映画レビュー1131 『i -新聞記者ドキュメント-』
ここのところ妙にドキュメンタリーづいてますね。これで4本連続です。たまたまなんですけどね。
※表示がズレちゃってますが調べたり直したりが面倒なのでこのままでお許しください。
i -新聞記者ドキュメント-
森達也
望月衣塑子
2019年11月15日 日本
113分
日本
Netflix(PS4・TV)

知るべき内容ではあるものの、手法には疑問も。
- 望月記者の取材方法云々よりも、彼女を通した現在の(主に政治)問題を観ていく内容
- 知っている人は知っている内容なので、価値観が近い観客からすれば“おさらい”に近い
- 知らない人が観て“翻意”まで行けるかと言うとそれもまた難しそうな作りに感じる
- やや偏りがちでより分断を助長する印象
あらすじ
現下の政治状況を伝える内容なだけに、とても「楽しい映画体験」とはならないし、作りとしても明確に反政府の内容なので、観る人によってかなり評価が分かれる内容なのは間違いないでしょう。僕としては「反対側にいる人たちを巻き込む」ぐらいの巧妙さが欲しかったので、結果的に現政権支持・不支持双方がよりその意志を固くする分断を助長する映画になっている気がして、そこが少々残念ではありました。
あらすじと言うあらすじも無いんですが…菅官房長官(10月2日現在ギリギリ現総理)の記者会見で一人“空気を読まない”質問攻勢で有名になった東京新聞社会部記者・望月衣塑子さんの取材に同行、それをつなぎ合わせたドキュメンタリーです。
当該記者会見はもちろん、沖縄・辺野古基地移設問題や森友学園問題等ここ数年の政治案件を中心に追う彼女の姿を通し、メディアや政府の問題を浮き彫りにします。
もう少し間口を広げた方がいいような
まず書いておくと、僕は全肯定はしませんが望月記者には頑張ってほしいと思っている側の人間です。他社の(場合によっては同じ東京新聞の)記者たちがあまりにも権威に対して従順すぎるため、「権力監視」の役割放棄に近い現状のマスコミにおける一種のジャンヌ・ダルクになって“しまっている”状況にはいろいろ思うところはありますが、とは言え他が他なので頑張ってもらうしか無い、というところ。
ちなみに知らない方も多いみたいですが、前政権も現政権も「首相会見」は(フリーランスを除き)原則として質問が事前に取りまとめられ、それに対する回答を官僚が用意し、それをただ首相が読み上げるだけという“なんちゃって会見”が恒例化しています。それを良しと受け入れ、さらにその上“更問(最初の質問に重ねる質問)無し”の(勝手に作られた)ルールも丸呑みするポチ軍団の内閣記者会がクソなんだよね、と言った話にまで行くと長くなるのでそこには触れません。
ただ、現首相が官房長官時代は(と言うより官房長官会見は)それが貫徹されておらず、特にこの映画でメインとなる人物・望月記者に関してはその場で(散々妨害されつつも)質問をぶつけ続け、そしてそれにまともに答えようとしない菅官房長官=現首相が最大限見下した形で慇懃無礼に事実上の「ゼロ回答」で終える、というのを繰り返しているわけです。そしてその模様が収められている、と。
まあもういじめに近いひどさですよね。実際に見ると。質問最初の一文「○○について○○では〜」と言った途端に司会者(内閣広報官)から「手短にお願いします」って入りますからね。毎回。嫌がらせとしか言いようがありません。
そしてそれをやらせているのが現首相なわけですが、彼についてはまだ…最大限好意的に解釈すれば、権力者として突っ込まれたくないんだろうなと理解できます。器の小せえ男だなとは思いますが。
最も問題なのは、その質問妨害の司会を許容している他の記者会(大手マスコミ)メンバーで、なんなら権力側と一緒になって彼女を嘲笑っていたりするというのが本当に胸糞悪い。
何が胸糞悪いかと言うと、それは(一部はあるでしょうが)取材手法や政治的スタンスのためではなく、明らかに「対女性」だからこそ許されている(と思っている)今の日本にはびこる男社会の問題そのものなんですよね。
望月記者が男性であれば、おそらくここまであからさまな嫌がらせや同業者の“いじめ同化”は無いと思います。それが透けて見えるからクソダセェ男どもだな、と思うわけですよ。菅含めてね。
ちょっと本題から逸れたので軌道修正しますが、そんな感じで今彼女が置かれている状況と、それにへこたれずに取材を続ける姿にいろいろ思うところが出てくるわけですが、ただ「応援したい」と思っている僕ですら、この映画の見せ方には少々疑問を感じる面がありました。
