映画レビュー0737 『イップ・マン 序章』
最近一部の映画アカウント界隈のツイッターで話題になっているのをチラ見していて、主演のドニー・イェンも「ローグ・ワン」でかっこよかったし観てみたいな、と思ったらネトフリにあったので早速。
イップ・マン 序章
キレッキレでかっこよすぎマン。
いわゆるカンフーアクション映画になりますが、実在の人物を描いているだけにただのアクション映画という感じでもなく、ある意味では戦争映画とも言えるような内容でした。
単純に大会に出てオレツエーで終わるようなお話ではないのがまた良い点なのかなと思うんですが、まあなんと言ってもやっぱり…わかりきってはいましたが、ドニー・イェンが演じるイップ・マンがかっこよすぎてですね。終了後、即構えを真似したことは言うまでもありません。詠春拳習いたい。
まず最初に説明しておくと、この映画がヒットしたために他に何本か便乗的な映画が作られたっぽい感じなんですが、この「ドニー・イェン版イップ・マン」は
- イップ・マン 序章
- イップ・マン 葉問
- イップ・マン 継承
の3作になります。
他にアンソニー・ウォンやトニー・レオンが演じるイップ・マンの映画もあるらしく、それはそれで観たいんですが、でも正直ちょっとドニー・イェンのイップ・マンがかっこよすぎて観る前から厳しい気がしないでもないというぐらいにかっこよかったという。
ちなみに今作はタイトルに「序章」と入っているので、続編ありきの中途半端な物語なんじゃないか…と思いそうなところですが、続編はおそらくこの映画がヒットしたために作られたんじゃないか、というぐらいに単品としてきちんと成立したお話なので、その辺りの心配はいらないと思います。
これは邦題が付けられた…というか日本にこの作品がやってきた事情と関わっているようで、実は(一般公開として)最初に日本に入ってきたのは、二作目に当たる「イップ・マン 葉問」のようです。これがそれなりのヒットを記録したことで、前作となるこの「イップ・マン 序章」が一般公開されたわけですが、その一般公開が「2→1」という順番になったがために充てられたのが「序章」というタイトルなのかな、と。
ただの予想ですが。知らないけどきっとそう。
まあ、後述しますがこの作品の悪役が日本人なので、最初にこれを持ってくるのはキツいと踏んだのかもしれませんね。
ということで概要。
舞台は好景気に沸く中国・仏山市。ここは武術が盛んとのことで、数人の師範代的な人たちが道場を開いて生徒を集め、日々研鑽しているという環境。
主役のイップ・マンはすでに物語開始の時点で武術の達人として(誰もがイップ・マン師匠と呼ぶぐらい)名声を得ているお人ですが、しかし道場は開いておらずに働きもせず毎日稽古するだけという意識高い系ニートみたいなお人です。めっちゃ金持ちっぽいんですよね。屋敷も広いし高そうな骨董品もゴロゴロあるしで。
で、そんな彼の下にある日、「リュウ師匠」というトミーズ雅に激似の道場主がやってきて手合わせを願います。最初から「この戦いは内密に」と言っていることからもおそらくはそうやすやすと勝てるとも思っていなかったんだろうと思いますが、達人と名高いイップ・マン師匠と戦って自分の実力を見極めたい、あわよくば勝利して(勝ったら公言して)宣伝に利用したい、みたいな感じでしょうか。
まあしかしイップ・マン師匠は余裕の戦いであっさり彼を退け、やっぱつえーんだな感を観客に植え付けてくれます。
その戦いの後になんやかんやありつつも少しの時が経ち、やがて仏山の道場主を全員倒して道場を開かんとする男、金が仏山にやってきます。
彼は圧倒的な強さで各道場主を倒しますが、意気揚々なところに「イップ・マン師匠とやってないのに偉そうなこと言うんじゃねぇ」的に言われて憤慨、良いだろうそんじゃあそいつを倒してやるぜ! と息巻いてイップ・マン邸に乗り込むわけです。
トミーズ雅に激似のリュウ師匠もあっさり退けた金の底知れぬ強さに、さすがのイップ・マンも苦戦するか…? とハラハラドキドキしつつあとはご覧頂きましょう。
このリュウ師匠の使い方もそうなんですが、まず思ったのは「強さの序列」の描き方がとてもわかりやすく、それ故にすんなりと「イップ・マン師匠スゲェかっこいい」と観客に純粋な憧れを抱かせる上手さが良かったですね。
リュウ師匠はこの後も結構重要な役回りで物語に関わってくるんですがそれはともかくとして、この「リュウ師匠より金が強い」「リュウ師匠よりイップ・マンが強い」となるとどっちが強いか気になる、みたいな単純に強さを比較したくなる物語の組み立て方がわかりやすいし、序盤のつかみとしてはすごく良かったと思います。
