映画レビュー1202 『ハスラーズ』
一時期ウォッチパーティの候補に挙げられていて気になっていた映画。JAIHOにも来たので観てみました。
ハスラーズ
ローリーン・スカファリア
『The Hustlers at Scores』
ジェシカ・プレスラー
コンスタンス・ウー
ジェニファー・ロペス
カーディ・B
キキ・パーマー
ジュリア・スタイルズ
ワイ・チン・ホー
2019年9月13日 アメリカ
110分
アメリカ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

騙す方も騙される方も好きになれない。
- ウォール街の男たちからモロ犯罪の金巻き上げビジネスを始めるストリッパーたち
- 男たちの“後ろめたさ”に漬け込んで犯罪でも露呈しにくい狡猾な“ビジネス”
- 騙す方も騙される方もクズなのでみんな好きになれない
- 真っ当に生きるのが一番だよねと言ういつもの感想
あらすじ
映画としてはなかなか良くできているんでしょうが…登場人物全員感情移入できないというなかなか珍しい映画だったのでどうにも好きになれませんでした。
シングルマザーのデスティニー(コンスタンス・ウー)は生活費を稼ぐためにストリッパーになったものの、個人のスキルで稼ぎが大きく変わる業界に馴染めずにいたところ、ある日超売れっ子ストリッパーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)と出会います。
デスティニーは彼女に教えを請い、またコンビ的に活動していくことで次第に稼げるストリッパーになり、生活も安定。ラモーナとは親友となり、生活レベルも上がって順風満帆…だったところに発生したリーマンショック。
そもそもウォール街の金持ち連中を“太客”として稼いでいた彼女たちは、そのウォール街の経済が冷え込んでしまったことで店も閑古鳥が鳴き始め、まったく稼げない状況に陥っていきます。
やがてストリッパーを退職した彼女たちですが、いわゆる普通の仕事では稼ぎも低く、また上手く働けないために“新たなビジネス”としてかつての太客たちを個別に誘っては犯罪まがい(と言うかモロ犯罪)の方法でクレジットカードを不正使用し始めます。
ストリッパー時代とは比べ物にならないぐらいに稼ぎ出した彼女たちはビジネスを広げますが、当然そのまますんなりうまくいくはずもなく…。
誰も好きになれない
違法ビジネスで上り詰め、そして堕ちていく…よくある「上昇・絶頂・破滅」のパターン。「ブロウ」とか「バリー・シール」とかあの辺の感じです。
ちなみにWikipediaには「(ある)記事を参考に作られた」とあったので、実話ではなくよくあるインスパイア系なのかと思ったんですが、軽く調べたところ結構実話に近く、主人公たちのモデルも実在しているようです。
ということで「これだけの経済危機を引き起こしながらも責任も取らずにのうのうと暮らしている連中が許せない!」とほぼ逆ギレ状態でウォール街の男たちから金を巻き上げるストリッパーたちのお話。
気持ちはわかるけど、やり方がひどすぎて共感できませんでした。ただ酔わせるだけならまだしもクスリまで使ってますからね。
手口からして完全に“悪人”なんですが、あまり(全然とは言いません)罪悪感を感じさせるような描写ではなく、なんならちょっとオシャレに調子よく描いている印象で、これだとうっかり憧れちゃう女子が出てきてもおかしくないんじゃないか…と老婆心的な思いも抱きました。
言うまでもなく僕は男性なので、この映画で言えばターゲットにされる側です。(お金の有無は別として)
その視点で考えたときに「(浮気や風俗通い等の)後ろめたさ故に被害に気付いても言い出せない」、男としての弱みを最大限利用した“犯罪”はうまいなと感心する部分もありますが、それ以上に端的に言って「卑怯だな」と思うんですよ。
ここに「卑怯」という価値観を持ち込むこと自体ナイーブだとも思うんですが、それにしたってもうちょっとやり方にせよ罪からの逃れ方にせよ、少しでも人としての矜持みたいなものがないのかよと。あまりにも下衆すぎるやり口に、主人公たちなのにまったく好きになれませんでした。
同時に騙される側になるウォール街の男たちも、一部を覗いて大半はゲスちんこ野郎なので、これまた「やられても仕方ない」と思える部分もあり、攻守双方好きになれない試合を見させられている気分で気持ちとしてはあまり乗れませんでしたね。
結果、そのどちらにも属さず「派手さはなくても堅実に、地道に生きるのが一番」と言うこの手の映画の感想としてはベタすぎるところに着地しました。
なのでなんだかんだ言っても物語としては間違ってないのかも知れません。この手の教訓を残すという意味で。
女性ならスカッとする…のかも?
しかしこの映画、同性(女性)から観てどうなのかは当然ながら僕にはわかりません。
理不尽な女性差別を受けてきた人たちからすれば、もしかしたらスカッとすることこの上ない話かもしれないですね。
ただこの映画の構成上の問題かも知れませんが、もっと搾取される男たちの異様さやクズっぷりを誇張してでも大きく描いた方が、観客がより彼女たちの味方に回りやすくなると言う意味で良かったような気がします。
男性側の描写についてはあまり時間を割いていなかったので、相対的に彼女たちがいかに苦労し、ひどい仕事を強いられてきたのかがわからないのが仇になっていると思うんですよね。
勝手な想像ですが、やはりストリッパーと言う仕事はかなりストレスも多いだろうし、理不尽な要求を受けがちだろうと思うんですよ。
前半でそういう部分を結構しっかり描いてくれれば、彼女たちの“ビジネス”にもある程度同情もしくは共感できた気がするんですが、そこが弱いのでただただ犯罪に走る、殴られたから殴り返すぐらいのダーティビジネスを見せられただけ、という気がして気が滅入りました。
もっともそれで「私たち最高ハッピー☆」で終わる呑気な映画ではないだけに、彼女たちも“悪”に見えるのは狙い通りなのかもしれません。
男だろうと女だろうと、誰かを食い物にして生きるのはよくないぜ的なメッセージもあったのかもしれないし…。
しかしとなるとやっぱり、逆説的ですが被害者(男)側をもっと悪く描いた方が良かったでしょと思わざるを得ません。そこが本当に残念。
このシーンがイイ!
デスティニーのお婆ちゃんが彼女たちのパーティに招待されているシーンが好きでしたね。仲間も家族だし、みんなちゃんと家族思いだよ、って言うのが。
ココが○
ダーティな女性陣が主人公、っていうのはなかなか他にない良さかもしれないですね。あんまり観た記憶がないです。
ココが×
上に書いた通り。みんな好きになれない。
MVA
ゲロゲロしまくるアナベル役のリリ・ラインハートがお気に入りですが、演技で言えばこの人でしょう。
ジェニファー・ロペス(ラモーナ・ヴェガ役)
超売れっ子のストリッパーでみんなのリーダー的存在。
カリスマ性から姐御的な仲間への優しさまで全部本物感すごかった。まさにこの人のための役と言えそう。ものすごく上手でした。