映画レビュー1266 『JUNK HEAD』
骨折してしまったためにその後何もやる気が起きず、ウォッチパーティでしか映画を観なかった時期になってしまい、ウォッチパーティの後はまたウォッチパーティという流れ。まあこういうときもあります。
JUNK HEAD
堀貴秀
堀貴秀
堀貴秀
三宅敦子
堀貴秀
近藤芳樹
『人類繁栄』
2021年3月26日 日本
99分
日本
Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(iMac)
間違いなくオンリーワンの変態映画。
- ほぼ1人で7年かけて製作したストップモーションアニメ
- 話としてはいわゆるディストピアSFで、独特の世界観に考察が捗る
- 細部の作り込みがすごく、新しいものを観ている感覚が強い
- 三部作故気になるところで終わる
あらすじ
いやーこれはすごかったですね。久しぶりに「なにか新しいものを観ている」と興奮しました。話どうこうより映像としてものすごく面白くて舌を巻きました。
人体を無機物に…平たく言えばデジタル化することで人類が不老不死となった近未来のお話。当然無機物である以上生殖能力もなくなってしまったわけですが、そこに新種のウイルスによって人類存亡の危機に見舞われてしまいます。
そこで人類ははるか昔に製造した「マリガン」と呼ばれる人工生命体に生殖能力の可能性を見出し、地下にはびこるマリガンの調査に着手。
その調査員として応募したパートンが地下へ赴くわけですが早々に地下住民たちによって襲撃され、頭部のみの状態で“3バカ兄弟”と呼ばれるマリガンに拾われます。
3バカ兄弟からパートンの頭部を受け取った“博士”が彼に新たなボディを与えるもパートンは記憶喪失状態となってしまい、何もわからないまま彼らの手伝いに向かいますが、その後も地下生活では様々なトラブルが起きまして…。果たして彼はどうなるんでしょうか。
狂人の異才を浴び続ける体験
話の内容は結構込み入っていて初見では理解しきれない面も多く、設定的にもかなり深いものがありそうなダークSFです。
そこそこグロいシーンだったりキモいクリーチャー的なものが出てきたりとかなり(良い意味で)悪趣味な表現もあるんですが、ただ最初に書いた通りストップモーション(クレイ)アニメなのでそれらがすべて新鮮な驚きに転換されるという…大げさでなくなかなか衝撃な鑑賞体験でした。
これ実写(もしくはリアルなCG)だったら絶対観てられないよなと思いながら観ていたんですが、ストップモーションアニメとなると急にコミカルに見えてくるのが不思議。逆に言えばそれだけテーマと親和性の高い表現に感じました。
きっと普通のアニメだったとしてもあまり好きになれなかったような気もします。やっぱりクレイモデルで撮影するストップモーションアニメだからこその手作り感が謎めいた世界観に妙な味わいを加えていて、本当にオンリーワンだなと思います。
日本の映画で日本人の監督が1人何役も担当しながら作った作品ですが、その監督がこれまたほとんどの(クリーチャー含め)キャラクターのセリフを吹き込んでいて、使用言語がまったくのオリジナルの謎の言語のためにこれもまた異世界感が強く感じられ、「日本の映画だけど字幕しか無い」という不思議な作りもこの世界の異質さを増幅している気がします。
ところどころで音的に面白いセリフもあり、それがまた妙にインパクトに残る辺りこの言葉自体かなり考えて作られているように感じられ、目と耳両方で味わう「知らない世界」に大変興奮しましたよ。
しょっちゅう書いてますが最近「どうせこのパターンでしょ」みたいな映画に飽き飽きしているので、もう展開の予想とかそういうのは関係なく「ただこの映像を観ている時間が楽しい」久しぶりの“体験”に大満足でした。
意味ありげに登場するキャラクターも特に意味はなく少しだけの登場だったりするんですが、そのそれぞれのキャラクターの味付けも絶妙で脳内の世界が広がる感覚が本当に楽しい。
例えば途中で出てくる食べ物の「クノコ」とか、妙に気持ち悪くて存在感があり、その由来から育成に採取まで気になるところだらけなんですがそういう仕掛けがたくさんあってまあ本当に飽きません。
これをほぼ1人で7年かけて作った、というのは控え目に言っても狂人、変態であることは間違いなく、やっぱり異質な才能が表出した映像ってものすごいなと打ちひしがれるぐらいに衝撃を受けました。
自分は何かとめんどくさがりなのでまずこんなものは100%作れないし、この熱意を持って生まれていたらもう少しはマシな人生になったんじゃないか…と余計なことまで考えてしまうぐらいの衝撃的な体験になりました。いやー本当にものすごいですこの映画。
早く続きが観たい
これまた最初にも書きましたが、実は3部作らしく話としてはやや中途半端に終わってしまうのが唯一の欠点でしょうか。
感覚としてはそこで終わるのがダメというよりは、続きがあるならもっと見せろよとワガママを言いたくなるぐらいにもっと観たい欲が強くなる映像というか。まだできてないから無茶なんですけど。
妙な中毒性がある映像なんですよね。ゲームに近い感じかもしれません。こんなゲームがあったら没頭しちゃうなーと思いながら観ていました。
僕の語彙力ではうまく伝えられないんですが、端的に言えば「話の中身とか関係なく目に入る世界そのものが面白い」、だから観ろといったところでしょうか。
1人の純粋な狂気が結実するととんでもないものが出来上がる、その好例と言って良いと思います。
これは続編楽しみだなぁ。あと7年待つのかもしれないけどさ…。
このシーンがイイ!
やっぱりもうクノコが衝撃すぎて好きですね。しかもあれで美味いっていうんだから…。
採取するときにちょっと身悶える(?)のが最高に趣味悪くて好きです。
ココが○
まーとにかく美術はとんでもないですよ。細かな汚れの表現とかまで作り込むのは本当に気が遠くなる作業ですね…。「1億やるから作れ」と言われても作れないぐらい狂気がにじみ出てます。その狂気こそが才能なんでしょう。
ココが×
話がややわかりづらいのと、そこそこにグロい部分は人によってはしんどいかもしれません。
でもなんと言ってもやっぱり良いところで終わっちゃう点でしょうね。しょうがないんですが。
MVA
事実上の一択です。
堀貴秀(いろいろ役)
監督兼声優兼音楽担当。その他いろいろ。
声で言えばクリーチャーの声とかもやっていて、基本的に女性タイプ以外は全部担当しているようです。
素人だから言語も意味がわからないものにした、みたいな記事を読んだんですが、その割にどのキャラもちゃんと声色が違うのがすごい。
まあ一人でこれだけ声を入れるのもやっぱり狂気ですよ。すごすぎる。