の辺りが結構似ているような気がして、そこもなんだか妙にグッときた面がありました。

が、MVAはこちらの方に。

チャールズ・コバーン(ヒューゴ・ヴァン・クリーヴ役)

主人公、ヘンリーのおじいちゃん。長生き。

この映画を観れば誰しもがおじいちゃん最高だなと思うんじゃないでしょうか。かわいくて主人公の味方のおじいちゃんはどんな映画でも最高です。

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