映画レビュー1143 『KAMIKAZE TAXI』
今回はツイッターで「これ観て!」と流れてきて気になったこちらの映画。JAIHOです。
※年末が近づいてきてそろそろ溜まっている分を放出していかなければ間に合わないので、年内は若干平日更新も増やしていきます。
KAMIKAZE TAXI

良い意味でもっと古い邦画っぽい情感。
- 組に対する不満と怒りから“やらかした”若い組員が追われる立場に
- 一方で復讐も企む彼は逃げつつも好機を伺う
- 妙な縁で行動をともにすることになるペルー育ち日系人との交流が中心
- 役者陣それぞれがとても良い
あらすじ
さして詳しくない人間が言うのもなんですが、良い意味で邦画っぽくない“荒っぽさ”が公開年よりも古さを感じさせて、まるで80年代の洋画ロードムービーを観ているかのような情感豊かな映画でとても好きでした。ただ中身はヤクザだし完全に日本なんですけどね。
いかにも悪そうで尊大な政治家・土門(内藤武敏)の“女世話係”の担当を引き継いだ若いヤクザ・達男(高橋和也)。
彼は最初の仕事として自分の恋人・レンコ(中上ちか)と彼女の知り合いであるタマ(片岡礼子)を派遣するものの、土門のSM癖が高じてタマは重傷を負って戻ってきたため、それに激怒したレンコが組のトップ・亜仁丸(ミッキー・カーチス)会長のところに乗り込んで怒鳴り散らした結果、あっさりと殺されてしまいます。
愛するレンコを殺され怒り心頭ながら組の上下関係に従って動きが取れない達男は怒りの矛先を土門に向け、テキ屋仲間を誘ってタマから聞いた土門の「タンス預金」を強奪。しかしすぐさま亜仁丸に知られてしまい、仲間はこれまたあっさりと殺されていきます。
その中でなんとか危うく逃げ切った達男は、偶然近くに居合わせたタクシードライバー・寒竹(役所広司)を雇い、長い逃亡の旅に出ながら復讐の機会を虎視眈々と狙います。
妙な縁で一緒になった達男と寒竹。二人の旅はどのようなものになるのでしょうか。
社会派的な側面もあり
元々は「復讐の天使/KAMIKAZE TAXI」と言うタイトルの、いわゆる“Vシネ”だったようですが、人気が高まって劇場公開を望む声が多くなったことで劇場公開になった映画のようです。元々監督は劇場公開を望んでいたそうですが、いろんな事情があったんでしょう。さらに言えば国内よりも海外での評価が高い映画でもあります。
一言で言えば「人情ヤクザロードムービー」。この時点で他にない変わった映画のような気がしますが、それ以上に少し変わった点としては、役所広司演じるタクシードライバー・寒竹が「ペルー育ちの日系人」である、という設定。
元々彼は父が日本人(母は忘れました)で日本で生まれているので国籍的にも普通に日本人だと思われるんですが、幼い頃に父に連れられてペルーに渡り、その後出稼ぎで日本に戻ってタクシードライバーをやっているという設定のため、日本語も若干拙い「日本語でコミュニケーションが取れる外国人」っぽいキャラクター。それを役所広司がしっかり演じていると言うのがなんとも不思議な感覚です。
今の時代だとこの「外国人訛り」っぽい演技はいろいろ微妙なラインのような気がするんですが、ただこの映画の面白いところはその「日系人の居場所のなさ」「海外から来て日本に住む人たちに対する社会の冷たさ」もテーマとして内包している点。
オープニングは役所広司を除いて実際に日本に出稼ぎに来ている外国人労働者たちのインタビューで構成されていて、さながらドキュメンタリーっぽい始まりなのも不思議な映画なんですが、そこに監督の込めたかった価値の一つが垣間見えます。
またその労働者たちの問題と同時に、政治に対する風刺も込められていて、実は「人情ヤクザロードムービー」でありつつも社会派の味付けが入っているのも特徴的。それでいてしっかり娯楽として楽しめるように出来ているのも素晴らしいですね。