一言で言うと少々幼さを感じると言うか、もうちょっと巧みに味方を増やそうとすればいいのに、真正面から「勧善懲悪」を遂行しようとしているように見えて、こういう問題でそれをやっちゃうと多分今「敵」の人たちは頑なになっちゃうだけじゃないかな、ともったいなさを感じたんですよね。
もちろん正か悪かで言えば正よりに位置しているとは思いますが、かと言って世の中は当然100対0で正義と悪が分かれているわけではなく、まだら模様に入り乱れているわけじゃないですか。
その感覚を捨て去って「こっちが正しいからやっつけてやろう」みたいな作りになっているのはいかがなものかな、と思うんですよ。
おそらく森監督は現政権≒菅義偉に相当な怒りがあるんだろうと思うんですが、それはそれ、これはこれで。映画として作る以上は、そこを巧妙に、いやらしいまでに事実を積み上げて「これが正しいっておかしくないですか?」と問いかけるような内容にした方がよほど響く人が多いんじゃないかな、と。
ただこれもあくまで僕が観た主観でしか無く、実際問題あらゆる面で“おかしい”のも事実なので、それを編集して行った先にだんだん乗ってきちゃって、盛り上がって来ちゃってこういう作りになったのかもしれません。それはそれで人間臭くもあるので悪くはないのかもしれないですね。
ただ僕としては、もっと一般的に広くこの“茶番”で作り上げられている安倍〜菅政権(そしておそらく岸田政権も)の現実をフラットに受け入れられる内容であってほしかったので、その意味でも物足りないし、ドキュメンタリーとしてもフラットに楽しめられる内容ではないだけにいろいろ評価が難しい映画ではないかなと思います。
もう少しうまく作れるのでは
どうしても現状の政治に対する不満が大きいので、この手の政治的な内容の映画についてはいろいろ語りたくなっちゃうのが悪い癖なんですが…簡単にまとめれば、「現下の政治状況について端的に知られる内容は良いものの、見せ方があまり良くない」と言ったところでしょうか。
途中でTBSの金平さんやビデオニュース・ドットコムの神保さんが少しだけ出てきて本題とは無関係の話(監督が記者会見に入るにはどうすればいいか)をするんですが、もっと本題に近い内容をこういった他のジャーナリストたちに語らせていかに事実がひどいのかを知らしめるような内容にしても良かったと思うんですよ。
「そういう映画だからしょうがない」のかもしれませんが、この内容だと望月さんが思っていることをただ訴えるだけになってしまい、彼女を認めていない人たちからは「まあ彼女はちょっと変だからね」で片付けられてしまう(そう判断させる余地がある)のが非常にもったいない。
そもそも他のジャーナリストたちが登場するシーンは、上に書いた通り本題とは逸れた、なんなら望月記者も関係がない話でしか出てこないのも非常に疑問で、監督は望月記者を撮りたいのであれば自分自身が記者会見に入れないとかガードマンに邪魔をされてるとか(そのこと自体はひどいと思いますが)そう言う話は余計だと思います。
そんなわけで、総じてもう少しうまく作れるでしょと言う残念な思いが強い映画でした。テーマがテーマだけに、余計に。
このシーンがイイ!
外国人の記者たちが望月記者を訪ねに来るシーンはすごく良いと思いますね。やっぱり国内記者だといろんな思惑が感じられてしまう人も多いはずで、外圧に弱い国としては「海外の常識と照らし合わせてどれだけおかしいか」がわかる部分は価値があると思います。
ココが○
あからさまに権力側から迫害されている一記者を追うことの意味は大きいと思います。あとは見せ方の問題。
ココが×
と言うことで見せ方にそこまで巧みさが感じられなかったのがつくづく残念。もっと淡々と、事実を重ねて見せるだけでいかにひどいかがわかると思うんだけどな…。やや主観が強いドキュメンタリーに感じられたのが残念。
MVA
まあ、事実上一人なので。
望月衣塑子(本人)
まーバイタリティのある人だなと思いますね。自分だったらあんなハードな仕事の時点で続けられ無いと思いますが、その上誹謗中傷もすごいわけで…一言で言うと強いな、と。
東京新聞も彼女の存在で売れてる面は少なからずあるはずだし、もう少し会社としてバックアップしてあげて欲しいところ。できれば同じ志の同僚が増えるべきだとは思いますが、今はサラリーマン記者ばっかりですからね…。