映画レビュー0935 『特捜部Q カルテ番号64』

(若干話が飛びますが)今回TSUTAYAに行ったのは、お盆を利用してオススメされた映画を借りようと思ったからなんですが、そのオススメ映画は軒並み貸出中 or 元からないよってことで何も借りずに帰ろうか…と思っていたところに飛び込んできた特捜部Q最新作。そりゃあ借りるべさと。

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最近なんかこのブログ文字小さくね? と思うようになったので少し大きくしてみました。

どこかで不具合が出ている可能性もありますが、それに気付くまではこれで行く予定です。よろしくどーぞ。

特捜部Q カルテ番号64

Journal 64
監督

クリストファー・ボー

脚本
原作

『特捜部Q カルテ番号64』
ユッシ・エーズラ・オールスン

出演

ニコライ・リー・カース
ファレス・ファレス
ヨハン・ルイズ・シュミット
ソーレン・ピルマーク
アンダース・ホブ
ニコラス・ブロ
エリオット・クロセット・ホブ
ビアテ・ノイマン

音楽

アントニー・レド

公開

2018年10月4日 デンマーク

上映時間

119分

製作国

デンマーク・ドイツ

視聴環境

TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

特捜部Q カルテ番号64

今回も裏切らない! 社会問題に切り込んだ傑作。

9.0
発見されたミイラ死体から辿る、長年公にならなかった犯罪
  • 過去の事件から導き出される関係者の人生と犯罪
  • 構図としては「キジ殺し」に近い過去と現在の絡み
  • 主役二人も今まで以上に目が離せない
  • ニコライとファレスは今作でお役御免

あらすじ

ということで「特捜部Q」シリーズ4作目。

ご存知の通りこのシリーズはナンバリングが無いので、これから観る人は「どれから観ればええねん」と結構迷うそうなので念のため順番を書き出しておくと、

の順になります。

ちなみに監督は1・2がミケル・ノルガード、3がハンス・ペテル・モランド、今作はクリストファー・ボーと4作で3人が担当しているんですが、その割にどれも一貫して「特捜部Q」感が通底しているのがスゴイ。ほんとスゴイ。

相も変わらず「(超人的ではない)普通の刑事による捜査」を描いた、言ってみれば“ただの刑事モノ”でしかないんですが、しかし他シリーズでは観られないほどのクオリティの高さもこれまた一貫していて素晴らしい。素晴らしいとしか言えない。全部揃えてブルーレイで欲しいんだけどDVDしか出ていないもどかしさ。海外では売ってるみたいなんですけどね…。

さて、今作の始まりは50年近く前のお話。若い女子(ニーデ)が父親に逆らって(多分)家出をして男の元へ行くもカーセックス中に父親に見つかって引きずり出されるという衝撃のスタート。いいな。いやいいなじゃねぇ。

なんでも彼女と彼氏はいとこ同士らしく、その関係性もあってかもはや普通に育てることは不可能と見切った父親は、彼女を「スプロー島」にある女性収容所へ強制的に送り出します。

ちなみにこのスプロー島の女性収容所は実際にデンマークで運用されていたものだそうで、いわゆる「不良少女の更生及び障害のある女性」を収容する施設。イメージ的には隔離された精神病院みたいな感じでしょうか。

いかにも怪しそうな医者、腹に一物抱えてそうな看護師他不穏さ漂う中、舞台は現在に戻ってとあるマンション。

管理人から「あるはずのない部屋がある」と連絡を受けた業者さん、「この壁っすね?」ってことでガシガシ壊していくわけですが、当然ですが観ているこっちは「いやだなーこわいなー絶対なんか出てくるだろこれこわいなー」と効きすぎたフリに怯えながら観ていると、ご登場しましたミイラ化した死体が3体。

当然ながらミイラ化している=死後長年経過しているわけで、お蔵入りした事件担当の我らが特捜部Qの出番ですよと。

しかしその特捜部、なんでもアサドが(特捜部での実績を買われ)異動になる直前。カールはご存知の通りあの性格なので「俺一人でいい」ぐらいの勢いで捜査を開始しようとしますが、「あと1週間でもまだ特捜部ですから!」とアサドが追っかけて今回もカール&アサド+秘書ローセの3人を中心に捜査を進めます。

最初に描かれたニーデとミイラ死体がどのようにつながるのか、犯人は誰なのか、そして犯人の狙いを通して描かれる今も継続中の犯罪とは…! 今作も特濃&重厚にたっぷり魅せてくれます。

いつも通り最高、シリーズファンは安心して観ましょう

上に「キジ殺しに近い」と書きましたが、今作も「キジ殺し」同様に、特捜部が担当する事件に関係する人物によって過去と現在が結びつくお話になっていて、長い時間が経っていてものうのうと暮らす“巨悪”の存在にクローズアップする作り。

この辺の(舞台的な)長大さはやっぱり地味に効いてきますね。眼前で展開される物語以上に世界の広がりを感じさせる良いシナリオだと思います。それだけ観客の正義感に火をつけて特捜部を応援したくなるし、感情移入のさせ方がうまいなぁと。

んでもって今作は「アサドが異動直前」という特捜部側のタイムリミットみたいなものも織り込まれてたりして、早い話が「最終的にアサドは無事でいられるのか」みたいな妙なフラグ感もあってそこがまたイイ。

そして何よりこのシリーズ特有の(良い意味での)暗さ、遊びのなさがたまらない。じっくり観ちゃうしほっといても惹きつけられる。もうお気に入りすぎて絶対眠くならないという安心感。やっぱり最高ですねこのシリーズ。