劇中、最もヒールと言える“巨悪”は政治家・土門なんですが、彼に対してはヤクザの組長(一応組織上は会長ですが)である亜仁丸も下手に出るぐらいの大物と言う描写がなされていて、そこになんだか妙に時代を感じましたね。今の政治家にはこんな度胸があってヤクザを鼻先で使えるほどの力がある人物はいない気がします。あくまで印象でしか無いんですが。
ただこの土門が持つ(極めて日本的な)歪んだ保守思想は現代の政治家にも多く見られるし、なんなら今の方がより声が大きくなってきているところを考えると、この映画よりも社会は悪化しているとも見なせるのがなんとも悲しいところです。原田監督もその辺りはいろいろ感じるところがありそうな気がしますね。
終わりの見える旅の良さ
物語は独断で土門を強襲した達男が組から追われる身となり、寒竹を雇って逃げつつ組と土門への復讐を画策するお話なんですが、ただ「画策する」と言いつつも達男は割と行き当たりばったりで、むしろ「間違いなく自分は死ぬことになる」確信めいたものが(おそらく)あるがために後悔しない人生にしようと「逃げながらやりたいことを叶えていく」旅にしていて、その刹那な生き方から観客にも彼の終わりが近付いてきているように見える旅路になっている、と言うのがなんとも言えない切なさを感じさせてくれます。そこがすごく好きでした。
もう一人の主人公である寒竹は達男に振り回されつつ付いていくだけではあるものの、終盤に近付いていくにつれて徐々に彼が達男とともにいる意味のようなものが大きくなっていく展開も非常にドラマチックでそこもまた良い。
序盤こそやや入りづらい繋がりの悪さみたいなものは感じましたが、達男と寒竹が出会った辺りからはもうずっとたまらない雰囲気でとても良かったですね…。邦画でこんなロードムービーがあるんだな、と結構驚きでもありました。
少々長めの映画ではありますが、今でも原田作品の中でもかなり人気がある映画のようなので、観る機会があったらぜひ観て欲しい一本ですね。オススメ。
このシーンがイイ!
石田と達男の劇中最後のシーン、好きですねぇ…。どっちもわかって話してる感じ。
ココが○
社会派でありつつ娯楽でもあり、人情ヤクザ映画でもあると言う幅広さ。
映画を彩るケーナの音色がまたすごく良いんですよ…。達男の青臭さとケーナの素朴な音色がリンクしている気がしました。
ココが×
1点だけ、やりたいことはわかるんだけど…終盤のとあるシーンはさすがにちょっとファンタジーすぎて残念でした。あそこだけもう少しリアルな内容(もしくは見せ方)にして欲しかったな…。やりたいことからすればロケーションを変えたほうが良かったのでは、と。
それと一応ヤクザ映画でもあるので少々バイオレンスな面はあり、そこが苦手な人は少し注意が必要かもしれません。ただそんなに激しいものでもないし、あんまり気にするほどのものでもないとは思います。
MVA
うーん、皆さん良かったので悩むところなんですけどねぇ…。
ミッキー・カーチスも良かったし、石田役の矢島健一も良かったし…。
きっと普通に行けば役所広司なんだと思いますが、僕はあえてこちらの方にしたいと思います。
高橋和也(達男役)
組に反旗を翻す若いチンピラ。
元男闘呼組、つまりはジャニーズなんですが、これから役者で食っていくぞと言う大事な時期にこの役が来て、自身にとってもかなり大きな意味を持った仕事だったようです。
演技としては当然(?)役所広司の方が上だと思いますが、演技的な若さ・青臭さがすごく達男のキャラクターとマッチしていてめちゃくちゃ良い時期に良い役を演じたんだな、って思ったんですよね。
チンピラだからある種の“安っぽさ”も味になるし、本当に役そのものの雰囲気がすごく良かったです。
ちなみに亜仁丸役は元々安岡力也だったらしく、だとしたらそのまますぎて面白味に欠けるしミッキー・カーチスで良かったですね。


