映画レビュー1121 『トリッキー・ワールド』

今回もネトフリ終了間際シリーズ…ではなく、ネトフリ公開直後シリーズ…! 初の試み…!

とは言っても「すぐに観るぞ観るぞ」と狙っていたわけではなく、インド映画熱が上がってきているところに追加になったところを予告も観ずに「面白そうだな」と言わばジャケ買いした映画です。買ってないけど。

公開翌日に観ました。レビューはだいぶ遅れちゃって申し訳ない限りです。

トリッキー・ワールド

Jagame Thandhiram
監督

カルティク・スッバラージュ

脚本

カルティク・スッバラージュ

出演

ダヌシュ
アイシュワリヤー・レクシュミ
ジェームズ・コスモ
ジョジュ・ジョージ
カライヤラサン

音楽

サンソッシュ・ナラヤナン

公開

2021年6月18日 各国

上映時間

158分

製作国

イギリス・インド

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

トリッキー・ワールド

まさかの社会派、まさにトリッキー。

8.5
イギリス人マフィアに雇われたインド人チンピラ、同郷のマフィアと対峙する
  • お金のために行動する男が同郷のマフィアを貶めるべく雇われる
  • 前半と後半でガラッと中身が変わる珍しいタイプの映画
  • インド映画っぽさはやや薄め、ハイブリッド感強し
  • 難民問題に切り込む社会派娯楽映画

あらすじ

序〜中盤はやや中だるみ感がありつつも面白かったですね。

いつものごとく「この恋愛話いるか!?」とオラついていたんですがところがどっこいそこに意味があるのがわかってからが面白かった。

まず最初にとある“事件”が描写された後、主要キャラ3人がご紹介されます。

その1、ピーター(ジェームズ・コスモ)。ご近所さんから恐れられるいわゆるひとつのマフィアのボス。下っ端らしき人間たちをさっくり殺しちゃうでんじゃらすじーさん。

その2、シヴァダス(ジョジュ・ジョージ)。役者さんのジが強い。

彼もピーター同様にマフィアのボスですが、見た目からしてインド系のようです。冒頭の事件は彼の計画によるものだったようですが…。

その3、スルリ(ダヌシュ)。彼はインドのローカルチンピラで、これまたあっさりと(そして公衆の面前で)人を殺す姿にデンジャラス感が漂います。

諸々端折って説明しますが、ピーターとシヴァダスはそれぞれ敵対するマフィアの組織を率いているため、インド系のシヴァダスの情報に精通していると見越してか…ピーターの部下がローカルチンピラのスルリに目をつけ、リクルートするところから物語は動き始めます。

かなりの高額を契約の条件として飲ませたスルリはロンドンへ飛び、移民たちへの差別心を隠さないピーターの元で働き始めることに。彼にシヴァダスの“錬金術”の種明かしをすると同時に襲撃作戦を進言したスルリは、チームを率いてシヴァダスの仕事に痛手を与えていきます。

かくして双方引き返せないところまで来てしまい、始まった抗争。深謀遠慮渦巻く中、果たしてどのような戦いになるのでしょうか…。

洗練されたインド映画

少し調べたところ原題の意味するところはわかりませんでしたが、しかしこの「トリッキー・ワールド」という邦題はなかなか味がある良いタイトルな気がしますね。もちろんその意味するところを説明してしまうとネタバレ的になっていくので避けますが、しかしなんとも意味深なこのタイトル、最近としては珍しく面白い邦題だと思います。

前半は「金がすべて」のチンピラ上がりのスルリを眺めながら、どうも主人公としては“軽い”なぁと思いながらマフィア映画的な抗争を追っていくんですが、その裏に込められた事実を紐解いていく中盤以降はまるっきりジャンルが変わり、まさに当事者スルリが「見えていなかった」ことを観客も同時に思い知らされ、考えさせられる展開はお見事。

