映画レビュー0888 『なんだかおかしな物語』

「最近あんまりネトフリ終了来ないし映画はやめてゲームでもするかなー」とホゲホゲしてたら気付けばまた大量に観たい映画が終わることを知り、泣く泣く選ぶといういつものパターン。もうちょっと早めに告知してくれよ…!

ということでこの週末は絞りに絞って2本観ることにしたんですが、まずはノーマークだったものの評判が良さげだったこちらの映画を。

なんだかおかしな物語

It’s Kind of a Funny Story
監督
脚本
原作

『It’s Kind of a Funny Story』
ネッド・ヴィジーニ

出演
音楽

ブロークン・ソーシャル・シーン

公開

2010年10月8日 アメリカ

上映時間

101分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS3・TV)

なんだかおかしな物語

明るくオシャレな「17歳のカルテ」。軽いようで結構刺さる。

8.0
自殺願望を訴えていたら精神病棟に入院させられた少年、そこでの出会いが…。
  • 「そんなつもりもないのに」精神病棟に入院させられ、挙げ句大人の患者たちと一緒にされた少年の話
  • 精神病棟とは言え精神病描写は軽く、良くも悪くも観やすくライトな青春ドラマ
  • 最近の青春映画っぽいオシャレ感強めで好き嫌い分かれそう
  • 全体的に軽いテイストながらなかなか深く、背中を押してくれるセリフも良い

あらすじ

精神病棟が舞台の一風変わった青春映画。…となると思い出されるのは「17歳のカルテ」なんですが、あれほどガチで全力の青春物語という傑作感は無く、良くも悪くもとてもライトで観やすい青春映画です。

雰囲気としては少し前に観た「サブマリン」にすごく近い印象。青春期特有のいろんな感情を表現するのに、ああいう勢いとテンポを駆使した妄想世界描写みたいなのが定番なんでしょうかね。

主人公のクレイグは16歳の少年なんですが、元から自殺願望が強いらしく少々病み気味。ただ悩み深く暗い少年という雰囲気もまるでなく、まあ早い話が「好きな子が親友に取られて辛い」みたいな軽めの死にたい願望、って感じでしょうか。割と青春あるあるっぽい。

ある日彼は「このままじゃ危ない!」と思い、精神病のお医者さんにかかって「今すぐなんとかしてください」と懇願します。彼的には薬を処方してもらって気分的に楽になりたいぐらいの考えだったようですが、思惑は外れて「精神病棟に即入院」という判断を下されることに。

「いやいや明日も学校あるしすぐ退院できますよね??」と訴えるも「最低でも5日間は入院だよ」ってことで彼の精神病棟生活が始まりますよと。

本来であればクレイグの歳だと少年用(?)病棟的なところで若い人たちしかいない病棟に入院する形(それこそ17歳のカルテのように)らしいんですが、その若い人たち用の病棟は改装中だとかで使えず、やむなく大人も含めた精神病患者たちが集まるごちゃ混ぜ病棟での入院生活を余儀なくされることになります。

そこで彼が出会い、親しくなっていくのがボビーという患者。彼はちょっと接した感じでは特に問題もなさそうで普通の大人っぽいんですが、やっぱり何かしら問題を抱えているらしく、徐々に親しくなりつつ彼の問題を見つめながらクレイグはいろいろ影響されていく、と。

もう一人のキーマンは、クレイグと同じ若い患者である女性・ノエル。彼女はいわゆるメンヘラ女子で、手にはリスカ跡がいっぱい…なんだけどかわいい、というこれまたなんとなくよく聞くような存在。

元々クレイグは最初に書いた通り、親友の彼女がずっと好きでそのためにこじらせちゃった面があるんですが、そこにノエルと出会ってまた彼女は彼女で魅力的だし…ってことでいろいろ恋愛も絡みつつ、果たして彼は無事「自殺願望」を断って退院できるのか、というお話です。

モラトリアムとしての精神病棟

あらすじに書いた二人とクレイグが中心の映画ではあるんですが、当然ながら他にも個性豊かな患者の面々も登場し、最初は「ここにいるべき人間じゃないし」と思っていたクレイグも彼たち彼女たちと接するうちにいろいろと学び、成長していくという定番の展開ではあります。

割と精神病棟が舞台の映画となると、「精神病とは言え彼らも人間だ」的な寄り添う視点が強い映画が多い気がするんですが、この映画はあんまりそういう視点が見られず、良くも悪くもライトで患者たちを特別扱いしない「普通の人たちに感化される青春映画」っぽさがありました。特に上に挙げた(クレイグにとって最も重要な)二人は本当に普通に社会生活を送っていてもおかしくないタイプだし、だからこそクレイグが素直に受け入れられる土壌を作ってくれたとも言えるんでしょう。

ただ話としてはやっぱり精神病棟でないと描けない話ではあるんですよね。

思うに、環境的に隔離されている=ルーチン化した学校生活とは違う環境に置かれることで、改めて自らを振り返って成長できる状態になる、というのが一つ。

もう一つは、彼の自殺願望のもう一つの理由「夏期講習申し込み」に対するモラトリアムを与えてくれる場所である、という点。

誰もが持つ「嫌なことから逃げたい」、その単純な逃避先としての精神病棟。ここにいればそのことは(とりあえず)考えなくていいし、判断を先延ばしにもできる。だからこそもう一度自分を振り返って改めて進む道を見定められる、その舞台として必要だったのが(結果的に)精神病棟だったのかな、と。