特に金はかなりのパワーファイターっぽい風貌と格闘スタイルなので、余計に細身で“柔よく剛を制す”タイプのイップ・マンとのバトルが映えるという。この時点でかなり作りが良いなとワクワクさせて頂きました。
もちろんこれは後半のメインのお話への前フリでしか無いわけですが、その前フリできっちりと各人の強さをお知らせしておいて、後半の物語に入りやすい仕組みを用意してくれたのがイイなと。
後半は日中戦争を経て日本軍がアイコン化された悪役として物語の中心に据えられるんですが、日本人としての気分の良し悪しは別として、単純なバトルだけではない、物語に時代背景を組み込みつつイップ・マンが戦いに身を投じざるを得ない環境を作り上げるシナリオもまた単なるカンフーアクション映画ではない良さがあったと思います。
実は(個人差があるとは思いますが)思ったよりもバトルシーンが無いんですが、それがなおさら「もっとイップ・マンを見せろ」という欲求にもつながっていて、その飢餓感みたいなものが物語の引力になっているのもうまいところ。
さて、肝心のイップ・マンその人なんですが。
これがねー。もうめちゃくちゃかっこいいんですよ。
力の入っていない“いかにも”強そうな佇まいの詠春拳の構えはもちろん、特に相手の攻撃をいなしたりガードしたりの所作がものすごく綺麗で気持ちがいい。今まで観てきたどの格闘よりも捌きが綺麗で、静と動の対比が美しい拳法という感じ。
このドニー・イェンの格闘シーンの美しさとテンポの良さはなんならちょっとしたトリップ感すらあって、なるほどこれはすごいと唸りました。
めっちゃ木人欲しくなりましたからね。カツンカツン練習したい。
おまけにイップ・マンの奥さんがまたものすごく説得力のある美人さんということもあって余計に詠春拳を習いたくなったよね。マジで。
こればっかりは観ていただかないと伝えようがないので観ていただくしかないんですが。(そのまま)
あのドニー・イェンの所作の美しさ、気持ちよさというのはまず他ではお目にかかれないものなので、それだけでも一見の価値があると思います。
上に書いた通り完全に日本人が悪役を引き受ける映画なので、ネトウヨ的な人たちは絶対に観ないほうが良いとは思いますが、そうではない人であれば観る価値がある映画だと思います。
僕は中国(香港)映画は詳しくないですが、想像していたようなチープさみたいなものは一切なかったし、良い意味でこなれた作りの映画なので普通に観やすいのも良いところ。
アクションにさして興味のない僕がそうだったので、アクション好きであればなおさら観るべき映画かもしれません。マジでもうめっちゃカッコイイので。ドニー・イェン。
オススメ!!
このシーンがイイ!
ドニー・イェンが演じるバトルシーンはどれもスーパーかっこいいので該当するシーンは全部と言っていいんですが、ドラマ的には血まみれの米袋を持っていくシーン、でしょう。あそこはやっぱりグッと来ましたね…。
ココが○
この歳になってここまで感化されるほど惚れ惚れとするアクションを観られるとは思っていませんでした。ドニー・イェンのアクションそのものもそうですが、見せ方も相当に上手いと思います。
上に書いた「序列の描き方」にしてもそうだし、観客の期待感と飢餓感の操り方が巧み。
ココが×
すごく細かい部分ですが、バトル中の効果音が少しだけ軽いんですよね。もうちょっとだけ重みを増した方がよりトリップ感が増して良かった気がします。
まあこの辺は中国の定番と日本の(格ゲー他における)定番の違いかもしれませんが。
あとちょっとだけイップ・マンが高潔な人物すぎるかなぁというのも思いましたが、ただ一応実在の人物なだけにそういう人だったのかなとも思います。どっちかというとこれは僻みに近いイチャモンかもしれません。
もう一つ、これは結局調べてもわからなかったんですが、どーもセリフが吹き替えっぽい感じだったんですよね。全員ではないと思うんですが、一部の人の一部のシーンで。
昔の香港映画は(中国語でも)吹き替えが主流だったという先入観故、なのかもしれませんが…。ちゃんとその場で音を拾ってそのまま入れてる感じがしなかったんだよなぁ…。実際どうだったんだろう。
MVA
奥さんがめっちゃ美人だったので奥さんにしたいという男目線を振り抜いて当然の選択。
ドニー・イェン(イップ・マン役)
もう観ればわかる説得力なので何も申しません。ドハマリしてます。
役柄としては、密かにリー(警察官だった人)がMVA級だったと思います。ただの小役人的警官かと思いきや、イップ・マンに触発されたのか後半は特上の男気を見せてくれて。言うなれば影のMVPってやつでしょうか。
日本人キャストは(悪役という意味で)池内博之と渋谷天馬のお二人がきっちり演じてくれたのも良かったでしょう。特に渋谷天馬演じる佐藤は若干臭い感はありましたが、その分カタルシスをもたらす役割として価値があったのかな、と。