前半と後半で物語の見え方がまるで変わってくる、一気にリアルワールドに重なっていく“気付き”のフックは素晴らしい作りですね。思わず唸っちゃう巧みさ。

劇中でもそんなようなセリフがあったと思いますが、「見ているものだけで判断する」稚拙さに反省させられつつ、その先の世界の奥深さに思いを馳せたくなるような教訓を含んだ社会派的なメッセージが込められつつも根本は娯楽映画として見せきる作り。これはなかなか他にない満足感があると思います。

一方、僕はまさにこの前に観た「ハッピー・ニュー・イヤー」のような「ドインド映画(ど真ん中的なニュアンス)が観たいぞ!」と思ってこの映画をチョイスしたわけですが、インド成分的にはやや控え目に感じられ、そっちの願望を満たす意味ではやや物足りなさは感じました。

これはそこがガッカリしたぞと言う話ではなく、単純に「インド映画らしいぶっ飛んだ内容を期待すると肩透かしを食らうよ」的な意味と取ってもらえればいいかなと。

おそらく世間一般の認識にある「インド映画」よりももっと洗練された、良くも悪くも上手さが見える映画だったので、そこの部分で多少期待とのミスマッチはありそう…というか僕がそうだったんですが。そこだけは少し注意かな、と。

これはネトフリオリジナルだからなのか最近の映画だからなのかはわかりませんが、おそらくは製作国がインドとイギリスである点も大きいんでしょう。どこか「スラムドッグ$ミリオネア」っぽい気もしていたんですが、まさにあんな感じで「イギリスが作ったインド映画」っぽさがあります。とは言えあっちと違い、この映画の監督はきっちり(?)インド人ではありますが。

いわゆるインド映画らしい出演者総出で踊るシーンは1シーンのみだし、演出もどこか“今っぽい”感じがしてある種の泥臭さみたいなものはありません。

言ってみれば進化版インド映画的な雰囲気があり、そこで多少評価が分かれるかもしれませんが、むしろそれ故に(そこそこ長いですが)インド映画初心者にも観やすい映画かもしれないですね。

ネトフリ会員の方はぜひ

そんなわけで後半から一気に社会派の色を帯びてくる映画ですが、それを踏まえての決着の付け方も非常に素晴らしいもので「なるほどなー」と感心しきり。これを観ちゃったらただのドンパチギャング映画は物足りなく感じそうですね。

あとはもう実際に観て頂く以外にありません。インド映画的なノリノリ感はやや薄いですが、それを超える良さがあってこれはなかなか良い映画だと思いますね。オリジナリティも高いし。

配信が始まったばかりのネトフリオリジナル映画なのでそうそう無くならないだろうし、会員の方はぜひ観てみてください。オススメです。

このシーンがイイ!

唯一のダンスシーンがこれまたすごく良いんですよ。ダヌシュの動きがキレッキレで。

あとはやっぱりエンディング。あの“オチ”は見事ですね。

ココが○

映画のテーマが中盤以降明らかになるとき、観客と主人公のスルリが同じ目線で気付かされる作りは本当に見事でした。「ボーダーライン」と同じ感覚。

それと怒り狂うときや悲しいときも踊るんですが、その文化的な側面が見えたのが良かった。

ココが×

ややバイオレンスな点は苦手な人もいるかもしれません。ただグロいわけではないので僕は大丈夫でしたが…。

あとは主人公を好きになれるかどうかもそれなりに分かれそう。それだけ思い切った作りにしているのも良いところだと思いますが、とは言え微妙な気持ちになる面があるのも否めません。

MVA

ジェームズ・コスモがいかにもで良いなーと思いつつ順当にこの方。

ダヌシュ(スルリ役)

主人公のインドチンピラ。超強い。肝っ玉も座ってます。

すごく線が細いんですが動きがキレッキレで魅せます。いかにもインド系の髪型&髭がちょっと微妙な感じなのに最終的にはすごくかっこよく見えるという…。いやーこの人は絶対スターだなと一発で思わされました。華がある。

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