やっぱり自分も終えてから振り返ると、学生時代なんて当然学校がすべてじゃないですか。

そこには悩ましい夏期講習の締切があって、さらに好きな子は親友の彼女で、となると居場所がないしいるのが辛いと。

こで緊急避難的にどこかに行きたい、それがたまたまクレイグの場合は精神病棟だった、ってことなんでしょうね。

そこは面食らうほどに強烈な世界ではあるのかもしれませんが、クレイグにとっては良い出会いがあったおかげで前に進めるようになる場所だったわけです。

一歩を踏み出すのは主人公だけじゃない

また、これもお決まりのパターンかもしれませんが、何も「出会いに感化されて変わる」のはクレイグだけじゃないわけです。ボビーもそうだし、ノエルもそうだし、他の患者たちもそうだし。

クレイグは入院期間によって一歩踏み出していく少しの勇気を育てていくことになるんですが、それは他の患者たちも同様で、彼ら彼女らも現状に慣れきって動けなくなっていたところに、クレイグとの交流で徐々に勇気を育てていきます。

その「主人公以外も一歩を踏み出すための期間」を描いているのがとても良いですね。そのおかげで誰もが自立した人間として個性を感じさせてくれるのがすごく良い。

主人公だけ成長して「良い時間過ごしたね」だとやっぱりツマンネ、ってなるじゃないですか。若くて可能性たっぷりで良いね、っていう。

もう手遅れなんじゃないか、ってぐらいに入院が染み付いちゃってる人たちも、少しずつ変わっていって勇気を出していく姿はやっぱりベタですが励まされるんですよ。俺も変わらなきゃ、勇気出さなきゃ、って。

そういう意味では、間違いなく若い人向けの青春映画でありつつもいい歳した我々中年の背中も押してくれる、なかなか良い映画だと思います。

若かろうが歳を取ろうが悩みは尽きないわけで、成長しないと言われればそれまでですが、誰もがそれぞれの抱えた悩みに向き合って、出会いと勇気で環境を変えていくその手助けをしてくれる存在としてなかなかバカに出来ない映画だなと。

モヤモヤした現状を変えたい人に

そんなわけでとてもライトで観やすい映画ながら、誰の身にも置き換えられるし、背中を押してくれる映画として、悩んでいる人にはぜひ観て欲しい一本だと思います。

むしろ青春映画特有のオシャレさを出そうとしすぎてキャッチーになりすぎちゃっているのがもったいないぐらいになかなか良いお話なので、ちょっと現状がモヤモヤしている人は一回観てみると何かしらのヒントがあるかもしれません。

僕としてはやっぱり出会いって大事だよなぁと改めて思いましたね。強制的にでも今とは違う環境に置かれることの羨ましさを感じました。

きっとその時はすごく嫌だしめんどくさいし“いつもの環境”に戻りたくなるんだけど、でもそこに身を置く時間の大切さはやっぱり今の環境では得られないものがあるんだろうと思います。

もうちょっと早く観てればなぁ。もう飲み会の誘いもほとんどなくなっちゃった哀しみね…。

おっさんになるとはかくも辛いものなのか、と改めて。

なんだかおかしなネタバレ

ネタバレと言うか、映画自体にはあんまり関係ないんですが書く場所がここしかねーな、ってことで。

この映画は原作者が自らの入院体験を元に書いた物語を原作にしています。

で、僕も観終わってこの記事を書いている今知ったことなんですが、残念なことに…その原作者の方はこの映画の公開から約3年後、自殺してしまったそうなんです。

話の内容的におそらくはこの人も鬱っぽい部分があったんだろうと思いますが、せっかくこんな前向きになれる良い物語を書いたのに…結末が結局自殺に終わってしまったのはなんともやりきれないものがありますね…。

物語は所詮綺麗事…とは思いたくないですが、そう思わせないためにも打ち勝って欲しかったなぁととても残念。とは言え外野が簡単に言える問題でもないだけに難しいところなんですが…。

このことで映画の評価は変わりませんが、なんとも悔いが残る現実だな、と…。

このシーンがイイ!

例の「Under Pressure」がね。良いところでかかるんですよ。観た順番はたまたまですが「ボヘミアン・ラプソディ」でも良い場面でかかるだけに、もうあの曲の時点で結構な胸熱。

それとボビーの「生まれ変わろうとしない者は死に急ぐんだ」ってセリフにかなりグッと来て、うわー! ってなってたんですがボブ・ディランの歌詞だそうで。クレイグと同じ無知ぶりを晒しましたよと。

ココが○

上に書いた通り、脇役が脇役じゃない、それぞれきちんと自分の人生を踏み出そうとする描写があるのがすごく良いと思います。

主人公が割と冴えないタイプなので、余計に脇役に目が行ったのもあったんだと思うんですが、そこも含めて主人公の作りが良かったんでしょう。

ココが×

そんなわけでなかなか広い世代に訴える良い話ではあるので、オシャレ感や青春映画らしいファッション感って言うんですかね。その辺がむしろもったいないぞと。

ここまで軽く、コメディっぽい見せ方はしなくていいような気がする。さすがに「17歳のカルテ」ほど重そうな青春にしなくていいけど、かと言ってここまでイギリス青春映画っぽくしなくてもいいんじゃないの感。

MVA

今回は迷わずこの人ですね。

ザック・ガリフィアナキス(ボビー役)

出ましたザック・ガリフィアナキス。クレイグが仲良くなる先輩入院患者。

彼らしい狂気感がそこはかとなく漂いつつ、同時に儚さも漂わせる繊細さも見事。すごく良かった。ってかこの人ならではだしこの人じゃないとダメな役だったと思う。

こういうちょっとコメディ感もあるけどきっちりした人間ドラマにはすごく合いそうな気がしますね。この人。もっと出てきて欲しい。

それとノエル役のエマ・ロバーツもすごく良かったですね。文句なしにかわいいんだけどメンヘラ感もちゃんと出てて、闇が深そうな感じが。

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