アサド異動直前という状況にありながらもカールはなんなら今まで以上にアサドに冷たいんじゃねーか感があり、結構な難事件を解決してきた“バディ”のはずがいくらなんでもそりゃ無いんじゃないの、という無愛想っぷりも拍車がかかってこれまた良い。いらんところでハラハラさせてくれるのもカールの個性、ってことで最高ですよ。シリーズファンとしては。

社会問題の織り込み方が素晴らしい

んで、少々ネタバレ気味なお話になっちゃいますが、今回のテーマはいわゆる優生学・優生思想ってやつなんですね。

(この映画で描かれる内容として)簡単に言えば、人間に優劣をつけてそこに紐付ける形で出産の自由を制限しようとする考え方で、それ故に過去の「スプロー島」という存在が現在にも影響を与えている話にもなってくるんですが、「ほーん、確かにこういうの昔はよくあったよね」なんてハナホジって観ていて良いような話でもなく、むしろ現在の右傾化に対する警告のような意味合いも含まれてくるわけですよ。移民問題だってそうだし、アサドなんてモロそのアオリを受けるキャラだし。

また「日本は差別無いから」とかすっとぼけたことを言う人もいますが、似たような話として「旧優生保護法」だってあるし、例のやまゆり園の事件だってこの手の話の延長線上と見ることもできるわけで、決して対岸の火事ではないというのもなかなかに重いものがありました。

このシリーズは1作目の「檻の中の女」だけは(よく出来てましたが)“単なる難事件捜査モノ”の範疇だった気がしますが、2作目以降は未解決事件にうまく社会問題を織り込んで作られている辺りが評価の一因になっているんじゃないかなと今さらながら気付きましたね。

「キジ殺し」もそこまで社会問題の影響は無いかもしれませんが、それでも「罰せられずに人生を謳歌する犯罪者」の姿にある種の社会性が見て取れるし、なんならハンナ・アーレントのアイヒマン評のように「特異な人間が罪を犯すわけではない」、凡庸な悪による身近な犯罪への恐怖が現実味を持って観客を襲う生々しさが素晴らしいと思うんですよ。

その点「檻の中の女」は犯人に若干特異っぽさが感じられたので、やっぱり少し質が違うのかなと言う気がします。

まさかの主演二人グッバイ

まあもうね、あとは観ろよ案件ですよ。

このシリーズは北欧映画というあまりライト層に知られていない位置にありながら、もはやハリウッドを超えたと言っても過言ではないレベルの高さを持っているというかなりレアな立ち位置のシリーズなので、ミステリー系が好きな人にオススメすればポイント稼げること間違いなしですよ。ホント。

相手が知らなければ「えー知らない北欧の映画なの? 詳しい素敵ー(じゅん)」だし、知ってれば「あれすごく良いよねセンスあるー!(じゅん)」だしもうモテモテになれます。きっと。

しかし残念なことに…「ゴリラ寄りのジェイソン・ベイトマン」ことカール役のニコライ・リー・カースとアサド役のファレス・ファレスのお二人は今作でお役御免だそうです。ストーリー的な話ではなく、単純にキャスティングが変更になるそうで。

ちなみに特捜部Qの原作本は7作まで出ているので、すべて映画化するとすれば残りは2019年時点でも3作あります。しかしその主演は今の二人ではない…!

なにせ「一部に熱狂的ファンがいる」タイプの映画なだけにあんまり話題になっていないんですが、このニュースが出た時はその「一部ファン」がものすごく悲しみに包まれたんですよ。っていうかおれだよオレオレ。

「降板」の話が出た以上は逆説的に続編が作られるのも間違いないんだと思いますが、特にカールの方は…ここまで苦み走った「他人に興味がない」武闘派刑事が似合う人もそうそういない気がするので…不安だし残念です。とても。

決まってしまった以上は仕方がないので、彼が出ている他の映画も観てみたいなと思いますが「天使と悪魔」に出てたんですね。あの映画(というかラングドンシリーズ)は記憶から抹殺したので覚えていません。無念。

このシーンがイイ!

これはもうね、ラスト近くのカールでしょうよ。そりゃあ。誰が見たって。

あと珍しくカールが普通に笑う場面があるんですよ。あそこもなんかすごく印象的で良かったですね。当然ながらラストシーンも良き。

ココが○

社会問題と絡めた脚本の見事さはもちろん、シリーズ通して映像の良さ、雰囲気作りのうまさが相変わらず光りますね。

裏切りのサーカス」にしても「ぼくエリ」にしてもそうでしたが、北欧映画の良作は最初の1シーンで「うわ、これはいい映画に違いない」と思わせる画作りのうまさが共通してあるような気がします。タマランですよマジで。

ココが×

まー当然ながら気分のいい話ではないので、その辺お求めの際は別の映画をどうぞという感じ。

それとネタバレになるので詳しくは書きませんが、この映画でカールが取る選択について納得がいかない人もいそうな気はする。

MVA

「キジ殺し」もそうでしたが、過去の若かりし頃を演じる人たちがなかなかどの人も良くて、キャスティング的にも実力派揃いな印象なのが嬉しいところです。

が、結局この人に。

ニコライ・リー・カース(カール・マーク役)

上記の通り、これで最後とのことでお疲れさまの意味も込めて。

この男臭さを出せる人ってそうそういないと思うんですよ。決してイケメンではないんだけどかっこいいし、なんならちょっとかわいいっていう。ツンが過ぎてかわいい。

強い男を貫き通したいんだけど(本人の意図とは別に)弱さもきっちり覗かせる、その辺りの匙加減も見事です。

ファレス・ファレス共々、降板は本当に残念すぎる…。

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